【3594taisen】
咆哮の猫、虎を被りて
窓の隙より零れ落ちる月光は幽か。
しかし、ほの明かりの中で篭る熱は発散を覚えず。
幽か故に、尖る感覚は互いを映え晒して。
蠢くひとつひとつが。
色の足りない筈の世界で、豊かに。

艶めく。


―――そうして。


「…っ、う…ちょう、こ…う、どの…」

伸ばす腕が。
絡み寄せる脚が。
魅せる、その肢体が。

「……ん、んっ……!……っ、あぁっ…!」

堪えようとする意が。
素直に漏らす意が。
表れる、その声が。

嗚呼。
やはりこれは―――天性の猫なのだ、と。

見下ろす瞳には確信を秘めて。
またひとつ、張コウは愛しきいきものへと落とす様に口唇を寄せる。

「…ん…っ…」

愛撫を繰り返され、最も解されたのは意志か。
従順に応える郭淮の口唇は薄く誘い開いて、張コウの侵入を待つ。
その様子に張コウが覚えるのは、尽きぬ愛しさと。
満たされる、所有の欲。

「…夜は、増して愛い猫なものだな…」
「…っ…また、俺を猫扱いするんですから。もう」

待ち望んだ侵入は無く、軽く口唇を離されて囁かれた言に郭淮は不服そうな声を漏らした。
しかしその中には、少しの焦れを含んで。

「ふ…望めども…その口は相変わらず、か」
「…何がですか」
「それを塞ぐ事は容易い。…だが」
「…っ、あ…ふぅっ…!ちょうこ、う、どの…っ!」

交わらせていた目線を外す事無く、張コウは郭淮の下肢へと掌を伸ばす。
辿り着いた自身は既に立ち上がっており、つい…と、軽く指先を這わせただけでもびくりと反応を示して。
その感覚に、身悶える。

「…そんな口の後に、素直に鳴かせるのも悪くは無いのでな…猫?」
「…趣味が悪い、って言われちゃいますよ?張コウ殿」
「構わん、どうせ言うのはお前だけだ。」

違うのか?
とでも言いたげな視線を落としながら。
郭淮は、それに負けじと強く眼を返すが黙して返答は無い。

「…そうだ。虎ならばまだしも、猫が咆えるのは似合わぬからな」

自慢の口を伏せさせた事に、つい張コウは興を覚えた一言を付け足す。
しかしこれが。
流石に、郭淮の自尊心を障るところであったらしい。

「…俺はですねえ、張コウ殿」
「…ッ、な…!」

完全に御した、と。
油断を持っていたのは事実。
急に身を起こし、自分の身体を捉えた郭淮に。
張コウは咄嗟に反応する事が出来ず、無理矢理に反転を強いられる。

「俺の意志で、抱かれているのですから」

見下ろされる立場となった張コウだが。
圧し掛かりながら顔を寄せて笑む郭淮の姿を、幽かな光の中で捉え。
既に動揺を抑えて、静観を崩す事は無い。
そんな態度を見せる事は、郭淮も承知の上。

「あんまり猫だの何だの言う様でしたら…偶には、襲いますよ?」

しゅるり、と。
張コウの寝間着より帯を外し軽く胸元をはだけさせると、首筋にひとつ口唇を寄せて意を示す。

「咆えるな、猫が」
「…もう、本気ですからね?今宵は…俺が上、ですよ」

首筋から頬へ口唇は流れ。
塞ぐ事へと、変容する。

「…っ…」

割り開かせるつもりで開いた口唇。
しかし今は、逆に侵入を受ける入り口。

何時もそうしている様に、頬に掌を添えられ。
何時もそうしている様に、舌を絡め合わせられ。

何時も、そうしている様に。
丁寧に咥内を犯されゆく。

甘く蕩ける様な感覚も変わらない。
ただ異なるのは、それが張コウの咥内である事だけ。
それだけなのだが。

―――これ程までに、異を覚えるものかと。

何時もとは違う口付けの甘さに、眩暈すら。

「ん…っ、ふ…ちょうこう、どの…」

絡め取る舌から零れる水音はそのままに、浮かされた声を郭淮は漏らす。
総てを奪う様に口付けて。
重ね合わせたそのまま、ゆっくりと張コウから寝間着を払い退ける。

ちゅく…っ

深く落とした口付けは、離す時も艶。
そうして、露にさせた張コウの身体を見下ろす眼には熱。

「…少しは、考え直していただける気になってくれましたかね?」
「この程度ではな…まだ、揺るがぬぞ」
「存外、意地っ張りですねえ張コウ殿」
「意地張りというのなら、お前の方だろう」

やれやれ、とでも言いたげな顔をする郭淮に張コウは余裕を返す。
危うさなど、おくびにも出さず。

「…う〜ん…それでは、しょうがないですね…止めないですよ?」
「…ふっ…好きにすれば良かろう」

そうやってムキになるのだから、と。
言いはしなかったが、多少、顔には出たらしい。

「知りませんよ…俺が満足するまで、付き合ってもらいますからね」

そんな張コウの態度に、郭淮は少し膨れた顔を見せたかと思うと。
形の良い鎖骨へ、口唇を落とし撫で始める。
つつ、と…それは徐々に舌での愛撫を交えて下腹部へと軌跡を描き。
辿り着く先は、自身へ。

「……もう、こんなにも熱いじゃないですか」

先程そうされたお返しの意も含んでいるのか、熱を持つ張コウのそれに郭淮が指を撫で這わせれば。
触れた指先が、焼ける様。

「…ね、張コウ殿…」

一呼吸の間を置き。
伝う指の動きはそのままに、先端へ口唇を触れさせて。
その熱さを受けながら、唇をすりすりと這わせて愛で撫でる。

れる…っ

愛撫する器官を舌に変え。
流れ落ち始めた先走りを絡め取りながら鈴口近くへ寄せると、不意に先を甘噛んで張コウの反応を窺った。

カリッ…

「…っ…」
「もう少し、素直に反応してくれてもいいと思うんですけれどねえ」
「…そういう性分なのでな」
「ああ、張コウ殿」

半身を起こし、触れようとした張コウを郭淮は阻む。
如何な事かと様子見た目線に対して、開いた口は。

「駄目ですよ、動いたら。…俺の、好きにしていいんですよね?」

ね。

そう、告げた。
少し小首に斜めの角度を持たせて「ですよね?」を強調する様が、多少は上体を起こす事が出来た張コウの眼には映り。
成る程、本気の様だ。

「…そうだな」
「でしょう?…じゃあ、続けますよ…」

起こした上体を横たえ直した張コウに、郭淮は再び自身へと舌を這わせる。
鈴口を軽く舌先でなぞり上げて。
先端を口唇で食む様に吸い付かせると、カリ首との間を行き来させて。
絶え間無く丁寧に舐られる行為に、張コウの自身は熱を上げ続ける。

「…んっ…は、ぁ…っ…」

上がるのは、郭淮も同様。
竿へと愛撫の先を向けた郭淮からは、熱い吐息が漏れ落ちて瞳が潤む。
先走りと唾液が混じり合って濡れる自身を扱く掌からは、くちゅくちゅと粘質を孕んだ水音が零れて響き。
上げる速度をまた、加速させた。

「…そろそろ、いいですかねえ」

ちゅ…

十二分に硬度を増した自身に、小さいながらも満足を覚えた口付けを落として離すと。
郭淮は乱れた己の寝間着も払い退けて露とすると、上へ跨る。

「なので、今度は俺の準備をしてくれませんかね?」

跨った、そのまま。
倒れ込む様にして覆い被さり、幽玄に笑む。
そうして、投げ出されたままでいる張コウの右腕を手に取ると。
誘い招く様に、自らの後孔へと導いて。

「…動いても構わぬのか?」
「流石に、解さぬのは俺がキツいですから」

それだけを告げて、黙す。
ただ、その目線だけが「はやく」と訴えて。

「……成る程な」

つぅ…っ…
…つ、ぷ…っ……ずっ…

郭淮自身の先走りが達して、濡れそぼる後孔。
その蜜を指に絡ませ、張コウはゆっくりと一本を沈み込ませ始めた。

「ンっ…」

侵入の感覚に、紅潮を含めほんの少し顔を歪めて郭淮は身悶え。
徐々に奥へと挿し入れられた指は、少しずつ内を解する意志を持つ。

ずぷっ…ちゅっ…ぐちゅ…っ

……ず、ずっ……!

「…っあ、あ…ンっ…!…くっ…ちょう、こう…どの…っ…」

その蠢きに意識を向けていたが故に。
もう一本の指を、最初とは異なり一息に奥へと挿入された衝撃を過敏に感じて嬌声が漏れる。
思わず締め上げた内は、張コウの指の形を捉えて羞恥を覚え。

「…音を上げそうではないか?猫…」
「…っ…冗談……っひ、アっ…んあ、ぁ…っ!」

言葉を聞かず。
柔らかさと熱さを重ね合わせ始めた内を、張コウは執拗に掻き回す。
ぐちぐちと、淫猥な音を意図的に響かせ。
性感を掠め欲を煽り。
掌を噛もうとした猫に、自覚させる様に。

追い詰める。


―――しかし。


…ずる…っ…

「……郭淮……?」

もう一段。
奥を嬲ろうとした張コウの腕を、郭淮は制して内より抜き去った。

「…動いて良いのはこれまで、ですよ…張コウ殿」

先刻に課した制約を引き合いに、その思惑を無きものへと変える。
発情を覚えさせられ、言葉の端には盛る荒い息が見え隠れすれども。
一度出した意地を、易々と違える気は無いらしい。
「残念でしたか?」とでも言いたげな瞳を向けて。
少し悪戯を含んだ笑みを浮かべると、張コウの口唇を奪い攫った。

「……っは…ん……」
「…ふ…っ…」

擦り寄せる様に身体を絡め合わせて、貪る。
張コウの下腹部には、郭淮の自身が。
郭淮の内腿には、張コウの自身が。
熱く盛る塊が腰を捩るその度にぬるりと這い回り。
互いの身体へ、熱を送る。

「…ちょうこう、どの…」
「…お前の、好きにすれば良かろう?」
「っ、分かっていますよ」

思わず己の主導を忘れ、求める上目を張コウへと向けてしまい。
それを見透かされた言に、浮かされた表情を我に返させる。

「ふふ…今、降参すれば辛くはせぬぞ?」
「…悪いですけれど、その言葉はそっくりそのままお返ししますよ…」

ゆっくりと腰を浮かせ、後ろ手に張コウの自身を捉えて。
郭淮は自らの後孔へと導き合わせる。

にちゅ…ちゅ、く…っ

二度三度、弧を描く様に撫で付ければ卑猥な水音が響き。
ぴたり、中心に据え留めると。

「……イきます、からね」

意を決したそのままに腰を落とし、深く張コウの自身を咥え込んだ。

ずず…っ、ずぷっ…じゅ、ぷ…!

「……っ、く…!…こ、の…無茶をしおって…っ…」
「…は、ア…っ…」

一気に奥へと貫かせた郭淮の内は、きゅうきゅうと張コウの自身に吸い付いて急速に締め付ける。
その、熱く蕩ける感覚に。
思わず張コウは総ての欲を吐き出しかけた。
郭淮の意図としては、それで吐き出させるつもりだったのだろう。
しかし耐えられてしまったが故に、郭淮自身にも相当な快楽の波が代償として寄せられてしまう。
意識が飛びそうな挿入の感覚。
びくびくと、内で脈打ち膨張する張コウ自身の感覚。
言い様の無い劣情を覚えながらも、しかし。

「……出、しても…いいんです、よ…?」

身体を起こし、角度を変えて更に自身を締め。
ゆらりと腰を捩り吐精を誘うと。
止めとばかりに、ギリギリの抜き挿しを性急に繰り返した。

ずちゅ…っ、じゅぶ、じゅぷ…っ…!

「さ、ぁ…っ!…あっ、ふぅ…あっ、ああ…っ!」
「…!…く、う…っ…」

腰を振り、最奥目掛けて深く咥え込ませたその刹那。
張コウの自身が一際大きく脈打ち、息を詰まらせて低く呻く。

びゅる…っ…!…びゅ、く…びゅる、る…

それを合図として郭淮の内には、熱い欲の飛沫が放たれていた。
勢いを持って暴れる吐精の感覚。
流し込まれ、蠢くその度。
反射的に張コウの胸元に手を付いた腕が、腰が、がくがくと震える。
だが、先に吐かせたその満足感からか…その表情には、恍惚の中にも優越と取れる笑みを見せて精を味わう様が窺えた。

「…は、ぁっ…熱…っ…ちょうこ、う…どの…どう、ですかね…?」
「…どうもこうもあるか…馬鹿者。」

騎上位故に、結合部からは重力に負けて溢れ落ちた白濁が覗き見え。
ぬるりと互いの下肢を妖しく濡らす。

「…勿論、まだ…付き合ってもらえるのですよ、ね…」

吐き出した張コウの自身は萎え掛かり、内より抜け出ようとしていた。
しかし郭淮はそれを許すまいと小刻みに腰を揺らして挿入を続けさせ、同時に刺激を与える。
くちゅ、ぐちゅと掻き回す粘質の水音は、白濁を纏って卑猥さを増し。
内で熱を篭らせる自身は、徐々に昂りを取り戻し始めて。

「…何度も言わせるな」
「好きにしていい、ですか。…ふふ、そうでしたね」

張コウの身体に倒れ掛かりたい衝動を抑え、郭淮は再び身体を起こす。
そのまま、まずは円の動きで更に昂りを煽ると。
先程の様に激しい抜き差しではないが…少しずつ、上下の揺れを加え始めた。

ぢゅっ…ぷ…じゅぷ、じゅっ…

「ン、ぁっ…ぁっ…あっ、あンっ…く、ぅ…んんっ…ちょ、うこう…どの…っ!」

絶え絶えに荒い息を吐きながら、名を呼んで。
一心不乱に郭淮は張コウの上で乱れる。
内に吐き出された白濁は潤滑を促すだけではなく、抜き差しの度に、ごぷ…と後孔の端からくぐもった音を響かせて。
腸壁と自身の間に染み入り、蕩けひとつとなったかの様な感覚を味わう。
…だが。

じゅぷ…ぢゅっ…

「…っ、く…う、ぅ…っ…!…っう、ぁ…」

自らの悦い場所へカリ首を擦り合わせ、何度も絶頂を覚えかかる。
しかし、自身には触れず後孔だけのそれでは…生殺しの様な、空の脈動しか沸き上がらない。


―――本当、は。


……ずっ……ぢゅぷ…っ…!

「…っ…!?…ちょ、うこ…うど、の…!…っは、あっ、あ、ンんっ…!」

腰を落とす、その瞬間を謀り張コウは下から強く突き上げた。
自らの体重だけでは得られない奥を嬲るそれに、郭淮は一際の嬌声を上げながら身体を弓形に反らせて天井を仰ぐ。

「…動いていい、なんて…言っていないです、よ…」
「…この程度では、寧ろお前がキツいと思ったのでな」

非難する下目を向けるが、奥底には劣情を湛えたその目線。
下から見上げる張コウにしてみれば、誘いの合図以外の何者でもない。
するりと、両の腕を伸ばし郭淮の太腿に掌を当て。

「……それならば、動いても構わぬのだろう?」

そうして、微かに細められる目元。

嗚呼。

このひとには。


知れている、のですね。



「…動くぞ、猫…」

当てた掌に、力が篭められる。
じわり、箇所は熱を持って。

課した制約を違える…その行為に、その言に。



黙すが、答え。



ぢゅ、ぷ…っ…ずっ、ずぷっ…!

「っあ、は、ンっ…!お、く…にっ…ひび…く…う、っ…!」

抉る様な突き上げを、下より張コウは繰り返す。
重ねるその度に、乱れ鳴く郭淮の嬌声は色を増し、従順を。

「……ん、く…っ…ちょうこ、うどの…も、っと…きてくだ、さ…い…」

……ズッ…

「いっ、あ…あァっ!」

堪え切れず、前に倒れ張コウに縋ろうと伸ばした腕。
しかし、それは役目を果たす事無く空を切る。
僅かな隙のうちに、張コウは身体を起こし。
内を抉られる角度が変わり、新たな快感の波にびくりと身悶えた郭淮の身体を抱き締め。
空を切った腕を張コウの首に絡み寄せて、郭淮もまた抱き締め返す。

「…っ、は…あっ……は、ぁ…」
「…多少は落ち着いたか?」

そのまま。
張コウは、動かずに静かの時を暫し置き。
それでも結合から伝わる微かな脈動を感じ、びくびくと小刻みに身悶える郭淮の背を撫で擦りながら囁く。

「……まあ、ここが静まらねば…どうにもならぬか」

つ…

「…!…っ…ふ、ぅ…うンっ…!」

密着する身体から軽く腰を引いて隙を作ると同時、掌を間に滑り込ませ。
盛りを止められず、されど果てる事を覚え切れずに在る自身に寄せる。

「ちょ、うこう…どの…っ…もっ…おれ…ちょうこ、うど、の…ぉっ…!」
「そう急くな…伯済」
「…ッ…!……しゅ…っ……」

ぎちり、と。
熱が跳ね上がり、張コウの自身を一層に咥え込む。
縋り付くその腕にも、震えの中で意を覚えた圧力を秘めて。

「良い…呼べ、そうして果てろ…」

ずっ…ぢゅぶ…じゅっ…!
…ぐちゅ…ちゅ…っ

「…ン、ぁっ…!…しゅ、んが……いっ…!」

灼ける、激しい抜き挿しと共に。
望んでいた自身に触れられて。
張コウの腰に下肢を絡め合わせ、与えられる総てを享受しようと。

嗚呼、やはり。


愛い、猫だ。


ドクン…という脈動を掌に感じ。
果てを悟った張コウは、縋り付く郭淮の胸元に幾度も口付けを落としながら深く自身を咥え込ませる。

じゅぷっ…ずぷ…ぢゅぷっ…!

「あンっ、あっ…ふぅ、あっ…しゅん、がい…しゅん、が、い……っ!」
「…伯済……っ…」

びゅくっ…びゅる、びゅるるっ……ぱた…ぽた、っ…

キツいくらいの絶頂を感じて、郭淮は果てる。
吐き出された白濁は、張コウの掌を、互いの下腹を濡らし。
解放を覚えた自身からは、勢いを失ってもトロトロと鈴口から熱を零れ落とし続け…長く、じわりとした射精感を味あわせ。
その狂おしい吐精に、後孔は総てを貪り奪う様に締め上げて。

びゅる、っ…びゅく、るる…っ…

「…く…っ…」
「…ぅ、あ…つ……い…ッ…」

張コウもまた。
二度目の熱を郭淮の内へと放ち、果てた。

「……儁艾…」
「っ、…ふ……」

気だるそうに、身体を張コウへと預けた郭淮は。
とろり蕩けた眼を湛えながら、静かに口唇を重ね合わせる。
甘える様な。
溶ける様な。
くすぐったい、口付けを。

―――…

「…う〜ん…」

寝台の上で無造作に身体を投げ出し。
まだ少し悦楽で定まらない思考を抑える様に、手の甲を額に当て。
郭淮は天井を仰ぎ見つつ、ぼそりと誰に向けるでもなさそうに呟いた。

「……何だか、色々と釈然としないのは何故でしょうねえ」
「あれだけ好き勝手しておいてか?」

寝台の端に腰掛けながら息を整えていた張コウは、聞き捨てならぬとばかりに後ろの郭淮へ向かって返す。
最も、言葉の端には余裕を含んだ笑みも見えるが。

「最終的には好き勝手されましたよ、俺」
「そう望んだのであろう?…最終的には、な」
「……う〜ん……それを言われますと、まあ…そうですけれど……」

軽く張コウが後ろを見やると。
丁度、ちらり目線を送ろうとした郭淮と眼が合う。
それに思わず居心地を悪くしたのは、郭淮の方で。

「…いいですよ、もう。先に寝させてもらいますね」

そっぽを向く様にして張コウに背を向け。
不貞腐れているのもあってか、少し身体を丸めて寝に入ろうとする。

「……お前……」


しかしそれでは。

ますます。


「……ふ…仕様の無い猫だ……」

ギシリと寝台を軋ませて、張コウも身体を横たえたると。
適当に羽織っただけの寝間着から覗く、郭淮の肩へと口唇を落として。
ゆっくりと、腕を回し背より抱き締める。

「……」
「…どうした?」

何も言わず、もぞもぞと動き出した郭淮に。
意地張りが腕を退けようとでもしたのかと思ったが、どうやら違う様子。

「……おやすみなさい、張コウ殿」

くるり、振り向いて。
されど顔を合わせようとはせずに、郭淮は張コウの胸元にしがみ付いた。
ぎゅ、と。
張コウの寝間着を握り締めて、甘え寄り。

「…やれやれ、猫を飼うのも楽ではないな…」

皮肉気味に囁くも、自分の胸元に埋められた郭淮の頭を撫でて。
張コウもまた、眼を閉じる。
猫を掻き抱き、眠り落ちる意識の狭間で。
或いは、虎の方が御すのは楽かもしれぬな、と。
そんな事を考え、微笑う自分が可笑しく。
思うにならず振り回されていて。



取り敢えず。
どうしようもなく愛しい、その猫を。



決して離さぬ様、苦しい程に抱き締めた。

■終劇■

2007/09/06 了
clap!

- ナノ -