【3594taisen】
皓月の夜に揺れる口唇
首筋に付けた、ひと時の所有の証が、はじまり。
肩へ、鎖骨へ、胸元へ。
余す事無く余す事無く、雛へ。
「…げんっ…ちょ、く…」
くしゃりと徐庶の髪を掴み。
身を捩らせられる悦に抗いを試みるホウ統は、しかし。
「っ、は、あ…あっ…!」
腰へと辿り着いた口唇が。
熱く熱く、吸い寄せて。
徐庶の満足がゆく、紅い花が咲くまで。
髪を掴む指先に力が籠もる。
それは既に抗いでは、なくて。
そうしていなければ自分を支える事が出来ない、から。
「…士元」
くっきりと残る紅。
ようやく、ホウ統の身体から口唇を離し顔を上げた徐庶の双眸に。
点々と咲いている。
「そんな事」で留める事が出来る様な、大人しい雛ではないと分かっている筈なのだけれども。
それでも。ひと時が欲しい。
自らが咲かせた紅の跡を、徐庶はつい、となぞる。
指の過ぎ去る、後。
まだ残る痕に。
どうしようもないくらい安堵を覚えている自分に気付いた徐庶は、自嘲の笑みを浮かべた。
「…何が、可笑しいかね」
「士元の事じゃねえよ」
「ふうん…どうだか」
ホウ統からしてみれば、その笑みの真意は量りかねる。
ほんの少し荒む息のまま、覆い被さる徐庶をじいっと見上げ続けていたかと思うと、急に。
「よっ、と」
「え、おっ、おい士元…!」
身体を起こしたホウ統に。
まさか今日は「ここまで」とか言い出すのではと、徐庶は即座に笑みに対する釈明を巡らせたが。
「…ッ…」
予想外。
寝台の上で少々崩した胡坐をかく格好になっていた徐庶の首に、ホウ統は腕を回して顔を近付ける。
―――嗚呼、成る程。
その笑みは。
如何な意味を孕むのか。
徐庶が明確な答えを知る術は、無いのだろう。
自分がホウ統に、そうした様。
「……士元」
きゅ、と。
徐庶はやり込められた様にして頭の上がらない雛の字をぽそりと呼び、口を結ぶ。…つまり。
降参。
「ふふっ…」
細めた眼はそのままに。
しかし徐庶にとっては一層に官能を秘めた蠱惑の眼差し。
欲情に急くをホウ統に気取られまいとするが。
悲しいかな、何とも素直な。
「…おい元直、お前…」
「しょ、しょうがねえだろ!そりゃ…なあ」
お互い既に寝間着は取り払われ、一糸纏わぬ状況。
それでいて少なからず密着もしていれば、熱を帯びるは知れる。
「まあ、そうでなくては俺も困るが、ね…ふふ」
嬌笑は今だ。
絶やさぬままに口唇を重ね、ひと時を味わうと。
ホウ統はその口唇を徐庶の身体へと落とす。
跡を残す程ではないが。
それは確実に、徐庶がホウ統の身体に咲かせたと同じ。
「…っ、く…」
こそばゆく身体の上を這われる感触に、徐庶は思わず声を漏らす。
その声に興が乗ったのか。
ちろりと舌を出し、ホウ統は徐庶の逞しい腹筋から腰へと舐り伝う。
そこから先は。
まだ。
「ちょっ…お、い士元ッ…!」
徐庶が意識を腰へと巡らす隙に。
ホウ統の指先は硬く起立する徐庶の自身に添えられ。
ゆるり、扱かれる。
思いも寄らぬ悦にびくりと震え。
双眸を細めて、熱い吐息を刻みながらも。
自身の先走りとホウ統の指先が奏でる、くちゅくちゅとした水音に対する抗いは見せなかった。
「…元直…ふふ…」
かりり、と。
只ひとつだけ、ホウ統は徐庶の腰に歯を立て紅を残す。
そうして刻まれる、に。
ホウ統は少しだけ先程の徐庶の笑みを理解した気がした。
消えなければ、良いのに。か。
―――笑みしか浮かばないな。
顔を伏したまま、徐庶にはその自嘲を悟られぬ様にして。
ちらり。
指先の中の剛直に眼を移す。
その昂りに、さしものホウ統も一瞬たじろぎの色を見せるが。
扱くを止して吐息ひとつ。
ぺろりと施した舌舐めずりで濡れる口唇を、その先端に寄せ―――
「…ちょっ、ちょっ!ちょっと待て士元ーッ!!」
「うおっ!?」
今まさに自身へ口唇が触れんとするを。
徐庶はホウ統の肩を掴み、ギリギリで引き剥がす。
「おまっ、なっ、何を…!」
「なっ、何…とは、だから…な、何だ。一々、"事"を言わせる様な趣味が有るのかね元直は」
「ち、違ぇよ!」
お互い、顔を真っ赤にして。
暫しの沈黙を挟み、次にどう切り出したものかと思案に暮れたが。
先に口を開いたのは、ホウ統。
「…だっ…だから、だな…口…で、してやろうと…」
「…だっ…だから!そっ、そんな事をしなくていいんだっての!」
「……は?」
まさか、そういう意味合いの事であったとホウ統は思っておらず。
しかし恐らく耳まで真っ赤にして、わたわたと断りを入れる徐庶の様子からするに本心から言っていると見て間違いないらしい。
「…似合わず、貞操観念…というのが正しいのか知らぬが。まあ、言い分は理解したがね」
「大体、お前…その、やっ…た事が、あるのかよ…」
「無いが?」
あっさり返され。
勿論、徐庶としてはその返答に安心を覚えていたが。
「だったら尚更、ンな事…」
「それでも」
諭そうとした徐庶をホウ統は遮り、自らの意思を。
きっぱりと。
「…やった事など無いが、それでも俺は元直にシてやりたいと思うのだ。…嫌、なのかね」
「そ…いつ、は…」
ごくりと生唾を飲み込み、ホウ統の言葉の意味を反芻する。
嬉しくない等と思う筈が無い。
そんな事を思おうものなら、天罰が下りかねない。
だが―――
「…全く、面倒だな元直は。嫌では…ないのだろう?」
「待て…って、士元ッ…!」
葛藤と躊躇の渦中に留まり、若干、思考が停止して固まったままの徐庶を余所にして。
ホウ統は、くぷりと徐庶の自身を咥内に含む。
有無を言わさぬ事で、自分自身にも…その行為への弾みを。
噎せ返る様な熱さと質量に眩暈を覚えそうになるが。
ねっとりと鈴口から裏筋、竿に至るまで丁寧に舌を這わせ。
徐々に徐々に吸い上げるを含んだ律動を繰り返し、室内はその小さくも淫らな響きで満たされる。
ちゅ、ぷ…ちゅっ…じゅぷ…っ…
「うぁ…っ、お前そん…なっ…」
悦の色を含んだ徐庶の声が、どうしてか遠い。
そして徐庶は何時から自分の頭を撫でていたのか。
ホウ統は覚えていない。
―――この行為、は。
気持ち良くさせたいから、等ではないのだな。
…自分が言ったではないか。
そうしたくて堪らないから、する行為なのだと。
元直を窺う余裕など、無い。
くぷっ…じゅる…ぢゅぷ…!
口淫を施す徐庶自身の変化に、ホウ統も気付いている。
竿を伝うドクドクとした脈動が咥内を犯し始め。
ひとつが伝う度に熱く猛りを増す、それに。
ホウ統は、とろりと蕩けた眼差しのままに身を震わせ、自らの自身も熱を帯びるを自覚していた。
一際、大きな脈動に足の先まで犯された様な甘美の痺れに囚われ。
徐庶の滾りは最早、鈴口に達する程に詰まり―――
「〜〜〜…ま…っ…待てええぇぇええ士元ッッ!!」
「…!…ぷ、はっ…危なっ…!」
今か、と。
ホウ統が覚悟して白濁を受け止めんとする…を。
先程と同じ様に、徐庶はどうにかこうにか引き剥がして止める。
「こっ…今度は何だ元直!…き…気持ち良く…なかったか、ね…」
結論付けた行為の動機に異を持った訳ではないが。
しかし独り善がり過ぎたかと、ホウ統は口淫の具合を問う。
「いや、そりゃ、勿論…すげぇ気持ち良かったけど…」
「じゃあ何故、止めるかね」
「…やっぱり、な。出すなら、その、士元の中が良いからよ…」
後半、かなり小声になりながら徐庶は希望を伝え。
恐る恐るホウ統の様子を窺うと。
完全に呆れた様子で、この馬鹿に何と言ったものか思案していた。
「…もう少し他に止め様が有るだろう。歯が当たって…まあ、痛いのは元直だけだろうがね」
「…ス、スマン…」
「全く…ホラ、元直」
ふう、と。
ホウ統はひとつ溜め息を吐くが。
その顔には笑みを湛えて。
「し…げ、ん…?」
「話していても折角の剛が萎える…俺の中が、良いのだろう?」
身体を横たえさせ、足を大きく開き誘うホウ統に。
言い様の無い劣情が徐庶の心に湧き上がる。
その肢体に眼を離せず、吸い寄せられる様に組み敷くと。
トロトロと零れ伝った先走りで濡れそぼる後孔に指を這わせ、入り口から蕩け解してゆく。
「げん、ちょ…く…」
「…ああ」
…ぬ、ちっ…ズッ…!
「…んっ、あっ…は…っ…!」
事を急く眼差しに、徐庶は間を置かず一息に…後孔が指を咥え込める限界まで差し入れる。
入り口はまだしも内までは、まだ抵抗が残るが。
ぐちぐちと円を描き、徐々に余裕を作るその片端から指を増やし。
内で蠢く。
「アッ、んぅっ…!そん、なっ…バラバラに、ぃっ…!」
3本の指で、ホウ統の内をたっぷりと解し。
けれど、きゅうきゅうと徐庶の指に吸い付くを頃合いに、ずるりと総ての指を引き抜くと。
喪失感と切なさと快感が綯い交ぜ、短く荒い息を繰り返してうっすらと涙を浮かべるホウ統の眼に。
幾つも口唇を降らせながら、徐庶は自身を待ち焦がれてヒクつくホウ統の後孔に押し当てる。
「…さっ…きの、がスゲェ効いてるからよ…士元を満足させられるか、分からねえが…」
「…お前は本当に馬鹿正直な奴だな、元直」
「気ィ遣ってるって言えよ」
「ふふ…じゃあ、気にするな…と、言っておこうかね」
悪戯っぽく笑まれ。
わざわざ現状を告白した自分が恥ずかしいやらで、徐庶は少々ムキになって返すものの。
結局は、さらり。
それで良いのだろう―――けど。
…ズ、チュッ…!
ヂュポッ…ズッ、ズプ…ッ…!
「く、ぅ…っあァッ…!げん、ちょくっ…はげし…ぃっ…!」
ほんの少し口を尖らせた徐庶は、挿入れる合図を送らずにホウ統の内へと自身を突き入れ。
すぐさま律動を開始して雛に嬌声を上げさせる。
普段の仕返し…と、称しては聞こえが悪いが。
そんな気持ちが無いとは、言い切れない。
「あ、ンンっ、はっ、あッ…」
激しく腰を打ち付けられ、奥まで抉られ身体を揺らされる。
貫かれる度に漏れる喘ぎを止められず、ただただ、されるがままに悦へと溺れさせられて。
「悪ィ…やっぱ、もう…ッ…」
「い、い…から…っ…好きに注い、で…く、れっ…」
「…っ、く…うっ…士元ッ…!」
びゅくるるっ…!
びゅるっ…どぷっ…とぷ…っ…
「〜〜〜…!…んんッ…!くう、ぅっ…あつ、い…うァっ…出し過、ぎ…だっ…元直…っ…」
「…っ、は…あ…信じらんねえ…くらい、出た…な」
「い、一々そんな事を言うんじゃな、い…」
お互い、真っ白になりそうな意識をどうにか支え。
吐精のジンジンとした余韻に浸ろうと―――…したの、だが。
「……や、やっぱり…早かっ…た、か……?」
徐庶は、ホウ統の自身が限界を迎えそうにはなっているものの。
果てるには至っていない事に気が付いた。
「べ、別に…ひとりで処理しても構わないが、ね…」
「そうはいくか。…ちゃんと、イかせてやるよ」
ぬちゅ…っ…ちゅっ…
ちゅくっ、くちゅっ…!
「ま、て元直っ…!せめ、て…抜いて…っ、ア、はァ…っ…!」
吐き出したとはいえ。
熱の引き切らぬ、徐庶の自身を咥え込まされたまま。
どころか、白濁を注ぎ込まれてずちゅずちゅと厭らしく掻き混ぜられる音を上げさせられたまま。
ホウ統は自身を扱かれ、乱れ喘ぐ。
「げ、ん…ちょ…く―――」
―――皓月の明かりが照らす。
自身の熱に塗れて、白を身体に咲かせるホウ統を。
果てるその時、とても大切な大切な睦言を、徐庶は聞いた。
気が、して。
ホウ統が咲かせた、自分の腰の紅をゆるりと指でなぞり。
それが咲いたままである事に。
やはり、どうしようもないくらい安堵を覚えていた。
■終劇■
2010/11/11 了