【1059taisen】
bamboo☆MerryChristmas
)現代パロな義宣&義広兄弟



「うう〜…寒かったよぉ…」
「…おかえり、義広」
「あっ、に、兄さん帰ってたんだね…た、ただいまっ」

今日は12月24日。
夕暮れが近付く街は賑々しいイルミネーションの光が灯り始め、クリスマスイブを飾り上げる中。
独り義広は、灯る光の華にも気に留めぬ足取りで街を駆け。
由緒正しい和邸には少し浮いたクリスマスリースが掛けられた玄関を急ぎ開き、中へ飛び込むと。
寒風から逃れ、一息。
しかしまだ他の家族は帰っていないと思い込んでいたのだが、義宣が奥から現れた事に慌てて姿勢を正し帰宅の意を告げる。

「え、えっと…予約していたケーキを受け取ってきた…けど…」
「む…例年よりも大きいか?」
「やっぱり、そ、そうだよね?」

早足で帰宅してきた義広の手が持つのは大きなケーキの箱。
落下は勿論、傾けて崩れぬ様に気遣いながら急ぐというのはそれなりに大変だったと窺わせる、箱。
毎年の恒例として頼んだクリスマスケーキらしいが、どうも今年は兄弟の記憶よりも大きい様子。

「予約をしたのは父上だからな…何時ものが予約数に達した代わりに頼んだのかもしれないな」
「…かな?引き換え間違いじゃあないとは思うんだけど…」

念の為、箱に挟んであった領収書を義宣が開き見ると義重の名で注文したケーキに間違いはない。

「大丈夫だろう。それよりも義広。早く中で暖まるといい」
「そっ、そうだねっ、雪が降りそうなくらい寒かったよ」
「ケーキがある事だし、紅茶を淹れていて構わないか?」
「えっ、ケーキは夜に父上も揃ってから食べるんじゃないの…?」
「この大きさなら少しくらい先に貰っても良い筈だ。…それに毎年、一番クリスマスケーキを多く食べているのは義広なのだし」
「そんな事、な…ないもんっ。確かに僕はケーキが好きだけど…こ、子供じゃないんだからね…」
「ふふっ、からかって悪かった。…さ、早く着替えてこい」
「う…うんっ!」

義広からケーキの箱を受け取った義宣はキッチンへ足を向け。
玄関に残る義広はブーツの紐を解きながら、甘いケーキの誘惑と義宣が丁寧に淹れてくれる美味しい紅茶に想い巡らせたが。

「あ、あれえっ…」

楽しみに逸るあまり。
紐を解くどころか余計な結び目を作り、悪戦苦闘していた。

―――…

ふぅ、ふぅ…コク…

「…えへへ、やっぱり兄さんが淹れてくれる紅茶は美味しいな」
「ふ…褒めても何も出ぬぞ」
「ほ、本当に美味しいんだよ?」

ようやくブーツの紐が解けて自室へ入り、着替えを終えた義広が向かったのは家の中で唯一の洋間。
毎年、クリスマスを迎える度に飾る大きなツリーは今年も置かれ。
いそいそとソファーへ座ると義宣が淹れてくれた紅茶を一口。
暖房も入っているが、義宣手ずからの紅茶の方が格段に温かい。

「そういえば父上から連絡があった。帰りが遅くなるらしい」
「クリスマスイブなのに忙しいんだね、仕方がないけど…」
「ついでにケーキの件を聞いたが、やはり予約の時点で大きい物しか残っていなかったそうだ」
「そっかあ、それじゃ安心して食べていいよね。いただきます!」

ぱくんっ。

「…しかし何だ…」
「ん?ど、どうしたの兄さん?」

ケーキを二口、紅茶を一口。
すっかり笑顔で甘味の幸せに義広が浸っていると、別のソファーに座ってケーキを前にした義宣が何故か笑みを堪えた様な表情。
もしかして口の周りにクリームでも付けている僕が可笑しい?
…等と一瞬、思ったが義宣は思い出し笑いを堪えている様子。

「クリスマスで父上というと、どうしても思い出すな義広」
「えっ?…あっ…そうだね、アレは簡単には忘れられないよ〜…」
「俺も義広も幼かったが…」

―――…☆★――

「ねえねえ兄さん、サンタさんは…きてくれるよね?」
「ああ、義広は良い子にしていたから来てくれるぞ。プレゼントを貰うには、早く寝ないとな」
「そ、そっかぁ…」

「さあ寝よう、おやすみ」
「おっ、おやすみなさい…」

…モソモソ…ゴソゴソ…

「…ううう〜…こーふんして、ぜんぜん眠れないよ兄さん…」
「…サンタさんが来てくれないぞ。…ホラ、手を繋ごう義広」
「え…う、うんっ。」

ぎゅむっ…

「…えへへっ…あったかい…」
「落ち着いたか?」
「うん…兄さん…ありがと…」

……すう、すう…くー、くー……
カ、チャ…ミシ、ミシ…ガツン!

「ぬおおっ!?…くっ…少し目を慣らすべきだったか…!」
「う…ん…?サン、タ…さん?」
「い、いかん義広が起きッ…!」

「…う…うわああぁぁああんっ!こわいよう、赤鬼さんだよ〜!」
「なっ、父お…で、ではなくてだな。どこが赤鬼に見える!どう見てもサンタクロースであろう!」
「ちがうよお〜…!」
「違わぬ!」

「ど、どうしたんだ義広!」
「ええい、義宣まで起きッ…!」
「義広を泣かすとは許さん!」

ぼすんッ!!

「ぶっ!…お…お前たち、父親に向かってその態度は何だーッ!」
「…ふぇ?…父上…なの?…えっと、赤鬼で…サンタさん…?」
「あっ…」「あっ…」

――★☆…―――

「義広には済まない事をした、まだサンタクロースに夢を持って良かっただろうに…俺が思わず枕を投げたのが決定的だった」
「あはは、でも良い思い出だよ。…今、思い出しても父上があんなに気合いを入れてサンタさんの格好をしてたのも含めてさ!」
「それは俺も同感だ。しかも翌朝、二人で謝ろうとしたら…」
「困っちゃったよね〜…怒ってくれれば寧ろスッキリしたのに、やけに優しい上で明らかに凹んでいるんだもん父上…」
「父上の繊細な一面を見たな」
「あれ?そういえば…あの時、兄さんはサンタさんの正体って…」
「一応、知っていた」
「そ、そうだったんだ、その上で枕を投げちゃったんだね」
「仕方がないだろう、大泣きしている義広に驚いての咄嗟だ」

クリスマスの思い出に花が咲く。
義宣は本当に、本当に他愛のない今や笑い話として幼い当時の記憶を義広にも蘇らせたのだろう。
確かに義広にとっても、義重のサンタ事件は強烈に残っている。
けれど義広には―――もっと。
もっと、大切な記憶が。

(…兄さんの手…優しくて力強くて、温かくて…安心したなあ…)

聖夜の他にも、幼い頃はよく義宣に手を繋いでもらった記憶。
義重が忙しい身である為、義広にとって身近に感じられた年上の逞しい温もりとは義宣の手だった。
今では、手を繋ぐような機会は無くなってしまったけれども。
何時か―――また、その手を。

「…俺のケーキをじっと見ているが、何か不思議か?義広」
「ふええっ?!…え、えとっ…」

義宣との会話を成立させてはいたのだが、幼き日の温もりを思い出す義広は無意識に義宣の手をじいっと見ていたらしい。
だが、どうやら義宣は自分の手を見ていたのだとは考え及ばず。
手に持つケーキの事を凝視しているのだと思った模様。

「もしかして、ケーキの菓子飾りはツリーが良かったのか?」
「あ、う、そっ…そんなつもりじゃあ…無いんだけれど…」
「遠慮をするな、ほら」
「え、っ…」

フォークに乗せられたお菓子のツリーが義広の前に差し出され。
完全にコレだと信じて疑っていない義宣の微笑も加わっては、これ以上の否定をしたところで余計な事でしかないと悟り。

…はむっ…もぐもぐ…

「…美味しい…えへ…」
「ふふっ、良かったな」
「で、でも兄さんのケーキの飾りが無くなっちゃったよ…ぼっ、僕のサンタさんをあげるよっ!」
「気にしなくて良いのだぞ」
「いいのっ!…に、兄さんに…食べてほしい…の…」
「…分かった、貰うぞ義広」
(あれっ?…こ、これって…)

ぱくっ…

(か…間接キス…なんじゃ…?)

腕を目一杯に伸ばして差し出すフォークの上のサンタが、義宣の口の中へ消えてゆくを見届けて。
今更ながら行為に恥ずかしさが込み上げた義広は、少しだけ頬を朱に染めてどんな会話を続ければ良いのか迷っていると。

「ん…雪が降ってきたな」
「えっ…わあ本当だ!この降り方ならロマンチックなホワイトクリスマスになりそうだね兄さん!」
「そうだな、もしかすると翌朝には積もるかもしれない」
「大雪は困っちゃうけど…少しなら積もってほしいなあ…」

義広が今度は危うく自分のフォークを凝視し掛けたところで。
しんしんと降り出す雪に気付いた義宣の声で我に返り、急ぎ窓の外を見れば純白の羽が舞い落ちているかの様な和らな雪。
ひとひら、ひとひらは庭へ落ちる度に解け消えている。
儚い雪はしかし、一夜の時を経て街を銀世界へ変えるのだろう。
夢の内に等しく贈られる白銀は優しいクリスマスプレゼント。
静かに降り積もる雪に、何時しか義広は兄への想いを重ねていた。

■終幕■

◆常陸源氏の嫡流である佐竹氏は名門と呼べる家柄ですよね。
なので現代パロで想定した雰囲気は上流めな家のクリスマス…だったのですが、出てたかな(苦笑)
義重父ちゃんのサンタ事件は、元々の流れに無かった部分でして。
だからコレが無かったら小ネタ会話文にするつもりでした。
でも診断で、サンタ姿の義重を見たら皆が人さらいだ!と通報した結果がヒントで惨事を追加(笑)
義広くん(当時4歳)強制的にサンタの正体を知る羽目に。
ところで、腐に足を突っ込んでからそれなりに長い管理人ですが。
ずっと自分に兄弟ホモの琴線は無いものと思っていたのに、ちょっと義広くんから義宣への視点は書いていてヤバい(;´∀`)
ちょ、チョコットお兄ちゃんが大好きなだけだ…ヨ…多分。
義広くんの襲い受かしら(…)

2014/12/24 了
clap!

- ナノ -