【Rockman.EXE@】
薔薇の色を貴方に重ねて
貴方へのサプライズ。
大切な―――貴方への。


『そういやさぁ、兄貴』
『何だ?』

夕飯が終わった、火野家の台所。
後片付けの光景に居るのは三兄弟。
そんな何時もの光景の中。
綺麗に水洗いされ、湯通しされた皿をファイアマンから受け取りながら。
ヒートマンは、ふと。
今日、データの片隅に記憶したことを思い出した。

『頼まれたモンを買いに、デパートへ行ったんだけどよ…そろそろ、父の日なんだな』

ほい、と。
ヒートマンは、フレイムマンに拭き終わった皿を渡しながら話を進める。

『…で?』
『んー、何かしねぇ?オヤジに』

ファイアマンの方に向き直って、次の食器。
その間に、フレイムマンは受け取った皿を食器棚の元の位置へと戻す。
少々フレイムマンが危なっかしいけれど、これが火野家の後片付けスタイルの様だ。

『何か、ってお前…』

「オヤジ」、と。
基本的にはヒートマンが勝手にそう言い出しただけで。
ヒノケンも、それを放任主義的に何も言わないだけで。

人間と、ナビで、明確な縁がある訳ではなくて。

『別にいいじゃねぇか、日頃の感謝のついでだと思えばさ』

ファイアマンがどんな考え方をしているのか、ヒートマンはいつも身近に居るからよく分かっている。
すぐに応じるとは最初から思っていない。
面倒な事を言い出す前に、畳み掛ける方向でいくことにした様だ。

『フレイムは賛成してくれるだろ?』
『ヴォヴ!』
『フレイム、皿を振り回すな!皿を!』

分かってるんだか分かってないんだか。
分からないが。
加勢としてフレイムマンに話を振ると、嬉々としてヒートマンに同調の意を示す。

『誕生日だって、三十路を迎えてそろそろ目出度いモンでもなくなってるだろうしよ』
『…そこまで言わんでいい』

身近に居るのは、ファイアマンからしても一緒。
ヒートマンが何を考えているのかぐらいの見当は付く。

『…今週の土曜日、空いているのか?』
『丁度良い事に…オヤジは臨時の職員会議だけど、俺の必要は無くて暇だぜ』
『…だから、か?』
『まぁ、確かにそれもちょっとあるけどな』

軽く笑いながら、次の皿。

『で、兄貴』
『何だ』
『日取りを聞く、って事は…賛成なんだろ?』
『…フン…』
『ったく、ちゃんと返事しろよ』
『ヴォウ!』

そっけない返事をするファイアマンに、フレイムマンも少しご立腹気味。

『いいだろうが別に!……土曜日、だな』
『やれやれ、素直じゃねぇんだからよ』
『うるせぇな…』

擬似的な、モノで。
本当では、なくて。
それは、ヒノケンに限った事だけではなく。
ファイアマンとヒートマンとフレイムマンの関係も、正確な事をいえば…そうで。

―――けれど。

そんな勝手な繋がりでも。
今の自分達には、とても大切な繋がりなんだと。
思える様になっていた。



『…で、よぉ』
『何だ、ヒート』
『ヴォ?』

土曜日を迎え。
三兄弟は、タウンの中心に位置するデパートへ到着したところである。
中へと入れば、各所に特設された「父の日」コーナーも目に付く訳だが…

『…何をプレゼントすんのが、良いんだ?』
『…お前、言い出しっぺが何も考えてねぇのかよ!』
『ヴォウッ!?』
『ンな事を言われてもな…』

頭をポリポリと掻いているヒートマン。
かなり、行き当たりばったりの企画だったらしい。

『まぁ、そんな事じゃねぇかと思ったから…どんな事をすりゃいいのか、検索を掛けておいたけどよ』
『マジで?さっすが兄貴!オヤジが絡むと行動力が違う!!』
『ヴォウ、ヴォヴ!』
『……微妙に、馬鹿にしてないかお前等』
『いやいや、決してそんな事は』
『ヴォウヴォウ♪』

どっちだフレイムマン。
肯定しているのか、それともヒートマンに同意しているのか。
生憎と、判断は出来ない。

『…まあいい、行くぞ』
『どこに行くんだよ?』
『取り敢えず…花、だ』

ヒートマンとフレイムマンは、そう言って一人、歩き出したファイアマンの後ろに付いて追い掛ける。

『花ぁ?』
『ヴォ?』

二人には、ちょっとピンとこない。

『いいから、付いて来い』
『オ、オウ』
『ヴォヴ…』

そうして着いた先は、基本的に縁が無いその売り場。
一階の、少し奥まった位置。
全面的にガラス張りが施されて外光が取り入れられ、通気的な配慮からか、デパート内の出入り口の一端を担っている。
そこには、色とりどりの花々が競い合う様に華開いていた。

『花屋をマトモに見るのなんて初めてだな、フレイム!』
『ヴォウ!』

電脳世界で出会う植物類といえば、自分達にしてみれば恰好の燃やす対象。
そういった延長もあって。
現実世界に咲き誇る花々を、こうしてまじまじと見ることはまず無い。
改めて。
電脳世界での意味を離れて観賞する花は珍しく、ヒートマンもフレイムマンもキョロキョロと店内を見回している。
ハッキリと態度には出さないが、それはファイアマンも例外ではない様子。

『…それで、何の花を買うんだ?兄貴』
『何でもいい、とはなっていたが…基本的にはバラみてぇだな』
『バラ?』
『ああ』

言いながらファイアマンは店内の一角に目を止め、花々の合間を抜けて目的の花に向かう。
ファイアマンの一存に任せているヒートマンとフレイムマンの二人は、それに従った。

『へぇ〜…』
『ヴォ…』

各品種、各色のバラが揃えられたスペース。
再び、二人は物珍しそうにそれを見回す。

『バラ、つっても色んなのがあるんだな!』
『ヴォウ♪』
『好きなのを選べ』
『色とか、決まってねぇの?』
『その辺りは説が色々あって、よく分からねぇんだよ…だから、色違いを三色でいいんじゃねぇか?』
『成る程な…』
『ヴォヴ…』

一人、一色。
どれにしようか、揃って真剣にバラを選び始めた。



『んん〜〜〜…やっぱ、俺はコレだな!』

長考していたヒートマンが指差し選んだのは、黄色のバラ。

『俺のイメージカラーって感じだからよ!』
『…父の日のシンボルカラーでもあるな』
『へ?何だそれ兄貴』

気が付けばヒートマンの後ろにはファイアマンが居て、ヒートマンが選んだバラに目線を送っていた。

『ニホンの父の日で一般的に贈る花は黄色のバラなんだとよ』
『ふぅん』

そう言われてみると…確かに他のバラよりも、黄色のものは品数が多い様に見受けられる。


―――それにしても、兄貴。
何だかんだ言ってるけど、そんだけ調べている辺り。
…一番乗り気なんじゃねぇのか…?
って言うと、

『お前等が調べねぇからだろうが!』

とか言われるんだろうな…
黙っておくぜ。


『フレイムは決めたのか?』
『ヴォウ!』

ファイアマンに呼ばれ、少し離れた位置に居たフレイムマンは良い返事。
どうやら、どれにするのか決めた様子。
二人が近付くと、フレイムマンは勢いよく選んだバラを指し示した。

『うわ、すっげぇ真っ赤!』
『ヴォ!』

正に真紅と呼ぶに相応しい、赤。
その精巧な花弁の色彩と質感はベルベットを思わせる。

『それにするのか?』
『ヴォヴ!ヴォウ♪』
『そうか…分かった』


―――アレ?

ちょっと、意外だ。

赤は…兄貴のトレードカラーで。
オヤジが大好きな、燃える様な真っ赤。
俺はてっきり、

『違うのにしやがれ!』

とか、揉めるんじゃねぇかと思ったんだけどな…
随分と素直じゃねぇ?


『えっと、よ』
『ん?』
『兄貴は…どれにすんのか決めてんのか?』
『…ああ、決めてある』

一言だけ、言い残して。
ファイアマンは店員を呼びに、その場を離れた。



翌日は6月の第三日曜日。

『…と、いう訳ですヒノケン様』
『いつもありがとよ、オヤジ!』
『ヴォ…♪』
「…そういや、ンな日もあったな…」

休日の朝。
平日忙しくしているヒノケンが休日に起きてくるのは遅く、本日もそれに漏れず起床は遅め。
やっと起きて、まだ半分寝惚けている状態でリビングへ向かうと…何故か、揃って明らかに緊張して改まり気味の自分のナビ。
当然ながら目も覚める訳で。
どうかしたのかと聞こうとした矢先に、ファイアマンから件のラッピングを施された花束を差し出され。
今日が何の日なのかを告げられたのである。

「へっ…何か照れんな、こういうのってよ」
『それはお互い様だぜオヤジ!』

ヒートマンは笑って、頭の後ろで腕を組む。
一色十本。
合計三十本で構成されたバラの花束を渡されたヒノケンは勿論。
三人にとっても、こうして改まって感謝をするのは何だか照れくさい。
そういった照れ隠しが、お互いに見え隠れする。

「黄色を選んだのはヒートマンだろ?」
『当ったりぃ』

渡された花束を改めて見直したヒノケンは、三人が一色ずつ選んだのだろうと見抜いた。

「コイツはファイアマンだよな」
『…いえ、ヒノケン様』

ヒノケンが指したのは―――真っ赤なバラ。

『それを選んだのは、フレイムです』
『ヴォヴ!ヴォ…』
「何?…そうなのか?」


―――ちょっとフレイムの奴は拗ね気味だな。
そりゃそうだ、って気もするけど…オヤジにしても、やっぱアレは兄貴が選んだって思うよな。
兄貴が選んだのは…


「悪ぃ悪ぃフレイムマン、機嫌直せ」
『ヴォ……ヴォウ…』

ぐりぐりと、不機嫌顔のフレイムマンの頭を撫でて。
ヒノケンは機嫌を直そうとする。

「…って事は、だ」


―――何で。


「白が…ファイアマン、か?」


―――何で、なんだろうなぁ。


『…はい』

赤を、より際立たせて。
黄を、一層引き立たせて。


純白は、そこに在る。


「何でまた、お前が白なんだ?」


―――俺が聞くと、色々面倒だけど。
オヤジが聞いてくれるんなら、話は別。
…つか、オヤジ。
そろそろフレイムを離してやれって。


「ん?」

ヒノケンはまだ、ぐりぐりとフレイムマンを撫でながら、目線はファイアマン。
フレイムマンの機嫌はもう直っているのだが、今度はぐりぐりされ過ぎて困っている。
そもそも、そうなっているのはファイアマンがすぐに返事をしないからで。

『…え、っと…その…』

ファイアマンも、困っている。
何故、困るのか。
しかし、それ以上に。
どう見ても照れている。

『……「心からの尊敬」、なのだ、そう…です……』


花に込めて。
色に込めて。

伝える言葉。
無言の言葉。


花言葉。


「…そうか…へっへっへ…ありがとよ、ファイアマン」

説明と言うには、不十分なその台詞。
けれど全員が得心した。

『…やれやれ…』


―――全く、この馬鹿兄貴。
やっぱ、一番乗り気だったのは…兄貴じゃねぇか。
な、フレイム。


―――ヴォヴ!




……


―――もう一つ…あるんです。
ヒノケン様。


自惚れ、ですが。



「私は貴方に相応しい」



俺は。

ずっと。


貴方の為の。

…貴方の為、だけの。


存在で居たいと…想ってるんですから。



俺を創造してくれた。
貴方に、感謝を。

■END■

2006.05.20〜2006.06.18 父の日&2万打感謝
2020.02.24 加筆修正
clap!

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