【3594taisen】
喜好・愛・ポッキー的遊戯
「ちょ・う・こ・う・ど「要らん」
「……まだ、何も言ってませんよ俺」
「最後まで聞かんでも分かる」

左手に開封済みのポッキーの箱。
右手に握り締めた一本のポッキー。
それで、にこにこと笑顔で張コウに近付く郭淮。
確かに最後まで聞かずとも何をしたいのかの察しは付く。

「まあでも、理解して下さっているのなら話は早いですよね…はい、張コウ殿…あーん」
「…偶には、人の話を聞け」
「何時も、ちゃんと聞いていますよ?…ただ、今は俺とポッキー遊戯をしてもらいたいだけですよ」

つ、と。
チョコレートを纏った側を張コウの口唇に触れさせて、くすりと笑む。

「…それは結局、聞いておらんのと同じだろうが」
「そうですか?…まあ、いいじゃないですか。何しろ、今日はポッキーの日なのですからねえ」

(…つくづく、要らぬ事を知っている奴だ)

「…やれやれ」

差し出されていたポッキーの先を、張コウは軽く食む。
その様子に満足を覚えたか。
郭淮もまた、持ち手であるプレッツェルの側を食んで。

パリ…ッ…パリッ

少しずつ、距離を。


……パキンッ!

「あらら。駄目ですよもう、張コウ殿が動くから」
「…知るか」

途中で手折れたポッキーの。
自分の取り分となった残りを食みながら、張コウは呆れた様に零す。

「もう、いいだろう」
「とんでもない、ちゃんと最後まで付き合っていただきますよ」

がさがさと、包みからもう一本。
何故にそこまでやる気満々なのだか、張コウには知れないが。
嬉々とする、その表情を窺えば。
仕方無し、と。

「……っ……」
「動いたら、駄目ですからね」

同じ様に差し出されたそれを食み、郭淮を待ち受けた刹那。
するりと、腕を首に回される。
動かぬ様、に。
抑止を求めたその行為は、寧ろ。

…パリ……パキッ…

徐々に狭まる焼き菓子の幅と同時、回される腕は縋り寄る様に変わり。


とうとう。


「……ん…っ…張コウ…ど、の…」
「…っ、ふ…」

チョコレートの甘味。
プレッツェルの香気。


それらを絡め取り、交える口付け。


郭淮の腰へと腕を添え、張コウはその身体を捉え寄せて。
薄く開いた口唇に舌を侵入させれば。
回された腕が、また、一段。

「…ッ、ん…ふ、ぅ……っは、ァんっ…」

咥内を犯し、蕩けた舌先を軽く吸い上げる度に漏れる浮かされた声。
酸素を求めた、その時も。

「…んっ」
「…今度こそ、満足か?」

ゆっくりと、心行くままに堪能した口唇を離し。
咥内は、未だ甘味に囚われて。

「もう、つれないですねえ張コウ殿は…まだまだ、ポッキーはありますよ?」
「その様な手間を」


―――取らずとも。


ふ、と。
触れた微かな口付け。
先程の濃密さは無い、けれど。
幽か故の、密やかな色香を覚える。

「…口付けを欲するのなら、幾らでもくれてやるのだがな」
「…嬉しいですねえ」

首へと絡み寄せていた腕を離す事無く、それは益々。

「…ですが、今日は折角の記念日。日の変わる刻までは付き合っていただきますよ?張コウ殿…」
「…ふっ…仕様の無い奴だな…」

腰へと捕らえ寄せていた腕も、また。

「しかし、甘くて敵わん…せめて、持ち手の方にしろ」
「何でしたら、メンズポッキーもありますけれど?」
「…どれだけ準備していたのだ、お前は」
「ふふ、ムースポッキーもありますよ?…あ、チョコレートが気に召さないのでしたら…プリッツもありますしねえ」
「……やれやれ……」

片腕を離し、隠し持っていた菓子の箱をポロポロと取り出し始めた郭淮に。
今宵は、どれだけ甘い口付けを交わすのであろうかと。


眩暈にも似た甘美を想い。
今一度。
張コウは喋り続ける郭淮の言を塞ぐ様、口付けを落とした。

■終劇■

2007/11/13 了
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