【3594taisen】
一欠片に込めた想いは溶けて
)去年のバレンタイン会話文を踏まえています。
が、一応これ単体でも大丈夫だと思います。
神速迅速の2回目のバレンタインは、ちょっぴりビター感が強いチョコレートだった模様(*´ω`*)



初めてのバレンタインだった去年。
看破の"私"に付き合ってチョコレートを買い。
買ったからには、渡した訳で。
だから今年も単に去年の延長というだけで、世間の流れに乗ってチョコレートを渡した。
変な気負いや、妙な緊張なども無く。
ただ、普通にチョコレートを渡す。

…それで今日は終わると思ったのですが…

―――…

「今年のチョコも美味そうだな」
「…見た目だけではなく、お口にも合えば良いのですけれど」
「はは、お前が選んだのだから、必ず合う」
(……そういえば、去年は渡したチョコを召し上がっているところは見なかったか…)

二人だけの室内。
郭淮から貰ったチョコレートの箱を開けた張コウの顔は喜色満面。
その一方で、並び座る郭淮はというと明らかに構えた様子が窺える。
去年のバレンタインデーと同じく、チョコレートを渡した後は二人きりの時間を緩やかに過ごしていたのだが。
不意に張コウが、今、チョコレートを食べても構わないかと言い出したのだ。
既に張コウの物なのだから、自由にしてもらえば良い―――と、郭淮は返したものの。
張コウの好みから大きく外れた物は選んでいない自信は有れど、実際どうなのか不安を抱く。
ましてや目の前で、なのだから。

「じゃあ…コレから貰うか」
「え、ええ。どうぞ」

"……ドッ、ドッ……"

(…戦よりも緊張している気がするな…)

耳に障る喧騒も無く、穏やかな外の日和。
それだけに、郭淮は自身の心音が静かな室内でやけに響いて聞こえる様に感じられ。
ひと時の平和な時間の中。
何故こんなにも、不安や緊張に襲われるのか―――

パク…

「…うん、程好い苦味もあって美味いぞ。俺好みだ」
「そう、ですか」
「ふふっ…何もそんな、俺が食べる様子を固唾を飲んで見守らんでも良いだろう」
「!…その様なつもりは…」

郭淮自身、気に掛け過ぎだとは自覚していたが。
張コウが思わず笑みを漏らす程に見詰めていたのを知らされ、反射的に目線を落とす。
もう遅いと解っていても、そうしてしまうのだ。

「気になるなら、お前も食べてみると良い」
「えっ…」

そんな落とした目線に合わせて差し出されたのは、一欠片のチョコレート。
チラ、と、張コウに上目を向ければ。
優しく促す様な双眸と、かち合う。

「…張コウ殿に差し上げたチョコレートだというのに、私が頂く訳には」
「既に俺の物だと言うなら、俺がどう扱おうと構わんだろう?…口を開け、郭淮」
「…あ…ッ…は、い…」

まだ少し俯きがちな郭淮の。
肩を抱き寄せて、張コウは摘まんだチョコレートをそっと開かれた咥内へ送り込む。
愛しいものを撫でる様に口唇を掠める指先。
ころりとした一欠片は、咥内の熱でトロトロと。

「…どうだ?」
「美味しい…です。ですが、張コウ殿なのに…こんな小馴れた事をしないで下さい」
「ははは、何だそれは。何を責められているんだか、というか地味に酷いぞ」
「…特に落ち込んでいたり怒っていらっしゃる様には見えませんから、謝りませんよ」

言葉を紡ぐ間にも、咥内のチョコレートは溶け。
美しく形成された一欠片が形を成さなくなるにつれ、先程まで抱いていた緊張や不安も溶けるのが分かる。
…そんな時が、油断になるのだ。

「構わん、確かに機嫌が良いからな」
「少々、良過ぎるくらいです」
「傍にお前が居るんだ、仕方がない」
「傍に…ずっと、居れるかなんて」

甘い層が溶けた奥、ホロ苦い層が顔を出す。

(……また、やってしまったな)

つい、気持ちを誤魔化そうとしてしまって―――
余計な一言を。

「申し訳ありません。…私はまた、張コウ殿の機嫌に水を差すような事を」
「ふ…そんな深く気にしてはいない」

謝る郭淮を張コウは慰めるが。
自分の一言で瞬間でも、この場を押し黙らせてしまう空気にしてしまった事実に郭淮は悔悟し。
咥内に広がる苦味は罰の味に変容。

「気にするな…と言っても気にするかもしれんが、ずっとそんな重い顔をされる方が俺は嫌だぞ?」
「…そうです…よね、すみません」
「いちいち謝らなくて良い、この話はこれで―――」

反省に暮れる郭淮に対し、張コウはあくまで明るく笑みをもって接し。
郭淮の気持ちも上向きかけていたところで。
今の話題を終えようとした張コウの表情が真剣なものに変わり、口を重くする。

「張コウ殿?」
「いや…ふと、な。…傍に居れるか、それは俺の方が分からんと…そう思っただけだ」
「……張コウ殿」

"そんな日"を考えたくはない。
けれども何時かは来てしまうのだ。

―――来てしまう、としても。

「…駄目です、私をこんな風にしたのは張コウ殿です。責任を取って傍に…居て下さい」
「郭淮…やれやれ、こんな甘えたな猫を傍に置いてしまっては、簡単にくたばる訳にはいかんな」

顔を張コウの肩に擦り寄せる郭淮の頭を、くしゃくしゃと撫でて落ち着かせる。

「来年も、その先も。必ずチョコレートを贈りますから。…絶対に、受け取って下さいね」
「ああ、勿論だ。…必ず、な」

跡形もなく溶けたチョコレート。
咥内には甘味と苦味の饗宴だけが残り、絡まり合う。
内に抱く想いとの共鳴を感じ取りながら。
郭淮は、双眸を閉じてビターな口付けを受け止めた。

■終劇■

◆ナチュラルにチョコが存在する大戦世界(今更)
当日には間に合いませんでしたが2019年のバレンタインデー…と、猫の日と淮の今の暦での命日。
その辺りをひと纏めにした2月の更新です(*´∀`)
前回の更新で淮から「好き」と言われてからのチョコで、張コウさんが喜び全開モードですね。
さんぽけ終了の報に続き、自分の大戦ホームが閉店するぞショックが起きたのですが…
近くにある同系列の別店舗で稼働存続が嬉しさが、張コウさんに乗り移ったかもしれない(笑)
でも命日偲びも含めたからか、書き上げてみたら少々しんみり気味な終わりになってしまった件。
取り敢えず、当日更新は無理でしたが去年の会話文と違い、小噺で更新が出来て良かったですよ。
好き好き真っ直ぐの張コウさんと、困った風にして嬉しい淮という構図は美味しいでっす(*´ω`*)

2019/02/23 了
clap!

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