【Rockman.EXE@】
憂鬱な雨も時には優しい子守唄
◆診断メーカー様の結果から
梅雨のヒノケンとアツキちゃん



ーーーサアアァァアアッ…パシャ、パシャッ…

「やれやれ、よく降るな。シケってしょうがねぇ」
「ンっとにな、晴れにスても良かンべに…」

外は絶え間無く降る雨、才葉シティにも梅雨。
天候管理システムであるウェザーくんを利用すれば、連日の雨を晴れにする事は出来る。
しかしそれではニホンの季節感を損なわせてしまう事に繋がる為、相当な悪天候にならない限りは自然に任せつつ、多少の調整を行った結果が「天気予告」であり。
そして数日後には梅雨の晴れ間が少し長めに続く観測から、この時期の雨具合によっては休日にウェザーくんで作られる「晴れ間」は実施されず。
折角の休みなのに、リビングから見える景色は雨。

「これでもウェザーの管理が有るから、急な雨に降られねぇだけマシだと思うしかねぇな」
「それはそだけンとも…」
「ま、とにかくよ。今日はもう出掛けねぇし…お前が借りたDVDでも観ようぜ、嬢ちゃん」
「…そだな!オッサン」

雨に文句を零すヒノケンとアツキ。
だがヒノケンの方は比較的、割り切れているか。
前日、アツキがヒノケンの家へ向かう途中で借りてきたというレンタルDVDの観賞を促す。
まだ文句が出そうな様子でいたアツキだったけれど。
借りて向かったという事は、一緒に観たい表れ。
ヒノケンの方からDVDに触れてくれた事が、些細だけれども興味を持ってくれていたのだと感じ取る事が出来、アツキの機嫌が上向いた。

「…へっ。飲み物でも持ってくるから用意してな」
「ン、分かっただ!」

良い返事をしてDVDを入れているバッグに向かい始めたアツキを見届けると、ヒノケンはリビングを離れて二人分の飲み物を取りにキッチンへ。
冷蔵庫を覗くと、アツキが勝手にストックしているらしいペットボトル飲料が幾つか有り。
これで良いかと適当に二本取って。
きっと、機嫌良く用意を終えているアツキの元に。

「ええー?!なンね、コレ!」
「ンだよ大声出して、どうかしたのか?」

機嫌が良い…筈だったが。
ヒノケンがリビングに戻ると、聞こえてきたのはアツキの怒りと落胆が半々といった大声。
状況を見るに、DVDの入っているレンタル店のケースを取り出し、デッキの準備を済ませ。
いざDVDのセット、というトコロで何かあった模様。

「…中身…違うのが入っとるだ…」
「ああん?どれ」

憤慨するアツキが手にしている、ケースの中のディスクをヒノケンが覗き込んで見ると。
そのタイトルやディスクに印刷されている俳優達の雰囲気、使われている色やデザイン等から察するに、海外の恋愛映画といったところだろうか。

「こげな雨続きだから、スカッと何も考えんと観れそうなアクション映画ば借りたンに…」
「どう見ても恋愛映画みてぇなタイトルだな」
「…ンだべ?オラは恋愛モノも観ね訳でねぇけンど、今日はちっとンな気分でねぇだ…昨日だって雨だっちゅうのに、わざわざ寄って借りたンにな…」

次第に落胆を強めるアツキ。
ヒノケンが思っていた以上にショックを受けている様子に、何故そんなにもと思ったが。
そういえばーーー
本来、アツキが借りた筈だった映画は。
前に一度だけ、ヒノケンも「観たい」と言っていた。
恐らくアツキはそれを覚えていて、こんな雨の中だからこそ一緒に観ようとしたのだろう。
落胆が強まるのは当然。

「…レンタル店、混んでたとか言ってたろ」
「…ン…普段よりかなり混ンどっただ」
「この雨だ。家でDVD観て過ごそうって考えの奴が大勢出たもんだから、人為的かプログラムのヤツのせいか知らねぇが…入れ間違えが起きたんだろうよ」
「……うン」
「今から交換に店まで行くのも面倒だ、今日のところは仕方がねぇからソイツを観ようぜ」

中身の違うディスクの前で止まってしまっているアツキの手から、ヒノケンはレンタル店のケースごと少し強引に取り、ディスクをデッキにセットし始め。
テレビにはチャプター画面がすぐに映し出されて。
画面の雰囲気、やはりヒノケンが"基本は観ない"と言っていた恋愛ジャンルの映画だろう。

「…だけンとオッサン、このテの映画好かねって…」
「確かに得意じゃねぇが、お前も今日はこのテの映画を観る気乗りはしてねぇんだろ?なら適当に流しておいて、お前と話せる時間になりゃ…俺はそれでイイんだけどよ。駄目か?」
「…いンや。それでイイだ、オッサン!」

ヒノケンがそこまで言ってくれるのだから、憤慨や落胆した態度のままでは…いられない。
アツキは雨雲じみた表情を払い、待ち望む青空の様に晴々とした笑顔をヒノケンに向け。
そんなアツキにヒノケンは密やかに笑んで。
一緒に、雨音を混じらせながら映画を観始めた。

ーーー…

〜〜♪♪ーー…♪〜♪♪

「……はー、思ったより良(い)がっただな!」
「そうかい、なら結果オーライじゃねぇの」

正味、一時間半と少々の内容だっただろうか。
エンドロールが流れ出したところで、アツキは溜め込んでいた息を吐き出して口を開く。
恋愛映画の気分ではないと言っていたが、普段から全く見ない訳ではないアツキにとってその映画は、ヒノケンと話しながら観ていて後半からの展開が気になり。
クライマックスを迎える時には映画に釘付けで。
アツキの様子を察したヒノケンは話を適当に切り上げると、黙って一緒に視聴をしていた。

「オラ、映画に夢中で後半はオッサンの話ばよく聞いとらンかっただな…悪かったべな」
「…構わねえよ」
「…オッサン…には、つまンねかっただか?」

アツキが気に入ったのなら、それは良かったと。
ヒノケンは言っているが…どこか、淀みが含まれて。
やはり普段は見ないジャンルの映画を最後まで観させられたのは怠かったのだろうか、その辺りをアツキは控え目にヒノケンに問う。

「…いや。普段はこんな感じの映画は見ねぇからよ、お前みたいに内容が思ったより良かったとかナントカってのが出なくて、何て言やいいのか分からねぇだけだ」
「…そ、だか?」
「まあ意外と派手なアクションなんかもあったし、そこいら辺は悪くねぇなって感想だ」
「ンだな!悪の組織みてなのが出る映画に見えねかっただ。主人公が、ヒロインが恨ンどるその組織の元一員な事を告白スっとか…ベタだけンと映画の中だから有る話だったなや」
「……そうだな」

先程からヒノケンが抱く雨雲の様な淀み。
アツキに、元WWWの幹部だった自分の事をーーー何時、伝えるべきなのか映画と重ねた。
伝えずに逃げ続けるつもりは無い、けれど。まだ。
映画の様な結末を迎えられるのか…シナリオは無い。

「けンど、良いラストシーンだっただな」
「…膝乗せしてるヤツか」
「そーそー!…ちっとだけ、憧れるだ」

ラストシーン、主人公は眠るヒロインを膝に乗せて愛おしげに抱き締め、ヒロインと共に新しい道を歩みながら贖罪に努める決意で物語は閉じ。
アツキは単純に、膝乗せのシチュエーションに対して恥ずかしさも有る様子だが憧れを抱いたらしいが、同じシチュエーションを見てヒノケンが想う事は。

「…乗せてやるよ、こっちに来い」
「えっ、ちょっ、オッサン…!」

ラストシーンだけ先撮りなんて都合が良いだろうか。
でも、無性にアツキの熱を感じたくて。
ヒノケンは隣のアツキを抱き寄せると、自分の膝の上に背中を預ける形で乗るように促し。
急な展開に困惑したが、憧れのシチュエーション。
寄せられたヒノケンの腕に導かれる様にして、アツキはちょこんとヒノケンの膝の上に。
アツキを感じられる重みが、愛しい。

「…や、やっぱオラ恥ずかスぃだ…」
「何だよ逃げんなよ。…逃がさねぇけどな」

僅かな時間は、じっとしたアツキだけれど。
すぐに照れの方が先行してしまって膝の上から逃げ出そうとしたが、腕は自由なものの既に腰にはヒノケンの腕が回されていて逃れられず。

「…っとに、勝手なオッサンだなや」

ここで強く出たところで逆効果なのは知っている。
暴れたところで、回されている腕からは決して逃がさないという強固な意思も感じ取れる。
だから、アツキは再びじっとして。
まだまだ降り続いている窓の外の雨音を聞きながら、ヒノケンの熱を身体に受け止めた。

「…今日は、ここらにスては梅雨でスけ寒いだな」
「…どういう意味だ?」
「え?あ…普通に使っとったから分からねかったけンと、方言なンか。"スけ寒(ざむ)い"っちゅうンは、梅雨ン時に湿気とるのに暑くならンと寒くなる事だべ」
「成る程な、東北の方ならそんな事もよく起きるか」
「勿論、オラの地元に比べたら寒くねっけど…」

腰に回されているヒノケンの手に、アツキは静かに自分の手を重ね乗せる。熱が、じわり。
まるで互いの炎を寄り添わせている様。
こんな雨の日だから、何処かどちらの炎も弱火で。
くっついて、暖めあいたい。

「……へへ…」

きゅむきゅむと。
重ねるヒノケンの手を玩具にするアツキ。
自分を捉えるその手は、そんな事ではビクともしないと分かっている上での、ささやかな。
抵抗混じりのアツキなりのスキンシップ。

…ザアッ…!…サアァァッ…パラパラ…ッ…

「ン…雨、止みそうにねぇだな…」

一瞬、強い風が吹いた。
トロトロとした熱の最中に居て忘れられそうだったのに、外は雨なのだと引き戻され。
恨めしげにアツキは絶えず雨粒の付く窓から外を見るけれど、それで晴れてくれるでなし。
ふうっと、仕方なさそうに息を吐く。

「…オッサン、まだ夕飯まで時間があるけンと…どうスるだ?何か録画とか……オッサン?」
「……ん…」
「なンね、どうスただ?…って」
「………んが…す、ぅ……」
「ちょ、ねっ、寝とるンか?オッサン」

まさかの寝息で返され、アツキは様子を見たいが。
腰を捉える腕は相変わらず強固で、背中から抱き締められているのに変わりはなく、振り返ってヒノケンの様子を窺おうにも思うように身動きは取れない。
何とかならないかと身体を捩らせたアツキは、ふと。

(…あ、こンのオッサン…もスかスて…)

過去の経験を思い出す。

「ま、まーたオッサン!そげな狸寝入りでオラの反応見て、からかおうっちゅうンだべ!」

アツキは何度か"寝たふり"のヒノケンに騙されて、ついうっかり普段は見せない聞かせないような「可愛い態度」を晒してしまった事があり。
今度もそうに違いないと判断したのだけれど。

「……ン、ん…?…ぐぅ…アツ……すー…」
「え…オッサン…ホントに寝とる…ン、か…?」

だが過去とは様子が違う。
抱き締めている腕に掛けられている力も、離さずではあるが意思らしい意思は感じられず。

「……ケンイチ…」
「……すかー…っ…」

ぽつり、確かめるように名前を呼ぶ。
窓の外の雨音にも敗けてしまいそうな小さな声で。
それでも返るのは無防備な寝息だけ。
どうやら、本当に。

「…もう…これはこれで、オラ動けねぇでねか…っとに、っとに…スっかたねぇオッサンだ」

とはいえーーー気持ちは解らなくもない。
冷え過ぎない程度の今の時期にしては下がった気温。
その中で重なり、行き来する互いの熱は心地好く。
何より、何時もなら憂鬱な筈の。

「…ふぁ…オラも眠くなってきただな…動けねっから…いっか…おやすみな。…ケンイチ…」

完全に背中を眠るヒノケンに預け。
アツキも静かに目蓋を閉じれば。
憂鬱な雨の音は、何時しか優しい子守唄。
リビングには安らかな寝息が、ふたつ。

■END■

今日のヒノアツ♀
レンタルDVDの中身が違っていて、普段見ないジャンルの映画だったけれど結局二人で最後まで見る。
#shindanmaker #今日の二人はなにしてる
https://shindanmaker.com/831289

ヒノアツ♀の場合:恥ずかしがって逃げ出そうとする相手を膝の上にちょこんとのせて、いつのまにかふたりで眠ってしまいました。
#shindanmaker #ほのぼのなふたり
https://shindanmaker.com/715149

◆梅雨の頃になると「今日はすけ寒い」と家族から言われたものですが、今回のお話を書くまでハッキリ意味を知らんまま相槌打ってた東北生まれです(…)
意味はアツキちゃんに説明させた通りですが、梅雨の雨で湿気ているのに気温が上がらずに冷える事ですね、そういや6月は5月より着込む日もあったっけ。
才葉でそれが起きるかと言われたら、便利に利用してきたウェザーくんが気温管理してしまえそうだけど、余程の悪天候以外は強制変更しないイメージなので。
スカイタウン判断は気温の変更無しだった、とか。
そう思って下さい(笑)
あと膝乗せシチュって書いてないなと思ったので、こうして書く機会が出来て良かった〜♪

2021.06.09 了
clap!

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