【Rockman.EXE@】
才葉の初デートはシーサイド
ぷっくうううぅぅ〜〜〜…

『…それ以上は膨らまねーだろ、アツキ』

ここは才葉シティの一角、シーサイドタウン。
水と人間の調和をテーマとしたこのタウンには、クジラの外観をした随分と個性的な水族館がある。
そして、その近くには水族館と並ぶもう一つの名物である人魚像の噴水があり…
そこに、さっきから膨れ顔で噴水の縁に腰掛けるアツキが居た。

「…オッサンが来ないンが悪いンだべ」
『そりゃそーだけどよ…オッサンも相当、忙しそうじゃねぇか』
「…分かってるべ」

バーナーマンがヒノケンの擁護をする、というのは非常に珍しいのだが。
実際問題、才葉学園に赴任してからのヒノケンはかなり忙しいらしく…それはアツキも分かっている。

分かっているけれど。

才葉シティに居を移してからというもの、平日はおろか休日も直接会えずロクに構って貰えない状態に、アツキの我慢は限界だった。
アツキの性格を考えれば、随分我慢した方だと言っていいだろう。
その反動が、昨晩一気に爆発してしまったのだ。

思い立ったら即断即決即実行。

会いたくて。
居ても立ってもいられなくなったアツキは「明日の休日!シーサイドタウンでデートだかンな!!」と。
一方的に、その旨を記したメールを出したのである。

そう。
時間も、デート先も、待ち合わせ場所も、一方的に…
ヒノケンの都合がどうなのかとか、その中には含まれていない。

送信してから、徐々にそんな自分の独り善がりを悪いと思ったりもした。
だからバーナーマンがヒノケンを擁護しても、非難はしなかったのだ。
しかし、それにしたって…
返事の一つくらい寄越してもいいだろう。
昨晩メールを送信してから、今日の待ち合わせ指定時刻から1時間経った今まで。
結局、一度もヒノケンからの連絡は無かった。

『…オート電話してみるか?』
「…仕事の途中とかだったら悪ぃから、いいべ…」

しゅん、と。
落とした目線の先には、制服以外では滅多に穿かない自分のスカートが目に入る。
女の子らしい性格や好みは勿論、格好も。
全然興味なんか無かったのに、一目見て気に入って。

ヒノケンに見せたい、と。
すごく楽しみにしていた事を思い出す。

何だか…自分ひとりが勝手に舞い上がって、勝手に落ち込んでいるのが情けなくて。
アツキの瞳にはじんわりと涙が滲む。

「…もう、帰ンべ…」
「ぁあ?ンだよ、折角来てやったのによ」
「…え?あっ、オ、オッサン!?」

ポツリと呟いたその瞬間、目の前に影が落とされて。
頭上から、自分に向けられたその台詞に驚いてアツキは顔を上げた。

「……詐欺師?」
「…お前、久し振りに会って言う台詞がそれかよ」
「ンじゃ、ペテン師だべか?」
「同じ意味だバカヤロウ!つうか、そんなに俺のスーツ姿は胡散臭ぇのか!」
「ンだべ」
「……即答かよ」

そこまでキッパリ言われるとは思わなかったらしく、思わず眼鏡もずり下がる。

「…なスて、ンなカッコなンだべ?」
「何でも何も、才葉学園から直接来たからに決まってんだろうが」

そう言えば。
ヒノケンが教師になった事をアツキは勿論知っている訳だが、どんな格好で学園に行っているのかは知らなかった。

「学園から、って…休日なンに仕事だったンなら、断りのメールの一つも寄越せばオラはそンで…」
「よく言うぜ、泣きそうなツラしてたクセによ」
「…ッ…ン、ンな事ねーべっ!!」
「スカート、似合うし可愛いじゃねぇか…気合入れて来たんだろ?」
「たっ…たまたまだべっ!!」
「俺に会いたかったんだろ?」
「う…」

アツキの隣に腰掛けて、少々意地悪く問い掛ける。

「んん?」


……こくん。


言葉で言うのは癪に障る。
でも、会いたかった事に違いは無いから。
小さく、アツキは頷いた。

「…ひゃっ!?な、何だべ、オッサンっ…!」

頷いてそのまま俯いていると、不意にヒノケンに肩を抱き寄せられた。

「…俺も、会いたかったぜ?」
「…そ、そンなら先にオッサンから言うモンだべ…っ」

会ったら会ったで翻弄されて。
腹も立つけれど。

「さぁて…デートといくか、お嬢ちゃん?」

小馬鹿にした様な物言いにも。
腹が立つけれど。

…けれど。


それ以上に、会いに来てくれた事が嬉しいんだから仕方ない。


「ホラ、水族館だろ?見に行こうぜ」

腰掛けていた噴水の縁から立ち上がって。
差し出されたヒノケンの手に、アツキは自分の手を重ねる。

「…オッサン」
「ん?」
「水族館の後で、あのクジラのぬいぐるみ買ってほスいべ♪」
「…あんなデカイのを寮の部屋に置く気かよ」
「ンだってあの大きさが良いンでねか、ちゅうかオッサンの家に置いとくから大丈夫だべ」
「人の家を物置にすんな!あんなモン邪魔だ!」
「それとタイヤキも食べたいべ♪」
「ったく、元気になったと思えばコレだからな…」
「オッサン…」

ぴた、と。
手を繋いで水族館へ向かっていたアツキの足が不意に止まった。

「何だ?」
「…オラ…寂しかったンだかンな!」

ぷくうっと、アツキはまた頬を膨らませてヒノケンに抗議する。
その様子に、思わずヒノケンは笑みを漏らした。

「わ、笑い事でねぇべっ!!」
「へっへっへ…悪ぃ悪ぃ、今日で大分片付いたからよ…明日からはちゃんと相手してやるぜ」
「……本当だべな?」
「ああ、だからンな顔すんな…可愛いけどよ」
「オ、オラは怒ってるんだべ!!こンの詐欺師ーっ!!」
「だから詐欺師じゃねぇっつうの!こんな往来で人聞きの悪ぃ事を言うんじゃねぇ!!」

ぎゃあぎゃあ騒ぎながら…それでも。
お互いしっかり手を繋いだまま、二人は水族館内へと消えていった。


シーサイドの恋人達は、今日も相変わらず。

■END■





―――水族館内にて…

「…で、何で水族館なんだ?」

興味津々の様子で水棲の生物達を見るアツキの隣で、ヒノケンは素直な疑問をアツキに投げ掛けた。

「オラ、地元が山ン中だから…特に海のモンが珍しいンだべ」
「ふーん…ま、俺も自分じゃ普通は来ねぇから…結構、面白ぇけどな」

「へへー、ンだべ?生でサメ見れて嬉スいべ〜♪」
「…もうちょっと、可愛げあるモンを見て嬉しいとか言えよ」

「えー?そンなら、ワニ!」
「……あのなぁ…」

「あー!オッサンオッサン!!オラ、ポップコーン食べたいべ♪」
「タイヤキ食うんじゃねぇのかよ」

「タイヤキも食べるけど、ポップコーンも食べたいンだべ!」
「…へいへい…」

「それに、これからショーが始まるみたいだべ♪一緒に食べながら見るべ!」
「分かった分かった、さっさと買ってこいよ」
「了解だべっ♪」


ピーンポーン…♪
≪只今から、ショー会場にてイルカとアザラシによる水中ショーを開催します…≫

■おしまい■

2005.12.01 拍手御礼
2006.01.05 拍手移動
2020.02.08 加筆修正
clap!

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