【Rockman.EXE@】
次男のヒミツの検索履歴
『おいヒート、ヒノケン様がお呼びだぞ』
『オヤジが?…何か詳しい事を言ってたか?兄貴』
…カタッ…
リンクナビの授業予約が少なかった為、早い帰宅になったヒノケンとヒートマン。
午後の時間に余裕が出来たヒートマンが、擬人化プログラムを実行してリビングで寛いでいたところに、同じく実体化中のファイアマンが現れヒノケンからの呼び出しを伝える。
『授業で使う新しい教材のインストールだそうだ』
『ああ、そういや新しいのを注文したとかナントカって言ってたな。届くのに、もう少し掛かるモンだと思ってたんだが…予定よりも早く届いたって事か』
『いいから早く行け、ヒノケン様を待たせるな』
『分かってるって、伝えてくれてありがとよ兄貴』
ファイアマンの機嫌を損ねてしまう前に。
ヒートマンは寛いでいたソファから立ち上がると、一言礼を添えてリビングから出て行った。
用件を伝え終えて独り残されたファイアマンは、主のインストール作業が済むまで特に自分の出番は無さそうだと、ヒートマンが座っていたソファで待つ事に―――
『……ん?…ヒートの奴…』
ソファに合わせて置かれているテーブル。
そこに1台のPETがポツンと置き去りにされており。
カスタマイズジャケットの印象的なファイアパターンは黄色を基調としていて、ファイアマンのPETのモノとは色違い、ヒートマン専用のリンクPETで間違いない。
普通PETはオペレーターが携帯しておくべきなのだが、家の中で擬人化プログラムを実行している時は、ナビがそのままPETを所持している場合も増えている。
そういえば、ファイアマンが話し掛けた時にヒートマンは何かを…テーブルに。
正体はリンクPET、ヒノケンの元に急ぎ向かおうとして忘れてしまったのだろう。
『インストールするのにPETが無かったら意味無ぇだろ、ったく仕方が……?』
呆れながらファイアマンはPETを手に取り。
届けに向かおうとしたところで、PETの画面がとある表示で止まっている事に気が付く。
検索画面であり、1タップすれば恐らく履歴画面。
『……』
いやいやいや、流石に。
ナビだってプライバシーというモノが。
…ポチっ
一応の理性は働いたのだが、気付いた時にはファイアマンは検索履歴をタップしていた。
いや、うん、大丈夫だきっと履歴は消しているに…
『……は?』
ファイアマン自身、どんな検索履歴が出てくる事を期待していたのか分からない。
分からないが、とにかく出てきた履歴の結果が予想外だったのだけは確かで。
そこには「猫 かわいい 画像」だの「動物園 かわいい 動画」だのがズラリと並び。
実際に出てきたリンク先に飛んだ形跡も。
『……な、何だコイツ…可愛いじゃねぇかよ……』
予想外だった割にファイアマンは。
ヒートマンが一度は飛んだであろうリンク先に飛んでいて、出てきた猫の画像だの愛くるしい仕草をする動物園の動物達の動画に、ちょっとトキメキを隠せない。
いやいやいや待て待て待て、可愛いとかではなくて見るなら猛獣系のヤツをだ。
『うぉお…ガキは駄目だ、ガキは卑怯だろうが…!』
幸い(?)虎だライオンだといったカテゴリの履歴が見付かり、半ば祈るような思いでタップするも、赤ちゃん虎や赤ちゃんライオンが繰り出され、その無垢な瞳にノックアウト寸前。
何だかもう弟の一面に加えて自らの嗜好も晒け出され、ファイアマンが悶えていると。
『いけねぇいけねぇ、PETを忘れ…あっ』『あっ』
……
『…なっ、なななナニを勝手に俺の検索履歴を見やがってんだああぁぁああ!!』
PETをリビングに置いたままな事に気が付かない訳はなく、ヒートマンが戻り。
そうして目にした光景は、ファイアマンが自分のPETを持って妙に悶えている姿。
何でそんな事になっているのか。
だがしかし、ヒートマン自身もその悶え方には覚えがあった。そう、検索結果。
ファイアマンが何を見てそうなっているのか瞬時に理解したヒートマンは、プライバシーの侵害に対する怒号半分と恥ずかしさ半分でファイアマンに抗議した。
『おっ、オメェが忘れたのが悪いだろ!』
『だからって見るヤツがあるかよ馬鹿兄貴!』
『あんなの見てくれって据え膳だろうが!』
『そんな訳ねーだろ!』
『大体、俺はオメェの兄としてやましいモンを見てないかチェックしただけだ!』
『普段はお前らを弟だと思ってねぇとか言うクセに、こんな時だけ兄貴ヅラすんなオラァ!』
『うるせぇな!つうか何だアレ!どいつもコイツもえっれぇ可愛いじゃねぇか!』
『そうだろ、スッゲェ可愛いから仕方がねぇだろ!』
兄弟喧嘩は兄弟喧嘩だが、途中からバレてしまったお互いの嗜好を舐め合う様な流れになり。
双方、ちょっと冷静になる。
『…まあ確かに…勝手に見たのは俺が悪かった』
『…お、おう、そう言ってくれりゃ…俺も大声を出しちまって悪かったぜ兄貴』
素直にPETを差し出し返すファイアマンに、ヒートマンも謝り受け取ると。
冷静になったはいいが今度は冷め過ぎて、この場をどうすれば良いのやら。
「…おい、PETを取るだけで何を騒いでんだ?」
『ひ、ヒノケン様…』
『オ、オヤジ…いやその…』
ヒートマンの戻りが遅い事に痺れを切らしたヒノケンが、リビングに現れた。
先程の喧嘩内容は詳しく聞こえなかったらしいが、騒いでいた事は分かっているらしい。
『え、えーと…ヒノケン様…は、可愛い動物だとかに…興味はあるのかな…と…』
「何だそりゃ急に、関係あんのか?」
『か、関係っつーか…俺達がちょっとだけ、そういうのに興味が有るからよ。…もしかしてオヤジの好みだとかが反映してんのかなとか…そんな事を思ったんだぜ』
騒いでいた原因を誤魔化すには苦しいが。
しかし全く無関係な訳ではないし、ヒノケンに確認してみたい事ではある。
オペレーターの嗜好が、創るナビにも影響を及ぼす事は決して珍しい事ではない。
ならば、自分達の嗜好の大元は―――
「…よく分からねぇけどよ、俺が一番可愛いと思ってる獣ならウチに居るだろ」
『えっ?』『えっ?』
「お前らの弟じゃねぇか、フレイムマンは"獣型"で創ったのを分かっているだろ?」
『……ヴォ…ヴォヴォッ?ヴォー…?』
ヒノケンに呼ばれたと思ったのか、それとも自分以外の全員が集まっていたからか、別室に居たフレイムマンがひょっこりと顔を出してヒノケンと兄達に近付く。
今はフレイムマンも擬人化プログラムで人間と変わらぬ姿で実体化をしている。
けれどナビの姿は。
『…ハハ、そっかそっか。それじゃあ俺等が可愛い獣に興味があって当然だよな』
『俺等って、俺まで含めるんじゃねぇヒート』
『何だよ素直じゃねぇな兄貴。…なぁフレイム』
『ヴォウ?…ヴォッ、ヴォーウッ♪』
ヒートマンに撫でて貰えて上機嫌のフレイムマン。
ファイアマンは、まだ納得がいかなそうだけれども。
ちゃんと、解っている。
自分達の嗜好は何も可笑しな事ではない。
ただ、ほんの少しだけ「兄弟愛」のプログラムが変異して表れていただけなのだと。
■END■
こっそり相手が持っている電子機器の検索履歴を覗き見たら「猫 かわいい 画像」「動物園 かわいい 動画」しか出てこず不覚にもときめいてしまうファイアとヒートの片方
#おばかなことする2人が見たい#shindanmaker
https://shindanmaker.com/687454
2020.09.25 了