【Rockman.EXE@】
変われた魔法の名前は恋
◆「無くしたピアスが紡ぐ意味」の後日談
出番が少なかったので、アツキちゃん側のお話を足してみました( *・ω・)



「バカバカバーカ!オッサンのバアァァアカ!」
「〜〜〜…うるせぇって言ってンだろうが!ちょっと静かにしやがれ!」
「なら出て行くからいいだ!…もう、オッサンなンか知らねぇべー!」
「あーあ、俺もお前なんか知らねぇよ!」
「ッ……バカァッ!!」

───…

雲ひとつ無い快晴の休日。
それなのに、とぼとぼとタウンを歩くアツキの表情は曇天よりも暗い。
才葉シティの天候管理システムであるウェザーくんが予告した今日の天気は晴れ、だからアツキは…ヒノケンの予定が空いているのであれば、デートをしたかった。
ヒノケンからの返事は「空いている」と。
そう言ったのに。
いざ当日になったところで急な研究協力要請が舞い込み、デートは無理かもしれないという辺りから雲行きが怪しくなり、気付いた時には…熱くなってしまって。
ワガママと罵声を飛ばした上に、アツキはヒノケンの家から飛び出してしまったのだ。
じゃれあいの様な喧嘩は日常茶飯事だけれど、今日の喧嘩具合は深刻。
この一件を振り返ると、アツキは自分の余裕の無い「子供」さに自己嫌悪しており、心の何処かで自分が「釣り合っていない」という想いが顔を出す。

「…オッサンが忙スいのは、分かってる…筈なンだけどな…でも、オラ…」
『アツキ…』

自分の沈んだ表情を見せたくないのか、アツキは手に持つPET内のバーナーマンとは目を合わせないようにしてポツリと呟くが。
バーナーマンにしてみれば、アツキがそんな気遣いをする方が…嫌で。

『(こんな時って、どう声掛けりゃ良いんだ…うーんと、えー…そうだ!)』

『あ、あのよ!アツキ!…』
「…オラ…やっぱりオッサンの事が…悔しいけンど、好き…だかンな…一緒の時間が欲しかっただけなンに…って、何か言ったべか?バーナーマン」
『……いや、ア、アツキの話を聞いてただけで何も…空耳じゃねぇかな』
「ンだか?…話を聞いてもらってると少しは気が楽になるべ、ありがとな」
『俺はアツキのナビなんだから、話くらい幾らでも聞いてやるよ!』

バーナーマンの言葉にアツキは漸く目を合わせ。
ほんの少しだけ表情を明るくさせる。
その表情に対してもバーナーマンは僅かな上向きではあるが良かったと安堵したのだが、他にも実はひっそりと安堵していた事が有り。

『(…コレ多分、オッサン以外にも男は居るだろみたいなフォローは間違ってたよな…あ、危ねぇ何時もの勢いで言い切ったりしなくて良かったぜ)』

どうにもバーナーマンに恋愛事は不得手。
上手く誤魔化せたが、根本的な解決は見当たらない。

「…あンれ?あそこに居るンは…おーい!もスかスて…光熱斗でねぇか?」
「えっ?……え、ええっ?!」
『熱斗くん、どうし…あっ、えっ?!』

ちょっとだけ上向いたとはいえ、まだまだ曇り顔で適当に歩いていると。
前方に見覚えのあるバンダナの少年が視界に。
そういえば同じく才葉に引っ越してきていると、少し前にヒノケンから聞いていた。

「オラの事を覚えていないンか?バーナーマンのオペレーターの火村アツキだべ」
「いや、えっと、覚えているんだけど…」
「…どスたべな?」
「お、怒らないでほしいんだけどさ。…あの…男の人だと思ってたから…」
『アツキさん、ゴメンね…』
「…オメ達もオッサンと同ズかい…」

今でも普段のアツキは制服以外でスカートを穿いたりする事は多くなく。
その「制服以外」が起きるのは、ヒノケンとのデートに向かう時。
故に今日のアツキは精一杯の女の子らしい格好だった為、間違えていたままの熱斗…と、どうやらロックマンの認識も正される事になった模様。

「まあ、あン時は仕方がねかったかもスれンけど。にスても本当に才葉に来てたンか」
「俺達の事、誰かから聞いてるの?」
「オッサンからだべ。あのオッサンよりオラの方が熱いって証明スるにはオメ達を倒さねばならねっから、またオラとネットバトルをスるだ!」
「そ、それまだ言ってるんだ…バトルするのは構わないんだけどさ」
『…というかアツキさん、ヒノケンさんと連絡を取っているの?それに何で才葉に…?』
「…う、え、えっと…オッサンとは…その…」

ロックマンの素直な疑問にアツキは言葉を詰まらせ、ゴニョと濁らせる。
恋人だと。
今のアツキには、何時も以上に明言が出来なくて。

『!…熱斗くん…もしかしてヒノケンさんが言っていた、自分に似ていて女の人では世界で一番アツいって…アツキさんの事なんじゃ…?』
「あー!そっか!そういう事?!」
「な、なンだべな」

アツキが返事に窮している間に。
ロックマンは「アツキが女性だった」と知った事で、パズルのピースがぴったりと填まる様にヒノケンが言っていた「彼女」の意味が繋がったらしい。
こっそりと熱斗に推理を語ったのだが、それを聞いた熱斗の反応が存外に大きく。
突然の大声に、驚いた顔をアツキは熱斗に向けた。

「あっ、ゴメンゴメン。えっとさ、ヒノケンから彼女が出来たって聞いたんだけど…」
「…あのオッサンが、それ言ってたンか?」
『うん、だけどハッキリ誰とは教えてくれなかったんだ。でも…アツキさんなのかなって』

ヒノケンが外で自分の存在を「彼女」として、ほのめかしている事を知らなかったアツキは。
もし、本当に自分の事であるなら。
単純に嬉しさを滲ませたのかもしれないけれど。

「……ン、ンだべ……多分」
「た、多分って。どういう事?」
「オッサンと喧嘩スて飛び出してきたトコロだかンな…」
「えっ、ま、またインターネット中を火の海にしたりしないでよ」
「大丈夫だべ、オラもだけンと特にオッサンは今そげな事をスたら色々と努力をスたのがパァになっツまうかンな…それが分からない程では無ぇだ」
「なら良いんだけど…」
「だけンと何時もよりも派手な喧嘩になっツまったンで、今のオラは…オッサンの彼女だって言っていいンだか、ちょっと分からねぇンだべ」
『アツキさん…』

どことなく寂しげな哀しげな。
そんな様子がアツキから窺えていた正体。

『それで何となく元気が無かったんだね』
「ン、ンな事ねぇべ!オラはオッサンと喧嘩スたからって平気だべな!」
『だけど…』
「オラは…オッサンが居ねくたって…」
『……そんな事ねーだろっ!』

平気だと言いながら明らかに声も表情も徐々に沈ませていくアツキに、熱斗とロックマンは想像していたよりも喧嘩の具合が酷いと悟ったが。
だからといって自分達が出来る事はすぐに浮かばず、見守っていると。
黙って聞いていたバーナーマンが声を上げた。

「わあっ!?きゅ、急になンだべ!バーナーマン!」
『ついさっき、オッサンが良いって…好きだって言ってただろアツキ!』
「バババ、バーナーマンっ!ばっ、バカ言うでねぇ!そげな事とか言ってねぇだッ!」
『いーや言った!ちゃんと聞いてた!』
「ちゅうか、何でソレを今言うンだべ!」
『ロックマン達も困ってるだろ!アツキが…自分のキモチに嘘ついてるからよ…』
「う…バーナーマン…だけンと…」

慌ててアツキはPETのバーナーマンに目を向け。
何事かを問うと、心が一番弱ってしまっていた時にポツリと漏らした想いをハッキリと言われ。
それが本当の想いの筈なのに、誤魔化そうとしている事を咎められて。
アツキのココロが揺れ動く。

『…バーナーマンはアツキさんに、空元気なんかじゃなくて本当に元気になってほしいんだよ』
「ロックマン…オラは…」
『喧嘩して…キモチが沈むって事は、アツキさんはヒノケンさんと仲直りしたいんでしょ?どうでもいい事だったら、落ち込んだりしないよ』
「…ンでも、オラばっかりで…オッサンこそオラが居なくても…平気なンでねぇか…」

そもそも一方的にアツキが押し掛ける形で始まっている、関係。
だからアツキのココロには、ヒノケンが離れてしまう不安が常に片隅に存在しており。
自分がキモチに正直になったところで、既にヒノケンの方が離れてしまっていたら。

「…俺、まだそういうキモチとか…よく分からないんだけど…ヒノケン、「可愛い俺の彼女だ」って言ってたよ。スッゴい幸せそうな顔してさ」
「…オッサンが?」

ヒノケンもアツキも意地を張ってしまいがちな性格をしているのは熱斗達にも何となく理解が出来る為、それで双方が素直に仲直り出来ないのだと思っていたが。
そこに加え、どうやらアツキはヒノケンが自分をどう思ってくれているのか、という部分が足りておらず…心許なくしているのだと察した熱斗は。
あの日、研究室でヒノケンが「彼女」の事をどう想っているのかを告げ。
そうして見せた幸せそうな表情の事を伝える。
外で自分の存在をほのめかしている事を今しがた知ったアツキにとっては当然ながら初めて聞かされるヒノケンの想いに、潰えそうだったココロの灯火が再び点いた。

『うん、ボクも聞いてたよ。…青色のネクタイピン、アツキさんのプレゼントでしょ?』
「使ってるン…か?」
『ヒノケンさん、大事そうにしていたもの。…アツキさんの事も、大事に思っている筈だよ!』

もうあと少し。
熱斗の着眼点は間違っていないと判断したロックマンは、ネクタイピンの話を。
やはりアツキの様子からすると、ヒノケンはアツキ本人には大切に大事に使っている姿は見せていないらしく、「使っている」と聞いたアツキは驚いた表情の中に。
明らかな安堵と喜びのキモチを浮かべ。

「……全く…あのオッサン、肝心な事をオラに言わねぇンだから……」

呆れた風に言葉を紡ぐアツキだけれど。
本当に───本当に、嬉しくて、安心して。
泣き出してしまいそうなくらい。

「仲直り…出来そう?」
「…スっかたねぇ、オラの方から折れてやるだ。…ありがとな光熱斗、ロックマン」
「ううん。…俺からも礼を言わせてよ、ありがとう」
「な、なスて光がオラに礼を言うべ」
「何となく、かな」
『ボクからも、ありがとうアツキさん』
「ロックマンまで…何だべな」

礼を言いたいのは自分の方の筈。
けれど、熱斗だけではなくロックマンにまで礼を言われてアツキには意味が分からず。
何故なのか聞こうとも考えたが、その迷い無き礼の意味は…二人とヒノケンの浅からぬ縁から出た礼なのだと感じ取ったアツキは、追及をしない事にした。

「…よく分かンねぇけンと、さっさと仲直りスてくるからオラはもう行くべ」
『またな!…お前ら…アツキを元気にしてくれて、ありがとよ!』
「うん!…って、後ろ!」
「へ?後ろって……オ、オッサン!?」

熱斗達に別れを言ってヒノケンの家に向かい直そうとしたアツキの背後。
誰かを探し、見付けた事でゆっくりと近付くが。
その直前まで明らかに全力で探し回っていた様子の窺える、その姿は。

「おいこら光、人の彼女をナンパしてんじゃねぇぞ」
「ヒノケン!俺は別にナンパとか…」
「冗談だ冗談、そんな真に受けるなよ。…嬢ちゃんが世話になったみてぇだな」
「……オッサン……」

謝って仲直りしよう。
そう決めたアツキだが、流石に決心から急過ぎてヒノケンを前に言葉が出ない。
どう口に出せば良いのか、言いたいのに言えない。

「俺も言い過ぎた、悪かったなアツキ」
「えっ…あ、う…謝るンはオラの方だべな。……ゴメンな、オッサン」

アツキの様子に、ヒノケンは自分と仲直りをしたいキモチを汲み取り。
しかしまだキモチの整理や言葉を選べていないとも気付いた為、ヒノケン自身も───アツキと仲直りをしたいから、全力で探し回ったのだ。
だから、素直に余計な事を加えず謝る事で。
アツキの方も、正直なキモチを言い出せた。

「…お互い謝ったんだから、これで仲直りだよな!」
「へっ、そうなるな。ほら行こうぜアツキ、デートがしたかったんだろ」
「そ、そンなハッキリ言うでねぇべ!…それに、時間…あるンか…?」
「俺のナビ総出の超特急で、あんな程度の要請ならすぐ終わらせたっつうの。…ったく、少しだけ大人しく待ってりゃ…いや、説明しなかった俺がソレは言えねぇか」

ガシガシと頭を掻き、バツが悪そうにヒノケンはアツキから目線を外す。
喧嘩の原因をアツキだけのせいにはせず、自分の至らなかった部分を省みるヒノケンの様子に。
傍に居ても良いのか…まだ不安があったアツキも次第に想いを受け止め。

「そっか…うん、オラ…デート…スたい…べ」
「…へっへっ、素直でイイ子だアツキ。じゃあな光、俺らは行くからよ」
「ああ!仲良くな!」
「分かっただ!ンでまたな!光!」

先に熱斗達に背を向けて歩き出したヒノケンを追い。
追い付いたアツキが、当たり前の様にヒノケンの腕を取って寄り添う。
アツい二人だから、喧嘩をしても熱いけれど。
お互いが惹かれ合った時のアツさが…何よりも熱いのかもしれない。

「…なあロックマン、ヒノケンが「今の」ヒノケンに変わったのってさ…」
『そうだね、アツキさんのお陰だと思うよ』

仲睦まじく去り行く二人の背を見送りながら。
後に残された熱斗とロックマンは、恋の魔法の偉大さを感じ取っていた。

■END■

2020.07.25 了
clap!

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