【1059taisen】
仔犬の御主人さま
前半がBSS×宴で後半がR×SRの話です
どちらの内容も診断メーカーで出た結果を元に書いています
診断の結果は後書きで



その日は、まるで春を絵に描いたかの様に麗らかな日で。
降り注いだ陽光を受けて海面が煌めき、吹くのは柔らかな潮風。
ゆらり、ゆらりと。
緩やかに揺れる安宅船は停泊中であり、帆柱を背に座る嘉隆は今にもウトウト船を漕ぎ出さん様子。
しかしそれは勿体ない。
何故なら、嘉隆の傍らには。

「…よい"てんき"だな」
「いや全く、気を抜くとすぐに寝ちまいそうな陽気でさぁ」
「"ひるね"をして すごす のも…わるくはないと おもうが」
「そうなんですがね。…しかし折角、一益殿と一緒にいるのに寝てばかりっちゅうのは損した気分なるといいますかのぅ…」
「ふふ、うれしい ことを…」

仔犬の身となっている一益が、頭を傾け嘉隆に寄り掛かる。
時折、小さき身体に変わる一益の事情を知ってからというもの。
理解し受け入れた嘉隆は夜までの時間を船で、一人と一匹だけで過ごす日を持つようになった。
ふさふさした犬耳や尻尾が触れ寄せられると春の陽気も手伝い、乱世である事を忘れてしまう程。
このまま、遠い遠い海の果てを一益と共に見に行けそうな。
そんな気分に浸らせる、春。

「よしたか」
「へい?どうしやしたか?」
「いや…"ごしゅじんさま"、いつも だいじに おもっている…」
「…どっ、どうしたんですかい急に?ご、ゴシュジンサマって…わっ、ワシの事ですか一益殿?」

寄り掛かる一益の肩を優しく、そっと抱き寄せ。
もう片方の手は犬耳を撫で。
好天を最大に謳歌するかの如くただただ、のんびりと空を見上げ波の音を聞いていた嘉隆に向け。
一益が唐突過ぎる事を言い出す。

「ほかに いないだろう」
「いや、そりゃあ二人きりですが…ワシが一益殿を主に思うならまだしも、一益殿の方がワシを主に思うっちゅうのは…」

当然、慌てる嘉隆の様を窺う一益の口元には笑み。
どうやら、本心ばかりではなく…暇を埋める戯れも含むか。
悪戯心も芽生える春だから。

「この"からだ"のときは…よしたかが"あるじ"であってくれるほうが、よいのではと おもうが」
「で、ですかなあ…いや、御主人様なんて照れちまいますよ」
「…てを、かしてくれ」
「へっ?…ど、どうぞっ」

何と対応すれば良いのか困りつつも、どこか照れ嬉しげな表情。
そんな嘉隆に一益が出した要望は自分の犬耳を撫でている手。
唐突の連続で反応が遅れるも、嘉隆が一益の前に手を差し出せば。

そっ…
…とくとく…とく、とくっ…

小さな手は大きな手を導き、仔犬の胸元に掌を当てさせる。
そうして掌が感じるのは、思うに普段より早いであろう心音。
胸が、この胸が高鳴る正体は。

「…いっておいてからに、おれも…"てれくさい"ようだな」
「一益殿…はっはっ!主を呼ぶのに照れとったらイカンですよ?」
「そうだな、ふふっ…んっ…?」

―――ギッ…

思い付きの御主人様発言で心穏やかに嘉隆と戯れる一益だったが、微かな某かの気配を察知し。
一変、戦場で見せる表情の片鱗を覗かせて周囲を窺う。

「…一益殿、何か…何か不味い事があったんですかい?」
「"なにものか"の…けはいが」

ただならぬ一益の様子から嘉隆も辺りを警戒しつつ声を潜め。
船に他の誰かが居ると言うを聞き、耳を澄ますものの嘉隆には人らしきを感じ取る事が出来ない。

「…どうやら、うせたな」
「そ、そうなんですかい?ワシにはさっぱり…しかしワシ以外の誰も乗せるなと言ってやったのに、役に立たん部下どもで…」
「"よしたか"いがい、か?」
「へぇ…」
「なるほどな…ならば"もんだい"はない、だいじょうぶだ」
「えっ、ええっ?」

何を根拠に、勿論嘉隆はそう聞きたかったのだが。
既に一益は表情を先程までの微笑みに戻し、身体を丸めて嘉隆にぴたりとくっ付き双眸を閉じて。

「ごしゅじんさまと…やはり、ひるねを したいのだが…?」
「…分かりやした。そいじゃあ…ひと眠りしやしょうか」

ぽかぽか陽気と仔犬のワガママの前には敵う術が無く。
一益の背を擦りながら、嘉隆も双眸を閉じて夢中へ向かう。
一番、御主人様らしいのは。
やっぱり仔犬の時の貴方ですよと、愛らしい寝息を聞きながら。


―――…同刻、別の大船にて。


「……」
「…おい、よしたか」
「え…と…いや、うーん…」
「そうしていても、おれには…なにも わからないんだが」

もう一方の嘉隆と一益もまた、一益が仔犬の身となり一人と一匹で春の日を静かに過ごしていた。
…のだが。
少し違うのは、嘉隆が廁に離れて戻ってからの様子がおかしく。
一益を前に胡坐だがきちっと座り、何かを言い出しかねている。
とはいえ"分からない"と言った一益には、何となくではあるものの嘉隆が自分に言いたい内容を察する事が出来ていた。
この態度は、何か少し恥ずかしいとか照れる様な事を頼みたくて仕方がない時の嘉隆である、と。

「あの…一益殿…っ…」
「…なんだ?」
「お、お…俺の事を、一度でいいから"御主人様"って呼んでくれっ!いや、下さい!この通りっ!」
「ごしゅ…は…?」

察した方向性は当たっていたが。
その内容は一益が想定していた範囲を斜めに越えており。
胡坐の両膝に手を置き深々と頭を下げて頼み込みだす嘉隆を、一益はポカンと見詰めるしかない。
急に何を言い出すのか。

「…もしかして、むこうの"おれ"も…この"からだ"なのか?」
「がふっ!?…えと…その…う、うんっ…ソウデシタ…」
(やはりな、それでか…)

戦場に立つ姿は自分と同じ「一益」なのだと思える。
しかしこうした平時、特に嘉隆と共にしている時の戯れ方を知ると自分ではない「一益」を想う。
以前に比べれば自分も素直に甘える様な事をしているが。
あいつら何をしてるんだ御主人様って、というのが率直な感想。

(なのだが…)

このまま了承しないでいると、次は土下座だったらまだしも。
鉛玉の一発なら我慢するから等と言い出しそうな嘉隆の雰囲気。

(やれやれ…)

…ス…ッ…ぐいっ!

「…か、一益殿…っ?」
「おれの"ごしゅじんさま"なら、かおを あげて どうどうとしてほしいと…おもうんだがな」
「!!…そっ、そだなっ!」

頭を下げっぱなしでいる嘉隆の両頬に一益が手を添えると。
顔を、ぐいっと上に。
驚きと同時に何事かと一益を見れば、春風の様に和んだ微笑みを浮かべる眼差しと双眸が合い。
今、"御主人様"と呼んでくれた。
聞き漏らさなかった嘉隆は瞬時に表情を輝かせて身を起こし。
主人に相応しく、胡坐は変わらぬが背を正して一益を寄せる。

「こっ、此処に座ってくだっ…じゃねぇや、座ってもいいぜっ!」
「ありがとう、ごしゅじんさま…しつれい する」
「お、おうっ!」

色々とテンパりつつ、若干過剰に自らの太股を叩き示す嘉隆に。
一益は大人しく従順に、ちょこんと座って腕の中に収まれば。
犬耳は、早鐘の如くバクバクと高鳴る嘉隆の心音を聞く。
―――嗚呼、成る程。
少しだけ向こうの「一益」の気持ちが分かった様な。
恋人の愛い反応と春の陽気は、悪戯心を芽生えさせるもの。

「…ごしゅじんさま。」
「んー?何だっ?」
「"くちづけ"をしても…よいですか?ごしゅじんさま」
「えっ…口付けって…ちゅ、チューを?かかか一益殿からっ?」
「そう」

幸せに浸る嘉隆へ向けられた一益からのお願いは、嘉隆にしてみれば更なる幸せへの極みといっても過言ではない望み。
だが、期待を残しつつも覗き込んだ一益の表情というのは。
恥じらいよりも余裕が窺え、何となく見透かされた気分にさせられる双眸はつまり…間違いなく喜ぶであろう嘉隆と戯れる意。
そう気付いてしまうと素直に口付けを受けて一益の思うツボというのも嘉隆には面白くない、が。
正直、口付けはしたい。
瞬時にぐるぐると、どうするのか思考を巡らせた結果。

「ちゅっ、チューなら俺がしてやるっ!しゅ、主人だからなっ!」
「ごしゅじんさまから?…ふふ、それでも かまわないが…」

結論は、自分からなら主人の面子が保てるのではという事の様。
どぎまぎしながらも嘉隆の口唇が一益の口唇に近付く。
形良い一益の口唇は自然と少しだけ尖り、嘉隆を見詰めていた双眸は既に閉じられて委ねる姿。
口付けなど初めてではないのだが、初めての時と同じときめき。
そっ、と。

…ちゅう…っ…

「…ふふっ…ずいぶん、やさしく"くちづけて"くれるんだな。」
「ふ、普段から優しいだろっ」
「そうだったかな?」

くすりと笑む一益。
頬がほんのりと桜めいた色に変わるが…真っ赤な嘉隆に比べれば、まだまだ余裕といったところ。
柔らかな感触が残る唇を、口付けとは違う意味で尖らせ。
ここで御主人様を終わらせきれない嘉隆、ふと思い立って自分の髪を結ぶ橙の布をひとつ解き始め。
ゆらりゆらり、主人に甘え擦り寄る様子で揺れる尻尾を掴む。

「よした…ごしゅじんさま?」
「大人しく、していろよっ。」

不思議に思うも特に嫌がる素振りは見せぬ一益が、嘉隆の言う通り大人しく好きにさせていると。
尻尾に巻き付く、結び。
苦しくないようにゆったりとだが、橙色の布は嘉隆の髪を結ぶと同じ形で春の蝶に成っていた。

「…これは…?」
「それなら、主人が俺なんだって…わ、分かるだろっ」
「…なるほどな…たしかに」
「だろっ?へっへっ…」

お揃いの蝶は、ふたりの間に何かしらの繋がりを感じさせる。
沢山の蝶を持つ嘉隆から、一つを"お裾分け"してもらった様な尻尾の蝶は主従が端目に分かり易く。
これで少しは自分が主導権を取れたと嘉隆が思ったところに。

……ぺろっ。

「わひゃうううっ!?」
「…そんなに、おどろかなくたって いいだろう」
「だ、だってよ急に…っ!…いっ、嫌とかじゃねえけどっ!」

不意を突いて一益に頬を舐められ、上がるのはあらぬ奇声。
完全な油断。
目を丸くする嘉隆に対し、一益はさも当然といった風で。

「"こいぬ"らしく、しゅじんにたいして"しんあい"を しめして みただけのことだとおもうぜ?」
「うー…一益殿はズルいっ!もう少し、俺にもさあっ…」

今にも拗ねだしそうな嘉隆、一益も少々戯れ過ぎたと察した模様。
嘉隆の腕に自らの腕を絡めて寄り添い、今度は頬に小さな口付け。

「ふ…すまない。だが…よしたかだから、だと おもってくれ」
「…そんな事を言われちまったら、許すしかねぇじゃんかっ。へへっ…よっし!ここらで御主人様ゴッコは終わりにするかっ!」

高らかな宣言と共に嘉隆は一益を小脇に抱き寄せ、ゴロリ寝転ぶ。
そういえば此処は船の甲板。
伸び伸びと身体を広げて春の陽光を思う存分、目一杯浴びれば。
自然と夢の中へ誘われゆく。
春眠、仔犬と共に。
橙色の蝶となり、空より海を眺める夢でも見るとしようか。

■終幕■

◆まずは最近の更新でお馴染み気味である診断の結果内容から。
この2つの結果でした♪

♪ちびキャラをペットにしたー

◎アダルト組
ネコ耳のちび宴一益が「ご主人様のこと、大事に思っています」と言っています。胸に手をあてるとはにかむでしょう。
◎ヤング組
いぬ耳のちび一益が「キスしてもいいですか?ご主人様」と言っています。しっぽを縛ると頬を舐めてくるでしょう。
http://shindanmaker.com/132869

という訳で、実はアダルト組の方は日記で少し会話文を添えてみたモノを再利用していました(汗)
しかも、わん仔じゃなくて猫さん耳の結果だったし…(´・ω・)
でも全体的な雰囲気はアダルト組に合うなあって。
そしてヤング組の方ですが。
縛るっていうのがね、リボンを結んであげると解釈してみて。
所有ゴッコ、みたいな…それで。
自分が主人なんだぞっ!って内心はバクバクで御主人様になりきるけど、わん益に遊ばれてる嘉隆の絵が浮かんでこんな話(笑)
日輪嘉隆からすると、アダルト組が羨ましいと思うのね。
宴一益は黒嘉隆に素直にデレるから…だけれどさ!
普段は素直になれない一益が、嘉隆の熱意で少しずつ変わるというのがヤング組における醍醐味だと思うのですよ(*´∀`)

2014/03/30 了
clap!

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