【1059taisen】
bamboo☆Halloween
!)初めて書いた佐竹さん家
後に増えなかったので設定に記載しなかったのですが、基本的に刻限義宣さま愛され思考なので従兄弟の宇都宮国綱や家臣の真壁さんも義宣大好き
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「夜分に失礼します義宣殿っ!宇都宮国綱、参上ーっ!」
「…宇都宮…殿?」
秋は深く、いよいよ夜間の冷えも本格的な様相を見せる時節。
義宣は床に就く前の一時をゆるりと過ごしながら寒に手を擦り。
冬が近付くを想うという事は…敷布団嫌いの父、義重と揉め始めるのもそろそろであろうな、と。
冬であっても薄布で就寝を済ませる義重なのだが、鬼の異名を持つ剛の者だけあるのか風邪知らず。
だが、そうはいっても義宣としては父の身体を気遣いたいもの。
今年こそは敷布団を使ってもらえる手立てを考えたい…等と思案していたところに、部屋の外を走る者の気配を感じ取る。
足音を隠す素振りは無く、もしや急使の類なのか。
寛ぎから一転、引き締めた面持ちで義宣が戸を開いた瞬間。
飛び込んできたのは佐竹家の与力大名であり、義宣からすれば従兄弟でもある宇都宮国綱だった。
「そんな"宇都宮殿"だなんて他人行儀!"国綱"で結構っ!」
「いや、俺の方が若輩であるし流石に呼び捨てという訳には」
「ではせめて名の方でっ!」
「…それでは国綱殿。一体、何ゆえ…その様な格好を?」
「これはですねっ!今日がハロウィンと呼ぶ日だからですよっ!」
「は…はろうぃん…?」
主に黒で統一されている国綱の格好は、三角のとんがり帽子に二の腕ヘソ出しと太股の絶対領域を備えた萌え魔女っ娘系。
本人の容姿が非常に中性的で、義宣より年上とは見えぬ童顔の為。
男だと解っているが、実際それはかなり似合ってしまっており。
ヒラヒラと夜風に靡く丈の短いマントが、なかなかあざとい。
「日の本の外には、その様な祭事の日とする国もあるのですっ!」
「成る程…国綱殿は見聞が広い、具体的にはどういった日か?」
「ふふふっ…とりっく おあ とりーとっ!俺に甘い食べ物を下さい義宣殿っ!今すぐですよ!」
「甘い…食べ物を?」
「そうです!単刀直入に言って、そういう日だからですっ!」
ハロウィンを全く知らない人間に対して単刀直入過ぎる説明だが。
義宣は素直に理解が及んだ部分を受け、困った表情を浮かべる。
「今、という訳には」
「駄目ですっ!とりっく おあ とりーとと言われたら、すぐ甘味を渡すというのが決まり事っ!」
「しかし…」
「ですが御安心をっ!無い、というのであれば…少しだけ俺のイタズラに付き合って下されっ!」
「悪戯?…正道に反する行いへの加担は受け難いのだが」
「い、いやいやっ!付き合うの意味が少し違うな…えーっと、取り敢えずっ!俺が良いと言うまで目を閉じて下さい義宣殿っ!」
「…承知」
困った表情から、少しばかり怪訝が混じる顔になったものの。
義宣が双眸を閉じるを見て、国綱がほくそ笑む。
(やたっ!ここまでくれば義宣殿の唇は俺がいただきだっ!)
そろそろと義宣へ近付き。
甘い食べ物がどうの等とは口実で、国綱の目的は最初から口付け。
静かに重ね合わせようと―――
ドーンッ!☆
「兄さんから離れて国綱殿〜!」
「う、うわっ!…よ、義広…殿っ!何をするっていうか、何でその衣装を勝手に着てるんだっ!」
重なる寸前、義宣の弟である蘆名義広が国綱へ突撃を決めた為に義宣の口唇は微かな風のみ感じ。
身体をよろけさせた国綱が義広を睨み見ると、義広は何故か国綱と似た様な魔女っ娘衣装の姿。
意匠に細かな差違は有るが、二の腕や腰回りに太股といった辺りの露出具合は似通った物であり。
国綱の言い分からして、最後まで迷い持ち込んだ内の選ばなかった衣装を着られているのだろう。
「こ、こんな格好で兄さんを誘惑して…何をしようとしたの〜!」
「くっ…か、関係無いだろっ!」
「僕の兄さんに関わる事だから関係あるもんっ!…それに…」
「な、何だよっ。」
「…ぼ…僕の方がこういう衣装は似合うんだから!ねっ、兄さ…」
同意を求めるべく。
義広はヒラリとマントを翻して兄の方を振り向いた…のだが。
「…義広?」
「ちょっ…に、兄さん何でまだ目を閉じっぱなしなの〜っ!」
「国綱殿が良しと言われるまでは、閉じねばならぬのかと」
「この状況で、そんなの律儀に守ったりしなくていいよ兄さん!」
「だが…」
「そうです義宣殿っ!ちょっ…と、義広殿との話を片付けるので、もう暫し閉じて待って下さい!」
「うむ」
「ええっ!…うう…国綱殿っ!」
じわりと涙を溜めた眸で義広は国綱の方へ向き直り睨む。
元々の容姿の幼さに加えて今の格好では迫力は無いのだが、それでも義広にしては強い憤りの眸。
「…ふ、ふふんっ!肝心の義宣殿に見てもらえず残念だなっ!」
「ううう〜っ、早く兄さんの視界を自由にしてよ国綱殿〜っ!」
「義広殿が去るまでは断るっ!…大体、自分の方が似合うとか言うけど義広殿の太股見せなんか珍しくないだけだろっ!宴とか!」
「そ、そんな事は無いよっ!」
「普段は見せていない俺の方が、グッとくるものなんだよっ!」
「だ…だけど!国綱殿は兄さんより年上でしょ!僕の方が年相応って意味でも合う筈だもの〜っ!」
「み、見た目に違和感が無いなら歳はどうだっていいだろーっ!」
義宣の手前、気持ち小声で言い争いを始めた二人。
なのだが次第に声を抑える事が出来ず、自分の言い分を通し始め。
気付けば結構な大声で義広と国綱の口喧嘩が続いた、その時。
ドバターンッ!!
「やかましいッ!何をぎゃあぎゃあと騒ぎ立てておるかぁっ!!」
「ひっ、ひええっ!?」
「う、うわっ…ち、父上!?」
どうやら寝付いたところを喧騒で起こされたらしい義重が、戸を勢い良く開け放ち怒号を発した。
義広と国綱は反射的に身体をすくめ、同時にこれはすぐに謝るべきだというところで思考は一致。
だが、二人が謝るよりも先に。
「ぬうっ!?…面妖な…貴様ら義宣をかどわかす魔であるな!!」
「い、いやいやいや違っ!」
「ぼっ、僕は義広です父上〜!」
「ええい義広を騙るか!鬼と呼ばれしこの義重、魔などに騙されなどせぬ!義宣から離れんか!!」
魔女っ娘衣装の二人を義重は正確に認識が出来ず。
スラリと淀み無く愛刀を抜くや否や、二人を目掛けて猛進開始。
「ま、マズいっ!退けーっ!」
「わああっ、待ってよ国綱殿っ!一人で逃げるのはズルい〜!」
「逃げるな止まれえぇいッ!」
そりゃあ逃げたくもなるだろうという程に義重の気迫は凄まじく。
全力でその場から逃走を開始した二人と、その後を追う義重。
「父上…?」
それら、一陣の風が去れば。
後には義宣だけが残され静寂を取り戻す秋の夜長。
―――…
「…あの…義宣様?一体、何が起こってるというか…何をしているか聞いて構わんですかね…?」
「む、その声は氏幹か」
義重の怒声と二人分の悲鳴に、何事かと駆け付けた真壁氏幹は。
一先ず義重の身は問題無さそうであると判断し、義宣の無事確認を優先させて部屋の前へ向かうと。
何故か双眸を伏して立つ義宣。
己がどう行動すれば良い状況なのか氏幹は迷ったが、まずとにかく声を掛けてみるべきであろう。
そろそろと問えば義宣の態度と様子に普段と変わるところはなく、心中で氏幹は安堵を覚える。
「国綱殿との約束事ゆえ、戻るのを待っているのだが」
(…片方は義広様だと思ったが、もう片方の悲鳴は国綱殿か…)
二人が義重に追い回され、義宣が眸を伏している細かな理由はまだ何も分からないに等しい返答。
だが国綱が来ているとなれば、義宣を巡り何かがあった結果の状況だと氏幹には推察が出来た。
それにしても約束とはいえ、国綱が去ったところで目を開けて良いのではないかと思うのだが。
義理堅い若殿を少々、案ずる気持ちと同時に抱くのは。
そこに惹かれもする淡い想い。
(俺だと分かってらっしゃるんだよなぁ…しかし…据え膳だろ…)
伸びる氏幹の武骨な指。
触れ奪いたいのは、義宣の口唇。
…スリ…ッ…
「…氏幹…?」
「あ…いやっ…その、義宣様の頬、随分と冷えてますよ。風邪なんか引かれたら困りますって」
氏幹の指は口唇に触れず、義宣の頬を軽く掠める。
指先は、今までの関係が壊れてしまう事を恐れたのだろう。
義宣の頬から伝う冷気が凍みて。
「確かに今夜は冷えるな。」
「でしょう。それに理由分かる義宣様に義重様を止めてもらわんと、義広様や国綱殿はずっと追い回されますよアレじゃ」
「…それは二人が心配だな、約束を違えるが致し方ないか」
白い息の奥で義宣の双眸が開く。
"まことに"氏幹であった事を認めた眸には安心の色が滲み、ふわりと和んだ笑みを義宣は浮かべ。
それは儚い一瞬の笑み。
しかし氏幹の心へ刻み付けるには充分で、甘酸っぱい感情が胸の奥を切なげに締め付ける心地。
「父上たちの元に参ろう氏幹」
「そっ…そうですな義宣様」
「…ああそうだ、後で構わぬが一つ頼みたい事がある」
「頼み事…ですか?」
「難しくはない。遅れてしまうが約束を違えた非礼を含め、国綱殿に団子を贈っておいてくれ」
「…手配しときます」
「宜しく頼む。…では行こう」
何が遅れ何故に団子なのか、氏幹には皆目見当が付かなかったが。
ただ。
義宣からの贈り物という事に国綱へ妬ける想いを抱いた自分を理解して、溢す笑みはほろ苦く。
今なお響く悲鳴を目指して歩み出した義宣の背を護る様。
氏幹も義宣に続き、まだ終わりそうもない夜へと身を投じた。
―――…
佐竹家のハロウィンに、お化けは出なかったが鬼は出た。
元々、居た気もするけれど。
…ゲホッ…ゴホ、コホッ…
「大丈夫か?義広…すまぬ、もう少し早く父上を止めておけば」
「う、ううん兄さんのせいじゃないよ…気にしな…ケホケホッ!」
ハロウィンの翌日、見事に風邪を引いたのは義広と国綱のみ。
国綱は療養しながら自領へ戻る事にして、義広は義宣に見守られながら床に就いて咳を繰り返す。
「…兄さん、風邪が移ったら悪いから傍に居ない方がいいよ…」
「俺なら平気だ、それに病の時に独りは心細いものだしな」
「…ありがと、兄さん」
―――幼少に養子へ出され、蘆名は没落して佐竹へ戻った。
およそ十年。
"兄"の記憶が幼い頃に形成され難かったから、なのだろうか。
僕のこの気持ちは、兄弟愛なの?
「義広…顔が赤いぞ、また少し熱が出てきたか?」
「えっ、あ、そ…そうかも…」
「よし待っていろ、頭を冷やす布の水を新しく替えてくる」
「ごめんなさい…」
「何を謝る事があるか、今はしっかり休んで早く治せ」
「…うん!」
静かに部屋を去る義宣を見送ると、義広は実際に風邪の熱で自分の体温が上がっている事に気付く。
気怠さから双眸を閉じれば。
巡らない頭は徐々に夢中へ引き込まれ、義宣が戻る前に寝付き。
眠り落ちる直前。
義広が最後に抱いた想いは。
治ったら取り敢えず、あの魔女っ娘衣装を着た姿を義宣にちゃんと見てもらおうという事だった。
■終幕■
◆という訳で2014年のハロウィン兼、初の佐竹家な小噺でした。
最初の話なので、律儀で真面目な義宣中心に他の面子との関係性が見える…話になったかな(苦笑)
兄さん大好き?な義広くんと、積極的にアプローチしてくる宇都宮国綱くんのショタっ子コンビ。
密かに生真面目な義宣にキュンキュンしちゃってる真壁さん。
隠居しようが鬼っぷりは現役過ぎる、超元気な義重父ちゃん。
逸話を見ると義重・義宣の親子は、ちょいちょい意見を違えて揉めたりしている様に感じまして。
でも親子仲が悪い訳ではなく、拳を交えてでも主張して翌日にはケロッとしているみたいな印象。
周りは、大殿と若殿が揉めてます!またか放っておけ!みたいな。
急に萌え開花したので、まだまだ手探り状態の佐竹家ですが。
ちまちま数を増やしたいです♪
2014/11/10 了