【1059taisen】
太陽と銀月
きりりとした冬の空気は澱みを知らず、夜空に銀月を携え。
あまりの清々たる佇まいに嘉隆は思わず白む息を宙に吐いたが。
銀月は刹那に白で霞んだものの、またすぐに皓々とした姿を。
一益の部屋へと向かう途中。
見上げた冬の夜の光景。
銀月は静かに輝くが故に星を隠して、ぽつりと天に在り。
何故だか、一益の様だと思えた事に嘉隆は口唇を噛み締めた。

―――…

「一益、殿っ」

慣れない切り出し方だけれど、嘉隆は優しく一益の手を取る。
少し待たせてしまったのだろうか、その手は冷え冷えとして。
爪の先までキンとする冷えは嘉隆に先の銀月を思い起こさせてしまい、噛み締めた口唇の痛み。
忘れたくて、冷える一益の指先に口付けを贈り熱を灯そうと。
指が少しずつ少しずつ取り戻す熱は仄かだが、確かに一益へ触れている実感を嘉隆に与え始め。
灯す度、嘉隆は口唇の痛みが和らぐ様に感じられ。
ただそっと握る、形良い指先。

「…あ…あの…さっ…」

このまま自分が求めれば、一益は応えてくれるのだと思う。
けれど嘉隆には、聞かなければならないとも…決して聞いてはならないともつかぬ想いを抱き。
迷い揺れた言葉は濁る。
そんな嘉隆の挙動に一益は口を挟まず、嘉隆が心を決めるまで何時まででも待とうという構えは。
分かっている、とも見えて。

「…俺っ…一益殿にとって…重かったりする、かなっ…」
「…っ…嘉隆?」

紡がれたのは予想もしていなかった問いなのだろう。
大きな動揺は見せないが、しかし一益の瞳は僅かに見開かれ。
言葉の意味を噛み砕く。

「こ…こんな事を聞いてどうすんだって、俺も思うけどっ…」

一益の困惑を察知した嘉隆、早速その心中で後悔を滲ませるも。
切り出した台詞を今更、撤回も取り消す事も出来ない。
指先を握る手だけは決して離すまいとして、言葉を続ける。

「俺はっ…俺は、一益殿の事が自分でもどうしたらいいのか分からねぇぐらい大好きでっ…!」
「…嘉、隆」
「一益殿はそんな俺の事でも、受け入れてくれるけどさっ…でも、それって俺が馬鹿みてぇに好きだって言い立ててるからっ…」
「……」
「…付き合って…くれてたりするのかな、って…そんな事っ…」

そんな事。
打ち明けたところで互いが傷付かずに終えられる保障は無い話。
だけれども、孤高に輝く銀月の如き一益の傍に自分が在る事が。
嘉隆には酷く不釣合いに思え。
自分の恋慕を一益は傷付けまいとしているのではないのか、と。
深い愛情の想いは焦がれに狂う。
求めたい、求めたい、求めたい、求めたい、求めたい、求め過ぎ?
分からないなんて滑稽。

…ひたっ…

「ひゃううっ!?」
「…嘉隆は…温かい、な」

握る一益の指先に目線を落として項垂れた様子の嘉隆に。
黙ったままでいた一益は、まだ温められていない方の指先を嘉隆の額へ当てて熱を受け取る。
少し頭を冷やせ、という意味も含めているのかもしれない。

「俺は…な、嘉隆」

握られた指先はそのまま、額へ当てた指先を離し。
一益はその指先を嘉隆の背へ回し、改めて温もりを受け取り。
背をさすりながら言葉を紡ぐ。

「嘉隆の愛情が重いだとか思った事は無い…とも言えるが…」
「えっ…?」
「…正直な話、それが重いのかどうか…嘉隆みたいな愛され方が初めてだから分からない、というのが正しいだろうな」
「か、一益殿…っ…」
「だから…俺からすれば、嘉隆の愛情に応える事が出来ているのか分かず…不安な時が有る」
「応えてくれてるっ!一益殿は…ちゃんと…でも、俺はっ…」

…ぎゅ、うっ。

「…かずますど…の?」

嘉隆が握っていた筈の指先が。
初めて力強く握り返され。

「嘉隆が俺を愛してくれるなら…幾らでも愛して欲しい」
「…かっ…加減とか、俺っ…全然出来そうにないんだぜ?」
「それでいいんじゃないか?…それくらいが…心地好いぜ…」
「あっ…な、何だよ指だけじゃなくて身体も冷えてるんじゃっ…」
「…だな」
「だ、だなって、風邪っ…!」

徐々に互いの身体を重ねる箇所を増やし、嘉隆が指先を握るとは逆で一益の肩を抱き寄せると。
指先にも敗けぬ程に身体は冷え切っており、嘉隆は慌てて。
自分の体温を分け与える様、一層に抱き寄せ包み込む。

「…嘉隆」
「ん…何だっ?一益殿っ…」
「本当、恋に不器用だよな」

俺も、お前も。
ぽつりと、そう漏らして笑んだ一益の言葉に嘉隆もほろり笑む。
地上の銀月は独りじゃない、不器用で温かな太陽が照らすから。
じわりと染み入る熱に惹かれ、無上の幸せを感じるは太陽と銀月。

■終幕■

◆一益が好き過ぎてオーバーヒートしちゃったくっきーと。
お陰で若干、恥ずかしい事を言わされている一益っていうか。
恋愛感がちょっと欠如してるイメージが有るのね大戦一益は。
同性で「お付き合い」に至ったのは嘉隆が初めてだったりして。
だから、くっきーの好き好きにどう応えて良いのかちゃんと応えられているのか分からない。
…っていうのが下地にあったりするんです、的な。
段蔵さんとは…やっぱ、段蔵の方がそういう事の理解が最終的に出来ないんだろうなって思うの。
一益も愛され方への欠如も有れば、愛し方の欠如も有って。
それでいいって、割り切っちゃうんだろうなと思うのですよ。
…まだ段益も書きたいなあ(笑)

2012/12月某日 了
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