【Rockman.EXE@】
炎の中のランブルフィッシュ
───コポ…ユラ…ユラッ…

『ヴォォォォ…』
『ハハ、フレイムは気に入ったみたいだな』
『…それは良いが…ヒノケン様、何だってまた急に観賞魚を二匹も貰ったりしたんですか』
「しょうがねぇだろ。俺の研究に必要なコネを作る為に適当に媚びを売っていたら、気に入られ過ぎて、ソイツの趣味の観賞魚を押し付けられちまったんだ」

炎属性揃いの家には似合わないかもしれない水槽。
それが今、ヒノケンと擬人化プログラム中の三体のナビの目の前に有り、特にフレイムマンは食い入る様にして水槽の前を陣取り眺めている。
水槽は小振りなサイズの物が二つ。
混泳を避けてそれぞれに一匹ずつ魚は入れられていて、間には一先ずの仕切りを置いて魚同士の姿が見えぬようにしており。つまり、貰った魚というのは。

「ま、お陰でかなり強力なコネが出来たんだからな。ベタ二匹くらいなら、安いモンだろ」

観賞魚として人気の高い種であるベタ。
ヒノケンが貰ってきたのは、全身が美しい赤の体色をしているオスとメスのベタだった。

『そうかもしれないですが…』
『イイじゃねぇの兄貴。同じ魚でもアーバルボーイ系のウイルスなんかに比べたら、コイツのヒレは炎みたいで俺達の中に入れてやっても良さそうだろ』
『別に、飼うのを反対してる訳じゃねぇよヒート』

フレイムマン程ではないが、ヒートマンも既にベタ達を受け入れる気になっているものの。
ファイアマンは、まだ戸惑いが有る模様。
少し訝しげにフレイムマン越しにファイアマンがベタ達を見ると、大きくヒレを広げる特徴的な行動を取り始めたところで、確かにその姿はヒートマンが言う通り水の中で咲く炎。

『…魚のクセに俺らの炎みたいじゃねぇか』
「ベタのフレアリングって行動だな」
『フレア?じゃあ本当に炎ってコトかよオヤジ』
「多分そっちじゃなくて、フレアスカートとかと同じ広がりみたいな意味の方だろ。ベタの体色は炎に見える赤だけじゃねぇからな」
『何だ、ちょいと残念だぜ』
『…しかし、赤いコイツ等なら炎の意味でも…』

ポツリと呟くファイアマン。
どうやらフレアリングの姿には感じるモノが、自分達に通じるモノが見て取れたのだろう。
何処となくベタ達を認めた様な。

『ヴォッ、ヴォォォ…ヴ…』

特等席でフレアリングを見るフレイムマンは。
キラキラしたヒレをもっとよく見たいのか、水槽の前でアチコチ首を傾げて角度を変えてまじまじと眺め、ベタ達が本当に気に入ったらしい。

『つぅか、フレアリングって威嚇してんのか』
「闘魚(ランブルフィッシュ)なんて呼ばれてるくらい縄張り意識が強くて好戦的な魚だからな、見慣れないフレイムマンに対して威嚇してんだろ」
『ヴォッ?!…ヴォ…ヴォォ…』

ざっくりとベタの事を検索し始めたヒートマンがフレアリングを行う意味に辿り着くと、ヒノケンも先に軽く調べていたのか補足を入れ。
その説明が聞こえたフレイムマンは、自分がベタ達から威嚇されてしまっているのだと知って悲しくなったのか、主人や兄達に振り返り弱々しい唸り声を出す。

『…あ。なぁフレイム、今はベタから威嚇されちまってるけどよ、コイツ等はちゃんと世話してくれるヤツの事は覚えて懐くみたいだぜ』
『…ヴォ…?ヴォヴヴ…?』
『フレイムがキチンと餌やりをしたら、仲良くなれるんじゃねぇかな。世話出来るか?』
『ヴォォォォ!ヴォンッ!』

コクコクと力強く頷くフレイムマン。
もしかすると、"おとうと"の様に思っているのか。
"おにいちゃん"になりたいのかもしれない。

『そいじゃ、晴れて俺らの一員って事で…コイツ等に名前を付けてやったらどうだ?兄貴』
『はあっ?何で俺が…お前が付けろよヒート』
『フレアリング見て少しは受け入れても良さそうにしてたじゃねぇか、名前付けて呼んでやったら、もうちょい愛着が湧くんじゃねぇのかなってよ』

ヒートマンに促されてファイアマンは考え始め。
暫しの間を置いて、搾り出した命名は。

『………さかな男、さかな子………?』
『嘘だろ、そんな直球があるかよ!』
『急に名前付けろとか言われても浮かばねぇだろ!』
「…まあ、名前は後でゆっくり考えてやりな」

吹き出しはしなかったが、ファイアマンのネーミングセンスにヒノケンも少し呆れ笑い顔。

『ところでオヤジ、水槽と一緒に専用のヒーターやポンプも貰ったんだろ?その辺り強い魚らしいが、それでも設置するなら早く付けてやろうぜ』
「そうだな。……そらよ、頼むぜヒートマン」
『オウ。…ちょっとゴメンなフレイム』
『ヴォヴ?……ヴォォォォ…』

ヒノケンからヒーターとポンプを受け取ったヒートマンは、フレイムマンに少しだけ避けてもらって、取り付け説明書のデータを見ながら設置を開始。
場を譲ったフレイムマンは、兄の作業はベタ達に必要な事なのだと何となくだが理解したらしく、ヒートマンとベタを交互に見て大人しく待つ。

……カチッ…コポコポ…ッ…

『よっしゃ、コレでオッケーだろ』
『ヴォォ…ヴォッ、ヴォ!』
『何だ?フレイム?…魚の為に、ありがとうって?』
『ヴォヴン!』

ヒートマンの作業が終わったのが解ると、フレイムマンはすぐにヒートマンに…恐らく、感謝をしているのだろうという様子を見せた事から。
合っているのか探ってみると、頷いて良い返事。

「…さてと、フレアリングは定期的に行わせた方が良いらしいが、今日のところはそろそろ落ち着かせてやった方がイイだろ。少し離れてやりな」
『だな、オヤジ。…離れたくないかもしれねぇが、こっちで名前を考えようぜ、フレイム』
『ヴォ…ヴォォ…』

名残惜しそうなフレイムマンだけれど。
ベタ達の事を考えるのならば、まだ慣れていないのに刺激し続けてしまうのも良くはない。
チラチラと水槽を見ながらだが、フレイムマンはヒノケンやヒートマンに従い水槽から離れてトコトコと兄について行き、リビングのソファに座る。
と、何やらネーミングセンスが無いのでは疑惑が生じたファイアマンが、ヒノケンのノートパソコンを借りて見付けたサイトを見せ始めた。

『おい、このサイトで名前の生成が出来るらしいぞ』
『そんなの調べてたのかよ兄貴。まぁ、出てきた名前から詰めて考えるってのもイイかもな、例えばカタカナだとどんな名前が生成されるんだ?』
『えー……"モヲユディズデユ"…』
『何だそりゃ呪文か!全文字ランダムかよ!』
『うるせぇな!ランダムってのが、まさか一文字一文字ランダムだと思わなかったんだから、仕方がねぇだろが!』

「……こりゃ命名には時間が掛かりそうだな」
『ヴォォォ…』

ファイアマンとヒートマンのやり取りを、何処か…呆れよりも楽しさを含み見るヒノケン。
兄達が喧嘩しないか、少し心配げなフレイムマン。
───その後ろで。
フレアリングを解いたベタ達が、これからこの賑やかな輪に加わるのだなと、水槽から主と三兄弟の事を静かに認識し始めていた。

■END■

・身内三人で馬鹿をやる
https://odaibako.net/gacha/4634

161 魚を飼うことにした三人。「さかな子、さかな男」と直球の名前をつけるファイア。「キラキラしていてかわいい」と魚を眺めているフレイム。「ヒーターとポンプつけるからちょっといい?」と設備もろもろを担当するヒート。

◆ヒートは、アーバルボーイ系のウイルスが水系ウイルスの中でも特に嫌いな気がする。
正確にはゲット出来るチップのトレインアローが。
自分みたいな残念オペレーターでも、トレインアローのお陰でヒートマンSPの最大攻撃力チップを入手出来たから、自分には様々なのですけど。
攻略本に挟まっていたメモによると、過去の最速撃破記録は5秒33だったみたいですよ。
再燃後、2021年の記録は6秒31…どうやって5秒台を出したんだ…教えて過去の自分(笑)

2022.04.10 了
clap!

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