【3594taisen】
蜜蜂ハニー
甘いあまいアマイ、口付けは何時も蕩けるハニー。
けれど、それだけじゃ駄目。
時に釘刺し針刺し解って欲しい、我儘ハニー。
「……ッ……」
きりきりとした、刺す痛み。
眼を伏した中でも、切れた感覚を瞬間に感じ取り。
噛み付くような口付けは、事実、やはり張コウの口唇を傷付けて。
じわり、紅が広がる。
「…何のつもりだ?」
手の甲で紅を拭おうとした張コウの手を制し。
郭淮は、じっとその紅を見詰めている。
その様子に、張コウもただ双眸だけを返して一言の後に黙せば。
ふ、と。
今一度重なる口唇。
流れ落ちかけた紅へ触れ、ちろちろと郭淮の舌が絡め取る。
「…鉄の味、ですねえ」
「…当たり前だろう」
何を期待していたのか、少々呆れた様にして返す張コウに。
未だじわじわと涌出る紅を、ひとつも零すまいと郭淮は口唇を寄せたまま。
「…甘いのかなあ、って思ったんですけれど」
「…それは生憎だったな」
ちゅく、と。
吸い上げる水音が何時もと違う様な気がした。
気がした、だけなのだろうけど。
それなら。
「…甘い様な、気がしてきましたよ」
「…俺には、鉄の味しか解らんがな」
僅かに咥内へと流れ込む紅は、いつもいつもいくさ場で流れ落ちるを見るそれと同じ筈。
違う事など無い、と。
紅は紅以外の何かに成りえる事など。
違うのか?
「駄目ですよ。俺の、なんですから」
ほんの少し、舐めた自分の紅。
反射的に、張コウは確認しようとしたのか。
それに対して郭淮は横取られた心地になったらしい。
…その所有は。
紅に、なのか。
自分に、なのか。
それとも、それ以外を紅と自分に見て。
「…張コウ殿だけを糧に出来たらいいなあ、って。時々―――思うんですけどね。俺」
「…光栄な事だな」
「出来そうな気が、ちょっとだけしますよ」
紅を纏った舌が、ゆっくりと張コウの咥内へ。
絡め取られ、歯列をなぞられ。
嗚呼、確かに。
「…大丈夫、ですよ」
痛みは、未だきりきりと。
そんな傷に向かって囁くは。
「蜜は、張コウ殿からしか貰いませんからね」
そう言って、また、甘いあまいアマイ口付けを落とす蜜蜂ハニー。
幾らでも、蜜ならあげるから。
他の華には飛ばないで。
■終劇■
2008/03/08 了