【3594taisen】
請い、乞われて欲と成す
寝台の上で向かい合う、ふたつの影は重なり揺れて。
請われるものか、乞われるものか。

その度に、名を請うて。
その度に、欲を乞うて。

その願望に、熱を持つ身体を捉える張コウは応える。
丁寧に、密やかに。

―――しかし、確実に。

「んっ、んぅっ…!…っは、ァ、っ…!」

肌理の細かい郭淮の肌は、くすぐる様な愛撫に弱い。
強いるだけが、占有では無いと。
甘い嬌声が物語る。

その度に、身体を請うて。
その度に、欲を乞うて。

「…堪えられぬか?」

愛撫を受ける度に跳ねを覚える郭淮の身体は、後ろ手を付く両の腕に限界の色が見え始めている。
横たえれば、楽になってしまうのであろうが。

「…大丈夫、です…よ」

それを、乞うているのですから。
それを、請うているのでしょう?

「…そうか」
「っ、あ…っ、く、ぅ…んっ…!」

徐々に下肢へと、這わせる口唇は流れて。
身体の要を成す腰へと。
もう、その先には。

「…邪魔だな」
「…ん…っ…」

寝間着を肌蹴させた隙より、張コウは愛撫を繰り返していたが。
いよいよもって、その隔たりが煩わしく思う。
しゅるりと帯を放ち、一度、顔を上げてゆるゆると払い除ければ郭淮の双眸と眼がかち合い。

―――その、様な眼を。

「っく、ぁ…あ、ンっ…ちょうこう、ど、の…ぉっ…!」

腰を甘噛み、つ…と張コウが指を背に這わせれば。
ぞくりとした感覚に郭淮の眼は虚空を泳ぎ、自然と天井を仰ぐ。

「…っは、あ、ぁ…っ…!?…ま、って、くださ…っ…ん、んぁ…っ!」

くぷ……ちゅっ、ちゅ…

自らの下肢で何が行われているのか。
瞬間に眼を離した郭淮は、突如として襲われた欲を助長する悦楽に。
抗う術無く、飲み込まれる。

「……口で包まれるのは…慣れておらぬか?」
「…っ、ふ…ぅっ…!」

立ち上がりを覚えた自身に、意図を持って掛かる息。
竿へと添えられた指先は、息に反応してピクンと愛らしく脈打つ自身を愛でる様。
亀頭を軽く食んだだけで大きく喘ぐ郭淮に、張コウは嗜虐心を覚えそうになる。

「……された事、ありませんよ……」
「成る程…」

少し、郭淮は居心地を悪くした様にして張コウより眼を背けると。
顔には朱を浮かばせて、乱れた息を発し。
その様子に張コウは眼を細めると、再び郭淮の自身へと口唇を寄せた。

ちゅっ…れろ…れろ…っ…

「ん、んっ…」

決して、強いる様な手管を用いる事は無く。
こそばゆさを覚える口淫。
堪えられる、それがまた。
或いは、酷でも。

「…っ、ふ…」
「ん、っく…!…い、きを…かけな、いでくだ、さ…い、よ…っ…」
「仕方が無かろう、呼吸を止めている訳にもいかぬからな…」
「っ、ァ、ま…たっ…!」

ぎり、と。
敷布を掴み取る郭淮の掌からは、布を強く擦り合わせる音が零れて。
再びに天井を仰ぎ見、身悶える。

ギュ…チュッ…

「いっ……!?…あ、アっ…!」

突如。
撫で這う感覚とは違う、痛覚をも伴う刺激。
如何な事かと察知するよりも先に、身体が跳ねを覚えて震える。
荒い息を吐き出しながら、ようやく目線を張コウへと向ければ。
指でキツく、カリ首の辺りを戒める様子が窺えた。

「ちょ…ちょうこ、う…どの…?」
「この程度で鳴かれては、張り合い甲斐が無いのだがな…」

ふ、と。
自分の反応に対して、愉悦を秘めた様な笑みを浮かべられ。
ついつい、理解していても…反する目線を送り返してしまう。

「…その様な愛い顔をするな、益々もって苛めたくなるだろうが」
「っ、からかわないで下さいよ」
「俺は、本気で言っているつもりなのだがな…」

れる…っ…

「く、ぅっ…!」

先端に舌を這わされ、包み込む様に舐られて、声が零れる。
しかし、今しがたに笑まれた事への反抗からか、嬌声を漏らすまいとする意思が窺えて。

けれど、享受する。


欲。


(……ふふ…それでいい…)

それを、請うているのだから。
それを、乞うているのだろう?

「ん、っく…ぅっ…」

ぢゅ…っ…ちゅく、っ…

丁寧に舐め上げながら、裏筋とカリ首を交互に愛撫して。
零れ落ち始めた先走りが、自身を妖しく濡らし始め。

「…ちょ、うこう……ど、の…」

ぐ、と。
少し堪えかねた切なげな瞳を落としながらも、郭淮には張コウの口淫を見守るしかなく。
熱の篭った吐息に、くぐもる悦の声。

ぐり…ッ…

「ひ、ァっ…!」

突如として舌が鈴口に挿し淹れられて円を描き、強い悦楽の波が全身を駆け巡る。
それはいよいよもって射精を促す合図。

くにっ…ぐり…っ…
ちゅ…にちゅ…っ…くちゅっ…

鈴口への刺激が止まぬまま、竿へと添えられていた掌が粘質の水音を孕みながら上下に扱かれれば。

「…ぅ、ァ…ちょう、こ、うど…の…ぉ、っ…」
「…限界か?」
「…っ…え、え……離してくださ、い…っ…」

流石に、これ以上は。
眼に、悦楽を迎え生理的に溢れた涙を湛え。
反射的に伸ばした腕は、張コウの身体を引き剥がそうと試みる。

―――しかし。

「…俺は、構わん」
「そ、んなこ、と…っ…!…ぅあっ……あ、あンっ…!だ、めで…っ!」

くぷ…じゅ、ぷ…っ…ぢゅっ…!
じゅぽっ、じゅぽ…!

「う、あっ…あっ、ンっ…く、ぅ…ん…っ…!」

完全に自身を咥内に含まれ、弱い裏筋を的確に嬲られ。
最早、堰を止める術は知れず。

「も…む、りで…す、よっ……しゅん、が、いっ……!」

びゅるっ…る…びゅく、るる…っ…!

湧き上がる熱を、郭淮は張コウの咥内へと放つ。
暫しの間、流れ込む熱を受け取め。
ずっ…と、勢いを失えども溢れる白濁を一片も零さぬ様に吸い上げて、ようやく張コウは郭淮の自身から口唇を離した。

「…ちょ、張コウ…殿……その、え〜と…」

何某かを促す様な目線を向ける郭淮に、察知した張コウは。

ごきゅ…っ…

「…ッ…」
「…何だ?」
「お…俺の…その」
「ああ、飲み込まねば返事が出来ぬだろう?」
「…は…吐き出せばいい、と、思うんですけどねえ…」

白々と告げる張コウに。
吐精で気だるさを覚える身体を、どうにか自らで支えながら郭淮は何とも身の置き場を無くした様な…恥ずかしさや、居た堪れなさ。

しかし、それ以外も。

「…果てる際に、何と乞うた?…伯済」
「…っ、え?」

字、を。

「お前は、まだ…俺を乞うているし。俺もまた、お前を請うている」
「…儁艾…」
「難儀なものだな」


それだから、欲を止める術を見失う。


「……抱いて下さいよ、儁艾……俺は、まだ」
「…知っている」


請い、乞われて。
どこまでも深き、愛欲を。

■終劇■

2007/10/15 了
clap!

- ナノ -