【Rockman.EXE@】


傍には今日もちいさき生き物
◆ヒノケンと手のひらサイズの"ちっ恋"アツキ
二人(?)の日常をお題ガチャさんの結果から3本



・もっと近くで「おはよう」が言える冬

───PiPiPi…PiPiPi…PiPiPi……ぷぅ…

「……ん…?」

───PiPiPi…PiPiPi…PiPiPi……ぷうぷう…

「…何だ…アラーム…おかしくなってんのか…?」

冬の空気を纏い、冷える朝。
何時もの起床時刻にセットしたアラームがヒノケンの眠る寝室内で鳴り出し、一日の始まりを告げ、ゆるゆると夢の中からヒノケンは目覚めたのだが。
普段のアラーム音の中に混じる異音。
何処か音の機能が故障でもしたのかと、昨晩から交換した本格的なフカフカ冬用布団から腕を出して目覚ましのアラームを止めてみたところ。

───ぷぅ…ぷうぷう…ぐー…

「ああん? アラームじゃねぇ…っつうか…」

もそりと身体を起こして目覚ましを目視確認。
タイマーをセットした時刻から僅かに進んだ時を表示しており、アラーム音は止まり静寂。
なのに異音は止まっていない事から出所は別で。
そして目覚ましと共にベッド脇のナイトテーブル上に設置してやったアツキ用のベッド内に、主である筈のちいさきアツキの姿がもぬけの殻。
これは、異音の正体というのは。

「……ぷう…ぷう…ぐぅ…」
「…何時の間に俺のベッドで寝てやがったんだ」

よくよくと耳を澄まして探る音の居場所。
それはヒノケンが今まで眠っていたベッドの中からで、布団を軽く捲ると眠るアツキの姿。
どうやら夜中に自分のベッドから抜け出して侵入してきたのか、しっかりとアツキ用のミニサイズ枕を持ち込んで寝ており、寝惚けた訳では無さそうだ。

「…まぁ、良いんだけどな。…へっ」

アラームは鳴ったが朝の時間にはまだ余裕がある。
ヒノケンは起こした身体を再び布団の中に潜り込ませ、幸せそうに眠るアツキを暫し観察。
時折、ちいさな手で布団をギュッと掴みスリスリ頬擦りするのは、布団のフカフカ具合を寝ながらにして一層に堪能しようという仕草だろうか。
アツキの布団も、アツキの身体に合わせたサイズの物とはいえ冬用の暖かな物に交換したのだが、やはりヒノケンの布団の方がもっともっとフカフカに見えて侵入に及んだのだろう。
それにしても、寝返りで潰さなくて良かった。

「くー…すー…ぷう、ぷう…」
「やれやれ、呑気に寝てくれるぜ」

だが、困った事に可愛い等とも思ってしまう。
何だか悔しくて、ヒノケンはぷうぷう言っている尖った小さな唇に指を寄せ、起こさぬ程度にチョンチョンとつついてみた───ところ。

……かぷりっ

「…痛……くは無ぇな、つうか噛んでくるかよ」
「ンや…すー…」

夢の中で美味しい物でも食べているのか、アツキはつつかれた反射でヒノケンの指先をかじり、流石にちょっとは驚いたヒノケンは指を引っ込め。
思わず「痛い」等とも言い掛けたが、アツキがかじったところで程度は知れており、実際まったく痛い事は無いのだが…かじられた指先をよくよく見てみると。

「……ぷはっ。何だこの、ちっちぇえ歯型」

そこにはアツキの、ちいさなちいさな歯の痕跡。
何故だがそれがヒノケンにはやたらと愛しく思え。
つい、声を出して噴き出してしまったところで。

「……むにゃ…ンン…ふわ…朝だか…?」

どうやら噴き出した声でアツキが目を覚ましてしまったらしいが、どのみちアラームは既に鳴っていて、そろそろ朝の時間の余裕も尽きる頃。
ヒノケンもアツキも───新しい一日の始まり。

「起きたかよ小僧、ヒトの布団はよく眠れたか?」
「ンだなー…ぐっスり眠れ……あッ」

まだ少し眠そうに、ぽやぽやしながら答えたアツキ。
だが、勝手にヒノケンのベッドに潜り込んで寝ていた事を思い出したのかパチリと目を開け、そろそろと窺う様に布団から顔を出して見上げれば。
ちょっと呆れた顔をしながら、口元に笑みを浮かべて自分を見詰めるヒノケンと目が合い。
へへ、と。
アツキは何だか照れた思いの笑いを零して。
二人は同時に口を開く。

「───おはようさん、小僧」
「───おはようだべ、オッサン!」

■END■

・ちんまい生き物との生活
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15.朝起きると自分の布団の中でぷうぷう眠っていたアツキが可愛くて、とんがった小さい唇を指でつつくケンイチ。反射でかじられてしまうも、ついた歯型があまりにも小さくて思わず噴き出した声にアツキが目を覚ました。おはよう。



・ちいさき生き物のお手伝いモード

…カタカタ、カタカタ…

「…よし、押してくれ小僧」
「ン、分かっただ」

…ぎゅーっ!

「バカヤロウ!長押しすんな、一回でいい一回で!」
「そげな事は最初にちゃンと言うだオッサン!」

自宅のパソコンで自身の研究レポートを作成しているヒノケンの姿、それ自体は学園の無い休日の午後などによく見られる光景なのだが。
今日は普段と異なりアツキがキーボードの傍に居る。
何時もならレポート作成時には、邪魔にならぬよう…という配慮からかどうかは怪しいものの、何となく"難しい事をしている"というのは分かるのか。
お昼寝をしたり、テレビを見たり、家の中での探検ごっこをしたりとヒノケンからは離れて作業が終わるまで時間を潰すアツキだったのだけれど。

「オッサン!今日はオラも何か手伝ってやるだ!」

テレビの影響でもあったのか、どうやらお手伝いモードのスイッチが入ってしまった模様。
何か手伝わせろとせがまれ、さてどうしたものかと困ったヒノケンは、アツキに合図を出したらエンターキーを押す係に任命してみたところ。
思いっきり長押しされ、大量の段落がモニターに。

「ったく…手伝う気持ちだけでイイぞ小僧」
「次からは一回だけ押すだ! そもそも、オッサンがキチッと説明せンのが悪いかンな!」
「ヒトのせいにするんじゃねぇよ。…続けるぞ」

大量の段落を削除して元に戻したヒノケンは。
気持ちだけ受け取る旨を口にしたが、アツキのお手伝いへのヤル気は全く萎えておらず、そのヤル気に免じてエンターキー係を続投させる事にした。

…カタカタ、カタカタ……カタ、タン…

「…ッて…オッサン!」
「ああ? 何だよ」
「"えんたーきー"を押スのはオラの役目でねか!」
「お前に任せたのは段落で、改行じゃねぇよ」
「……だ、だンらく…かいぎょー…?」

ヒノケンが当たり前のようにシフトキーを押しながらエンターキーを押した為、今は自分がエンターキー係なのだからとアツキは抗議したものの。
段落と改行の違いに、キャパオーバーらしく。
ハテナが頭の上にぶわわっと浮かぶアツキ。

「…とにかく、合図出した時だけ押しな」
「うー…ンでもオラ…納得いかね…」
「……やれやれ、しょうがねぇチビ小僧だ」

今日はもうヒノケンの方が折れるしかない。
お手伝いのヤル気を買ったのはヒノケンなのだから。

…カタ、カタカタ、カタカタ…

「おい小僧」
「おッ! オラの出番だか!」
「そうだけどな。まずエンターキーの前に、その下のシフトキーを押しっぱなしにしろ」
「…今度は…ず、ズッと押スてもエエだか?」
「ああ、押したままだ」

一旦、アツキの事は置いておき。
レポートを打ち進めたヒノケンは区切りでアツキを呼ぶと、ハテナを出して固まっていたアツキはすぐさま反応を取り戻しエンターキーを押そうとしたが。
その前に、すぐ下のシフトキーを押したままにするという手順を足され、さっきは押したままがいけなかった事から少し恐る恐る気味にシフトキーを押し。
「それで?」という顔をヒノケンに向ける。

「よし、ソイツを押したままエンターキーを押しな。…エンターキーの方は一回だけだぞ」
「こ、こッツは押スたまま…ンしょ!」

カチョン!

「…ちゃんと一回だけ改行になったな」
「オラ、キチンと出来ただか?」
「そうだな」
「ンでオラが、"だんらく"も"かいぎょー"もやってやるだ! 必要な時は頼るだオッサン!」
「頼りになるんだかな…へっ」

率直に言ってしまえば自分だけでやった方が早い。
しかしレポートの作成が切羽詰まっている訳ではない状況での作業な事もあり、とことんアツキのお手伝いモードに付き合う事に決めたヒノケンは。
ちいさき生き物の助力を得ながら、レポートの続きを打ち込むキー音を室内に響かせた。

───…

「…ま、今日はここ迄にするか」
「おスまいだか?」
「一応キリの良いトコロまで出来たからな」

あれから少しの時間が経った頃には、ヒノケンによる「エンター」と「シフト」の合図でアツキは段落と改行を使い分けて支持通りに実行する事が出来。
ヒノケンが覚悟したよりはレポートが進んだ。
とは言っても、本来の予定よりは…だが。話す通り区切りの良いところまでは進められたのだから、納得するべきだという思いだろう。

「オラの"お手伝い"は、どだッたべ?」
「…頑張ってたんじゃねぇの、ご苦労さん」
「そだべ! オラ頑張っただ!」

他の言い様が見付からずに出た言葉だったけれど。
アツキ的には「褒められた」と解釈された模様。
「ふふーン」とでも聞こえてきそうな程に胸を張り、とても満足げなその様子にヒノケンは呆れながらも、お手伝いをやり遂げたという誇らしさは汲み取り。
自然に指の腹でアツキの頭を撫でてみれば。
ぐん!と、気を良くしたのか更に胸を張って───

ぐらっ…

「えっ。わ、た、わわわッ…!」

どちゃっ!

「…あ、あいツツツ…び、びっくりスただ…」
「ふ…胸張り過ぎて後ろに転げるとか、ドジっ子アピールかよ。つうかレポート作成画面を終了させといて良かったな、段落や改行の山が出来るところだったぜ」
「ぬぐ…オラはドジっ子なンかでねぇだ!」

ちんまい身体で胸を張り過ぎ、後ろに重心が傾き転げるという光景を目の当たりにしたヒノケンは、思わず笑みを零し口元が緩む。
器用にもなのか、図らずもなのか。
エンターキーとシフトキー上に尻もちをついたアツキは、笑われた事にプンスコだけれど。
いっそ、怒る姿も愛らしいとしか出てこない。

「へっへっ…さて、小僧もアタマを使って疲れただろ、オヤツを出してやるよ。…立ちな」
「…お手伝い分、何時もよりちょっと多く寄越すだ」
「へっ! いっちょ前に要求しやがるモンだ」

ヒノケンが差し出してくれた手に。
尻もちから立ち上がり、ちょこんと乗るアツキ。
沢山のお手伝いの後の一緒のオヤツ。
それはとっても甘くて美味しいに決まってる。

■END■

・ちんまい生き物との生活
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24.今日はお手伝いモードらしいアツキ。さほど助けにはならないものの一応褒めてあげると、「ふふーん」と満足気に胸を張っている。指の腹で撫でると更に胸を張るアツキ。張りすぎて後ろに重心が傾き転げた。ドジっ子かな。



・夢でだって、そんな勝手は許さないから

(───此処は…何処だってんだ?)

何も無い虚無の様な空間にヒノケンは立っている。
何処から来て、何故ここに居るのかは…分からない。
左右を見ても誰もおらず、ましてや上を見ても下を見ても───いや、下には小さな存在。

「オッサン」
「…チビ小僧? お前も此処に来たのかよ」

ちょこん、とヒノケンと同じく立つアツキ。
相変わらずのちいさき生き物だが、この空間の中に自分以外の存在がある事にヒノケンは安堵を覚える。それがアツキだった事も…正直、とても嬉しい。
だからヒノケンはアツキに近付こうとした。
手のひらにアツキを乗せ、一緒なら此処から出る術を模索する事も心細く無い筈だから。
そう、したかったのに。

(……っ…な、ん…足が…動かねぇ…!)

まるで縫い付けられているかの様に動かぬ足。
困惑するヒノケンに、アツキが口を開く。

「…オラ、そろそろ次の旅サ出るだ」
「(……は…何を言ってやがる)」

「オッサンには世話になっただな、楽スかっただ」
「(じゃあ行くんじゃねぇよ! 何を勝手に…!)」

「そンじゃなオッサン、元気でな」
「(待て! おい! 何で足も声も利かねぇ…っ!)」

駆け出してゆくアツキの背中、追い掛けたい。
なのに全く動かぬヒノケンの足、何時の間にか声を発する事も出来なくて、ただでさえちいさなアツキの身体がどんどん遠く離れていってしまう。
本当に、本当に───いなくなるのか?
そんな…そんな勝手な事は…!

……ガクンっ!

「…! …なっ…夢…? …なんつう夢を見てんだ…」

思い切り舟を漕いだ勢いで目覚めたヒノケン。
そこは何も変わらない自分の家のリビング、どうやら気付かぬ内に眠り落ちていたらしい。
ひとつ息を吐いて気持ちを落ち着かせ、寝てしまう前の事を思い出してみると、今日は良い陽気でアツキが窓際の日向でうつらうつらしており。
その様子を隣に座って眺めていたら、つられてヒノケンも眠ってしまったという事だろう。
穏やかな時間になる筈が…とんだ夢を見てしまった。
今もアツキは傍でぷうぷう眠って───

「……おい、チビ小僧……?」

居ない、アツキが。
普段ならば、起きてまた家の中でかくれんぼや探検ごっこをしているのだと思えるが、先の夢見があった後では姿が確認出来ない事が不安で仕方なく。
いても立ってもいられず、勢い良く立ち上がる。と。

…がばっ…!

「や゙───!! や゙───!! 何を急に立ッてるだオッサン! 落っこちたらどうスるだーッ!!」
「はあ!? 何処に居やがるんだ小僧!」
「せ、背中! 背中ー!!」
「せな…はぁ…今、座るから待ってろ」

突如として響くアツキの絶叫。
一体どこからと所在を問えば背中などと言う。
思わず脱力し掛けたヒノケンだが、取り敢えず小さな手でヒノケンの服を掴んだままぶら下がっているであろうアツキを下ろすべく、ゆっくりと座り直す。

にじにじ…にじにじ…ぴょいんっ
……とてとて…

「ふー、びっくりスたでねぇか!」
「寝てる間に、ヒトの背中でロッククライミングごっこしてるとか思わねぇだろ! …ったく、下手すりゃ寝転んで潰してたかもしれねぇぞ」

高さが戻った事で、アツキは登頂を諦め下山。
リビングの床に戻ると、ヒノケンの前にやって来て背中ロッククライミングを失敗したのはヒノケンのせいだとばかりに、抗議の姿勢を見せたが。
知らぬ間に行う遊びとしては確かに危険も伴う。
そこをヒノケンに言われ、少し引っ込むアツキ。

「…ま、まあ…黙って勝手に登ろうとスたンはオラが悪かったかもスれねぇだな…ンでも、あとちっとでモフモフ髪ゾーンも抜けて、登りきれそうだったべ…」
「ヒトの髪までアトラクション的にすんな」

反省しているんだかいないんだか、アツキの態度に溜め息が出る思いのヒノケンだけれど。
ああ、嗚呼、じわじわと沁みてくるココロの火。
良かった、と想う気持ち。
───だけど、もしかしたら───何時か、は。

……ぽしぽし…なでなで…

「…何やってんだ、小僧」

不意にアツキが更にヒノケンに近付いたかと思うと、落ち着かせる様にヒノケンの膝を軽くぽしぽし叩いたり撫でたりし始め。
何事かとアツキの顔を見れば、らしくない神妙さ。

「……なンか…オッサン、哀スそうな顔スとったから。…そげな辛い夢でも見たンかなッて」
「…俺が? 哀しそう…そうかよ」

目の前のちいさき生き物の事が、ココロの中でこんなに大きくなっていたのだと認めるしかないのだな。アツキにも分かるくらい顔に出ていたなんて。
ヒノケンが零した笑みは自嘲。
撫でてくれる小さな手が、とてもとても温かい。

「……何でもねぇよ。夢だとしたら…ただの夢だ」
「…なら、エエけど。大人スぃと調子が狂うべ」
「へっ…同感だな、お前もそんな顔してんじゃねぇ」

お返しとばかりにヒノケンがアツキのツンツン頭を撫でると、にぱっ!とアツキは笑顔に。
何時まで傍に居るのか、そんなの───ずっと。
離れるなんて夢でだって許さない。
互いのココロに火を点けたのは互いなのだから。

「な、オッサン。オラ背中ロッククライミングで運動スてお腹空いただ、オヤツにスンべ」
「そうだな。……小僧」
「なンね? オッサン」
「俺が起きている時で、落ちた時の為にクッションだのを敷いた上でなら…背中ロッククライミングごっこをやってもイイ事にしてやるよ」
「え! ホントだか! やっただ!」

喜びはしゃぐアツキの単純さ。
いや、ヒノケンも自身の単純さを分かっている。
このちいさき生き物と、ただ一緒に居たいのだと。

■END■

・ちんまい生き物との生活
https://odaibako.net/gacha/8544

14.今日のアツキは背中ロッククライミングの気分らしい。服を小さな手で掴んでにじにじと登っているが、途中で立ち上がって移動したら「や゙ーーー!!や゙ーーー!!!」と泣き出した。ごめんて。

◆2003年12月12日|EXE4発売
すなわちヒノアツが世に出て19周年!(*´∀`*)

2022.12.12 了
clap!

- ナノ -