【Rockman.EXE@】
火野さんのお家は三兄弟【RE】
───ピーンポーン♪
「オッサーン、居るだかー?」
『居なくても勝手に上がるけどよー』
ある休日の昼下がり、といった時間。
暇を持て余して外へ出掛ける事にしたアツキは、バーナーマンに擬人化プログラムを実行して現実世界へ招待し、向かう足は自然とヒノケンの家。
チャイムを鳴らしながら在宅を問うものの、ヒノケンが居ようが居まいが基本的には関係が無く、貰っている合鍵でアツキは既に鍵を開け始めており。
勝手に上がり込んで暇を潰す気満々、といった算段。
ガチャ…
『ファイアマーン、居るかぁー?』
アツキが開けてくれた玄関のドアを軽く覗き。
一足先に中へ入ったバーナーマンは、オペレーター同士と同じく自らの好敵手であるファイアマンの在宅を問い、家の奥まで届くような声を響かせる。と。
───…ヴォオオ…ッ…
『…ん?』
「どスただ? バーナーマン」
中途半端な位置でバーナーマンが立ち止まっている為に、アツキはまだ中へ入れていない。
何故そんな事になっているのか、投げる疑問の声。
『いや、奥から獣みたいな声が聞こえ…ッ?!』
後方のアツキに振り向こうとした、その時。
バーナーマンは見切れそうになる視界の端で、素早く自分に飛び掛かる某かの影を捉えた。
だが、避けようにも影の速度は遥かに速く───
『ヴォオオッ! ヴォヴヴォヴッ!』
『ぎゃああぁぁああっ!?!?』
「な、なンだべーッ!?」
びったぁーん!!
……ガチャン! ドタドタドタドタッ!
『い、いかん! おい、フレイム! 客に向かって何やってやが…る…って、何だ、お前らか』
『何だ、じゃねぇよファイアマン! 寧ろ何だはコッチの台詞だ! 誰だよコイツはーッ!』
バーナーマンと同じく擬人化プログラムを実行中で。ナビマーク入りのエプロンに、手には浴室向けスポンジという、恐らく風呂掃除を行っていたであろう姿で現れたファイアマン。
玄関先からの悲鳴だ何だを聞きつけて慌てて飛び出して来たらしいが、客がアツキとバーナーマンだと分かると、慌てて損したといった拍子抜けの様子を見せ。
そんなファイアマンの態度に抗議するバーナーマンの身体の上には、客人である二人が今まで見た事の無い、擬人化プログラムを実行中のナビが乗っていた。
『ヴォ…ヴォオオ…?』
あぐあぐ。
『って、俺の髪を噛むんじゃねぇえ!』
『ん…お前ら、フレイムと会うのは初めてだったか』
「フレイム? フレイムマン、でエエだか?」
『ああ、そうだ。…ウチの一番下だ』
「あンのオッサン、三体もナビを持ってたンだなや。…維持だとか、大変なンでねぇの?」
『ヒノケン様に掛かれば、別に大変ではねぇよ』
あぎあぎ。
『話してねぇで、コイツを俺から離してくれーっ! 何で俺の事を噛んでくるんだコイツ!?』
『ヴォッ! ヴォオオヴッ!』
「最近、出来たナビなンだか?」
『……いや、お前らに会う前から…居たんだが…』
バーナーマンの事は一先ず無視を決め込み。
アツキからの質問に、ファイアマンは間を置く。
窺えるのは、話すべきが否か決めかねた様子。
『……フレイムは出来てすぐ色々あってな。…最近、漸くデータが復旧して再起動が出来た』
「復旧…? …ふーン…そうなンか」
ファイアマンの選択は「否」になるだろう。
しかしながら、ファイアマンの迷う様子が普通ではないとアツキもすぐに気が付いており。
そして普段ならば、立ち入った事にも首を突っ込むような性格をしているアツキであっても、それが憚られる空気もファイアマンから同時に感じ取った為。
深い詮索をアツキはしなかった。
「(…"そうなる"ッちゅうのは、つまり)」
復旧、という台詞から大体の察しはつく。
ナビにとって忌むべき「デリート」という時間がフレイムマンには降り掛かったのだと、ファイアマンは濁した言い方でアツキに伝えたのだと思う。
けれど復旧が出来たのならば、そんな誤魔化した言い方などしなくても良いのでは?とも。
それでもファイアマンは、敢えて「そう」言って。
デリートに至った経緯を今は明かしたくない、考えられる理由はその辺りか。アツキはまだ、ヒノケンの過去を───知るには早いと、伏せられている。
『話してねぇで、マジで助けろってー!』
少し、重くなりかけた空気と間。
それどころではないバーナーマンが声を上げ叫ぶ。
『ヴォヴ…ヴォオ…?』
がじがじ。
『噛むんじゃねぇっつうのー!』
『(…多分だが、火なのに青いのが不思議なんだな)』
何となく、フレイムマンが疑問を抱いていると感じ取ったファイアマン。弟の行動の理由に一人この場で納得したが、バーナーマンには言わず黙る方向。
「…普通に、喋れないンか?」
『…元からそういう設計で創られたからな。擬人化プログラムを実行しても人語は話せねぇし、再起動はしているがまだ完全じゃねぇせいか人語翻訳を受け付けない状態になってる』
どこまでフレイムマンの事を聞いて良いのか。探り気味なアツキの質問に、今度は濁さずフレイムマンに起きている現状をファイアマンは答えた。
その返しに濁りが無いとはアツキも感じ、もうひとつ踏み込んでファイアマンへ質問を。
「そげな状態で、何て言ってるか分かるンか?」
『…確かに、翻訳プログラムが効かねぇから人語として正確に理解は出来てねぇ…けどよ』
「? …どスたべな」
今度の間は、少し違う。
ファイアマンはスポンジを玄関の靴入れの上に置き、腕を組んでひと呼吸から続きを話す。
『まあ…何となくだが解るモンだ、ヒノケン様もヒートも同じくな。…俺はそんな事を認めていないが、ヒノケン様が創られた…俺の弟、だからよ』
「ははは! なるほど、兄弟はそげなモノだべな!」
『…フン…』
『だーかーらー! ちょっとイイ話なのは結構だけどよ! 俺を助けてからにしてくれー!』
未だにフレイムマンに乗られているバーナーマン。
多少、いやかなり、いい気味だという気持ちからファイアマンは今迄放っておいたのだが。
流石に解放してやるかと、弟を呼び寄せ───
『大体ファイアマン! エプロンでカッコつけてんじゃねぇよ! バアアァァアアーカッ!!!!』
ぴきっ。
『……フレイム』
『ヴォッ?』
『ソイツを好きなだけ噛んでいいぞ』
『ヴォオオオッ! ヴォヴォッ!』
がぶがふ。
『いてぇえええ───ッ! ファイアマンてめぇ───ッ!! 助けてくれアツキいぃいい!』
もう数秒を待てれば解放されたのに、余計な一言。
最早こうなっては、アツキに助けてもらうしかない。
のだが。
「いいでねかバーナーマン、めンこいヤツでねか」
なでなで。
『ヴォヴヴ…? ヴォ…ヴォオオヴッ…』
『ア、アツキぃ〜…』
いかん、そうだった。
アツキは、このテの元気がいい動物系を目にすると合わせてテンションを上げるタイプで。
どうやら実際のところ獣型であるフレイムマンの事が、そういった方向で気に入ったらしく、それを思い出して察したバーナーマンは若干の遠い目。
『さてと』
…カカッ! パシュンッ…
ナビマーク入りエプロンのドレスアップチップを解除し、擬人化プログラムを実行した際の普段の外装に戻るファイアマン。風呂掃除自体は終わり際だったのか。
スポンジは一先ず置いたまま後で片付ける事にして、今度は先に玄関に置いていたらしいバッグを手に取り出掛ける準備を始め。向かう先は。
『俺は、そろそろ晩飯の買い物に行ってくるからよ』
「オラは肉がエエだ! ファイアマン!」
『お前のリクエストとか聞いてねぇ! …と、言いてぇが。ヒノケン様も今夜は肉が良いと仰っていたからな…ったく、それにしても少しは遠慮がちに言いやがれ』
呆れながらファイアマンは買い物リストを出し。
渋々ながらも購入する肉の量に追加分。
『ヴォオオオッ! ヴォヴッ!』
「おッ、フレイムマンも肉がエエだな?」
『ヴォゥッ!』
『あいででででででで!!』
アツキの台詞に同調する様に、フレイムマンは嬉々として腕をぶんぶん振っているのだが。
その振り下ろした拳の先にはバーナーマンが居たり。
『…リストの修正はこんなところだな。んじゃ行ってくるから、フレイムの事を頼んだぞ』
『はぁあ?! コイツを連れて行かねぇのかよ!』
『へっへっ…別に構わねぇだろ、フレイムはお前が気に入ったみてぇだし。お前のオペレーターの小僧は小僧でフレイムが気に入ったらしいから、仲良くしな』
『ふ、ふざけんなファイアマン!』
『じゃ、留守番を頼んだぜ』
ひょいっ、と。
ファイアマンは今なお玄関先でぶっ倒れたままでいるバーナーマンと、その上に乗っかり続けているフレイムマンの脇をすり抜けて靴のデータを換装させ。
バーナーマンの抗議を何処か黒いオーラを放ちながらかわし、買い物へ出掛けてしまった。
…バタンッ…ガチャン!
『待てやファイアマン、コラぁあああ! 帰ってきたら、ぜってぇ泣かすからなコノォ!』
「まあまあ、まず中サ入るべバーナーマン!」
そう言っているアツキは。
何時の間にか既に上がり込んでいる。
「ほれ、フレイムマン! こっちサ来るだ!」
『ちょっ…! ちょっと待てアツキ! 今コイツを呼んだりしたら、この体勢からだと…!』
『ヴォオオッ! …ヴォンッ!』
『げほぉッ!』
イヤな予感を的中させてしまったバーナーマン。
フレイムマンはアツキの呼び掛けに従い、バーナーマンの腹を踏んで見事な跳躍と着地。
『この野郎! もう我慢ならねぇぞぉおおっ!』
どうやらアツキとフレイムマンはすっかり意気投合。
そんな二人の後を追い掛け。
やっと起き上がれたバーナーマンを含めた三人は、騒々しくリビングへと消えていった。
───…
約1時間後の火野家。
…ガチャガチャ…カチャッ、バタン…
『オウ兄貴、フレイム! 今帰ったぜ!』
「ん…小僧のヤツ、来てんのか?」
『この靴はそうだな。って、何か声がしねぇか?』
「…リビングだな。 いや、だが…ファイアマン?」
科学省へ、これまでのリンクナビやクロスシステム研究のレポートを提出し、自身の社会復帰に対する定期的な報告を行いに出掛けていたヒノケンとヒートマン。
家へと帰ってきた二人はアツキ達が来ている事に気付き、更にはリビングから玄関にまで聞こえる声にも気付いたが、聞き慣れたファイアマンの声だけ。
どういう事か、リビングへ向かい二人が見たのは。
『…まったく、お前らマトモに留守番も出来ねぇのかよ! 何をどうしたら部屋がこんな事になりやがるんだ! いいか、説教の後はお前らで部屋を片付けろよ!』
「そ、そげな事よりも…」
『足がっ、足が痺れてきた…!』
『ヴォオ…』
「『……何、やってんだ?』」
これでもかという程に散らかったリビングの惨状。
どうやらファイアマンが買い物に出掛けた後の三人は、散々に暴れ散らかしていたらしく。
烈火の如く怒るファイアマンの説教を正座で聞きながら反省する三人の姿を、ヒノケンとヒートマンは諸々察しながら見守るしかなかったという。
■END■
2023.08・旧作から全面リメイク