【Rockman.EXE@】
ハロウィンの見習い魔女【RE】
「オッサン! とりっく・おあ・とりーとー!」

秋の空気が深まり静寂が似合う季節。
そんな事はお構いなしといったアツキが、寛ぐヒノケンが居るリビングのドアを開け放つ。
今は10月31日の夜、即ちハロウィン。
押し掛けるようにしてヒノケンの家を訪れたアツキは、寝室へ直行すると持って来た仮装に着替え、開いたドアから現れたのはとんがり帽子と黒いローブの魔女。
アメロッパ語の成績が若干心配になる、完全にニホン語の発音が大部分のアメロッパ語で。
アツキはヒノケンに向かい堂々と、ハロウィンのお菓子を要求すべく参上した訳である。

「さあさあ、お菓子を寄越スだ!」
「…ハロウィンっつうか、追い剥ぎか何かかよ」
「誰が追い剥ぎだべな! オラは山賊でねぇだ!」

リビングに現れてからのアツキの移動は早く。
あっという間にソファへ座っていたヒノケンの前まで距離を詰めると、どこにも行かせぬ様に立ち塞がり、今日の為のお菓子を寄越せと両手を差し出しており。
元々のハロウィンというイベントの形式通りではある筈だが、確かにアツキらしい強引さが加わった事で、少々の追い剥ぎ感が出ている気もする。

「ッとに…彼女サ言う台詞でねぇべ、オッサンはこれだから…こンの帽子でも被ってみたら、ちっとはハロウィンらスぃ気分になるべかな」

えいっ、と。
仮装した姿だというのが手助けしているのか。
アツキはソファへ座るヒノケンに正面から跨り乗る積極性を見せ、被っていた魔女のとんがり帽子をヒノケンの頭にちょこんと乗せて、追い剥ぎ扱いのお返し。

「あはは! オッサンには似合わねぇだなや」
「…当たり前だろ、まったく何処で買ってきたんだ」

乗せられた魔女の帽子をアツキに乗せ返すと、ヒノケンはついでにアツキの頭を撫でだす。
アツキ程、こうしたイベントに対してヒノケンは積極的ではない───いや、なかったが。
どうもアツキのせいで変わりそうだと、ココロの火が揺らめくのに従い、自然と動いた手。
撫でられた事にアツキの顔には僅かに驚いた表情。
見習い魔女の魔法が成功して寧ろ驚いた、みたいな。
続いて浮かぶのは、何時ものアツキの笑顔。

「へへ…それはソレとスて…オラにお菓子を寄越さねッちゅうなら、悪戯ばスッかンな?」
「嬢ちゃんの悪戯ねぇ、タチが悪そうだな」

半ば呆れながら自分の上に跨るアツキを支え、皮肉混じりの返答をするヒノケンだけれど。
実際、「悪戯」と称して何をしてくるのか。研究データに危害を加えるといった事は流石に無いと思うも、アツキの性格を考えれば悪戯をすると言ったら絶対に何かしらは免れない。

「へへン、かもスれねぇだな。だ・か・ら、大人スくお菓子を寄越スた方が身の為だべ!」

やっぱり魔女ではなくて追い剥ぎでは。
そう言い掛けたヒノケンだが、ひとつ息を吐いて言葉を飲み込み、ニコニコしている見習い魔女なアツキの顔を見て───気付かれぬ程に僅か、上がる口角。
魔女と呼ぶには純粋。
ズルい大人の知恵というモノを見せてやろう。

「分かった分かった、じゃあ"Treat"を選ぶぜ」
「え? 本当だか? オッサ、ン…ンふ…ッ?! 」

くちゅ…ちゅうっ…

深く重なり合わされる、濃密な口付け。
じっくりと味わう意思を孕むキスに激しさは無くて。
けれども、ゆっくりとゆっくりと侵食され、次第にアツキの身体全体へと染み渡る痺れは。
やけに何時もよりも、甘く感じられた。

……ちゅ…っ…

「……ッ、はぁ…」

お互いの口唇から名残惜しむ音が零れて離れ。
重ねられた瞬間に自然と閉じていた目を開けばヒノケンと目線が交わり、アツキは悩ましげな声を漏らして酸素を取り込みながら顔を下げ伏せる。

「…なッ、何をスるだオッサン…」
「俺は"Treat"を選ぶっつったじゃねぇか」

ヒノケンから離れたアツキの唇は、どうしてか甘さに包まれる心地。酷くひどく熱っぽく。
お菓子なんかよりも、もっと、ずっと。

「甘いのをくれてやれば悪戯しねぇんだろ?」
「ゔ〜…こンの、屁理屈ばッかこねるオッサンは…」
「気に入らなかったかよ」

見習い魔女を手玉に取って満足さを含んだ意地悪な笑みを浮かべ、アツキを窺うヒノケン。
何もかにも分かっている、クセに。

「…ふーンだ、お菓子でねなら悪戯スてやッから!」
「へっ…素直じゃねぇ魔女嬢ちゃんだな」
「……ンでも…」

ぎゅうっ、と。
アツキはヒノケンの首に腕を回し、ゆっくりと押し倒す様に自らの身体を預けて密着し。
何も言わずに、逞しい身体を抱き締めていたけれど。
腕に込める力を一際に強めたのをきっかけとして意を決し、ヒノケンの耳元へ寄せる口唇。

「…さっきの甘いの…オラにもっとくれるっちゅうなら…悪戯スねでやっても…エエ、かな」
「へっへっ…素直じゃねぇし欲張りな魔女サマだぜ」
「ふ、ふンッ…で、ど、どうスるンだべッ」

自分から進んで言っておいてからに、顔を赤くしているアツキにヒノケンは柔らかな笑み。
朱に染まる愛しい顔を自分へと向けさせる。
見習い魔女が見て良いのは、自分だけ。

「悪戯されちゃ堪らねぇからな」
「…オッサン…」
「たっぷり、甘いのをくれてやるよ」

もう一度、口唇は重ねられて。
蕩ける様な甘さは、より深みへと浸透を始めてゆく。


Trick or Treat?

No.

Trick or Sweet…

Happy.
Happy Halloween!!

■END■

最初の更新日は消失(2005年の秋?)
2023.06・旧作から全面リメイク
clap!

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