【Rockman.EXE@】
謎を呼ぶ" おじちゃん "の正体
『おいヒート、見てほしいモノがあるんだけどよ』
『見てほしいモノ?何だよ兄貴、急に』

休日の昼下がり。
ヒノケンがフレイムマンを伴い出掛けた為、ファイアマンとヒートマンが家では留守番中。
特に急ぎの研究作業だとかも無かった事からヒートマンは擬人化プログラムを実行し、リビングでのんびりと過ごしていたのだが、別室に居たファイアマンが不意にリビングに現れ。
手にメモらしきを持ち、ヒートマンに話し掛けた。
何事かとヒートマンがファイアマンの方に顔を向けると、その表情は深刻という程では無いが悩んだような、或いは不思議を思うような。そんな様子。

『ヒノケン様がフレイムと出掛ける前にだ、夕飯は何が良いか聞いておいたんだけどな』
『ん、おお。それで?』
『"コレ"を使ったのにしてくれってメモを渡されたんだが…メモを書いたのがフレイムで』
『…えっ。フレイムがちゃんとメモを取ったのかよ。マジか、しっかり成長してんだなぁ』

まだ話の途中だとは思ったが。
火力やロウソクの機能に容量の大半を割いた為、獣型の容姿通り話す事も出来ず知性の面で普通のナビとは劣ってしまうフレイムマン。
そんな弟が、少しずつ今のヒノケンや自分達の生活の中で「出来る事」を増やそうとしているのが、ヒートマンにとって非常に喜ばしく。
ファイアマンの話を聞き、感慨深げに眼を細める。

『…話を続けるぞ』
『ああ、悪ぃ悪ぃ。それに何か問題でも有るのかよ』
『大アリだ、コレ見てお前なら何を買ってくる?』
『どれどれ見せてみなっての。…んんー?何だよ、ちゃんと読める字で書いているじゃ…』

” おじちゃん ”

『……』『……』

『えっ、買い物メモだよな?』
『だから言っただろ、何買えばイイんだコレ』

ヒートマンが想像していたのは、文字が書けるように成り立てで拙く判別が難しい為に解読する事が出来ていないといった事で。
しかしファイアマンからメモを受け取り見ると、確かに拙さはあるがキチンとした平仮名が見え、おかしな点は無く思えたのだけれども。
明らかに食材ではないモノが堂々と書かれていた事から、一瞬フリーズしてコレが夕飯の為の買い物である事をファイアマンに確認しだす。

『オヤジはちゃんとフレイムに伝えたんだろうが、書く際に何かズレちまったんだろうな…オヤジに連絡して聞き直した方がイイんじゃねぇか?』
『バカヤロウ、聞いてメモを貰っておいてからに聞き直すとか…何を聞いてたんだって話になっちまうだろうが。ヒノケン様に二度手間は掛けさせたくねぇから、お前に聞いてんだ』
『ンな事を言われてもヨォ…しょうがねぇな』

ヒノケンに聞き直すのが、どう考えても早い。
しかしファイアマンとしては避けたいし、そんな兄の性分や言いたい事もヒートマンは理解している。何を伝えたかったのか…考えてみるしかないか。

『…ワンチャン、シーサーアイランド料理とか…』
『…あれか、オジサンとかいう魚か』
『聞き間違いでも書き間違いでも、近いだろ』
『確かにそうだが、そんな変化球って気はしねぇんだよな…どうしても他に分からねぇならソイツにしてみるしかねぇが、近所に売って…うん?』

『あ、れ…ファイ…マンも、ヒートマ…も、居ないの…な?フレ、イムマンも…ヒノケンさ、んのパソコンに…は、居ないみ…いだよ…熱斗く、ん…』

メモを前にして悩むファイアマンとヒートマンの聴覚プログラムに、これからの作業の為にリビングへ移していた、ヒノケンのメインパソコンのスピーカーから聞き覚えのある声が。

『ロックマンだな』
『だな兄貴。…オウ!こっちだロックマン!』
『あっ…ヒー…マン、ファイア…ンも…擬人化プログ、ラム中だっ…んだね。…だけ、ど…ねぇ、何だ…声が、途切れて…聞こえ…けど…?』
『そうそう、今このパソコンの音関係がイカれちまっててよ。オヤジとフレイムが新しいパーツだ何だを買いに出掛けてて、俺らは留守番してんだ』

ファイアマンとヒートマンが留守番中の理由。
ヒノケンのパソコンの電脳を訪れ、ファイアマン達を探すロックマンの声は途切れ途切れで聞き取り難く、ロックマンも現実世界から応対するヒートマンの声は聞き取り難い模様。
パソコンの音周りが故障やエラーを吐き出した為、新調すべくヒノケンはフレイムマンに荷物持ちを頼む形で買いに出掛けたのだ。

『そっ、か。事情は分か…たよ。えっと、ヒノケンさ…から頼まれて、たデータを…持っ…来たんだけ、ど…コレ、どうした…良いかな?』
『ついででイイから、炎ウイルスのデータを集めてくれとか頼んでたのを持って来てくれたのか、わざわざ悪ぃな。まあ音以外は大丈夫だから、そこのプログラムに渡してくれよ!』
『あそこのプロ…ラムくんだ、ね。了、解』

途切れ途切れの会話だが疎通は何とか出来。
ロックマンは電脳内のプログラムくんに近付くと、炎ウイルスのデータ転送作業に入り。
転送の経過をヒートマンは現実世界から見守りながらチェックし、無事に受け取れた事を確認するとファイルを新たに作成して保存を行う。

『よっしゃ、ちゃんと保存したぜ。お疲れさん』
『うん、良か…た。それ、じゃあボクは帰…ね』
『ちょっと待てロックマン』

ヒートマンとロックマンのやり取りを余所に、メモを片手に悩み続けていたファイアマン。
それがロックマンが帰ろうとワープホールへ向かい始めたところで、声を掛け呼び止め。

『お前なら買い物メモに"おじちゃん"とか書かれていたら、何を買って来る?夕飯の話な』

何か手掛かりになる答えが返らないかと。
メモの謎をロックマンに聞いてみたのだが、どうやら急で余計に聞き取り難かったのか。

『…えっ、何?ファ…アマン、コチュジャンが…どうし、たの?…夕御飯の、献立?辛い、食べ物は…ヒノ…ンさん、好きそう、だけ…ど…』
『コチュ…』『ジャン…』

『『それだ───ッッ!!!!』』

聞き取り難かったのが功を奏し、恐らく正解。
最悪、シーサーアイランドまでオジサンを仕入れに行くところまで考えていたファイアマンと、データを受け取りながらもメモの謎に悶々としていたヒートマンが同時に叫んだ為。
音割れしてパソコン内のロックマンに響く。

『うわぁ!な、何?ボク、変な…事、言った?』
『いいや!でかした褒めてやるロックマン!』
『そ、そうな…の?よく…分から…いけど、役に、立て…なら、良いけ、どファイ…マ、ン』

訳は分からないし相当に上からだが、ファイアマンなりに感謝しているらしいと理解したロックマンは、電脳世界から現実世界へ目を向けたけれど。
その目には、ダッシュで買い物に向かい始めたファイアマンの背しか見えなかったという。

─…

「へぇ、あのメモでよく伝わったな」

数時間後、ヒノケンとフレイムマンが帰宅して。
無事パソコンの音周りを直し終えた頃には丁度良く夕飯の時間になり、席に着いたヒノケンは今日の料理内容を見て、感心したように漏らす。

『えっ…ヒノケン様、それはその…フレイムが書いた内容を分かっていたという事で…?』
「ああ、アレで何が出てくるのか俺に聞き直してくるのか。どうなるのか、面白そうだったんで書き直さずに渡してみたんだよ」
『マジか…そのお陰さんで、下手したら兄貴は日帰りでシーサーアイランドまでひとっ飛びするんじゃねぇかってハナシだったぞ、オヤジ』
「はぁ?何だと思ったんだ…食べながら聞かせろよ」
『ヴォォォオオ?…ヴォッ!』

一家団欒の様相を呈して始まる今夜の夕御飯。
しっかりとコチュジャンを効かせて、野菜もお肉もたっぷり入ったアツアツのお鍋と共に。

■END■

・身内三人で馬鹿をやる
https://odaibako.net/gacha/4634

132 フレイムの買い物メモを見てみたら「おじちゃん」と書かれていて二度見するファイア。「コチュジャン」とはっきり言い直してやるヒート。

2022.03.25 了
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