【1059taisen】
九の誤算と一つの打算
「か、一益殿っ、失礼する…」

静かな夜闇を裂く様、足早に廊下を駆けていた嘉隆が歩を止め。
ひとつ大きな深呼吸を終えてから、中に居る筈であろう恋人に呼び掛けながら戸を開き中を窺う。
室内は、小さな橙の灯りだけが薄ぼんやりと点されており。
灯りの傍に敷かれた一組の布団、嘉隆の心臓が期待に跳ねて。
思わず息を凝らし、喉を鳴らしたのだが―――当の一益は居ない。

(早…早かったかなっ…)

取り敢えず室内へ入り、今一度ぐるりと見回すが人影は無く。
戸を閉め、そろそろと布団の傍まで近付いたところで腰を下ろす。
仄かな灯りを受けた嘉隆の格好は既に寝間着であり、加えて丹念に身体を清めたと思しき様子。
今宵は、久々の逢瀬。
この日を一日千秋の思いで待ち望んでいた嘉隆は、日中の予定を怒涛の勢いで片付け終えると。
一益と待ち合わせた時刻よりも早いとは分かっていたが、二人きりで逢えると思うだけで堪らず。
不在の可能性も過ぎったものの、気が付けば向かっていた。

「ちょっ…と、ガツガツしてる感じでカッコ悪いかも…っ…」

そして実際に一益が不在。
腰を落ち着けたところで少しずつ冷静さを取り戻したのか、じわじわと自分が性急に一益の身体を求めている気がしてきて。
勿論、一益も情交を前提とはしてくれているのだが。
それにしても自分だけが先走っているこの状況は違う意味でもそわそわが止まらなくなっているけれど、出直すのもどうか。

「…堂々としてりゃいいんだよなっ…うん、そうだっ!」

自分へ言い聞かせる様に数度頷くと、嘉隆は考え込んで丸まり掛けていた背中を正し一益を待つ。
何時から先に居たのかなど、幾らも違わないと言えば良いのだ。
恐らく、今は一益も身体を清めてくれているのだろう。
慌てず騒がず、恋人を待てる余裕が有るところを見せたい。

(ヤベっ…喉が渇いてきた…)

しかし嘉隆の性格を考えると似合うような姿勢では無い訳で。
大人しくした途端に諸々の緊張に襲われ、喉の渇きが顕著になる。
水を飲みにこの場を離れる事で、本来の約束した時刻に出直す言い訳としたいところだけれど。
落ち着いて待つと決めた矢先に覆すというのも、格好の悪い話。

「ど、どうすっか…おっ?」

如何にしたものか、取り敢えずキョロキョロと改めて室内を見直す嘉隆の目端に何かが映り込む。
自分の方が所持する頻度が高いからこそ、気付いたのか。
灯りの届き難い暗がりに鎮座していたそれは、小振りの瓢箪。

(水…入ってるかな…)

そろりと腕を伸ばして手に取ると、思いのほか重さが有り液体が詰まっている感触が伝わった。
栓を抜いて匂いを嗅げば、これといった特色の感じられぬ具合。
どうやら中身はほぼ水で間違い無さそうだが、やはり勝手に飲んでしまって良いものかと躊躇するものの嘉隆の喉は限界寸前。
喉の渇きを潤したい欲求には勝てず、ひと口だけ貰おうと。

…くぴっ…くぴ…ぴっ…
ゴクっ、ごきゅっ…ゴクンっ!

「…ぷはーっ!…って、いっけねえ!ぜ、全部飲んじまった!」

残念ながら、ひと口で済む様な渇きではなかったらしい。
咥内に水分が含まれた途端に勢い止まらず、一気飲み。
これは流石に不味い、空の瓢箪を片手に嘉隆が狼狽したところに。

「…早かったな、嘉隆」
「あがっ!?か、一益殿っ…」

音も無く開かれていた戸口には寝間着姿の一益が現れ。
開けた時と同様に静かに戸を閉めると、何故かこちらを向いたまま固まっている嘉隆に近付く。

「…どうかしたのか?」
「いやっ、ど、どうもしてねえと思うんだけど…その、コレ…」
「お前…それを飲んだのか?」
「えっ、そのっ、喉が渇いて…」

大人しく待てる余裕を見せる決意は何処へやら、明らかに挙動不審な状態で一益を迎えてしまった後悔もあるがそれより先。
まずは勝手に中身を飲んでしまった非礼を詫びるべく、嘉隆は一益の前に空の瓢箪を差し出す。
"飲んでしまった"という意は一益にすぐ伝わったと見えた。
だが嘉隆は内心、仕方のない奴程度で終わる話だと思っていた。
そう思っていたのに、瓢箪を理解した瞬間から一益が神妙な面持ちをした事に嘉隆の不安が募る。

「もっ、もしかして毒っ!?」
「…いや、毒という範疇にはならないと思う。死にはしない」

恐る恐る最悪の事態を嘉隆が口にすると、幸い毒ではないという。
取り敢えず安堵したものの一益の言い方から察して、中身がただの水ではない事に違いはない。

「中身っ…何だったん…だ?」
「…所謂、精力や性的な増強促進を起こす薬だったんだが…」
「…へ、えっ?あのっ、それって…び、媚薬みたいなっ…?」
「みたいな、というより媚薬そのものと言えるだろうな」
「ななっ、何だってそれが此処っ!この部屋に有るんだっ!?」

予想していなかった中身の展開に嘉隆は混乱するが、存在していた理由だけは一益に問いただす。
瓢箪に並々と注がれていた状態から、使用した形跡は無くても。
自分がそういったモノを使う意思の無い事を一益は分かってくれていると思っているだけに、在った事が疎ましく感じられ。
声を荒げた中で蝕む熱っぽさ。
効き始めて、いるのか。

…ちゅ、うっ…

「んむっ…!?」

一益から唐突に塞がれる口唇。
何時もならば喜んで交わす恋人の口付けだが、この流れでは嘉隆からすると単にはぐらかされている気分にしかならない。
けれども熱を帯び出した身体は拒絶する事も拒み、舌を絡め。
互いの唾液を交換する水音にタガが外れ、一益の咥内を貪った。

にゅるっ…くちゅ、ぴちゃっ…

「よ、し…はっ…ふ、ン…」

口の開く隙を与えまいと、嘉隆は一益の後頭部を押さえ。
乱暴に咥内を舌で掻き回せば、ある瞬間からゾクリとした甘い痺れが互いの身体中を走り出す。
一益の鼻から抜ける甘ったるい声すらも奪った嘉隆は。
銀糸を引きながら漸く口唇を離し、一益を見詰める。
怒り、というよりも。

「…そんな目で見るなよ、道に迷った小犬みたいだぜ」
「一益殿っ、俺は!」
「分かってる…あれは、な。…今晩は嘉隆と逢うから誰も来るなと言い含めたら、お節介な事に使えと押し付けられた訳だ」
「え…あ、それじゃ一益殿が準備したとかじゃなくっ…て…」
「そういうのを使うのが嫌いなのは知っている、だからお前が来る前に棄てる筈だったんだが…」

飲んで、しまった。

「…かっ…一益殿、ごめっ…俺が勝手な事をしたってのに…!」
「さっさと処分しなかった俺も悪い、それよりも嘉隆…」

ゴソ…すりっ…

「かかかっ、一益殿…っ!?」
「あの量を総て飲んだら身体には効き過ぎる、キツいだろ?」
「いや、それは確かにそ、う…なんだけどもっ…!」

困ったような、から、完全に困った顔になった嘉隆に微笑み。
一益が嘉隆の崩れた胡坐の中心へ手を伸ばして自身へ触れれば。
褌はおろか寝間着の上からでも分かる程に張り詰め、苦しげで。
竿をなぞると、浮かび上がっているであろう血管が指に伝わって。

「ちょ、い、今…そんな触られちまったら、っ…ん、アっ…!」
「…っ!」

びくっ…びゅくっ、びゅぷっ…!
…びくん…っ…びくっ…

「っ、は…出ちまっ…た…」

屹立具合からして何時に射精をしてもおかしくない状態だったとはいえ、男として幾らなんでも呆気なく果ててしまい。
総て媚薬の所為だと思いつつも、嘉隆は情けなさに項垂れる。

「…気にするな、というのは無理なのだろうが…」
「うう…そりゃあ…」
「さっきも言ったが、お前がこういう状態になったのは俺にも非が有る…だから責任は取るぜ…」
「あ…っ…一益、殿…っ…」

嘉隆の寝間着に顔を埋め、隙間から覗く胸板に口付けると。
一益は嘉隆の帯をするりと解いてはだけさせ、褌も解きほぐす。
そうして露にされた嘉隆の自身は、吐き出したばかりの精に塗れて雄の匂いを充満させており。
萎えるどころか、まだまだ吐き出し足りぬとばかりに脈打ち。

「綺麗にしないとな…」
「ん、うっ…」

ぺろ…れる、れるるっ…
ちゅるっ…ちゅる、るっ…

嘉隆の胸元から自身へ顔を寄せた一益は、亀頭に舌を這わせ。
精を舐め取ると同時に口唇でも啜り、自身を清めてゆく。
鈴口から溢れた白濁は竿から睾丸に至るまで零れ伝っていたが、それらを一滴でも残さず丁寧に。
多くを舌で清め取ると、仕上げとして自身を深く咥内に含む。

…くぷっ…じゅぷぷ…ッ…

(っ、は、スゲ…一益殿の口…堪んねぇけ、ど…っ…!)

射精を前提とした口淫ではなく、清めてくれているのだと頭の中で嘉隆は己に言い聞かせている。
言い聞かせてはいるのだが身体の方は全く制御が出来ぬ有様。
緩やかな舌使いと、時折加えられる吸い上げにも過敏に反応し。
徐々に嘉隆の頭の中は、射精欲のみに支配され始めてしまう。

じゅる…ぢゅぷ、ちゅうぅっ…

「〜…っ!…一益どのっ…すまねぇ、出る…っ…く…!」
「…んン…ッ!」

びゅるっ、びゅるるう…っ!
…こく…んっ…ごくっ、じゅる…

「お、い…嘉隆…"コレ"は薬の所為だけじゃないだろう…」
「う…その、一益殿と逢えるまで一度も抜かねぇでずっと我慢してたっつか溜めてたっつうか…」
「…やれやれ、どうやらまだ鎮まる気は無さそうだな」
「そ、そうみてぇだっ…」

一益の示す通り、口唇を離した嘉隆の自身は全く萎えず。
熱い硬度を保ったままドクドクと力強く脈打ち続け、屹立。

「ふふ、俺としても口で満足されたら困るから結構な事だ」
「…一益殿…っ…」

嘉隆の自身を見詰める一益の眸に、普段の沈着冷静な色とは別の欲情に蕩ける色が混じっていた。
何という…蠱惑の色。
勃つな、という方が無理。
そうして荒く短い息を繰り返す嘉隆に気付いた一益は、くすりと口角を上げて自らの帯を解く。
ぱさりと寝間着が脱ぎ払われれば、すぐさま裸身が露とされて一益の自身も上を向いており。
精を飲み感じたのであろう、先走りを零して鈍く光る。
久方振りに見る一益の裸身が変わらず精悍さと色香を保っている事も勿論、目を釘付けにしたが。
それ以上に、大きな怪我などが見当たらない事に嘉隆は安堵を。

「…そうだ、嘉隆。」
「えっ、なっ、何だっ?」
「お前が来る前に準備をする筈だったんだが…早かったから、あまり後ろを解せていなくてな…」
「へ?…えっと、それじゃ今から解…か、一益殿っ!約束!解すところを見せてくれっていう!」
「…やっぱり見たいのか?」
「当たり前だっ!…う、うん!」

ガン見して脳裏に焼き付けるっ!
というところまで口に出そうになったが、それは飲み込んだ。
最も、一益は一瞬だけ泳いだ嘉隆の双眸で察した様子。
仕方が無いという風にゆらりと蠢き、一益は嘉隆に尻を向ける格好で敷いた床へ四つに這うと。
床の傍に準備していた潤滑液を指に取り、後孔へ滑らせて。

にゅる…くに、くに…にちッ…

「ふ…んぅ…」

嘉隆に見える様、尻を割り開き。
蕾に潤滑を塗り付け、まずは閉じた窄まりを開き解してゆく。
尻を向けているのだから、一益に嘉隆の明確な様子は知れない。
それでも、自分の指の動きと後孔へ向けられている熱い眼差しの事はハッキリと感じ取れる。
この痴態を早く終わらせたい思い以上に、芽生えてくる情欲。

…つぷっ…ず、ぬぬ…っ…!

「っ…う…くっ…!」

頃合いとするには早いと分かっていたが、一益は指を埋め込む。
浅い位置で一先ず止め、ぐにぐにと円を描いて徐々にナカを解し。
指一本での余裕が窺えた頃。
一度、埋めた指を引き抜き改めて潤滑液を数本の指先にたっぷりと纏わせてナカへ流し込むと。
肉壁に馴染ませる様にして指を埋め直し、ぐちぐちと鳴らす。

(はあっ、はッ…)

にちゅ…っ…くちゅ…

厭らしい水音を立てて抜き差しする一益から目が離せぬまま。
嘉隆は我慢する事など出来ず、精や先走りや唾液に塗れて鈍く輝く自らの竿を緩やかに扱き始め。
指の動きと呼応する様、小さな水音同士が室内で共鳴。

ず…にゅっ…ずぷっ…
…じゅぷ…ぐちゅ、じゅぽっ…!

「…よした、か…ぁ…」
「…!…一益、どのっ…!」

三本の指を後孔に咥え込ませ、淫らにナカを掻き回す一益が。
ぽつりと他の誰でもない名を漏らした事に嘉隆の理性が吹き飛ぶ。
自分を想いながら行為に耽ってくれていた、至福。

くちゅ、くちゅッ…ぐち…っ!

「一益殿っ、出すからっ…!」
「な…ちょっと、待っ…!」

びゅぶっ…びゅるるうっ…!
…ぱた…ぱたた…っ…ぽたッ…

竿を扱く手は止まらず、嘉隆は湧き上がる射精欲にただ従い。
肩と膝で身体を支えた姿勢である一益に覆い被さると、尻に鈴口を押し当てて三度目にも関わらず濃い上に多量の白濁を吐き出す。
熱い迸りを受けた一益は軽く果てたのか、埋め込む指を震わせ。
塊として太股を伝い落ちる精の感触、堪らぬ程に煽情的。

…ずる…っ…ぬぽ…ッ…

「ふ、ふっ…大丈夫か?…準備したってのに、此処に寄越す分が無いんじゃ話にならないぜ…」
「大丈、夫っ…寧ろ今すぐにでも挿れてえんだっ、一益殿…!」

何とか身体が落ち着いたところで一益が埋め込んだ指を引き抜く。
充分に解された蕾は喪失からヒクついて嘉隆を誘い招き。
一益の挑発も加わって、嘉隆はぬちりと亀頭を蕾に宛がう。

「あ…えと、後ろからで、も…」
「今更、気にするのはそこかよ…いいから、早くお前のをくれ…」
「お、おう…っ…!」

ぬ、ぐっ…ぐぷ、ぐぷぷッ…!

「は、ァあっ…熱ッ…!」
「一益殿、の…ナカこそっ…!」

後ろから覆い被さるままの挿入。
蕩けた一益の後孔は、悦んで嘉隆の自身を咥え込み。
注ぎ込まれた潤滑が混じり滑る内は心地好く、とても熱い。
肉壁は嘉隆のカタチに拓かれ、すぐにきゅうきゅうと自身に吸い付き精を搾り取ろうとしていて。
みっちりと根元まで咥え込ませた嘉隆は一益の腰を掴み、余裕の無い激しい抜き差しを始めた。

じゅぽっ…ぢゅぷ、じゅぷんッ!

「あ、はァっ、嘉隆…っ…!」
「ごめ、ん…一益ど、のっ…腰が止められね、え…っ…!」
「んっ…イイ…っ…もっ、と…」

腰を打ち付ける乾いた音とナカを行き来する湿った音が交差。
嘉隆の亀頭は、あっという間にパンパンに膨れ上がって擦り抉り。
自身が腸奥から引き抜かれ、カリ首で肉壁を引っ掻く。
ひと突き毎に甘い愉悦が一益の身体を走り抜け、徐々に尻の感覚が失われて自身とひとつに。
そんな錯覚を覚えた刹那。

…ずるる…っ…
びゅくるっ、びゅるる…うっ…!

「なッ、あああっ…!」

亀頭だけを一益のナカに残して竿を引き抜き、そこで射精される。
まさかこの瞬間に白濁を注がれると思わなかった一益は、じわりと染み寄せる熱さに身悶え。
敷布をキツく掴み、悦に震え。
だが、それだけではなかった。

びゅぶるッ…ぢゅぷっ、ぢゅ…!
じゅぽっ!じゅぼッ、じゅぶっ!

「うあっ、ああッ…!…出し、ながらっ…突くん、じゃ…ッ!」
「一益殿…一益殿っ…!」

精を出し切らぬ内に、嘉隆は一益のナカを突き立て出す。
奥では出さず蕾の近くから吐き出された為、突き立てる度にナカに溜まる嘉隆の精は押し出され。
ヌラヌラと光る嘉隆の自身は、しかし新たな潤滑と。
精を染み込ませて痙攣し、融ける様な肉壁の心地に浮かされて。
うわ言の様に一益の名を繰り返し呼び、再び精を注ごうとする。

「かずっ…ま、す…どのっ…!」
「く、ううっ…嘉隆…ぁ…!」

びゅるっ、びゅるる…びゅ、く…
…ぼたたッ…ぱた…ぱたた…

ズンっと一益の奥を突き、睾丸に残るありったけの精を注ぐ。
数度の射精を経たとは思えぬ濃さの白濁は一益のナカで弾け。
一益の自身もまた果てを迎えて多量の精を放ち、熱っぽい眸を潤ませながら絶頂の余韻に溺れた。

―――…

「…あの…一益殿、本当にすまねえっていうか…ゴメンナサイ…」
「お前だけが謝らなくていいと言ってるだろ、嘉隆」
「そう言われてもっ…」

たっぷりと一益の内へ精を注ぎ。
嘉隆の自身が漸く落ち着きを取り戻す頃には、互いに正しく精も根も尽き果てるといった状態。
身体を洗い清めるのもそこそこにして、布団の中へ潜り込む。
しかし不思議なもので、身体は眠りを要求しているのだが相手を想う心が休もうとしてくれない。
いや…恋人同士が久々に睦みあえたのだから、自然な事か。
嘉隆は一益の身体を抱き締めながら心地好い倦怠感に任せ。
これで、気の利いた事でも話せれば良かったのだろうけれど。
冷静になった頭で一連の情交を振り返り、薬が効いていたにしても欲情を一益にぶつけ過ぎだと反省の弁しか出てこなかった。

「ずっと言っているだろう、すぐに処分しておかなかった俺にも非が有るから気にするな、と」
「う、うんっ…」

解った様な返事はするものの。
一益が嘉隆の表情を窺えば、やはり道に迷い困り果ててしまっている小犬の如き顔をしていて。
嫌われたらどうしようか、怖くて怖くて一益の身体を抱き締める。

そんな顔。
俺の方が困ってしまう―――ぜ。

「…嘉隆。」
「えっ、な、何だ?一益殿っ!」
「明けた今日は、お前も一日…空いているんだよな?」
「あ、ああっ!…出来れば…一益殿と過ごしてえんだけどっ…」
「ふふっ、そこはハッキリ俺と過ごせと言った方が良いぜ」

一益の腕が嘉隆の身体を抱き締め返せば、混ざる体温。
トロトロとした温もりに、いよいよ夢遊の中へと誘われ。

「…遠出はせずに…嘉隆の船で、ゆっくり過ごすか…」
「一益殿がそれでいいなら構わないぜっ!俺の船は、何時でも準備万端だからなっ!…へへっ…」

言いながら。
威勢の良さとは裏腹、嘉隆も眠りの限界を迎えている様子。
半分、閉じ掛かった眸。
けれども気持ちの良い笑顔を一益に向けたかと思うと。
優しい口付け、ひとつ。
愛する恋人へ贈ると、縋るように抱き締めたまま眠り落ちた。

「―――…」

まだ、現つの一益も眸を伏す。
程なくして、ふたつの寝息だけが室内に響く筈であった…が。
不意に一益の片側の眸が薄く開き、嘉隆の眠りを確認する。

(咄嗟に…だったんだが…)

規則正しく繰り返される嘉隆の寝息を乱さぬ様、一益はそろそろと腕を運び自らの腰へ掌を当て。
軽く擦れば返る鈍痛。
激しく求め合った代償の痛み。

「…まあ、俺だって御無沙汰だった訳だからな…こんな日は…」


羽目を外す口実が。
欲しい時も、有る。


故にこの痛みは、嘘から出た自業自得などではなく望んだ痛み。
瓢箪の中身が何の変哲も無い水だなんて、嘉隆には最早言えず。
二度三度、一益は腰を擦ると。
起きたら少しだけ嘉隆に優しくしてやろうと心に決め、今度こそ眸を伏して夢中へと旅立った。

■終幕■

◆最初は本当に、お約束の媚薬ネタだったのですけれども。
大体の話の流れを組んだところで、実は何でもない水なのに一益が嘘をついてる方がいいかなと。
「そういう事」にして、えっちの羽目を外したい気分だった的な!
誤算なのは嘉隆の溜めっぷりだったとか、そういう話で(…)
前回の★印な小噺で張った伏線?であるところの、後ろを自分で解す一益を見てる嘉隆というシチュも入れてみましたよ。
何か今回は、何時も書いてるえろより汁気が多めだったかな…
挿入してからより挿入前に力を入れまくりは変わらないけど(笑)

2013/04/25 了
clap!

- ナノ -