【Rockman.EXE@】
アツキをダメにするクッション
カタカタッ…カタ…カタ…

「……」「……」

静かというよりも黙々とした空気に満ちる室内。
とある休日のヒノケンの家、そしてヒノケンもアツキも居るのに、この静けさは何事かといった事態だが、どうやら電脳世界における炎研究が今日はよく捗っているというところか。
二人とも各々のパソコンに向かい、キーボードの音だけが響く様子からも非常に集中している事が窺えるが、程なくして片方のパソコンに動きがあった。

カタカタ…カタ、カタ…カタカタッ…
…カチッ、カチカチ…カチッ…

『…ハイ!ダイジョウブデス、ホゾンサレマシタ!』
「はぁあ〜、漸く終わっただ…」
『お疲れさんだぜ!アツキ!』
「バーナーマンも、手伝って疲れたンでねぇか?」
『まぁなー、こんなチマチマした作業ってのは得意じゃねぇけど…アツキの為だからよ!』
「…へへ…あンがとな。……オッサン!終ったべ!」

アツキはヒノケンから頼まれた多くのデータ打ち込みを消化し終え、プログラム君からの保存完了の言葉を受けて安心したのか、先程までの集中を一気に解くと。
パソコン内でサポートしていたバーナーマンから、パートナーであるナビとしての気持ちに満ちた迷いの無い労りの言葉を受け、思わず表情が綻ぶ。
と同時に傍で別の研究作業を行っているヒノケンへ、頼まれた作業を終えた報告を行った。

「おう、終ったか。今日の嬢ちゃんの作業はそれで仕舞いだから休んでイイぜ。俺の方も、あと少しで今日の分が終わりそうだからよ」
「ン、分かっただ…パソコンは終了スとくだか?」
「そうだな、もう保存が済んでるならやってくれ」
「そンならバーナーマン、プラグアウトだべ。プログラムはパソコンの終了処理を頼むだ」
『了解!…よっと!』
『デハ、シャットダウンヲジッコウ シマスネ〜ワタシモ オヤスミサセテ イタダキマス』

バーナーマンがアツキのPETに戻ったのを確認すると、プログラム君は終了処理を開始し。
自らもスリープモードを実行し始め、少し経つとパソコンの画面は暗転と静寂に包まれ。

「バーナーマンも、ちっと休憩スるとイイべ」
『だな、アツキもゆっくり休めよ!』
「そうさせてもらうだ」

PETに戻ったバーナーマンと話し、疲れているのは同じだとバーナーマンの事も休ませるべく、アツキはPETにも終了処理を行うと静かに電源が落ち。
ふぅっと荷が下りた様な息を、ひとつ吐く。

「ん〜〜〜…っ…スっかス目が疲れただなや」

大きな大きな伸びをして。
同じ姿勢で凝った身体は多少解れるが、パソコン作業で目の疲れまでは如何ともし難い。
しぱしぱする目を軽く擦ってしまう。

「目薬とか持って無ぇのか?」
「いや、自分の有るけンど…あっ、そうだべ」

作業しながら話し掛けてきたヒノケンに言われ、近くに置いていた自分の鞄から目薬を取り出そうとパソコンデスクから離れたアツキだったが。
その途中で、何かを思い出した様子。
鞄に辿り着いてゴソゴソと中を探る音がヒノケンからすると背中から聞こえ、少し気になったが後ろには振り向かず作業を続けていると。

「っ、だ、外スて…ぐっ、ぬぬぬ…」
「(目薬を点すの下手過ぎだろ…やれやれ)」

カチッと蓋を開けたと思われる小さな音。どうやら目薬を見付け、点眼を始めたのだろう。
しかしアツキは目薬を点すのがやたらと下手。
悪戦苦闘する苦悶の声が、今度は背中から聞こえ。
アツキには気付かれぬ様に、ヒノケンは呆れ混じりだけれど仕方がない嬢ちゃんだと、何処か愛しさも含んだ笑みを浮かべて苦闘の呻きを聞く。

「…はー、やっと上手くいっただ…でも、まだ…やっぱアレも…持ってきた筈なンだけンと」

暫し呻いた後、両目の点眼に成功したアツキ。
なのだが、目薬自体は「思い出したモノ」ではない。
改めて鞄の中を隅々まで探し始め、奥底に沈んでしまっていた小さいポーチを開けてみる。

「…あったあった。やっぱり"ゆず"だなや」

アツキが探していたのは、開封使用する使いきりタイプのホットアイマスクだった模様。
黄色いパッケージと発言から、香りは完熟ゆず。
それが特にお気に入りといったところか。
ひとつポーチから取り出すと他は元に戻し、すっくと立ち上がると…今度は部屋の隅へ。

「ンっと、このクッションを、こうスてこう…」

主に研究作業に使われているヒノケンの家の、この部屋には。隅にクッションがあった。
そのクッションは所謂"人をダメにするクッション"と呼ばれる、ビーズクッションの類い。
浸透し始めた頃にアツキに求められ、何がイイのかとヒノケンは思ったが、色々見ている内に気付けばノリでアツキの分と自分の分まで買っていた一品。
特大に近いサイズのソレは、リビングだ寝室だと置き場に迷って辿り着いたのがこの部屋、研究の合間や終えた後の休憩に使うには都合が良いので、過去最長の居場所となっている。
そんな元より大きなクッションをアツキはピッタリと並べて、まるでひとつの様に仕上げ。
ぽふんとクッションに身体を沈めた。

「ふぁあ〜このクッション、やっぱイイだ〜」

もう既にダメになり掛けている声のアツキは。
仰向けで全身をクッションに埋め、その心地好さをひとしきり謳歌すると、手に持ったままだった使いきりホットアイマスクの封を切って取り出し。
すぐ目に装着すれば、ジワジワ。
温熱効果が現れ始めてアツキの疲れ目を癒す。

「いや〜、ゆずの香りサイコーだべ…はぁあ…っ…」
「って、俺の分のクッションまで使うなオイ!」

ホットアイマスクを使い始めた上に、クッション効果でダメになりつつあるアツキは全く気付かなかったが、ヒノケンの作業も終わったらしい。
アツキと同じくパソコンを終了して作業を手伝ってくれていたナビ達を休ませ、さてどうなっているのかとアツキを見れば、ヒノケンの分のクッションも当たり前に使われていて。
呆れた様子で近付く。

「ン、オッサンも終わったンか?」
「ああ、だから俺もそのクッ…」
「そンなら、頼みて事があるだオッサン」
「…俺の話を…まあいい、何だ?」

言っても無駄、と判断したヒノケンは。
仕方なし、何やら頼み事があるというアツキの要望を、叶えてやるかは別として聞く事に。

「あのーホレ、あの…食パンが欲スぃだ」
「…口に突っ込みゃイイのかよ」
「いや本物でねくて!アレ!分かンべオッサン!」
「へぇへぇ、あの食パンクッションな。つうか、お前どんだけクッション使う気なんだ」
「徹底的にふかふか埋もれてやるだ〜ふわぁあ…」
「……ったく、待ってろ」

ある意味、無敵モード状態では敵いっこないと。
観念したヒノケンはアツキの頼み事を聞き届けてやるべく、部屋を後にしてリビングへ。
頼まれた食パンクッションとは、少し前にーーー

ーーー…

「あー!オッサンオッサン!オラこれ欲スぃ!」
「あんま大声で呼ぶな!…で?何だってんだ?」

出掛けたデート先で見掛けた、ゲームセンター。
と言っても、実際にゲームらしいゲーム筐体は申し訳程度の規模で、店舗の大半を占めているのは多種多様な景品が獲得出来るキャッチャー系が中心のお店。
ちょっとした張り合いから、何か二人で出来るガンシューティングだとかで勝負だ!と勢い良く入店したものの、実態はそういったお店だった訳で。
ヒノケンは落胆したが、アツキの方は「ソレはソレ」といった様子で店内のプライズを物色し始めた為、まあいいかと付き合う事にしたらしい。
アツキの後を追いながら適当に多くのプライズ群を見ていると、不意にアツキからお呼びが掛かる。何か欲しいモノを見付けたとの事。

「…あん?…食パンクッションだぁ?」
「そだべ!すっごいふかふかしてそうでねか」
「ついぞこの間、人をダメにするクッションとかいうのを買わされたばっかじゃねぇか、わざわざゲーセン景品のクッションなんか欲しいのかよ」
「あッツは全身で寝っ転がる用で、こッツは抱き締めたり寄っ掛かったりする用にスるだ」
「ンな用途別とか必要なモンかねぇ」
「あー…あと、食パンの形をスとるから…」

クッションの用途を他にも思い付いたみたいだが、何故かアツキはスパッと言い切らず。
ヒノケンからは目を逸らし、照れを含めた表情を浮かべてひとつ間を置いてから続きを。

「…このクッション2個取って、オッサンと並ンで座って…クッションに挟まれてサンドイッチみてになってみる、とか。そンなンやってみてぇだ…」
「〜〜〜…おま…ったく…取れるのか知らねぇが、そんな欲しいならやってみな。…そら」
「ン!あンがとなオッサン!絶対取るだ!」

恥じらいながら語られた願いが可愛すぎて。
こっちの方が赤くなりそうだというのを誤魔化すべく、ヒノケンは食パンクッションの入ったクレーンゲームのクレジット読み取りに取り出したPETを向け、ゼニーを入れてやると。
アツキは、ぱぁっと嬉しそうな顔。
珍しいくらい素直にヒノケンに礼を言い、いざ!と勇んでクッション獲得に挑戦し始めた。

ーー…
……ぼすんっ!

「おおおー!やるでねかオッサン!」
「1000ゼニーで2個か、まあ良い方だな」

数分後。
何故かクレーンの操作をしているのがヒノケンになっているが、アツキの狙い方では取れそうなモノも取れないと二人して300ゼニー辺りで気が付き。
自然と交代をして続けた結果、1000ゼニーきっかりで無事に2個の獲得と相成った模様。
嬉々として取り出し口からアツキは食パンクッションを取り出すと、1個目を入れていたお店のロゴ入りの袋に2個目の食パンも放り込む。

「へへ…ビニールで留められとって窮屈そうだべ、早くオッサンの家で解放スてやるだ!」
「…つうか、思ったんだがソイツも寮のお前の部屋じゃなくて、俺の家に置く気なのかよ」
「そらそうでねか、さっきも言ったべ?…サンドイッチになるンなら、オッサンの家に置いとかねっと…オラの寮の部屋では意味無ぇだ」
「やれやれだな。…ま、それじゃ帰って早速使ってみるか。適当な録画でも見ながら…な」
「そだな!賛成だべ!」

ーーー…

かくして現在、ヒノケンの家のリビングのソファには食パンクッション2個が添えられて。
帰ってからビニールを剥いてみると、二人が想像した以上にふかふかしていたクッションにテンションが上がり、仲良くサンドイッチにもなってみた。

……もふ…ふかっ…

「…確かに取って悪くはなかったけどよ」

ソファからアツキ所望の食パンクッションを手に取るヒノケン、やはりふかふかしている。
サンドイッチになった時、具材なのだからとピッタリくっ付いてきたアツキの事を思い出すと、ヒノケンの表情がちょっと笑むというかニヤケてしまう。
しょうがない、届けてやろう。

…カチャ…

「うおーい、持ってきてやったぜ嬢ちゃん」
「おお〜待ってたべ、早く寄越スだ〜」
「…どんどんダメダメになってんな。ほらよ」

研究作業用の部屋に戻ってきたヒノケンの気配を察知して、手をぷらぷらと伸ばすアツキ。
起き上がるという選択肢がとっくに無い有り様に、クッションによるダメっぷりは進行中。
部屋を出る前から呆れていたが、ヒノケンは更にどうしようもないなと思いつつアツキに近付き、持ってきた食パンクッションを2個とも伸ばす手の中に。

「言うの忘れッツまったなと思っとったけンど…2個あるでねぇの、でかスたべオッサン」
「…この嬢ちゃん、何様だっつうんだ」
「ンで両脇に置いて…ひとりサンドイッチ〜はぁ…このふかふかでモフモフ堪らねぇだ〜」
「……アホか……」

とは一応、言ってみたものの。
さっきからヒノケンには呆れとは別の思いがあった。
実質的に目隠しをしていて。
無防備に身体を投げ出していて。
蕩けた声で気持ち良い気持ち良いと連呼していて。

これは。
何もしない方が失礼なのではなかろうか。

…アツキには勿論、見える事はない。
ヒノケンの口角が愉しげに釣り上がった事など。

「なぁ嬢ちゃん」
「ン〜?何だべサ〜」
「もう1個、とっておきのクッションがあるんだけどよ、ソイツも放り込んでやろうか?」
「なンね、そげなのが有るなら欲スぃ…ふみゃ?!」

アツキが「欲しい」と言ったと同時。
ヒノケンはクッションに囲まれ埋まるアツキに覆い被さり、蕩けたを通り越してふにゃふにゃした発言を重ねていた口唇に自分の口唇を重ね。
警戒心無く開く口から咥内へ、ぬるりと舌を。
視界の無い中で起きた突然の出来事に、アツキはすっとんきょうな声を上げるもそれきり。
舌を捩じ込まれた咥内はロクに声を発する事が出来ず、呑み込まれる様に蹂躙されてゆく。

…にゅる…くちゅ、くちゅっ…にゅるっ…

「(…な…ンか…何時ものベロチューより…頭ン中に、音が響いとって…見えねっか、ら…?)」

体重総てでのし掛かってはいないが、敢えてヒノケンは何時もアツキに覆い被さる時よりも軽く圧を掛けており、クッションに埋もれているのも圧迫に拍車を掛け。
そこに奪われている視界が加わった事で、普段の深いキスより余計に滑った音が脳に響く。
アツキよりずっと厚い舌が咥内を這い回り、時には可愛らしいモノだと挑発を含んだ様にして、気持ち短いアツキの舌を絡め取って交わり合わせ。
ヒノケンが主導を握る、最中。

ちゅく…にゅ、る…クチュ…
……ぎゅう…っ…

「ん……ふ…」
「(!…へっへっ…)」

じっくりとアツキの咥内を味わい続けるヒノケンは、アツキが「苦しい!オッサンのアホ!」だとかじたじた暴れて音を上げるまで止めないつもりでいて。
そろそろかと思っていると、予想外の手が伸び。
ヒノケンの首にアツキは腕を回して、抱き締める。
そうだった、そんな簡単にいかないからこそーーー

…ふにゅ…もみっ…もに…
くちゅ、にゅる……じゅううっ…!

「ンっ!ンンっ、ン…!」

まだ"今は"その先まで踏み込む気は無いが。
深いキスで終わらせてやろうとしていたヒノケンは、アツキが突き放さず抱き締めてきた事でココロに火を灯し、もう少しだけ可愛がる事にした。
初めて出会った時から…何となく、だけれど。
成長した気がしなくもないアツキの胸にヒノケンは手を寄せ、服やブラごと軽く揉み始め。
ゆっくり、むにむにと可愛がってやれば。
ヒノケンの掌の熱が、これも視覚を失っているせいだろうかアツキにはやけに熱く伝わり。
その中で急に舌同士を絡め合わせられたまま、じゅうっと強く吸い上げられてアツキはビクンと身体を跳ねさせ、尚も舌を吸い胸を揉まれて悦に身悶える。

にゅり…ちゅぷ、ちゅっ…

「っ、はっ、はっ…はーっ…はぁっ…」
「へっへっ…涎、垂れてンぜ」
「だっ、だーれのせいだなや!オッサン!」
「さぁて?俺か?俺はクッションを放り込んでやっただけで、後の事は知らねぇんだがな」
「ぬっ…ぬぐぐ…またこのオッサンは屁理屈…っ」

今もアツキはアイマスクをしていて表情は曖昧だが、悔しげな顔だろうという察しはつく。
しかしそれでも、ヒノケンの首に腕を回したまま。
…いや、ヒノケン…ではない。

ぎゅむっ…ぎゅ…っ…

「…嬢ちゃん?」
「…このクッション、抱き締めてもゴツくて固くてぜーンっぜンふかふかもスとらン上に、オラにえっちな事もスてくるダメダメなクッション……だけンと」
「だけど?」
「……オラみてにアツいから。…キライではねぇだ」
「…へっへっへ…そうかい。…アツキ」

そんな事を完全に認めるのは、やはり悔しいのか。
唇をツンと尖らせるアツキが愛しくて。
思わずヒノケンはその意地っ張りな唇に、先程までのキスとは真逆の触れるだけのキスを。
ちゅっと響いたリップ音に、アツキは理解して。
尖らせた唇を、少しずつ笑みへと変えると。
もう一度、ヒノケンの身体をぎゅっと抱き締めた。

それはどんなクッションよりもアツキをダメにする。
どうしようもない、愛しさの熱で包んでくれるから。

■END■

今日のヒノアツ♀
ゲームセンターに行ってみる。ふかふかの食パンクッションふたつが1000円でとれた。ラッキー!帰ったら二人でサンドイッチになる。
#shindanmaker #今日の二人はなにしてる
https://shindanmaker.com/831289

◆取り敢えずタイトル何とかならなかったのかと。
人をダメにするクッションというヤツですね、それとホットアイマスクでリラックスしまくりのアツキちゃんを、美味しく頂戴するヒノケンという事で。
目隠しえっち…でも良かったかな…(笑)
今回は上記の診断メーカー様の結果も組み込みたかったし、ふかふかクッションでイチャイチャとスキンシップするヒノアツ♀でストップしておいた。
前に目隠しえっち自体も書いた事があるし…でも再燃前に放課後〜で書いたシチュだし、改めて今だから書いてみても良いかもしれない。…よし(何)
というか、イチャイチャに辿り着くまでの前置きが長かったですかね…しかし、どの場面も外せなかったというか書きたかったので仕方なしというか。
毎度アドリブ追加しちゃう(プロットの意味皆無)

2021.09.20 了
clap!

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