【Rockman.EXE@】
Heat Soul【RE】
・EXE6グレイガ│癒しの水イベント│ヒートマン視点



───その日。
電脳世界の片隅で、猛り狂う獣の咆哮が響き渡った。

『ギャオバルルルルーッ!!』
『…へッ』

咆哮と共に発せられた力の波動が、衝撃波として俺の身体にビリビリと襲い掛かりやがる。
このまま対峙し続けるってのは…悔しいモンだが。
勘弁してくれよ、ってのが本音だ。

『どう見ても…仲良くなれそうにない感じだな…』
「いかん…! ロックマンの身体が電脳獣に支配された!! ヒートマン、早く逃げるんだ!」

…クソッ…情けねぇ話だぜ。
俺に足があったら震えが止まってねぇだろうな。
そんな状況。
さっさとプラグアウトさせてくれって言いてぇ。

……だけどよ……

『…光のオヤジさん、ちょっと黙ってな…』

火力を、俺が出せるギリギリまで解放する。
「普通の相手」なら、間違いなく黒焦げどころかデータの灰すら残らねぇだろってレベルだ。

『俺がコイツの目を覚まさせてやるぜ…』
「…ッ…! ヒートマン!」
『さぁ、かかってきな!!』

第一研究室のパソコンで俺をオペレートしていた光熱斗の傍に駆け寄る、オヤジが見えた。
それは、俺のプラグアウトを実行する為じゃねぇ。
前提として有る、最悪。
例え結末が俺の完全なデリートだったとしても…
見届ける為だ。

嬉しいぜ。

『ギャオルルガ───ッ!!』
『俺の炎で…目を覚ましやがれ!』

破壊する牙の化身が、灼熱の炎と重なった。
…押さえ込むも何も無ぇ有様。
爪による衝撃は炎の壁を無理矢理ブチ抜いてきやがって、俺の身体に痕を刻み付けやがる。
だけどな…
俺も、無策で喧嘩を売った訳じゃねぇんだよ…!

『ギャオルルー!!』
『ウオォォォォッ!!』

───ガガッ! カッ…! …ゴウンッ…!

一瞬の閃光。
繰り出された無慈悲な斬撃の僅かな隙に───ロックマンの身体に直接、流し込む様に。
一定の形を持たない炎を、俺は捩じ込んだ。

『…ッ!……グルルルルル…』

…ク、ソッ…止まりはしたが…駄目…か?
上手く捩じ込むには捩じ込めたが、俺はそんな精密なバトルとか向いてねぇし器用じゃねぇからな、カウンター気味に一撃貰いながらやり遂げるのが精一杯だった。
コイツで駄目だとなると…!

…パァ…アッ……ふら…っ…

『…僕、は…一体…』

…ハ、ハ…よく見た…顔になったじゃねぇ…か…
ったく…ヨォ…

『…て、手間…掛けさせ…やがって…』

もう…いいんだよ、な…
ああ、俺も…さっさと…ぶっ倒れて…寝てぇぜ…

───ズキンッ!

『…ウグゥ!!』

張り詰めていた空気を弛めたと同時、俺は自分がすげぇボロボロになってる事に気付いた。
身体中のデータが悲鳴を上げていて緊急シャットダウン寸前、自慢の炎もロクに出せねぇ。
だんだん、薄れてきた意識の中で。
不意に、身体が電脳世界から離れる感覚に包まれる。
……プラグアウト……誰が? …誰が、ってよ…

…最後に見た視覚システムの光景は…

俺が戻ったPETをひっ掴んだオヤジが。
青い顔をして研究室を飛び出していくところで───

そこで、ぷっつり俺の全機能はストップしちまった。

───…

PiPiPi…データ 復旧完了…再起動…開始…

『……痛…ぇ…』

───ズキ、ズキ…ッ…

…どのくらい時間が経ったんだか、分からねぇが…俺は、デリートされずに済んだらしい。
だが、最後に貰っちまった一撃がかなり深かったらしくて、そこからの痛みが半端ねぇな。
とはいえ喰らった直後に比べれば痛みはマシだし、他は大分リカバリーされて身体は動く。
…よくよく辺りを見れば、家のパソコンの電脳だ。
研究室を飛び出してったオヤジが見えたっけ、家に帰って…ここまで復旧してくれたのか。

『ヴォウ…』
『ん? …フレイム? …ずっと俺の傍に居たのかよ』
『ヴォウヴォウ! …ヴォ…?』
『オイオイそんな心配そうな顔をするんじゃねぇ。俺だったら、もう大丈夫なんだからよ』

まだボンヤリとしていた身体のデータやらを正常に戻すと、俺の傍らにはフレイムが居て。
じーっと俺を見詰めたまま全く動こうとしないって事は…恐らく、オヤジか兄貴に俺の様子を見守るように言いつけられたんだろうな。
忠実に守ろうとしている、可愛い弟だぜ。

『…よ…っ……と……あ、アリャ…』

オヤジと兄貴にも『元気になった』って。
早く言いたくてフロート機能を実行してみたんだが…
なんてこった、フラフラでロクに浮けやしねぇ。

───パシュンッ!

『ヴォヴォヴォウ!』
『……まだ無理に動こうとするんじゃねぇヒート、完全に回復した訳じゃねぇんだからよ』
『兄貴…』

インターネットに繋がっているワープホール。
そこから兄貴であるファイアマンが帰って来た。
フレイムは『おかえり』って言っている筈。

『ほらよ、ヒノケン様が戻る迄の一時しのぎだがな』

カカッ…パァッ…!

俺達ナビの為のリカバリーの光が身体を包む。
…コイツを買いに出掛けてくれていたのか。
深く刻まれた傷の痛みがより軽減され、和らぐ。

『ありがとよ、兄貴。…オヤジは?』
『…ヒノケン様と呼べ。お前の新しいカスタムパーツを買いに出掛けられている。俺かフレイムがついて行こうとしたんだが、平気だからお前の事を見ていてくれと仰られたんでな』
『そっか…俺のどっかを交換すんのか?』
『ボディ部分を全面的に、だろうな。その一番深い傷はリカバリーだけではもう追い付かねぇ事になっているし、他にも瘴気混じりの細かい傷が付いてるからよ』
『…ヴォォォォォ…』

ああ…そうだろうな。
兄貴がリカバリーしてくれたってのに、この傷からの痛みは再び染み出してきやがってる。
確かにボディのデータを総取っ換えするしかねぇ。
傷を見て、フレイムにまた心配な顔をさせちまった。
…オヤジが帰ってくれるの待ち、か。

『ところで…ヒノケン様から大体の事情は聞いた。…ったく、無茶な事をするんじゃねぇ』

口調だけなら呆れている。
けれど、その奥で…怒っているのも分かる。
『消えちまったらどうする気だったんだ』って。
…だがな。

『オヤジは…俺を、止めなかったぜ。見届けた』
『……』
『兄貴が俺と同じ場面に出くわしてたら、どうだ?』
『……フン…』

返事をしたとは言えねえが、兄貴はそういう性格だ。
大体、分かるさ。
俺と同じで…無理でも無茶でもアイツを止めた、だろ?

『俺自身はよ、兄貴』

兄貴が言葉を続ける様子が無いのを良い事に、俺は勝手に話を続けさせてもらう事にした。

『オヤジや兄貴みたいに、光熱斗とロックマンに大きな因縁だとかがあるって訳じゃねぇ』
『…だったら、尚のこと何でだ』

兄貴は少し、腑に落ちねぇって空気を出してる。
オヤジや兄貴がロックマンの暴走を止めるのには、因縁と義理に基づいた理由があって。
自我を失い果てた姿なんてのは望んでなんかいねぇ。
そして俺には、自分自身でそういった理由を持ち合わせていないと明言したから当然だ。

『そうだなぁ…』

だけど、理由が無かったら止めねぇよ。
…理由になってんのか、俺も分かってねぇけど。

『俺は…オヤジが創ってくれてオヤジの傍に居るナビで、兄貴の弟だから。じゃねぇかな』
『…なんだそりゃ』

ハハ、今度は本気で呆れてるな。

『他に理由が思い浮かばねぇんだ』

人間と、ナビ。
ナビと、ナビ。

パートナーや友人、或いは主従だとか。
関係という意味で使われるなら、この辺りか。
その関係にデータの存在が、親子や兄弟の意識を持ち込む事の正しさだとかは分からねぇ。

ただ、それでも。
俺にとっては、やっぱり───
「火野ケンイチ」はオヤジだし。
「ファイアマン」は兄貴だ。

それはどうしたって変わらず、俺が育んだ意識。
だからこそ、ロックマンを止めたんだ。
俺はオヤジや兄貴と「他人」じゃない。
因縁を、義理を。
共有しなけりゃならねぇって思ったんだよ。

俺達は───「家族」なんだから、さ。

『…おかしな奴だな』
『そうか? ま、そうかもな』

今度の兄貴は少し、笑ってくれている。
俺が言いたい事を分かってくれたんじゃねぇかな。

『……ヴォ…ヴォオオオ…?』
『…ハハ。フレイムには、まだ少し早い話だったか』

いけねぇな、可愛い弟を放ったらかしにしてた。
俺と兄貴が話している内容が理解しきれないらしく、困った顔で俺達の事を見ているぜ。
お前も大事な「家族」だよ。
何時か、お前自身でも理解が出来るさ。
とんでもねぇ二回のデリートから、それでも残骸みたいになっちまったデータから少しでもオリジナルの「フレイムマン.EXE」を復旧させようとしたから。
真っ白になっちまってる記憶、だからこそ。
オヤジや俺達と過ごす記憶が刻まれていけば、な。

『…もう一つの理由なんだけどよ、兄貴』
『何だ?』
『兄貴もだが、特にフレイムなんか酷ぇデリートの目に遭ったってのに…こうしてオヤジは何とかしてきてくれてるじゃねぇの。だから、まぁ、どうにかしてくれるだろって訳だ』
『…あのなぁヒート…そんな事を簡単に言うんじゃねぇよ。どんだけソレが大変な作業なのかってのは、お前もフレイムの復旧作業で分かってるだろが』
『俺の復旧は俺じゃ出来ねぇから、俺が大変になる事は無ぇだろ? …何て冗談冗談…ん?』

ガチャ…

「…おう、気が付いてたか。ヒートマン」
『ああ、オヤジ』
『お帰りなさい、ヒノケン様』
『ヴォオオ! ヴォウ、ヴォウッ!』

部屋のドアを開けたオヤジは僅かに息が上がって。
スーツはそのままだけれども、走るのに邪魔だったのかキャラ付けの伊達眼鏡は外してる。

「遅くなって悪ぃな、才葉の何処でナビ用のパーツを買えるんだか勝手が分からなくてよ」
『そりゃ、赴任したばかりだからなぁ』
『やはり俺がついて行った方が良かったのでは…』

思えば赴任ホヤホヤでコレだ。
才葉シティ自体だって引っ越して間もねぇし、買い物するのに何処が良いだとか全然分かってねぇ上にナビ無しってんだから、時間が掛かっても仕方がねぇ。
そんな会話を交わしてオヤジはパソコンデスクとセットの椅子に腰掛け、ナビのカスタマイズ用ポッドに俺の新しいボディになるパーツデータをインストールし始め。
……って事は、俺……
その、ポッドまで行かなきゃならねぇよな?

『兄貴、ポッドまでおんぶして連れてってくれよ』
『はぁあ? 何をぬかしやがる』
『フロート機能も調子が悪くて浮けねぇし、物質型の俺に足は無ぇし。何より怪我人だぞ』
『…だとしても馬鹿言うんじゃねぇ。大体、お前の場合だとおんぶは成り立た…ガハッ!』

グキッ!

…あ、やべっ。
呆れて背を向けられた、その兄貴の背中に無理矢理に引っ付いたら、兄貴からマズイ音が。

『バカヤロウ! 俺まで怪我人にする気か!』
『悪い悪い』
『…ヴォウッ! ヴォオオオッ!』
『って、お前も俺に乗っかろうとするなフレイム! そういう事じゃねぇ潰れるだろが!』
「おいおい、ヒートマンの復旧だけでもそれなりに掛かるんだぜ、怪我人を増やすなよ」

うーん。
確かに俺、足が無ぇから…おんぶ感が何か違うな。
…それでも。
結局は俺を支え運んでくれ始めた兄貴が俺は好きだ。
オヤジの事になると時々、面倒だが…それも全部。

兄貴だけじゃなくて。
オヤジの事だって勿論、大好きで。
背負われている俺の事を、今もじっと見守ってポッドまでついて来るフレイムも大好きで。

そう思っている事が、もし。
オヤジが「創った」事が根底にあったとしても。
そんなのは関係無ぇよ。


俺の思いは、俺の想いで譲れねぇ。


全員が宿している同じ炎の魂は。
俺にとって三人が「家族」である証だから。

■END■

2006.04.04 了
2023.07・旧作から全面リメイク
clap!

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