【Rockman.EXE@】
兄弟喧嘩も仲直りも何時もの事
『だーからヨォ!何で兄貴は変に頑固なんだよ!』
『今は頑固だ何だの話じゃねぇだろヒート!』
『ヴォ…ヴォォォ…!』

リビングに響くファイアマンとヒートマンの怒号に兄達の間で困った様子のフレイムマン。
少し前までは擬人化プログラムを実行して何でもない休日を過ごしていた筈なのだが、ふとした拍子にファイアマンとヒートマンの間で行き違いが起こり。
しかし元より二人とも喧嘩っ早い性格ではあるが、普段ならば軽い小競り合い程度の応酬で収めて険悪な空気とまでは発展しない。
けれども、今日はそこまで発展してしまった。
本当に、些細な原因だというのに。

『…ヴォォ…ッ…』
『…兄貴。一番下のフレイムが喧嘩すんなって言ってんだ、意固地になるのは止めようぜ』

堪り兼ねたフレイムマンが、ヒートマンの外装プログラムを控えめにクイクイと引っ張り、喧嘩を止めて欲しそうな眼差しを向けて来た事で。
ヒートマンは少しだけ冷静さを戻して、ファイアマンに喧嘩の停止を持ち掛けたけれども。

『……知らねぇな。大体、俺はお前らの事を弟だとか思ってねぇって言っているだろうが』

ヒノケンに対する忠義が一際高く、自分以外の炎を認めない傾向をプログラムされているファイアマンは、時にこうした発言をしてしまう事が有る。
だが決して本心で言っている訳では無く、しっかり"兄弟"だと解ってくれている事もヒートマン達は理解しているから普段ならばそこまで気にはしない。
なのだが。今の状況で、その発言というのは。

『ヴォヴッ!ヴォォォッ…!』
『…普段ならハイハイまたかって聞き流すけどよ、空気の悪い時に言う事じゃねぇだろ。フレイムも怒っちまったじゃねぇか。そういうトコだぞ兄貴』
『フン…怒りたけりゃ勝手に怒ってろ』

……バタン!

中立で居ようとしたフレイムマンまでファイアマンの発言で機嫌を損ね、空気は重さを伴い更に更に悪くなってしまって。
ファイアマンは弟達を一瞥してリビングを後にする。それは…"これ以上"にならない為に。
今は必要な距離を取ったとヒートマンも察した。

『ヴォ…ッ…』
『追っ掛けるなよフレイム。…ちょっと離れてアタマを冷やした方がイイんだ、少し…な』
『ヴォォ…ヴォヴ…』
『…フレイムまで怒ったせいで拗れたかって?…そうじゃねぇよ、元々が俺と兄貴の喧嘩なんだからよ、フレイムは止めたかったってのに…しょうがねぇ兄ちゃん達ですまねぇな』
『ヴォン…ヴォォォ…ッ…』

ふるふると首を振るフレイムマン。
兄達の事が大切だから、謝るなら自分にではなくて…早く、仲直りをしてほしい気持ち。

『なぁに、すぐケロッとして普段通りに戻るだろうよ。…現実の外は雨だしインターネットは臨時メンテで行ける場所が少なくて出掛けてもつまらねぇから、ウチに居るしかねぇし』
『ヴォ…?…ヴォォ…』

ヒートマンの理屈についての理解は乏しいが。
取り敢えずヒートマンはファイアマンに対して既に喧嘩腰では無い事は分かり、少し安心。
後は時間が解決してくれる。
…とはいえ、それまでの間は何となく落ち着かない。ヒートマンが言う通り外はウェザーくんの予告通り雨が降っているし、インターネットはメンテナンスによる通行止めが多く。
このリビングで気を紛らわせて時間を過ごせる事。

『…そうだ、観てない映画のDVDが溜まっていたな。ソイツを消化しちまおうぜフレイム』
『ヴォッ!ヴォォンッ!』
『…あ、でもアレって確か兄貴が管理して…』

……バッタン!

『うぉおっ何だ?!…って、兄貴…?』

雨の休日なら映画鑑賞で過ごすのも悪くないと。
ヒートマンは未視聴で溜まっているDVDの事を思い出したが、DVDの管理はファイアマンが担っていた事も思い出し、どうしたものかと思案し始めたところでドアが勢い良く開き。
何事かとドアの方を見ればファイアマンの姿。

『……ストレス発散にアクション映画を観るから、気に入らねぇならリビングから出てけ』
『はぁ?何を勝手な事を言っ…』

ドサドサ…バサバサッ!

『(…え…?…大量のDVDと…お菓子…?)』

ヒートマンに構わずファイアマンはリビング内に入ると、テーブルの上に抱え持って来た物を乱雑に広げ置く。それは敢えて、二人にも見せる様。
急な発言と行動に、はじめヒートマンはまだファイアマンが喧嘩腰の姿勢かと思ったが。
広げられたお菓子の量は、どう考えても多過ぎるし。
DVDだって、アクション以外のジャンルがあって。
だからつまり───ファイアマンなりの。

『…そこは観るならホラー映画だろ』
『…お前、そういうの観る趣味あったのかよ』
『俺達も映画を観ようぜって話してたところだったんだ、兄貴のアクション映画の後に俺が選んだホラー映画も一緒に観ようぜ。…夜、寝れなくなるなら無理しなくてイイけどよ』
『…バカヤロウ、そんなモン怖かねぇ。観てやる』

ファイアマンの返事を聞くと、積み重なるDVD山の中から目当てのホラー映画を手に取り。
不器用な兄へヒートマンは笑顔を向けた。

─…

『やっぱり化物は火に弱いって相場が決まってるな』
『思ったよりアクションホラーだったなー、もうちょいビビらせ要素が有るヤツだと思ったんだけどな。…大丈夫かフレイム、怖くなかったか?』
『ヴォ、ヴォヴ…』
『よしよし、そんじゃあ次は…』

…カチャ…

「…何だ?…映画鑑賞会か?」
『おはようございます、ヒノケン様』
『おはようさん、オヤジ』
『ヴォッ!ヴォォォ!』

のそりとリビングに現れたヒノケン。
雨が予告された休日だった為、普段の授業や研究疲れを取るべく今日は好きなだけ寝させてくれとナビ達には言っており、かなり遅くの起床。
ナビ達の話し声を辿りリビングのドアを開けてみれば、大量のお菓子をお供に丁度ヒートマンが選んだホラー映画を観終わったところだった模様。

『次はフレイムが選んだ映画を観るつもりなんだけどよ、起きたならオヤジも観ようぜ』
「フレイムマンが?どんな映画だ?」
『…ヤバそうなサメ映画です、ヒノケン様』
「…サメ映画で"ヤバい"ってのはアレだろ、とんでもなくバカじゃねぇのって意味だよな」
『ヴォォ…ヴォヴッ!』

恐らくの話。
フレイムマンがその映画を選んだ理由は、パッケージのサメ"だけ"はやたらとカッコ良かったからで、煽り文句からは見るからに酷そうな気配が漂う。

『まぁまぁ、解ってる上で敢えて観てみようぜ。一人で観てたら虚しくなるかもしれねぇが、こんだけ人数を揃えて観たら笑えるかもしれねぇだろ』
「進んで地雷を踏むのかよ。…まあ良いがな、だったら次は俺が選んだヤツを観るからな」
『ではフレイムのから準備します』

そう言ってファイアマンはDVDのセットを開始し、ヒノケンはソファの定位置に座るとDVDを物色して自分が選ぶ映画を決め始めたが。
ふと、隣のヒートマンに話し掛ける。

「ところでよ、お前ら喧嘩していなかったか?寝室まで、そんな大声が聞こえてきたぞ」
『さぁて?夢でも見たか寝惚けてたんじゃねぇか?俺達は映画を見てたよな、フレイム』
『ヴォン!』
「…ふーん。…へっ、ま、それなら良いけどな」
『再生しますよ、ヒノケン様』

雨の休日、ささやかな映画鑑賞会は続く。
予想以上の酷いサメ映画に、寧ろ会話は弾み。
とっくに喧嘩の事など吹き飛んでいた。

■END■

・身内三人で馬鹿をやる
https://odaibako.net/gacha/4634

154 喧嘩した三人。ファイアが大量のお菓子と映画のDVDを持ってきた。「アクション映画を見てストレス発散する!」「はあ? そこはホラー映画だろ!」「バカみたいなサメ映画見たい!」ヒートとフレイムも見ることに。あれ、喧嘩は?

◆ヒートは電脳悪霊退治もしているし(EXE6)、ホラーへの耐性は有るかもしれない(*´ω`*)

2022.05.22 了
clap!

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