【Rockman.EXE@】
乾燥わかめ増殖バグ
『…申し訳ありません、ヒノケン様』
「…おう」
『(…は?な、何?何だこの状況…)』
『ヴォォォォ…ッ?』

朝から晴れて過ごし易い陽気の、ある日。
ヒートマンはフレイムマンを伴い、擬人化プログラムを実行して午前中から現実世界での散歩に出掛け、そろそろ昼食という時間に帰宅し。
今日は休日でヒノケンも才葉学園での授業は無い為、揃って現実世界でお昼だろうなと暢気に考えながらリビングの扉を開いたところ。
ソファで寛いでいたらしきヒノケンに謝るファイアマン、という状況にばったり出くわし。
まず気不味さを感じたのだが、よくよくヒートマンが双方を見ると、何やらおかしな点。

『(何を謝られているのか、解ってなくね…?)』

謝る状況として今の自分達で考えられるのは、ヒノケンの研究データを破損させてしまったりデリートしてしまった、辺りが考えられるのだが。
ファイアマンの謝辞に対して重々しげに返したヒノケンの様子はといえば、ファイアマンがあまりにも神妙そうにして謝ってきたから、取り敢えず合わせて返しているといった風。
何故、謝っているのかは理解していないと見える。

『(つうか兄貴…何を持ってんだ?…味噌汁の鍋?)』

ヒートマンが抱いたもう一つの疑問。
恐らくつまり、ファイアマンはお昼の準備をしていた訳で、味噌汁も作っていたのだろう。
しかし、それが何の───

『つい膨張率を見誤ってしまって、とんでもない量の乾燥わかめを戻してしまいました…』

『って、何だそりゃああぁぁああ!』
『ヴォオッ!?ヴォ、ヴォッ!』

神妙を通り越して沈痛な面持ちで鍋をテーブルに置き、蓋を取って見せたファイアマン。
そこには確かに"ぎっしり"という表現が正しい程のわかめが詰まっており、「やらかした…」という気持ちが湧くのも分かる気がするけれど。
何もそこまで思い詰めなくても、という感想の方が先行したヒートマンが思わず叫んだ為、何が起きているのかよく分かっていないフレイムマンが隣でビックリしてしまっている。

『うおっ?!…な、何だお前ら帰ってたのかよ!』
『オウヨ!帰って早々に何を見せられてんだ俺らは!固唾を呑んで見守ったのがバカみてぇじゃねぇの!どんだけ戻してんだとは思うけどよ!』

ヒノケンが改心して才葉学園に赴任して以来。
"家の事"は、擬人化プログラムを実行して実体化したファイアマンが自発的に行っており。
それは元から持っていたヒノケンに対してのみ発揮される忠誠心が、"今のヒノケン"に出来る役に立てる事を思考した結果の行動で。
料理もまた、基本的にはファイアマンが中心。
料理人のナビはソード属性をパートナーにしている場合も多いが、同じだけ炎属性のナビをパートナーにする場合も多く、ファイアマンに全く向かない分野では無かった事に加えて。
ヒノケンに何かあっては意味が無いからと、「レシピ分量通り作る」事を最初にファイアマン自身が決めたお陰で、粗暴な性格には似合わないくらい完成した料理は堅実な出来栄え。

…なのだが。

『うるせぇな!何だってこんなに戻っちまうのか読めねぇんだから、仕方がねぇだろが!』

乾燥わかめの膨張率に関しては要領を得る事が出来ず、バグった量を戻してしまうらしい。

『はー?そんな分かんねぇモンかよ…』
『だったら、材料置いたままだからお前が作ってみろよヒート。四人前、戻してみやがれ』
『…いいけどよ、行こうぜフレイム』
『ヴォッ?…ヴォヴ!』

一瞬、面倒な展開になったとヒートマンは思ったが。
いくら何でもファイアマンが戻した量みたいな事にはならないだろうと高を括り、フレイムマンと一緒にリビングを出るとキッチンへ向かって行った。

「…やれやれ」

ファイアマンとヒートマンのやり取りを静観していたヒノケンが、不安げな声を漏らす。
何となく解るのだ、創ったのは自分なのだから。

─…

『えーと…悪かったぜ兄貴、あとオヤジも…』
『そらみろ、やっぱりそうなるんじゃねぇか!』
「…また、とんだ量を戻したもんだな」

待つこと暫し。
次にリビングの扉が開いて現れたヒートマンは、わかめが"みっしり"詰まった鍋を持っており、ファイアマンと同じような神妙さで謝りはじめ。
先程のファイアマンの気持ちが、よく解ったらしい。

『何で、あれっくらいの量でこんな戻るんだよ…!』
『…すみませんヒノケン様、どうしますか…コレ』
「しょうがねぇ、小僧を騙くらかして呼んで手伝わせるか。…適当にメールを出してくれ」
『了解ですヒノケン様』

わかめが詰まった鍋が倍になってしまった為、流石に食べきれないと判断したヒノケンは。
アツキとバーナーマンにも食べるのを手伝わせるようファイアマンに手配を頼む事で、取り敢えず今回は解決させる事にしたが。
これから何度もあっては困る、乾燥わかめ禁止令を出すしかないかと考えていたところで。

「…そういやヒートマン、フレイムマンは何処だ?」
『えっ。あ、キッチンに置いてきちまったな』

リビングに戻ってきたのがヒートマンだけな事に気付き、フレイムマンの行方を問えば。
まだキッチンに残っているとの返答。
行方に納得した一同が再びわかめ鍋を前にしていると…ぱたぱたと足音が近付いてくる。

…カチャ…

『ヴォゥ!ヴォォオオッ!』
『おいおい、別の鍋なんか引っ張り出して…ん?どうしたってんだ?蓋開けてみろって?』
『ヴォン!』

戻って来たフレイムマンは手に鍋を持っていた。
兄達の真似をしたものかと思ったヒートマンがフレイムマンに話し掛けると、蓋を取ってみてくれと促している様で、その解釈で合っているらしい。

……パカッ…

『えっ…』『なっ…』「おお」

蓋を取ったそこには。
丁度、四人前だけ戻された乾燥わかめ入りのお味噌汁。

『フレイムすげぇぇえええ!』
『神だ…乾燥わかめ神が居やがる…』
「何だその狭過ぎる神。……下手に思考が出来ない分、逆に上手く出来るみたいな事だな」

ヒノケンはともかく、ファイアマンとヒートマンにとっては自分達では成し得なかった事をフレイムマンがやってのけた事に感激していて。
ファイアマンに至っては崇める勢い。

『いやぁスゲェよフレイム、まず一人で作れたもんなぁ。お玉からとか行儀悪ぃけど、ちょっと兄ちゃんに味見させてくれよ』
『ヴォン!ヴォ!』

詳細は分かっていないが、兄達が褒めてくれているのは解ったフレイムマンはニコニコ顔。
そんな弟の様子にヒートマンも上機嫌で、フレイムマンが作った味噌汁を一口味見を───

……ずず…っ…

『……しょっっっぱああぁぁああっ!』
『ヴォ、ヴォォォオオンッ?!』
『しょっぱいって、まさか…味噌の量が…』
「…バグってるんだろうな」

どうやらフレイムマンは、乾燥わかめは完璧だが。
味噌の適量は…理解が出来ていなかったらしい。

─…

『フレイム、来てくれ』
『ヴォオオオッ?』
『乾燥わかめを戻してほしいんだ』
『ヴォ!ヴォオン!』

そんな事があって以来フレイムマンのキッチンでの役割は、前からの食事後の食器拭きと。
兄達には出来ない無二の乾燥わかめ戻し係として、今日もファイアマンに呼ばれていた。

■END■

・お題ガチャさんの結果からでした
どれだけ料理の腕が上達しても、乾燥わかめの膨張率だけは毎回見誤ってしまうファイア。
「美味しいから大丈夫」とフォローしながらわかめぎっしりの味噌汁を食すケンイチ。

2022.03.13 了
clap!

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