【Rockman.EXE@】
額の上なら友情のキス
"Freundschaft auf die offne Stirn,"



夕焼け小焼けで日が暮れて、何てフレーズが似合う季節でもないけれど。
川辺沿いの帰り道を歩くアツキの正面には、真っ赤な太陽が燃えている。

「ン〜〜〜…こげな景色ば見てると、地元を思い出スべな〜」

キラキラと。
夕陽の反射を受けて光る川面を臨みながら、その柔らかな情景にアツキは少しノスタルジア。

『何だアツキ、ホームシックか?』
「ハハハ、ンな訳ねぇべ!バーナーマン」

"川辺を歩く帰り道"というのは同じだけれど、違う場所。
今、アツキはヒノケンの要請で才葉シティに住んでいる。
名目としては「研究の協力者」という体裁である為、ナビの研究を大いに奨励するシティ側からは特待生的な扱いを受けており。
そんな環境に不満は無いけれど。

バーナーマンに返した笑顔はしかし、どこか郷愁を帯びた夕焼け色。

明るい性格で、友人が出来るのも早いであろうアツキだが…
まだ、新しい生活に順応しきれてはいないのだろう。

『…オッサンの家に寄ってくか?アツキ』
「…オラも、そう思ってたところだべ!」

にっ、と。
らしくない自分を払拭する様な…いつも通りの笑顔をPETのバーナーマンに向けて。
年がら年中、騒々しい火野家へ寄り道する提案をアツキは快諾する。

「スっかス、こンの時間じゃ…まだオッサンは帰ってねぇンでねか…ン?」
『どうした?アツキ……って、ゲッ!?』

PETから顔を上げて、何気無く河原の方向に目線を送りながらバーナーマンとの会話を続けるアツキだったが。
不意に、そのオレンジ色の世界の中で。
同化する様に、けれど一際強い色を放つオレンジの存在に気が付いた。

「おーい!フレイムマンでねかー?」
『ヴォ…?ヴォウ!ヴォウッ♪』

川面ギリギリのところで屈み込んでいた、オレンジの塊の正体はフレイムマン。
何か、彼にとって不思議なモノを見付けていて。
そして「?」を浮かべながら、じーっと見詰めていたのだろう。
そこへ飛び込んできた自分を呼ぶ声に反応すると、立ち上がって辺りを見回し。
アツキの姿を確認したところで明るい笑顔を浮かべた。

「1人で遊んでいたンかー?」
『ヴォ!』

アツキが道を外れてフレイムマンの居る河原へ足を向けると、フレイムマンもそれに応じて。
尻尾の様に後ろ髪を揺らしながら、嬉しそうに駆け寄る。
髪も、瞳も、オレンジの彼が走り寄ると、まるで夕陽が迫る様。

『ヴォヴー♪』
「うわっと!…ハハハ、フレイムマンは相変わらず元気だべなぁ!」

一段高い道路から河原へ降り立ったと同時に、アツキはフレイムマンに抱き付かれて。
にこにこと笑うフレイムマンの頭を撫でてやる。
初対面以来、アツキはフレイムマンの事が気に入って弟分の様に想っているし。
フレイムマンの方も、そんなアツキを兄達と同じ対象として認識している。

『…ヴォウ…?』
「ン、どスたべ?フレイムマン」

急に。
じゃれていたフレイムマンが再び辺りをキョロキョロと見回し始めた事を、アツキは不思議に思う。
とはいえ…何しろ言語的な疎通がままならない為、フレイムマンに問うたところで結局は推測するしかないのだが。

「……あ、もスかスて……バーナーマンを探スてるンだべか?」
『ヴォ!ヴォウ、ヴォヴッ!!』

どうやら、アツキの推測は的を得ているらしい。
こくこくと頷きながら、フレイムマンの顔は「どこにいるの?」とでも言いたげな表情に変わる。

「バーナーマンならPETサ居るべ!…ンだ、擬人化プログラムを実行スてやるべか?」
『ヴォウ!ヴォヴ!!』
『よ、よせアツキ!コイツ、間違い無く俺の事を噛む気だろ!!』

アツキとフレイムマンの二人は、すっかり打ち解けたものだが。
バーナーマンはというと、初対面時にフレイムマンから噛み付かれたのが相当効いたらしい。
すっかり、トラウマの対象になっている。

「なーに言ってるべ、あン時は初めてだったから、ツぃっと警戒スてただけだべ?フレイムマ…どわぁっ!」
『ヴォ!ヴォウー♪』
『ギャアア!ほら見ろ!!PETも俺も食いモンじゃねぇぞテメエ!!』

PETをフレイムマンに向けて、初対面時のわだかまりを無くそうとアツキは思ったのだが。
対面すると同時に、フレイムマンはPETをあぎあぎと噛み始めてしまった。
慌ててアツキはフレイムマンからPETを離し、スリーパーホールド的に取り押さえる。

「……何やってんだ?お前等」
「うわ!?……って何だ、誰かと思ったらオッサンでねか」
『ヴォッ!ヴォ!』

いつの間にやら…というか、騒いでいる間になのだろうけれど。
気が付けば、同じく帰宅中だったらしいヒノケンが二人の目の前に立っていた。
そして確かに二人の現状は、「何をしているんだお前等」と問いたくなる絵面ではあるだろう。

「何スてる、って…見ての通り、フレイムマンと遊ンでいたところだべ。な?」
『ヴォウ!ヴォウ〜♪』

アツキがフレイムマンに同意を求めると、フレイムマンはホールドされたまま嬉しそうに腕をぱたぱたと振る。
どうやら、異論は無い模様。

「ふ〜〜〜ん…」

そんな二人の様子を見ていたヒノケンだったが。
不意に、ジャリ…という河原に敷き詰められた小石の上を踏む、独特の音を響かせて歩を進める。

と。


びしっ。


『ヴォウッ!?』

近付いたヒノケンが、少し屈んでフレイムマンと目線を合わせたかと思ったら。
目が合って「なぁに?」と、少し不思議そうにしていたフレイムマンの額にデコピンをクリティカルヒットさせた。

「な、何をスるべ!オッサン!!」
「……別に」

ホールドしたまま、アツキはフレイムマンを庇う様にしてヒノケンの前に出て抗議する。

「可哀想でねか!…よスよス、酷いオッサンだべなぁ!」
『……ヴォ……』

アツキになでなでされて、それ自体は「うれしいこと」なのだとフレイムマンは理解した。
しかしながら、絶対的な位置として思考認識しているヒノケンの機嫌があからさまに悪い事で素直に喜ぶ事が出来ず。
どうしたらいいのやら分からなくて、板挟みになってしまっている。

「まだ、デコが痛むンだべか?」

フレイムマンの弱々しい返事にアツキは、まだデコピンが痛むものだと思った様だ。
相互で言語を解し、介す訳ではないのだから…そうした差異が生まれてしまうのは必然であり、仕方の無い事だろう。

「ンっとに、可哀想になぁ」

微妙な誤解に気付かぬまま。
アツキはフレイムマンのホールドを解くと、自身が導き出した結論に基いて慰める事にしたらしい。

「ホレ、痛いの飛んでけー!だべ!」


そう言って。
フレイムマンの額に近付いたモノは。
掌、ではなくて。


ちゅ、と。


可愛らしい、小さな音が零れた。


「…こンでもう、痛くねぇべ?」
『……ヴォ……』

アツキが「にかっ」と、満面の笑顔を向けると。
フレイムマンも。
返事自体は先程と同じく、少し困った様な小さな声だけれども。
夕陽に照らされたその顔には、ちょっとはにかんだオレンジ色の笑顔が浮かんでいた。


それは多分。
今の行為が。


「もっと、うれしいこと」だと思ったから。



「……オラ!とっとと帰るぞオメーら!!」

その間に割って入る様に、完全に仲間外れ状態のヒノケンが二人の肩を掴んで自分の下へ抱き寄せる。
どこからどう見ても、そうなったのは自業自得な訳だが。

「ぎゃあ!…さっきから何ね、オッサン!」
「うるせぇ!オメエも同罪だバカヤロウ!!」

ぐりぐりぐりぐり。

「あででででででで!こめかみサぐりぐりスるでねぇべオッサン!ちゅうか"同罪"って何の事だべ!?」
『ヴォ〜〜〜…』

ずるずると、ヒノケンによって強制的に歩かせられる格好のままアツキはぐりぐりされていて。
同じく、ずりずりと引き摺られ気味に歩くフレイムマンは、ヒノケンに遠慮しながらもアツキに心配そうな目線を送る。

「…なスてこのオッサン、こげに機嫌が悪いンだべなー?」
『…ヴォヴ…?』

そんなフレイムマンの様子に気付き、顔を見合わせる二人は不思議顔。
ずかずかと歩く真ん中のヒノケンの顔は、相変わらずの仏頂面。


一連の行動は何故か、なんて問われても。
「妬いたから」、だとか口が裂けても言えない。


「アツキと仲が良いフレイムマン」も、「フレイムマンと仲が良いアツキ」も。


二人は、否。
ファイアマンやヒートマン達も含めて、全部。
「自分のモノ」だと思っているから。


…だからこそ、手に入らない。



―――「友情」に、妬けたんだと想う。



「……我ながら、みっともねぇな」
「何ねオッサン、自分のスてる事が分かってるンでねぇか」
「って、聞いてんじゃねぇよ!!」

ギリギリギリギリ。

「あだだだだだだだ!ワケ分かンねぇキレ方スるでねぇべ!大体、本当の事でねぇかオッサン!!」
「うるせぇー!!」
『ヴォ〜!?』


夕焼け小焼けで日が暮れて。
さっきよりも少しだけ伸びた三つの影は、帰り道の続き。




Freundschaft auf die offne Stirn,

(額の上なら友情のキス)

■END■

2007.04.01 了
2020.02.03 加筆修正
clap!

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