【3594taisen】
夏の梅は陶酔の香り
)EX何晏が絡んできます。
管理人の初代全国用デッキ(迅速淮/神速張コウさん/何晏ちゃん/因果郭嘉/于禁)面子ネタ。
どうにかして覚醒させた何晏ちゃんに城門を殴ってもらうのが勝ち筋というデッキです(苦笑)
上記を前提とした内容でも宜しければ(*´ω`*)



「今、お話しても大丈夫かナァ、張コウサン」
「えっ。…いや、まあ…手短に済むなら構わんが…」

次の出陣が何時になるのか郭淮が知らせに来る夜、張コウはただ独り郭淮に指定された場所で待っていた。
人目の及ばぬ寂しい場所。
つまりはちょっとした逢瀬でもある訳で、張コウは予定よりも早くに向かい、ソワソワしていたのだが。
何故か、フラリと現れた何晏に話し掛けられ、しかも某かの話が自分にあると言っている。

(出来れば、あまり関わりたくないのだがな…)

才が有るなら素行どうこうは問わぬ方針である事を、張コウも重々に承知はしているが。
何晏の場合は、素行も癖も思考も色々と飛んでおり。
どういう訳か現在、同じ所属で出陣してはいるものの。
張コウから関わる事は勿論、何晏から見ても自分に進んで関わってくる様な事は無い筈だと。
そう考えていたのが覆された、この状況。

「アァ、ちょっと聞きたい事があるだけだよ」
「…俺に?」
「そうだよ。…郭淮サンが猫に見えるって本当?」
「がッ!?なっ、ど、どこでそれを…!」

如何わしい誘い等であれば丁重に断る用意があった。
が、何晏の口から飛び出したのは想定外の台詞であったし、張コウにとって広まって欲しくはない内容。
それをズバリと言われてしまい、明らかに狼狽える。

「誰も居ないと思ったのか、張コウサンがポロッと漏らしたのを聞いてサ。猫耳フカフカ可愛いとかって」
(…過去の俺を殴りたい…)
「意外だナァ、"どういうの"を使ったら"そういうの"が見えるのか、聞かなきゃって思ってたんだけど」
(コイツに同類だと思われていたのか…)
「…でも使ってる様子は無いし、今の反応は本当に猫に見えているんだナァって。どう?」

腐っても秀才というべきか、その観察は正しく。
ある程度の確信を得て、張コウに話を切り出した模様。

「…口外しないでもらいたいのだが…」
「分かってる分かってる。もしうっかり喋っても、皆"またか"みたいな反応だと思うしサァ」

それは、解る。

(バレたのがコイツだったのは、まだ不幸中の幸いだったのかもしれんが…どうなんだ…)
「それよりも、猫ちゃんってどんな猫ちゃんなの?それだけ教えてよ」
「…実際、本当に猫という事ではなく…身体が童子の如きで、猫耳に尻尾という様な…」

例え猫の件がバレてしまったのだとしても、詳細を話したくはないのが本音。
しかし、このまま渋って長々と絡まれては当の郭淮が来てしまうかもしれない事から、不本意だが。
張コウは最低限の容姿だけを何晏に伝えた。

「エェ、そうなんだ。猫耳と尻尾カァ良いナァ、見えなくて残念だよ。猫ちゃんは好きなのに」

俺は見えなくて心底安心している、とは呑み込み。
想像しているのか、うっとりと焦点を遠くにする何晏とは流石にそろそろ別れたい。

「すまんが、俺はこの後にも用が有るのでな…」
「ウフフ、こんな寂しい場所で待っているって…そんな猫の郭淮サンと逢引きだよネェ」
「そっ、そういう訳では…」
「イイじゃないの、実はコレが本題なんだ」
「…は?」

元からの掴み所の無さに加えて、要所要所で的確な発言をする何晏に手を焼く張コウの前に。
何晏はひとつの袋を差し出す。

「…いや、ちょっと待てその、そういうのを使う趣味は俺には無いのだが…」
「違う違う、コレはネェ…猫ちゃんと仲良くなる専用だから。きっと郭淮サンとヨロシク出来るヨォ?」
「…取り敢えず、その言い方をやめてくれ…というか何だ猫専用とは、そんなのを使っても意味は…」
「いいから取っておいてよ、上物だヨォ?」
「だからそのッ…おい!」
「じゃあネェ、猫ちゃんと仲良くネ」

拒否を試みる張コウを全く相手にせず。
何晏は一方的に切り出した話を一方的に終えると、取り出した袋を張コウに押し付け。
現れた時と同様、フラリと何処かへ消えていった。
残された張コウは暫し呆然としたが。
これで郭淮の事を落ち着いて待て―――

(る、訳がないな…)

押し付けられた袋を持つ手の指に力を込めると、やはり返る感触は粉のそれ。
猫専用という言葉をどこまで信用するか、何晏が常用しているモノとは異なるのかもしれない。
だが、だからといって。

(こんな物を持ったまま郭淮と会う訳に―…)
「ちょーこーどの」
「どわああぁぁああっ!!」

バリィッ!…ばふっ!!

「…そんなに おどろかせましたか?」
「あ、ああ…スマン、郭淮だったか…」

袋を持つ手に妙な汗を滲ませ、どう処分してしまうか迷っている間に。
指定きっかりの頃合いで郭淮が現れ。
声を掛けられた張コウは反射的に迷いなど吹き飛び、袋を破っていた。
辺りに散らかす格好になってしまったが、手に袋のまま持っているよりかはマシな筈。
破けた袋も急ぎ投げ捨てると、そこで漸く張コウは郭淮の方へと向き直る。

「わたしではなかったら、どなただと?」
「いや、その…さっきまで急に何晏に絡まれて気疲れしてな、また来たのかと思ったのだ」
「かあんどのが…?…そうですか。」

まだ少し怪訝そうではあるが、何晏の名を聞いて郭淮はある程度の納得をした模様。

「…追求せんのか」
「したら、こまりませんか?」
「…まあな」
「ふふ、ちょーこーどのがウソで とっさに"かあんどの"のなまえを だすとはおもえないですから。…さておき」

張コウが、あらぬ声を出した為に郭淮は声を掛けた場に立ち止まっていたが。
おおよその経緯を察すると、歩みを再開。
嗚呼、やっとだ。
戦に関わる要件は大切であるが、手短に済ませて。
猫との、ひとときの逢瀬を迎える事を喜びたいと、張コウは近付く郭淮に逸る気持ちを抑え―――

「…?…ちょーこーどの…」
「どうした?」
「このあたり、"こなっぽい"きがするのですが…?」
「えっ、そ、そう、か?」

張コウの傍へと歩み寄った郭淮から発せられた違和感。
その原因を完全に理解している張コウはギクリとし。
誤魔化せていない上擦り声で一応、何事も無いような返事をしたが…騙せはしないだろう。
何時もの郭淮であれば。

「それに、この…"かおり"…」
「お、おいっ、大丈夫か?郭淮!」
「……ふにゃあ……」
「なっ…え?」

ゴロゴロ。
すりすり。

「は…っ…」

はああぁぁああ―――ッ!?

あまりの唐突な変貌ぶりに、張コウは声にならない大絶叫という矛盾を上げる。
粉そのものを身体に取り入れた訳ではない筈だ。
しかし今の郭淮の挙動は平時のものではなく、張コウに甘え寄る…と言うには加減の出来ない振る舞い。
過ぎた酔いの状態、というのが最も近いだろうか。

「にゃあ…」

半ば暴れるに近い様にして張コウの脚元でじゃれついていた郭淮だったが、ふと。
動きを大人しくしたかと思うと、小さな手をするりと張コウの下肢に伸ばし。
猫の身の手つきとは思えぬ色香で、太腿の先の。

「まッ、待て待て待て!どこを弄る気だ!」

はたと我に返った張コウは流石に郭淮を制す。
"そういう事"を郭淮の方から受ける事は嫌ではない。
しかし現状、幾らなんでも色々と不味すぎる。

「…にゃ…?」
(そ、そんな"どうして駄目なの?"みたいな顔をするなああぁぁああ!耐えろ俺!!)

張コウの制止を不満に感じたのか、郭淮は顔を上げ。
じいっと張コウを見上げる双眸。
抗議の意を汲み取れるかと思いきや、一層に誘うような艶が秘められた熱っぽい瞳。
ここに到って張コウは、今の郭淮は単なる悪酔いの如き状態に陥っているというよりも。
性的な意識が促進されてしまっていると確信した。

(ぐ…せ、正常な状態ではないのだ、誘いに乗るのは断じてならん…!)

どうにか理性を保って誘惑に耐え。
再び、にゃあごと脚にじゃれ始めた郭淮を見下ろしながら張コウは状況の整理を試みる。

(猫用…というのは確かな様だな…)

郭淮の台詞を思い返すと、あの粉は香りに特に効力があったのだろう。
ならば張コウも嗅いでいる筈だが影響は出ていない。
猫のみ効果覿面、という事だ。

(良くはないが一先ずそこまでは良い、問題は…)

依存性、と。
そもそも―――何時になったら効果は切れるのか。
最悪、このまま切れない等という事になったら。

(責任…は、元より取るつもりでいた。しかし郭淮の意思の無いところでは意味が無い。…だが…)

…ひょいっ…
むぎゅ。

「にゃ?…にー…」

ぽすぽす。
ぱたぱた。

「っと、別に痛くはないが、そう暴れてくれるな。取り落としては事だ」

―――手を離すなんて、有り得ないが。
総て何晏のせいには、やはり出来ない。
そして郭淮がこのまま意思の失せたままになってしまったとしても、張コウは傍に居たい。
そんな意を含めて張コウは足元の郭淮を抱え上げると、優しく抱き締めた。
郭淮の方は相変わらずで、くてくてと暴れているが。

(可愛い等と思う場合ではないのだが、普段では絶対に見れぬ姿だからな…仕方がない)

張コウの腕の中が心地好いと気付いたのか、郭淮は徐々に落ち着き始め。
きゅむりと抱き付き、尻尾をユラリ。
腕に収まる郭淮の表情を窺えば、蕩けた瞳に宿る光には、まだ正常性は無く。
けれど―――幸せそう、なのだ。
嬉しく思う反面、張コウの罪悪は高まる。
本当に"こんな形"で郭淮を手に入れてしまうのか?

ぎゅむっ…

「ふにゃ…?」

その顔を見るのは幸であり辛さでも。
耐えかねた張コウは猫を抱き締める腕の力を強め、顔を胸元に埋め隠す。
だからといって、何も解決はしないのに。

「すみません、ちょーこーどの。しょうしょう、くるしいのですが」
「ん、あ、ああスマン。…これなら平気か?」
「はい、らくに なりました」
「そうか、なら良かっ―――」

んん?

「かっ、郭淮!?正気に戻ったのか!体調はどうだ、気分が悪いだとかは―…うっ…」

ジトッ…

始まりと同じくらい唐突な幕引き。
正常な会話に戻っている事に張コウは気付かず、サラリと会話を成立させていたが。
意味の理解が及ぶと、すぐさま郭淮の顔を確認した。
双眸に宿る光に先程までの蕩けた虚ろさは無く、本来の光を取り戻している。
ただし、何かを言いたげなジト目であるし。
うっすらと、涙目。

(ま、まあそうか…郭淮からすれば急に意識が飛び、訳も解らず抱き締められていたのだからな…)

何かしらの、やましい様な如何わしい様な。
そんな様な事が意識の無い間にあったのではないかと思考し、訴える瞳。

「郭淮、その…スマン。だがその、抱き締めた以上の事は決してしておらん」
「ちょーこーどのが あやまるのですか?げんいんの"おおもと"は、かあんどの なのでしょう?」
「迂闊な処分の仕方をした俺が悪い。…現に、俺に対して怒っているだろう?」
「…いいえ」
「怒っておらんのなら、そんな表情は…」
「これは」

己の涙目に気付いた郭淮は、涙を手の甲で拭う。
張コウの言葉を遮り、ひとつの間。

「おこっているから…ではなく」
「……」
「…きらわれるような"こうどう"を していませんでしたか?…それが…ふあん、だからです…」
「…安心しろ、嫌う様な事はしていない」
「ほんとうですか?…よかった」

か細い声で紡がれた郭淮の言葉は、しかし最後には安堵の色で締め括られ。
まだ少し、粉の影響が残っているのではないかと邪推してしまう程に素直。

(いや…俺が知る郭淮はこれで良いし、これが良い)

腕の中の郭淮の顔には穏やかな笑み。
言葉にはせずとも、愛らしく揺れる真っ白い猫耳と尻尾は雄弁に喜びを表して。

「…あの…あんしんしたから…か、"ひろうかん"が…」
「(暴れたからな…)寝ても構わんぞ。…傍に居る」
「…ありがとう ございます…ちょーこー…どの…」

幸せそうな表情を浮かべて眠り落ちる。
同じ"幸せそう"でも先刻に見た顔とは異なる本物の。
夏の梅が持つ陶酔の魔性は自分達に必要が無い事を、猫は伝えていた。

■終劇■

◆夏梅はマタタビの別名という事で。
植物としては古くから存在を知られてるみたいですが、中華からは自生地域がズレるのかな?
となると誰かが珍品的に調達する感じかなと。
じゃあ何晏ちゃんはナルシストで女装癖でアレなおクスリの三拍子ですから、調達役に良いかなみたいな(笑)
猫耳尻尾のおネーちゃんを侍らせてる訳だから、あの何晏ちゃんは猫が好きそうな気がするよ。

前置きに書きましたが、何で何晏ちゃんが神速迅速に絡んでるかといえばデッキの関係です。
決まらないでいた槍の1.5コストに申し分無いスペックで何晏ちゃんが出て、即印刷(*´∀`)
以来、愛用しているし…ちょっと話に出したいなと思っていたのが形になりました◎
なので勿論、神速迅速のマタタビにゃんにゃん部分も書いてて楽しかったのですが。
加えて何晏ちゃんの台詞を考えるのも、難しかったけど楽しかったなあと思ったり。
城を叩き割って何を言うかと思えば、アレなおクスリを薦め始めるような子だからな本当(´ω`;)
ダメ、ゼッタイ!でも何晏ちゃんはそのままで良し。

2018/08/05 了

おまけ。

何晏
「ごめんネェ、言い忘れてたけどアレは効き目が短いし依存する様な事も無いから」
郭淮
「…いいから伏兵を処理して、端攻めに向かって下さい。」
何晏
「モウ、人使いが荒いナァ、まあイイヤ…そこの敵兵サンもどう?気持ち良くなれるよ〜?」

張コウ
「…はは…反省させるのは難しそうだな…」
猫郭淮
「ちょーこーどのも、さっさと かあんどのの"ほさ"に むかってください」
張コウ
「あっ、ハイ」

やっぱり、ちょっと怒ってた(´・ω・`)

■おしまい■
clap!

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