【3594taisen】
夏の夜伽に彷徨う熱
じったり、と。
身体の奥底から湧き上がる汗の脈動が、今は夏だと物語る。
涼を求めて然る筈の季節に、何故、烈火にも似た熱を求めるのか。
根幹を成す欲求の前に。
嗚呼、智とは、無意味なのだな。

「……っく…ホウ、統……」

ぴったりと締め切られた室内に、蠢くふたつの影。
灯した筈の火が既に耐え失せた闇の中、それは、情交なのだと。
押し殺す様に発する徐庶の声に含む色が、物語る。

「…徐君…悦い、か?」

寝台に腰掛ける徐庶の下肢の間より、そっとホウ統は見上げ臨む。
そうしたところで、ろくに互いが見えはしないのだが。
掌の内で熱を帯びる徐庶の自身に、火傷を覚えそうになっている。口付けている時も、そうだった。
悦い、のだろうか。

「…ああ、続けてくれたら嬉しいの…ホウ統…」
「…そうか。……ん、っ…ふ…」

多分、笑ってくれている。
そう思うと、促されたからではなく、自発。
零れ落つ先走りで濡れる先端を躊躇無く咥え、裏筋へ這わす舌で丁寧に転がす様な愛撫を。
添えた掌で竿を扱く事も忘れず一定の律動を保てば。
ホウ統もまた、熱に中てられて。

……く、ちゅ…ちゅく……

「……ホウ統…?…ンっ…く、ぅっ…!」

淫靡な水音が、増した。
徐庶の自身から漏れるそれだけではなく、ホウ統の、それ。
空いた左手で自らに触れ、同じ律動を。
月の光も杳として通さぬ閉ざされた中とはいえ、徐庶はホウ統が自慰に及んでいる事を悟った。
ホウ統も、己が行為を悟られた事は理解っている。
しかしそれでも誤魔化そうとする働きが残るものか、一層に徐庶の自身を含み吸い上げ。
その悦楽にびくりと徐庶は身体を震わせながらも、湧き上がった吐精欲をどうにか抑え込んだ。

「…悦いのならば…出してくれ、徐君…」

ちゅる、と。
銀糸を引きながら、ホウ統は一度口唇を自身より離す。
最も、それでも、中てられた熱を即時に退く事は出来ず、己を扱くそれを離す事は出来ず。
咥え込む事はないが、すりすりと鈴口に口唇を這わせ熱を強請り。

「今のホウ統の姿を、よう見れていたらもう出とるだろうがの」
「…っ…ばっ…馬鹿者ッ…」
「ほっほ!愛い、愛い…」

指先をホウ統の髪に絡ませ、徐庶は優しく包み込む様に撫でる。
ひと欠片の理性が、己の欲に抗えず至った浅ましい行為を責めていたが。
そうしてひと撫でを受ける度に、ホウ統は救われた心地を想う。

「……げ、ん…ちょく……」

くぷりと音を立てて深く咥え直し、喉奥にまで達せさせ。
ひとつ喉を鳴らしながら口唇を窄めて軽く甘噛めば、びくびくと硬く脈打つ徐庶の自身を咥内の総てが感じ取る。
ゆっくり、しかし大きく抜き挿しを繰り返し始めると、ホウ統の頭を撫でていた掌に力が篭り。
次第、それは抑えの効かぬ欲情を担い性急な抜き挿しを求め。

「ふ、う…ッ…!」
「…っ、士元…す、まん……堪えが、効かん……く、っ…!」

じゅぷじゅぷと響く口淫に、その激しさに連れて自らを慰める行為も熱を加速させて。
その帯びる熱さ、互いに果ての近きを悟る。

「っ、し、げん…しげんっ……っは、あッ…!」

びゅ、るっ…びゅくっ、るるっ…

果てに、天を仰ぎ見た徐庶の。
ホウ統の髪をキシリと強く掴み、深く深く咥え込ませた喉奥へ白濁の飛沫を叩き付ける。
受け止めるホウ統は、零さぬ様に少しずつその拡がる熱を飲み込み、竿の内に残るをも吸い上げ。


きっと、同時だった、のか。


ぱたぱたと、ホウ統の自身からも同じ熱が溢れ落つる。
自らの掌を自らで白く汚し、果てた悦びか、果てさせた悦びか。
ふるりと震わせた身体は、夏の熱よりも遥かに滾り。


何よりも何よりも、熱かった。

■終劇■

2008/08/20 了
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