【Rockman.EXE@】
ソースの香りは暴力的で魅力的
「オッサン、オッサン!オッッッサン!!」
「連呼すんな!…何だっつうんだ、小僧」
「この家にタコ焼き機とかってあったべか?」
「タコ焼…」
『なっ、おま…っ…』
休日のお昼前、そろそろお腹が空く時刻。
ファイアマンを擬人化プログラムで実体化させ、何か適当に作ってもらおうかと。
そう考えていたヒノケンより先にアツキが口を開き。
急な質問なのはともかく、有無を問われた「物」に対してヒノケンは戸惑う。
PET内に居るファイアマンも主人の気持ちを察したけれど、しかし制止をしたりすれば「何故」に繋がってしまうとも判断が出来たのか口には出せず、もどかしげ。
「(…知らねぇ筈だよな…?)」
「?…どスたべオッサン」
「いや…オメェが急なのは毎度の事だが、また何言ってんだと思っただけだ」
「ンだか?腹が減ってきたンで、粉モンとソースが食べたい気分なンだなや」
「『(…まあ、そうだよな)』」
ヒノケンとファイアマン、二人分の感想。
別にアツキは…タコ焼き屋の女性の事を何かしらで知り、揺さぶる真似をしてきた訳ではなく。
単純な食欲で聞いてきたらしい。
「つうかソイツは俺に聞かれてもよ、ウチに機械はあんのか?ファイアマン」
『…タコ焼き機は…無いです、ヒノケン様』
本当はヒノケンは分かっている、あの時の自分を一番近くで見ていたのはファイアマンなのだから、タコ焼き機を購入して思い出させるような真似はしないと。
分かっているが、ここはアツキに余計な疑念を抱かせぬ為に敢えて話を振り。
目配せされた主の言葉に合わせて、ファイアマンは家に機械が無い事を告げる。
「ンだか…ホットプレートとかなら有るべか?」
「今度は何だ」
「お好み焼きでもイイからだべ」
成る程。
どうやら本当に粉とソースを欲している模様。
『…それならウチにも有るけどよ、食後の始末はお前とバーナーマンでやれよ』
「ええー、ソレは面倒だべファイアマン」
『毎回毎回お前ら食うだけで片付けねぇだろうが!』
「いやぁファイアマンが作る飯は美味いンで、食べ過ぎッツまって食後は億劫なンだべサ」
『お前に世辞を言われても嬉しかねぇ、俺は本来ヒノケン様の為にしか作らねぇんだ。それをお前らの分まで作っているんだから、片付けくらいはやりやがれ』
ヒノケンがヒートマンを伴い、才葉学園で授業を行うのが日常となった事で。
自然とファイアマンは留守中の家を預かる形になり、最初はフレイムマンから目を離さず留守番をするだけだったのだが…次第に「それだけで良いのか?」という想いが灯った。
粗暴だが主への忠義は間違いない。
留守番をする間に主の為に、何か出来る事はないのかと考え始めたのは当然といえば当然。
だから、擬人化プログラムで得た───人の手で。
ヒートマンとは違ったヒノケンに尽くす形として、料理を含め家事を覚えたのだ。
初めてファイアマンのその結論(という名の割烹着)を、帰宅したヒノケンとヒートマンが目にした時は流石に唖然としたが、今はそれも馴れてしまって日常と化し。
そもそもヒノケンも家事は不得手、この男所帯で家事が出来れば確かに助かるのだから。
「…ファイアマンの言う通りなんだが、コイツ等に後片付けさせたら余計に汚しそうだからな…仕方がねぇ、準備も手間だしお好み焼きで良いなら店に行こうぜ」
「オラはそンで構わねぇべ、オッサンの奢りなら」
「そりゃ小僧相手に割り勘とか言わねぇが、少しは奢ってやっても良いかと思える態度を取りやがれ。…ったく…ファイアマン、グルメデータの検索をしてくれ」
『了解です、ヒノケン様』
ヒノケンの命を受け、近所のお好み焼き屋の検索結果に目を通すファイアマン。
距離やレビューの信憑性、主の希望に添うであろう一店をすぐに導いて表示する。
『この店は評判も良く、そこまで遠いという訳でもないですヒノケン様』
「んじゃそこに決めるか、支度しな小僧」
「オラは食べるだけだかンな、もう出れるだ」
「…オメェは奢り甲斐が無ぇ小僧だな本当、ただ食われて終わりは面白くねぇぞ」
「ンだったら、焼くのはオラがやってやっか?オッサンよりは上手い筈だべ」
「何だと?」
外出の支度が出来たところで、ヒノケンはアツキが言い放った台詞に反応した。
炎ナビの使い手として、どちらが優れているか。
そこから始まっている二人の関係。
故に今も、優劣が話に絡むと過敏になってしまう。
例えそれが…お好み焼きの焼き加減の上手さでも。
「馬鹿言え、焼くなら俺の方が上手ぇ」
『ヒノケン様の言う通りだ小僧』
「へへン、ただ燃やスだけのオッサンに上手い焼き加減なンか分かってねぇべ!」
『まったくアツキの言う通りだぜ!』
『何だ居たのかよ馬鹿バーナー』
『居るに決まってるだろ!それに誰が馬鹿だ誰が!』
『鏡でお前の顔を見せてやろうか?』
『ファイアマンてめー!』
支度は済んだというのに、なかなか外に出ない2組。
こんな小競り合いが日常風景でもあるけれど。
しかし、そろそろ。
……ぐきゅるるる……
「…腹に化け物でも飼ってんのかオメェはよ」
「…オッサン、サッサと店サ行くべ…オラち、ちっと空腹が限界になってきただ…」
「やれやれ、そいじゃ店で決着つけるか」
「っしゃあ!上等だぁっ!」
……ぐきゅるる〜うぅ……
「…気が抜けるなオイ」
「こ、これもオッサンの戦意を削ぐ作戦だべ…」
「そりゃあ高等戦術なこったな」
呆れるヒノケンは、ファイアマンがインストールされているPETを手に取ると。
マップデータを開き店の場所を確認して。
漸く二人はヒノケンの家を後にした。
───…
ジュ―――――ッ…!
「くはぁああ…この焼いてる音、堪ンねぇだ…オッサン注文!オラ待ちきれね!」
「まず何を食うのか決めてんのかよ小僧」
「ブタ玉と海鮮とミックスと焼きそば入り!」
「四枚も食うんじゃねぇよ!」
「そンくらい腹減ってるンだべな!オラはオッサンと違って食用旺盛なンだべ!」
「人の食を勝手にジジイみたいに言うな!」
マップデータを頼りに到着した、お好み焼き屋。
幸い本格的な行列が出来る前に空いていた二人用の席に通された為、懸念していた待ち時間は殆ど無く、席に着くや否や店内に響く焼き音にアツキの食欲が増す。
メニューに目を通したというか、目に付いたモノを片端から言っているというか。
そんな適当過ぎる注文だが、あの腹の音を思い出すと本気で四枚完食するような気はする。
「…まあいい、食いきれねぇとか言うんじゃねぇぞ」
「いいから早く注文するべオッサン!」
「…この小僧はよ…」
アツキの態度に苦い顔を浮かべるヒノケンだが、それでアツキが変わる訳も無い。
食を満たしてやる方が大人しくなるだろう。
短く息を吐いたヒノケンは、席に備え付けられていた注文用のタッチパネル式端末を手に取ると、飲み物と自分の分を含めた5枚のお好み焼きを選び決定を押した。
…
「お待たせしましたー!まず最初に、ミックス二枚分をお持ちしました!」
「ン、ミックスが二枚だべか?」
「俺の分の一枚だ」
「ああそっか、そンじゃ早速どッツがお好み焼きを上手く焼けるか勝負すン…」
「では鉄板も温まったので、お作りしますね!」
「えっ」「えっ」『えっ』『は?』
にこやかに、既に混ぜ合わせられた焼く前のお好み焼きを持って来た女性店員。
テーブルの鉄板に熱が通り、いざお好み焼きの焼き加減勝負の火蓋が切って落とされようとしたところで、予定外の展開が女性店員の口から二人にもたらされ。
確かに…よくよく周囲を見れば、このお店。
各テーブルで店員が焼き上げて提供している。
『…す、すみませんヒノケン様…自分達で焼ける店か店員が作る店かまでは…』
「…気にすんなファイアマン、お前は悪くねぇ」
ファイアマンが店を決めてくれてから、お好み焼きの焼き加減勝負に発展したのだから。
店側が焼き上げて提供するタイプだったからといって、ファイアマンに非は無い。
ヒノケンがその判断を取った事で、アツキも先の順番を思い出して何も言えず。
手際良く焼かれていくお好み焼きの完成を、二人は静かに見守り待つだけだった。
ジュウウゥゥウウ…ッ…!
「…はいっ、二枚焼けました!」
「お、おう」
「食べたら端末でお呼び下さいね、残りを焼きに来ますので。ではごゆっくり!」
「ど、どーもだべ、おねーさん」
ジューッ♪
「……美味そうだな、小僧」
「……ンだな、オッサン」
見ただけで分かる生地のふわふわ具合。
食欲を刺激する暴力的で魅力的なソースを纏い、白糸の様なマヨネーズが華を添え、あおさの緑が色を引き締め調和を生み、その舞台で静かに舞うのはかつお節。
非の打ち所の無いパーフェクトな、お好み焼き。
果たして、自分達にこれ以上のお好み焼きが焼けたかどうかと考えると───
「…オッサン、焼け過ぎて生地が固くなッツまう前に食べンべ。今回の勝負は…」
「無効試合だな、同感だ」
停戦協定を二人は結び。
もくもくと食べ始めたお好み焼きは。
あっという間に円を欠いて、胃袋へと消えていった。
───…
「美味い店だったべな、オッサンまた行くべ!」
「勝負に水は差されたけどな…まあ確かに美味かったし、その美味い店を見付けたのは俺のファイアマンなんだから、実質的に俺の勝ちって事で良いよな小僧」
「な、なぬ言ってるべ!そげな事は勝負の対象にしてねぇでねぇかオッサン!」
ヒノケンもアツキも、お好み焼きを平らげ。
まだ少しソースの残り香が感じられる帰り道。
食を満たした二人は…特にアツキは。
空腹から解放されて普段の威勢と元気を取り戻し、ヒノケンの勝手な勝敗の付け方に納得を示す事は無く、明らかに優位そうに笑むヒノケンに対して異を唱える。
「ぬー…オッサン!」
「何だよ小僧」
「お好み焼きでは、アレを知ッツまったらもう勝負にならねぇだ。ンだから…やっぱり家でタコ焼き勝負をするべ!どッツが綺麗なまん丸で焼けるのか、勝負スようでねぇか!」
他意の無い、純粋にヒノケンと勝負をして優劣を付けたいアツキの瞳は真っ直ぐ。
それだけに困ってしまう訳だが。
『お、おい小僧!そんな勝手な事を言ってんじゃ…』
「…ファイアマン」
『えっ…ヒ、ヒノケン様?』
堪り兼ねたファイアマンがアツキを黙らせようと、二人の間に割って入ったが。
静かに主人に名を呼ばれ。
余計な事を仕出かしたのかと、身を強張らせる。
「……買っといてくれ、家庭用のタコ焼き機」
『…ヒノケン様…』
叱責覚悟だったファイアマンに掛けられた言葉。
恐る恐るファイアマンが主の顔を見れば。
その表情は穏やか…或いは、吹っ切れている様で。
「おっ、その気になっただなオッサン!ずぇったいにオラの方が上手いかンな!」
「へっへっ、その威勢が続くか見物だぜ」
「…っと、オッサン。オラちょっと…あスこの自販機で飲み物を買ってくるだ」
「ンだよ急に」
「まだソースの感じが口ン中に残るっちゅうか…ち、ちっと水分が足りねぇべ」
「マジで四枚も食うからだ、ったく早く買ってこい」
「言われンでもスぐ買って戻ってくるべ!」
自販機に向かって駆け出したアツキ。
短い時間に違いないが───主従だけの時間。
『…買っても良いんですか?ヒノケン様』
「ああ、良いんだよ。もう、な」
飲み物を手に駆け寄り戻るアツキと勝負が出来る。
それが何よりもかけがえのない、今の想いなのだから。
ソースの香りは何時だって抗えぬ程に暴力的で、ココロを燃やす程に魅力的。
■END■
◆診断メーカー結果
自分の方が上手くお好み焼きを焼ける!とお好み焼き屋さんで決着をつけようとするも、焼きあがった状態で提供してくれるタイプの店だった為、ただ二人で美味しいお好み焼きを食べるだけになってしまったヒノアツ
#おばかなことする二人が見たい#shindanmaker
https://shindanmaker.com/687454
2020.09.20 了