【1059taisen】
わんわんわん好日
「お頭ぁー!どの船も異常はありやせんぜーっ!」
「細けえ破損なんかは、取り敢えず補強しときやしたー!」
「それじゃ今日は仕舞いだなっ、お前ら上がっていいぜっ!」
「へぇいっ!」

睦月好日。
威勢の良い海の荒くれ共を束ねる嘉隆は、命を預ける自分達の船に痛みは無いか見回っており。
部下達からどの船にも重度の問題は認められない旨を聞くと。
機嫌良く本日の解散を命じ。
陸へ散開する部下達を暫し見送った後、嘉隆は愛船に乗り込んで。
自らが設計した勝手知ったる船内、すぐさま矢倉の上まで辿り付くと太陽の光芒が綺羅と海面に反射して双眸を眩ませる。
以前ならば海賊行為云々を抜きに海へ飛び出したい様な日和。
けれど今は。
こんな日を過ごすなら―――

…こつん。

「いてっ!」

いや、そんなには痛くない。
ただ上から"何か"が急に兜へ当たった為、反射として口に出た。
ころりと嘉隆の足元に転がるのは丸みを帯びた可愛い小石。
どうしてこんな石がと怪訝を思いながら拾い、空を見上げれば。

「…おわったか?よしたか」
「あ…一益殿っ!」

正確に嘉隆に言わせると、ちっちゃくてモフモフした一益殿。
起きた時から仔犬の身になっていたのだろう、見付からぬ様に嘉隆の作業が終わるまで帆柱のてっぺんで待っていたと想像され。
嘉隆の他に誰も居ない事を確認すると帆柱の半分程まで降りて。
こつんと小石を投げたのだ。

「ああ!船には俺以外、誰もいないぜっ!…ほら、一益殿っ!」

一益の事情を理解した嘉隆は見上げたまま大きく腕を広げる。
貴方を必ず、受け止めるから。

「…よ…っ…!」
ふわ…ぽすんっ!
「んしょっと!…へへっ…」

帆柱を蹴った一益の身体は、真っ直ぐにすっぽりと吸い込まれる様に嘉隆の腕の中へ納まると。
きゅうと嘉隆の胸元にしがみ付いて、落下の勢いを殺す。
ふわさ。と、揺れる尻尾。
落ち着いた一益が嘉隆の胸元から顔を上げれば、迎える笑顔。

「大丈夫か?一益殿っ!」
「よしたかが うけとめて くれるなら、だいじょうぶ…だろ?」
「そうだよなっ!一益殿の事ならバッチリ受け止めるぜっ!」

むぎゅううっ。
受け止めるというには少々、手荒なくらいな気もするが。
嘉隆は一益を力強く抱き締めて、犬耳にすりすりと頬擦りを。
ふかふかで、あったかい。

「…しかし わるいな」
「へっ?何がだっ?」
「こんなに"いいひ"なのに、おれが"このからだ"じゃ…コソコソしないといけないだろう」
「そんな事かよ、俺は一益殿と一緒ならそれで幸せだぜっ!…あっ、あと海と船もだけどなっ」
「…"このからだ"でも?」
「勿論だっ!…ええっと…」
「なんだ?」
「一益殿は俺よか全然、大人だなって思ってるから…身体の大きさだけでも逆転してるって、ちっとだけ嬉しかったりして…さ」

照れくさそうに笑う嘉隆を一益は腕の内から見上げる。
こころが解けてゆく不思議。
嘉隆が受け止めてくれるから、受け止めてくれるから―――

「もしも…ずっと、"このまま"のひが きてしまったら…?」
「構わねえよ、俺の自慢の恋人だって堂々と紹介するぜっ!」

大丈夫、と。
そう言ったのは自分なのだから。
余計な心配は要らない。

「…よしたか」
「んー?」
「…その…な、だいすき…だ」
「えっ、う、へっ?…お、俺っ?おおお俺に?俺に言ってる!?」
「…ほかの だれに いうんだ」
「だ、だって…だってさっ…!」

恋焦がれた、その日から。
貴方の口から聞かせて欲しかった、たったひとつの言葉。
万の財を積み上げたとて手に入らない、たったひとつの小さな。

「…じぶんで いってみると よしたかが"まっか"になってるのも…うなずける、な…これは…」
「え、俺っ…か、一益殿に…す…好きって言ってる時、そんなに顔が赤くなってんのかっ?」
「ふふ、きづいてないのか」

今だって、かなり赤いのだが。
とは言わず、一益はそっと手を伸ばして赤い嘉隆の頬に触れる。
少し火照った様な熱。
指先が触れた熱はきっと、一益の頬と同じ熱をしてるのだろう。
双眸を細め笑みを湛えた仔犬、初めて唱えた恋の呪文をこころで唱え直すと尻尾を静かに振った。


睦月好日。
空も海もこんなに青いのに。
真っ赤なふたりが、可笑しな日。

■終幕■

◆2013年の初小噺でした。
記念日的には犬の日は11月1日になるみたいですけれども。
1の数は同じだから別にいいじゃないのと、1月11日のわん益。
この先、どれだけくっきーを赤面させるつもりだろうか自分(笑)
くっきーがわん益をふかふかモフモフしながら、ラブラブしてればいいじゃない!(*´∀`)
今年も基本そんな感じで九鬼益を愛でていきたい所存です。

2013/01/11 了
clap!

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