【1059taisen】
長い夜は短くて
)内膳×義宣の初えっち話
話の時期は川井事件が起き、一先ず事態が落ち着いた頃

◆川井事件/概要
川井忠遠による内膳及び義宣の暗殺計画が露見した事件。
有能ながら、浪人あがりの若手である内膳や梅津兄弟を重用する義宣に対する譜代重臣の不満の火種が元々くすぶっており。
家老の1人が隠居した際、後任に内膳を抜擢する案が持ち上がった事で不満爆発。暗殺を企てる。
しかし暗殺は義宣に漏れて先手を取り粛清、未然に防がれる事に。
結局、内膳が正式に家老となったのは事件から約4年後だった。



何が、何が。
"私が"お守りする―――だ。
結局、私は…私は。

「…まずは杯を空けよ…内膳」
「は…はい…義宣様…」

それは或る月の一夜。
義宣の寝所に満ちる空気は、どこか重苦しさに包まれている。
政光の手には主である義宣が自ら注いだ一献が納められており。
促されて喉を通る酒の味、本来の政光ならば他に代わる物など無い美酒と…感じられる筈であった。
だが、自責に苛む今の政光には酒の味も酔いも曖昧で。
空となった杯は、まるで自分のこころを表している様に思う。

「何度も言っているが、この度の件は俺の不明が招いた事なのだ…内膳が責任を感じねばならぬ事など、何一つとして無い」
「ですが…私が原因であるのは明白、義宣様の御命までも…」

燻っていた火種。
政光の台頭を快く思わぬ家臣達の不満は、政光を家老へと抜擢する話が持ち上がるに至り炎と化し。
暗殺の計画は政光のみならず、義宣にも魔の手が及ぶ。
しかし―――しかし。
具体案の無い暗殺計画は遅々として進まず、実行へと至る前に察知した義宣によって事は露見。
暗殺は…未然に防がれ。
だから、良かった、などと。
決して政光には、この結末を受け入れる事が出来ない。
自らが事の原因である、以上に。

「それに私は…お守りするどころか義宣様に守って頂いた…」
「内膳…」

うなだれたままの政光の双眸は空の杯を見詰め続け。
主を守ると決した自分が、守られている事にただ恥じ入る。
既に粛清は済み、家老にも新たな人事が組まれ、"これまで通り"に戻るのだとは解っていても。
暗殺未遂事件以降、政光の気は晴れず表情にも陰が落ち。
それを案じた義宣によって、このささやかな酒宴は催されていて。
その気遣いがまた、政光のこころに複雑な想いとして染み込む。

「…ならば、もう…俺の為には尽くさぬと言うのか?内膳」
「そ、その様な事は!…私は…私には義宣様しかありませぬ…!」

義宣の言葉に政光が慌てて顔を上げると、真っ直ぐな義宣の双眸。
淀む政光には刺さる澄んだ眸に、逸らしたくなるを堪えて目線を外さず変わらぬ忠義を伝えると。

「…俺だって同じだ、内膳…お前に代わる者など居ない」

澄んだ双眸が細められ、政光を優しく諭す様な口調。
ひとつ呼吸、義宣は杯を煽り。
真白い杯ふたつが、仄かな灯りに照らされ浮かぶ。

「だから俺にも、俺なりの方法で内膳を守らせてほしい」
「義宣様…」
「何故、守れなかったと…後悔をしたくないのも同じであろう?」
「え、ええ…」
「あのまま気付かずに捨て置いていれば、俺は今の内膳よりも遥かに自責の念に苛む事となった筈。あれが…最良だったのだ」

まだまだ複雑な表情のままの政光に、義宣は杯へ酒を注ぐ。
丁度、ふたり分。
酒瓶から零れた最後のひと滴が、真白い杯の中で波立たせ。
一息に煽る義宣に続いて政光も杯を空ければ、訪れるは沈黙。

「…やれやれ、少し吹っ切れさせてやらねばならぬ様だな」
「よ、義宣…さ、ま…っ?」

再び目線を落とし始めた政光の傍らに義宣が寄り添う。
困惑している政光に構う事なく、義宣は政光の首に腕を回し。
そっと、小さな口付け。
とても短く、けれど永劫を想うそれは"初めて"の口付けと同じ。

「"約束"を決して忘れぬと言っていたな?今が…果たす時だ」
「し、しかし…それはつまり私と…よ、酔われているのでは…?」
「確かに酒は回っているが、これは間違いなく俺の意思だ。それとも、俺は抱く対象にならぬか…」
「私は…私ごときに抱かれて…義宣様が悔やむのでは…と…」
「…聞け、内膳」

回した腕のままに義宣は政光の身体を抱き締め。
口唇を耳元に寄せ、口を開く。

「俺が…身体を許したいと想った男が、"ごとき"等と申すな」
「義宣様と私とでは、釣り合わぬのは事実で御座います…」
「釣り合いとは何だ?出自が総てか!?…あ奴等もッ…才有る者を傍に置き、その才を愛し…その者をも愛す事の何が悪いのか…!」
「よ…し、のぶ…さ、ま…」

(そんなに、も―――私を)

囁くに等しい控えた声。
けれどもその声は、政光が初めて聞く義宣の強く感情的な声。
ずっと溜め込まれていた想いの吐露、政光を抱き締める腕は縋り。
ぎゅうっと着物を掴む手は、失う事への怯えを想わせて。
あの主が、これ程まで感情を露にして求める先が自分である事に。
ジン、と沸き上がる感激。

「どうか…義宣様の唇を頂戴したく…お許し下さいませぬか…」
「ん…ふふ、内膳から俺に口付けてくれるの…か?」

縋る義宣の身体を受け止めた政光は、自分からの口付けを乞う。
求めに応じた義宣は腕の力を緩め、一度政光と目を合わせて微笑み、ゆるりと眼を閉じて愛しい者の口唇を待つ―――と。

…ちゅ…く…にゅる…ッ…!

「?!…ふッ…んぅ…!」

柔らかに触れる様な、可愛らしい口付けを義宣は想像していた。
重ねられるや、舌を捩じ込まれ咥内を貪られる等と思いもせず。
驚きから反射的に身体を離そうとしたが、優しく受け止めていた筈の政光の腕は予見していたかの如く抱きすくめ、逃れられない。

くちゅッ…じゅるっ…

「う…んふ…ッ…」

舌同士が絡み合う度に義宣の口端からは唾液が伝い落つ。
始めはどうにか酸素を取り入れるのがやっとで、一方的に政光の舌に嬲られていた義宣だったが。
次第に幾ばくかの余裕を取り戻すと、時に自ら進んで政光の舌を絡め取って交わりを愉しむ素振り。
そう簡単に乱れは―――

…ぞく…んっ…!

「!?〜〜〜…っ!…ふぅッ…!」

突如として義宣の背に悦の波が走り、抗えぬ快感に身が震え。
政光には悟られまいと、何とか抑え込もうとしたが時既に遅く。

じゅうっ…じゅる、じゅる…ッ!
する…つつ…シュッ…シュ…

「ン、んふぅ…ッ…!」

畳み掛ける様に政光は舌を強く吸い上げながら、義宣の下肢をまさぐり勃ち掛ける自身を撫で上げ。
義宣の身体は政光の腕の中でビクビクと跳ねて快楽に堕ち。
硬くさせた自身からは、先走りが溢れ零れんばかりの有り様。

……ちゅっ……

「っ、は、あッ…はあっ…」

長く義宣の咥内を味わった政光は、ようやく口唇を離し。
解放から、急速に酸素を取り込もうとする義宣の荒い息。
少し悦に潤み蕩けた双眸で、ぼうっと政光を見詰める。

「…ふふっ…何だ、随分と良い表情になったではないか…」

頬に添う指先。
そこには、先程までの仄暗さを浮かべた顔は無く、義宣を射止めた真摯で実直な何時もの政光。
表情の中には、そう、抱えた苛みを吹っ切らせた顔にも。

「最早、迷いも躊躇いもありませぬ…義宣様を愛したいと願う想いに、我が身を委ねましょう」
「ああそうだ、それで良い…俺を愛してくれ、内膳」

どちらからとなく、必然として交わされた甘い口付け。
帯を払い、するりと落ちた着物の下から現れた義宣の裸身は既に悦の片鱗に焦れて熟れ、政光を誘い招くかの様だった。

―――…

ずッ…ずちゅっ、ぬちゅ…

「ふ、うっ…うン…ッ…」

布団に背を預けて開く義宣の脚の間に、政光は身体を納め。
たっぷりと香油を纏わせた二本の指で狭い後孔を解す。
部屋に広がる独特の香。
決して傷付けるまいとする政光の想いから、香油は少々過剰気味に用いられてしまっており。
義宣の後孔はてらてらと濡れそぼり、劣情を刺激する。

トロ…トロッ…ぬ、ぷぷっ…!

「んんッ…!」
「…大丈夫ですか?義宣様…辛いのでしたら遠慮せずに…」
「はは…指で辛いと止めては、内膳の方がキツいであろう」
「…恥ずかしながら、確かに…」

更に香油を流し、三本目の指をゆっくりと挿し入れる政光だが。
その自身は天を向いて昂り、鈴口には先走りが溜まり寄せて。
隠す事など出来ない、義宣を欲する焦がれの表れ。

ぬちゅっ、ずっちゅ…ぐちゅ…
…ぬ、ぱ…ッ…

「…っ…ひ、拡げるの…はッ…」

解れ具合を知りたいが為であって、意地の悪い行為ではない。
とは理解しているが、やはり三本の指を咥え込んだ後孔を拡げられて厭らしい粘質の水音を聞かされては義宣も羞恥を覚え。
びくんと震わす身体と紅潮。
政光が内に秘める劣情は、いよいよ堪える事が出来ぬ程に増し。

ぐちゅっ、ずッ…ズル…リ…

「…い…挿れるの…か?」
「はい…出来るだけ身体の力を抜いて下さい、義宣様」
「む…あ、ああ…」

充分に解したと見て政光が指を総て引き抜けば、義宣の後孔は物足りなさそうにヒクつき、溢れた香油を垂れ流して艶めく。
政光は自らの自身にも残る香油を流して軽く扱き上げると。
義宣の脚を更に割り拡げて腰を進め、剛直を後孔に宛がう。

…ぬちゅっ…ぐぷ…んッ…!

「っ、う…あッ…ア…!」
「く…痛みませぬ…か…?」
「…ふ、ふっ…大丈夫だ内膳…お前の熱で痛みなど感じぬ…」
「義宣様っ…!」

ずぷ…ずぷぷっ…!

「はッ、あァ…奥に来、る…!」

一先ず亀頭を埋めたところで政光は義宣を気遣うが。
義宣は、心配そうに見下ろす政光の首に腕を回して続きを求め。
徐々に埋め込まれる自身。
ぐっぷりと咥え込んだ義宣の肉壁は政光のカタチに拓かれ。
怒張が筋を波打たせる度、後孔はキュウと締めて快感を得る。

「動きます…ぞ…」

ずるるッ…ずちゅっ!
ずるぅ…じゅぶッ!

「…!はァッ、あンっ…!」

静かな宣言とは裏腹。
政光は根本まで埋め込んだ自身を亀頭だけ残して引き抜き、再び根本まで一息に突き立てるを繰り返し義宣をよがらせ。
その抜き挿しに無理が無いと見るや、今度は短い律動で義宣の悦い箇所を狙い腰を打ち付けだす。

じゅぷっ、ずちゅッ、じゅぽ…!
パンッ…パンッ、パチュッ!

「あああッ…!内膳…ないぜ、ん…もっと、俺の奥ま、で…ッ!」
(嗚呼…義宣様が、私を)

政光の目前には、後孔を逞しく穿たれ喘ぐ義宣。
独りで致していた時に思い浮かべていた―――以上の乱れ様。
しかし、だからといって情欲に抗わず嬌声を上げる主に厭らしい軽蔑など生じず堪らなく愛しい。

ずヌっ!…ずぷっ、ぐぷッ!

「ひッ…アッ、んああッ…!」
「…これが悦いのですか?」
「あッ、ああ…イイっ…内膳、内膳っ…俺を喰ってみせ、よ…!」

義宣が望む通り、政光は奥への突き立てを意識しながらも。
悦い箇所を亀頭でゴリゴリと擦り上げるは絶やさず、義宣の自身はすっかり勃ち上がり跳ねて鈴口から先走りを溢し続け。
二人の睾丸もパンパンに膨れ上がり、窺える射精の近さ。

…ぎゅうっ…

「よ、しのぶ…さ、まっ…」
「果てる時は俺のナカで、だ…そ…外に出す、など…許さぬぞ…」

政光の首に回されていた腕の力が強まり、離れる事への制止。
恐らく、政光の事だから。
劣情に囚われながらも光を失わぬ義宣の双眸が妖しく煌めく。

「義宣様…仰せのままに…ッ!」

ズンッ!じゅぽッ、ずぶ…っ!
…ぶびゅるるっ…びゅるるうッ!

「〜〜〜あああああアッ…!!…ふッ、う…ああっ…熱、い…」
「く…うっ…義宣様、義宣様…」

ドプ、トプッ…
びゅるっ、びゅるるッ…びゅぶ…

察した通り、政光は果てる際には後孔から自身を抜くつもりで。
だが義宣の制止により一転、これまでよりも二度三度と奥深くへ自身を突き立てると、ありったけの精を蕩けたナカに放つ。
射精は、この一度で総て出し切る勢いの量と長さで義宣を支配し。
義宣の自身も達して白濁を放ち、トロトロと止めどなく流れる。

…にゅ、るるるッ…ぬぽ、ンっ…
ぶぴゅっ…びゅぶ…ッ…

「は、アアッ…」

政光が後孔から自身を引き抜く刺激に、敏感な身体はビクビクと。
埋め込まれていた熱く逞しい自身が失せた事で、拓かれた後孔は喪失から注ぎ込まれた精や香油を小出しに噴き出させており。
浸る余韻。
荒い息遣いで横たわる義宣の頬に政光が口付けを落とせば。
くすぐったい様な微笑を浮かべられてしまい、政光はこころに満ち足りた想いと、何度でも抱く義宣への恋心を感じていた。

―――…

「……」
「……」

沈黙の室内。
一通り身体を清め、寝具を整え終えた後に、政光は流石に寝所からは去ろうとしていたのだが。
義宣の命…というよりも懇願に絆され、同じ布団に納まっている。
背中合わせで横になる二人、互いにまだ眠れずにいる気配。

「…内膳、起きているな?」
「は、はい。義宣様」
「頼みがあるのだ…動かぬから、俺を抱き締めてくれ」
「えっ…あ、その…こ、これで宜しいでしょうか、義宣様…」

モゾ…きゅむり…

激しく睦み合う中でも身体を近付けた筈だが、義宣を背から優しく抱き締める政光の腕は初々しい。
義宣の首筋へ寄せる口唇。
あれだけ満ちていた香油の香が薄れ、義宣自身の香。
遥かに、好いた香だと。

「…明日も成さねばならぬ事は多い、そろそろ休むが…この返事だけ、今すぐに聞かせてくれ」
「何でしょうか?」
「内膳、俺が最期を迎える時まで…傍に居てくれるな?」

―――それは…それは。

「私が生を受けた意味は義宣様にお仕えする為…全う致します」
「……そう…か」

心地好い疲労が限界に達したのか、義宣は政光の答えに含まれた意味を深く探れぬまま眠り落ち。
安らかな寝息に、嘘のような形となった事へ政光は罪悪を抱く。

ですが、どうか…知らぬままで。
私が望む、私の最期は。
貴方を守り、貴方を生かし、そうして迎えたのだと伝わりたい。
それが、貴方にお仕えする為に受けた生を全うする事です―――

(今は私も…休まねば…な…)

とても、ながいよるだった。
この眼が再び開けば、何とみじかいよるなのかと想うだろう。
二人が望む願いの行方は、やがて巡り来る冬だけが知っている。

■終幕■

◆「短くも長い夜」が1602年秋に出羽へ転封して少し経った頃。
「雪花の想い」が同年の初雪の夜。
内膳を家老に抜擢する案が出たのは1603年で、そこから川井事件が起きた後を想定した小噺でした。
元々は、先の2本よりも早くに初えっちのシチュエーションとしてネタは浮かんでいたのですが。
「短くも〜」の後書き通り、双方が真面目でお堅そうで性的な方面へいきなり持ち込めず(苦笑)
小噺2本の段階を踏む事に。
しかし結果的には、転封直後の佐竹家内情に絡めて内膳と義宣の仲が進展するという形で書けたので寧ろ良かったかなと。
義宣が30前半で内膳が20後半ですよ、いやあ美味しい(*´v`)
最後まで、ただの甘らぶ主従えっちな話にしたかったけど…
主従だからこそ、内膳の最期とやはり絡めてしまうよ(;´ω`)

2016/02/15 了
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