【Rockman.EXE@】
それでも大人と、まだ少年
(…な、なンだって…こげな状況になってるべ…)

才葉シティの各街を繋ぐ市民の足、リニアバス。
磁石の力で空中を走り、騒音も少なく排気ガスも出ない設計の交通機関は次世代の研究が盛んな才葉に相応しい乗り物として利用されている。
最も、年長者などの中にはリニアの性質に一種の冷たさを感じ取る者も居るが。
その利便性は概ね受け入れられて日々の利用客は多く、休日ともなれば───

「ハハハハ!〜…とか言うんだぜ」
「ええ〜、マジかよそれ!それで…」

「(……ったく…うるせぇな……)」
「(…ン、ンだな…)」

今、ヒノケンとアツキが乗るのは本日の最終バス。
休日を利用してデート…という雰囲気のものでも無かったが、適当に才葉シティの各街に出掛けた帰りであり、リニアバスを逃してしまうと面倒になってしまう為。
何とか最終バスに乗り込んだ…までは良かった。
そもそもリニアバスは乗客を乗せる規模が大きい交通機関とは言い難く。
休日の最終バスともなると、ヒノケン達と同じ様に他の街で過ごしてからセントラルタウンへ戻る乗客で非常に混んでおり。
その上、どうやら酒が入り迷惑を考える事が希薄になっている客の近くで身動きが取れない形になってしまったが故に、ヒノケンは小声で不機嫌を漏らしている。
漏らされた先のアツキも、迷惑行為に対する不機嫌には同感なのだが。
正直、現状のアツキは他の事が気になっていて。

「それが、こーんな感じでよぉ」
「そりゃ無ぇだろ〜!」

ギシッ…

「(…ッ…こンの酔っ払いどもが……)」
(…ちっ、近いっちゅうに…!)

バスという名称ではあるが、内部の客席配置といった構造は電車に近い。
アツキは乗り込んだ際に運良く空きがあった乗降口と客席の間の角に身体を滑り込ませて場所を確保し、少なくとも背中側から人に押される事は無くなった。
しかしヒノケンはそうはいかない訳で、アツキが角に陣取ったのを見ると向かい合わせに立ち、後から後から人が乗り込み満員の状態になると。
その背でアツキが押し潰されないように庇い、腕で囲い守る形を取り。
そして酔っ払い連中は位置悪くヒノケンのすぐ後ろ。
暴れるという程ではないが騒がれる度にヒノケンの背には圧が掛かり、腕は堪えるものの押された事で顔が近付き、ただでさえ擬似壁ドン的状況。
アツキの目線は泳ぎ、非常に居心地が悪い。

(大体にスてオッサン!オラは別に守られたりせンでも!…せン…でも…)

……

「…おい、アツキ?」
「!…なっ、何だべオッサン」
「もしかして具合悪いんじゃねぇのか」
「……だ、大丈夫…だべ。静かにスとれば……」
「…分かった」

やけに大人しくなったアツキの様子に、庇うヒノケンは気遣う声を掛けたのだが。
バツが悪そうに俯き目線を下げるのみで。
ヒノケンにしても身動きが取れないのだから、何かあっていてもどうしようもなく。
一先ず「大丈夫」だという言葉を受け取ると、庇う腕の力を一層に強め。
セントラルタウンに到着する迄、ヒノケンは黙ってアツキを守り抜いた。

───…

「あ〜〜〜、金輪際バスの最終には乗らねぇぞ」
「…あスこまで混雑すると思わンかったべな」

漸くセントラルタウンへとリニアバスは到着し、満員状態から解放され。
時間も時間なのでアツキもヒノケンの家に向かう事にして、早く戻り落ち着きたい…というのに、どうやら件の酔っ払い連中と帰る方向が同じである事が窺え。
仕方がないので少し連中から距離を取ろうと、セントラルタウンのシンボルである青い鳥の置かれた広場で休憩しながら二人は時間を潰していた。

「つうか小僧、リニアバスに乗ってる途中から今もずっと大人しいじゃねぇかよ。田舎者に満員のリニアバスは人酔いでもしたか?」
「…かも…スれねぇべ」
「……何だよマジで具合悪いのかよ」

時間を潰しがてら。
ヒノケンは車内でのアツキの様子を思い出したのか、体調を問い直す。
最も遠出と満員バスによる疲れが出たのだろうとは考えていたが、そこまで大きく体調を崩しているとは思っておらず、何時ものからかう言葉を含ませた聞き方。
だが、アツキからの返答は弱々しく。
その様子には普段の威勢の良さを見る事も出来ない。

「……ちっと、モヤッと…スとるだけだなや」
「…ここで少し待ってろ、もう夜になってるしウロチョロすんなよ」
「…もうオラはガキでねぇンだから、そげな扱いをスるでねぇ」
「俺からすりゃ、オメエはまだまだ小僧でガキだ」

そう言うとヒノケンはアツキを残してセントラルタウンの住宅街へと足を向け、広場を離れる。
何をしに行くのか聞けなかったが、確かその方向には自販機があった筈。
水分を調達しに行ってくれているのだと理解したアツキは、戻るのを待つ事にして。
胸の内に広がっているモヤモヤを僅かでも吐き出す様、深呼吸をひとつ。


" まだまだ小僧でガキだ─── "


(…そう、なンだべな)

この胸のモヤモヤは疲れから来る体調不良も確かにある、けれど。
それだけでは…なくて。
正確に言えば、モヤモヤとドキドキの感情が交互に顔を出している。
ヒノケンに「守られた」事への感情が落ち着かない。
自分は守られるような存在ではないと主張したい。
だけれど、悔しいけれど。
今の自分はまだ少年、主張は背伸びでしかなく。
大人に───ヒノケンに守られてしまう対象なのだと知らされるモヤモヤ。

(…スっかも、オラときたら…)

逞しく背で人の圧を受け止め、自分を守る姿に。
胸を高鳴らせてしまった───等と。
どちらにしても絶対にヒノケンには…言えない。
それがアツキのモヤモヤと、ドキドキの正体。

「ほらよ、小僧」
「っ!…辺りが暗くなってンのにペットボトルを投げて寄越スでねぇだ」
「へぇへぇ、そうだな悪かったぜ」
「…どう聞いても、悪いと思ってねぇべな。まったく、このオッサンは…」

アツキが抱いた想いを素直に言い出せないのには、ヒノケンの"こういうトコロ"にも問題があるから。
普段は大人げない大人、のクセに。

「シーサイドのミネラルウォーターにしといたからな、下手に味が付いているよりソッチの方が良いだろ」
「…助かるべ、ありがとなオッサン」
「…お前が礼を言うとか熱も出てるんじゃねぇのか」
「オッサン、オラの事どんだけ礼儀知らずだと思っとるべ。ガキでねぇンだから、感謝しとる時は一応…その…オッサン相手でも礼くらい言うっちゅうに」

嗚呼、馬鹿だな。
絶対に言えないと思ったばかりで。
背伸びをしたい少年は、自身の言葉に縛られる。
「礼」くらい言える、「礼」として…なら。

「…ンだから…さっき、バスでオラを庇ってくれたンも…感謝スとる…べ」

抱いたモヤモヤとドキドキを。
ほんの少しだけ、「礼」という形でヒノケンに伝えて。

「…へっへっ、そうかそうか。惚れたか?」
「…オッサンには二度と礼を言わねっかンな」
「何でだよ言えよ」
「そうやって、スーぐ調子に乗るから言いたく無くなるンでねぇか!オラが無礼なンでねくて、オッサンのそういうトコロのせいだかンな!」
「お、ちったあ何時もの威勢だけはいい小僧に戻ったか。…良かったぜ」
「…ッ!…ふ、ふン…」

少し目を細め笑む、ヒノケンらしくない安堵の表情。
それは───アツキを心配していたからこそ出た表情。
ヒノケンの表情の意味を感じ、アツキは何と返せば良いのか分からず。
黙って受け取ったペットボトルのキャップを開けると、喉の奥へ水を流し込む。
アツキの体調は実際に疲れが出ており、心情以外の面でもモヤモヤとしていた。
純粋な水は身体に染み込み心地好く、溜まっていたモヤモヤした気分が晴れる様で。


ドキドキの方が強くなったのは、そのせい。
…心配された事や、安堵した表情のせい…なんかでは。


(…オッサンに守られっぱなスとか、冗談でねぇべ)

年の差という溝は埋められない。
だけれど時間がもっと進んだ時には、或いは。

(…もう暫く先だけンと、オラも"大人"になったら)


───オラの方が。
オッサンを守ってやるかンな。

■END■

◆正直リニアバスは見ていてどうにもこうにも怖いので、国男さんには蒸気機関車でなくても地に足が付いた交通機関を才葉に整備してほしい(…)
という話はさておき。
再燃以来、診断メーカーさんでネタや萌えシチュエーション探しをヒノアツでやっていて、幾つか書きたいと思った結果の1つが今回の小噺です。

今日のヒノアツ
満員電車に乗る。押し潰されそうなのを腕で囲って守ってくれる。これは壁ドンてやつ?ああ!押さないで!顔が近い!
#今日の二人はなにしてる #shindanmaker
https://shindanmaker.com/831289

満員の交通機関で攻が受を庇い守るというシチュは、自分が同人を知った古の頃からあったモノで好きなシチュだったのですが、書いた事は無いなと気付きまして。
これは一度ヒノアツで書いてみようと(*´ω`*)
庇うとか守るだとかは年上が年下に向けるのが大半で、ヒノアツの個人的な萌えポイントの30歳と16歳の年齢差を表す話にも出来そうかなとかも。
アツキは背伸びしたい盛りだろうなあって思うし、だけどまだまだ少年。
ヒノケンとの体格差なんかも感じて、守られてドキドキしちゃうけど素直にそんな事をオッサンに伝えるのは意地で言えない、揺れるお年頃。
大戦でも年の差カプ推しな自分ですが、どちらも成人済みでの年の差で。
ヒノアツは年下側が少年の年齢というトコロに甘酸っぱい気持ちというか、そんな要素を詰め込んでいけるのが美味しいなあと思うのです◎

2020.05.15 了
clap!

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