【Rockman.EXE@】
Heat Soul
◆EXE6/癒しの水イベントより
ヒートマン視点



その日。
ひとつのHPからインターネットへ―――
猛り狂う獣の咆哮が、木霊した。


『ギャオバルルルルーッ!!』
『…へッ、どう見ても…仲良くなれそうにない感じだな…』

咆哮と共に発せられた力の波動。
ソイツは衝撃波と化して…俺の身体にビリビリと襲い掛かってきやがる。
このまま対峙し続けるのは正直、勘弁願いたいモンだ。

「いかん…!ロックマンの身体が電脳獣に支配された!!ヒートマン、早く逃げるんだ!」

情けねえ話だが、足がありゃあ震えが止まってねぇだろうな。
そんな状況。
さっさとプラグアウトしてぇのは山々だ。


…だけどよ…


『…光のオヤジさん、ちょっと黙ってな…』

火力を、俺が出来るギリギリまで解放する。
「普通の相手」なら、間違いなく黒焦げどころか灰も残らねぇレベルだ。

『俺がコイツの目を覚まさせてやるぜ…さぁ、かかってきな!!』
「…ッ…!ヒートマン!」

研究室のPCで俺をオペレートしていた光熱斗の隣に駆け寄る、オヤジが見えた。
俺のプラグアウトを実行する為じゃねぇ。

前提として有る、最悪。

結末が俺の完全なデリートだったとしても…
見届ける為だ。



嬉しいぜ。



『ギャオルルガ―――ッ!!』
『俺の炎で…目を覚ましやがれ!』

破壊する牙の化身が、灼熱の炎と重なった。
…押さえ込むもクソも無ぇ。
爪による衝撃は炎の合間をぬって無理矢理、俺の身体に痕を残していきやがる。
だがよ…
そういう事なら、炎の方が一枚上手だぜ…!

『ギャオルルー!!』
『ウオォォォォッ!!』

一瞬の閃光。
繰り出された斬撃の僅かな隙に―――ロックマンの身体に直接流し込む様に。
一定の形を持たない炎を捻じ込んだ。

『…ッ!……グルルルルル…』

…ク、ソッ…駄目…か?
上手く捻じ込んだはいいが…俺もそんな器用じゃねぇからな、カウンターで一撃貰いながらが精一杯だった。
コイツで駄目となると…!

『…僕、は…一体…』

…ハ、ハ…よく見た…顔になったじゃねーか…
ったく…

『…て、手間…掛けさせ…やがって…』

もう…いいんだよな。
ああ、俺も…さっさと…ぶっ倒れて…

…寝てぇー…

『…ウグゥ!!』

張り詰めていた空気を弛めたと同時に、俺は自分がすげぇボロボロになってる事に気が付いた。
身体中が悲鳴を上げていて、自慢の炎もロクに出せやしねぇ。
だんだん、遠くなっていく意識の中で。
不意に、身体が電脳世界を離れていく感覚に包まれる。

…最後に見たモノは…

俺が戻ったPETをひっ掴んだオヤジが。
青い顔をして研究室を飛び出していくところで―――



そこで、ぶっつりと俺の意識回路は緊急停止しちまった。



『……痛…ぇ…』

…どのくらいの時間が経ったんだか分からねぇけど…
俺は、デリートされずに済んだらしい。
最後に貰っちまった一撃がかなり深かったらしく、そこからの痛みが半端じゃねぇ。
けれど、それ以外は大分リカバリーされていて…身体は動く。
…よくよく辺りを見れば、ここは家のPCの電脳。
そういや、研究室を飛び出してったオヤジが見えたっけ。
家に帰って…ここまで、リカバリーしてくれたんだな。

『ヴォウ…』
『ん?…フレイム?もしかして、ずっと傍に居たのかよ』
『ヴォウヴォウ!…ヴォ…?』
『何だよ、そんな心配そうな顔すんなって。俺ならもう大丈夫だっての』

まだボンヤリとしていた意識回路を正常に戻すと、俺の隣にはフレイムが居た。
じーっと俺を見たまま全く動こうとしないから、恐らくオヤジか兄貴に俺の様子を見守るように言い付けられたんだろうな。
忠実に守ろうとしている。

『…よ…っ……と……あ、ありゃ…』

早くオヤジと兄貴にも「元気になった」って言いてぇけど…
フロート機能を実行した途端に、ふらふらとバランスを崩しちまった。

『…無理するんじゃねぇ、まだ完全に回復した訳じゃねぇんだからよ』
『ヴォヴォウ!』
『兄貴…』

インターネットに繋がっているワープホールから、兄貴が帰ってきた。

『ほらよ』

リカバリーの光が俺を包み込む。
…これを買いに行ってたんだろうな。

『ありがとよ、兄貴……オヤジは?』
『ヒノケン様なら、お前のカスタマイズパーツを買いに出られている』
『…俺のどっか、変えんのか?』
『その、傷部分だ…リカバリーではもう追い着かねぇ状態だからな』
『…ヴォーゥ…』

ああ…そうだな。
兄貴がリカバリーしてくれたってのに、この傷の痛みだけがさっぱり取れねぇ。
身体を形成するカスタマイズのプログラムが、完全にイカレちまってら。
傷を見てフレイムがまた心配そうな顔してやがる。

『…ヒノケン様から、大体の話は聞いた…ったく、無茶しやがって…』

口調だけなら、呆れている。
でも、その奥で…怒っているのも分かる。


「消えちまったらどうする気だったんだ」、って。


でもさ。


『…オヤジは…俺を、止めなかったぜ』
『…』
『…兄貴が…俺と同じ場面に出くわしてたら、どうしてた?』
『……フン…』

随分と短ぇ返事だけど、兄貴はそういう性格だからな。
大体分かるさ。
俺と同じで…無理でも無茶でもアイツを止めた、だろ?

『俺自身はさ、兄貴』

だんまりを決め込んじまった兄貴を置いて、俺は話を続けた。

『オヤジや兄貴みたいに…アイツ等にそこまでの因縁がある訳じゃねぇ』
『…じゃあ、何でだ』

兄貴は少し、腑に落ちねぇって空気を出してる。
オヤジや兄貴がアイツの暴走を止めるのには、因縁と義理に裏付けられた理由がある。
自我を失い果てたロックマンを望んでなんかいない。
そして俺は、自分自身でその理由が無い事を明言したんだから当然だよな。

『そうだなぁ…』

だけど、理由が無きゃ止めねぇよ。
…理由になってんだか、俺もよく分からねぇんだけど。

『…俺は…オヤジが創ってくれたナビで、兄貴の弟だから、って事かな』
『…なんだそりゃ』

はは、今度は本気で呆れてるな。

『だって、他に理由なんか思い付かねえ』

人間と、ナビ。
ナビと、ナビ。

パートナーや、友人。
関係という意味で使われる言葉は、この辺りなのが普通だ。
その関係に、親子や兄弟という意識を持ち込む事が正しいかどうかは分からねぇ。

でも、少なくとも俺にとってはやっぱり―――


「火野ケンイチ」はオヤジだし。
「ファイアマン」は兄貴だ。


それはどうしたって変わらねぇ。

だから、アイツを止めたんだ。
俺はオヤジや兄貴と「他人」じゃない。

因縁を、義理を。
共有しなきゃならねぇって思ったんだよ。


俺達―――「家族」なんだから、さ。


『…おかしな奴だな』
『そーかー?』

今度の兄貴は少し、笑ってる。
何となく、俺が言いたい事が分かったんじゃねぇのかな。

『……ヴォウ…ヴォー?』
『…はは、フレイムにはまだちょっと早い話だったか』

いけねぇな、可愛い弟をほったらかしにしてた。
俺と兄貴の話が理解しきれていないらしく、困った顔で俺達を見ている。
お前も大事な「家族」だよ。
何時かお前も、それが解るさ。

『あと、まあ…兄貴もだけどよ、特にフレイムなんか酷いデリートの目に遭ってるけどオヤジは何とかしてきてくれてるからな、どうにかしてくれるだろってトコだな』
『…ったく簡単に言うんじゃねぇよ。それがどんだけ大変な作業なのかぐらい、お前もフレイムの復旧で分かってるだろが』
『ハハハ、ここまで戻してやるの、すっげぇ大変だったな。…ん?』

ガチャ…

「ヒートマン、気が付いたか?」
『あ、オヤジ…』
『お帰りなさい、ヒノケン様』
『ヴォ!ヴォヴォーゥ!』

帰ってきたオヤジは息が切れていた。
走るのに邪魔だったんだろうな、伊達眼鏡は外している。

「遅くなって悪ぃな、なかなかお前に丁度いいカスタマイズパーツが無くてよ」

言いながらオヤジは椅子に腰掛けて、早速インストールを開始し始めた。
…って事は俺…
PCの中にある、カスタマイズ用のポッドまで行かなきゃならねぇよな?

『兄貴ー、おんぶしてポッドまで連れてってくれよ』
『はぁあ?』
『フロート機能もまだ調子悪くて浮くと危ねぇし。何より怪我人だぞ俺』
『馬鹿言ってんじゃねぇよ…つうか、お前の場合おんぶは成りたたね…ガハッ!』

ぐきっ

あ、やべ。
無理矢理に兄貴の背中にひっ付いたら、何やら兄貴からマズイ音が。

『バカヤロウ!俺まで怪我人にする気か!!』
『悪ぃ悪ぃ』
『ヴォウッ!ヴォヴォッ!』
『お前も俺に乗っかろうとするなフレイム!そういう事じゃねぇ潰れるだろが!』
「おい、取り敢えずヒートマンの分しか無ぇんだから怪我人を増やすなよ」

うーん。
確かに俺、足が無ぇから…おんぶっつーか何つーか微妙だな。
…それでも。
律儀に俺を支えてくれる兄貴が、俺は好きだ。


兄貴だけじゃなくて。
オヤジの事も大好きで。
まだ俺をじっと見ながらポッドまでついてくる弟の事も可愛いヤツで。


そう俺が思っている事が、オヤジが「創った」事だとしても。
やっぱ、関係無ぇよ。


俺の思いは、俺の想い。



そして共有する炎の魂は。
俺にとって三人が「家族」である証だから。

■END■

2006.04.04 拍手御礼
2006.07.07 拍手移動
2020.02.03 加筆修正
clap!

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