【Rockman.EXE@】
アツキのジャンプ大作戦@A
・アツキのジャンプ大作戦@

「うぉーい、何処に行きやがったんだチビ小僧」

ダイニングを出て家の中を探し歩くヒノケン。
何を探しているのかといえば、ちっこいアツキの姿。
しかしながら、つい先程まで二人は同じダイニングの中に居て、夏の日射しが強まる午後の水分補給を行いながら普段通りの会話をしていた。
ところが、ヒノケンが飲み終わった自分のコップとアツキの為に買った人形遊び用のコップをテーブルから避け、軽く水洗いして水切りラックへ逆さに置き。
振り返ると、既にアツキの姿は無く今に至る。

「ったく、ちょこまかと…」

短時間の事ではあるし、外には出ていない筈。
放っておいても暫くすれば出てくるとは思っているのだが、視界に居ないというのも心配。
心配、だからアツキの事を探しているという事が。
ヒノケン自身で認めるしかないけれども自分らしくもない事だと。そんな想いが滲んだ語気はアツキに対してというよりは己に対して呆れが混じる様子。
ふぅ、と一つ。
自嘲めいた溜め息をつきながら、風通しやアツキの移動の為に開けたままにしているリビングのドアを抜け、ザッと室内を見渡してみると───

「んぁ?」
「えーっと、だなや…」
「(…此処に居たのかよ、つうか何してんだ)」

そこには探していたアツキの姿。
どうやら静かに室内を覗いたヒノケンの存在にはまだ気付かず、リビングのテーブル上に乗って何かを確認する様な素振りを見せており。
何をしようとしているのか気になったヒノケンは、黙って声を掛けずに見守ってみる事に。

「…方向良ス、助走はこンくらい取ったらエエかな。…ンで…"くらうちんぐすたーと"ば…」
「(…もしかして、テレビでやってた陸上大会の真似事か。しかし何でテーブル上なんだ)」

ちっこいアツキが屈んで一層ちっこく。
だがテレビの見様見真似にしてはキチンと短距離走のスタートポーズであるクラウチングスタートを決めており、走る気満々。
とはいえ、それならば廊下の方が向いている。何故わざわざテーブル上の必要があるのか。
まだ疑問は晴れないヒノケンが見守り続けていると、アツキの中でスタートのピストルが放たれたらしく、急に脱兎の如く駆け出す。

ダッ…!とてとてとて…っ!

「どりゃーっ!」

ぴょいんっ…!ぼっふん!!

「…幅跳び…でも無ぇな、何の競技になるんだか」

走り出したアツキはすぐさまテーブルの端に辿り着き、落ちてしまうのではないかと思われたが、助走からアツキなりの大ジャンプを行い。
ぼふん!と音を立ててフカフカなドでかいクッションの真ん中に飛び込んで深々と埋まり、ちいこい手でクッションにしがみついている模様。
アツキの目的は短距離走だけではなく、ジャンプを伴う競技の真似もやりたかったらしい。
陸上大会ごっこがしたかったのだと完全に判明したヒノケンはスッキリした、けれども。

「……おい、小僧…?」

クッションに埋まり込んだまま、なかなか動かず。
あのクッションはかなり柔らかくフカフカな筈だが、もしやそれでもアツキには想像よりも大きな衝撃が伝わってしまったのか?
次第に先程アツキの姿を探す時より不安に駆られ。
嫌な予感を抑え込んでヒノケンはクッションに近付き、アツキの状態を覗き込む。すると。

「……くかー…ぷぅ…スぅ……」
「…寝てんのかい」

クッションにしがみついたまま、アツキはお昼寝。
ここまでがアツキの目的だったのだろう。
気が抜ける寝息を聞いて文字通り脱力するヒノケン。
だけど、良かった。本当に。

「やれやれ…へっ…」

起こさぬ様にソファに腰掛け。
立て掛けた状態のアツキ付きクッションを、そろそろと水平にして眠り易くしてやって。
するとモゾモゾと寝相を変え始めたアツキは、うつ伏せにクッションを掴んでいるのは変わらずだけれど、ヒノケンの方に寝顔を向けて落ち着き。
ぐっすりと、幸せそうなお昼寝タイム。
ちっこいアツキをダメにするクッションに少しだけ妬きながら、ヒノケンは飽きる事無くその愛らしい寝顔を見詰めて夏の午後を過ごす事にした。

■END■

・ちっこいあいつ
https://odaibako.net/gacha/7226

30. テーブルの上で助走をつけて何をするかと思えば、ふっかふかなドでかいクッションの真ん中に飛び込んでいた。ずぼと埋まるアツキ。なかなか動かないので心配になって覗いたらそのまま寝ていた。ちっこいアツキをダメにするクッション。

2022.07.10 了



・アツキのジャンプ大作戦A

びょいんびょいん…ぴょんっ!

「ていッ!空中一回転捻りだべ…!…どわぁ?!」

ぼふんっ!…びよびよ…

「むー…ベッドだと、そこまで跳ねねっか…」
「つうか、まず俺のベッドで跳ね回るんじゃねぇよ」

夜も更けて来て、ちっこいアツキは何時もならばウトウトしてくる時刻なのに、今夜のアツキはまだまだ元気いっぱいで眠る気配が無い。
ヒノケンのベッド上によじ登ったかと思うと、ぴょんぴょん跳ね始めて。そろそろ、そのベッドで眠る支度を整えていたヒノケンが、これでは寝る事が出来ず。
さて、どうしたものか。

「お子様はサッサと寝る時間だぞ」
「たっくさん昼寝ばスたから眠くねぇだ」
「(…寝させ過ぎたか…次は気を付けねぇとな)」

昼下がり、クラウチングスタートを決めてダッシュからのジャンプと、テレビで見た陸上大会ごっこをしていたアツキはクッションに飛び込み。
そのままスヤスヤと昼寝を開始して。
一部始終を見ていたヒノケンは、そのままアツキがクッションで眠る姿を眺めて好きに寝させてやったのだが、どうやらそれが仇となってしまった模様。
寝顔は見ていたいけれど、次からは惜しいが程々にお昼寝を止めさせた方が良さそうだ。

「それよりオッサン、もっと跳ねるベッドにスるだ」
「だからまず跳ねるモンじゃねぇ!…ったく…見せる番組も選ばねぇと駄目なのか小僧は」

お昼寝から目覚めたアツキが、ちいこい手でまだ少し眠たそうに目をくしくしする姿は、不覚にも可愛らしかったな。というのは置いておき。
何かテレビが見たいと言うので適当にチャンネルを合わせてやると、トランポリン競技の放送でアツキからストップが掛かり、真剣に見始め。
なので、陸上大会の真似事をしていたのだから予感はあった。何処かしらスプリングの効いた場所を探し出してトランポリンごっこもやりそうだと。
だが、いきなり視聴した日の夜に自分のベッドに目を付けられるのは想定外で、ヒノケンとの話はそこそこに再びアツキはベッドの上を跳ね飛び出す。

ぴょいっ、ぴょい…

「くるンって、空中で宙返りとかスてみてなー」
「……(仕方がねぇな)…ベッドじゃなくてちゃんとしたトランポリンだったとしても、チビ小僧にゃ無理だろ、出来っこねぇから諦めちまいな」
「む…何ねその言い方はオッサン。オラはベッドでだってちっと練習スたら出来るべな!」

ぴょん、ぴょんっ…ぴょいんッ!
…ガバサーッ!!

「のわあぁぁあ?!何スるだオッサン!」

ハッキリ言ってアツキは挑発に乗り易い。
わざと煽る言い方をしてやると、それまで縦横無尽にベッド上で飛び跳ねていたのだが、ヒノケンに出来るところを見せてやろうとムキになり。
わざわざヒノケンの前に進み出て、大きく飛んだ。
…ところを。
隠し持っていたタオルケットですかさず包んで捕らえ、ベッド上にぽふんと置いてやると。
暫くはアツキが居ると思われる箇所がうごうごと暴れながら、恐らく「出さねっかー!」といった旨の台詞がモゴモゴと聞こえていたのだが。

「───…むぅ…」

このタオルケットはヒノケン用のモノだけれど、触り心地が気に入ったアツキに同じモノを購入して、サイズをアツキに合わせて切って使用しているから。
何時も眠る時に使っているモノに包みこまれる安心。
それに、ヒノケンの匂いもしていて。

「………」
「…落ち着いたか?チビ小僧」

そ…っ…

「むぃ…ぷぅ…ぷぅ…すー…」
「は…チョロ過ぎだろ」

うごうごが止まった頃合いを見て、ヒノケンがタオルケットを捲りアツキの様子を窺うと。
あれだけ眠たくないと言っていたのに夢の中。
ちんまりした手はタオルケットを掴んで離さず、自分のモノだと言わんばかりの様相で。
ふ、と。ヒノケンからは呆れながらも零れる笑み。
仕方がない、今夜はタオルケットを譲ってやろう。
ヒノケンはアツキを優しくタオルケットで包み直すと、人形遊び用のアツキのベッドではなくて、これから眠る自分の枕の傍に置いてやり。
やがて、寝息はふたつに。

■END■

・ちっこいあいつ
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16.昼寝させすぎてしまったのか、夜になっても寝付かずに布団の上を跳ね回っているアツキ。ぴょんと跳ねた瞬間に毛布ですかさずくるんで捕まえると、しばらくは暴れるも数秒後にはぷうぷうと寝息を立てている。アツキ、所詮その程度の生き物よ……

2022.07.15 了
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