【Rockman.EXE@】
猫とシャボン玉デイドリーム
まんまるでふわふわで、透明なのに虹色で。
それはまるで、夢の泡が浮かぶ様。

ふわっ…ふわわ…

「……え…シャボン玉?…だなや」

んーっと。
ひとつ気持ち良さそうに伸びをしたアツキ。
お昼を済ませてヒノケンが休日の午後は、晴れていれば大好きなスイーツの時間まで庭へ出て日向ぼっこをして過ごすのがアツキの習慣なのだが。
そろそろ日差しが日向ぼっこには強くなり。
ならば家の中で過ごせば良いのだけれど、外の空気や風を出来るだけ感じたそうなアツキの様子に、ヒノケンは物置から使っていないビーチチェアとパラソルを庭に設置してくれて。
パラソルが生み出す日陰は、チェアに寝転がるアツキをすっぽりと覆い…とても丁度良い。
暑さの中にも時折そよぐ風を感じ、真っ白な猫耳をぴくんと跳ねさせ伸びを終えたアツキの元へ、とてもささやかな風に乗って闖入者が現れた。

「……」

つん……ぱちんっ

やっぱり、シャボン玉だ。
夢色の球体は、先程までパラソルの下でウトウトしていて気付かぬ内に眠り落ちてしまって、その中で見ている光景なのかと思ったが。
アツキがつついた球体は現実の中で弾け消え。
むくりとビーチチェアの上で身体を起こし、球体を運ぶ風が流れてきた方向に目を向ける。

「…オッサンのシャボン玉遊びはどうかと思うだ」
「遊んでるんじゃねぇよ、理科の授業でシャボン玉液を生徒に作らせるから、どうすりゃ上手い具合に作れんのか試してるんだっつうの」

どうやらアツキがウトウトして警戒を薄めた間に。
ヒノケンも静かに庭へと出ており、手にはストロー。
夢色の球体は、そこから生まれたらしい。
一緒にスイーツ時間までのヒノケンの過ごし方はというと、大体がリビングに居て時々ちらりと庭のアツキの様子を窺って、という具合だったが。
今日はキッチンに向かったかと思うと、なかなかリビングに戻らずにいるとはアツキも感じていたが…シャボン玉液を作っていた模様。

「試スような事があるンか?」
「ナントカを入れりゃ割れ難いってのが一応な、砂糖だのガムシロだのグリセリンだの」
「ふーン…で、どれが強く出来るンだべ?」
「市販のヤツにガムシロの配合量が成功したヤツ」
「……市販で解決して良いンだか、ソレ」
「良くねぇよ、だからイチから液を作るんなら分量だのどれが正解なのか、試してんだよ」

言いながらヒノケンはストローの先を液に浸け。
そっと、ふっと優しく泡を生み出し飛ばす。
流れ飛んだ透明で虹色は、アツキの猫耳で弾けて。

「コレはそこそこ良く出来たな」
「そげにハッキリ、違いサ分かるンか?」
「全部が全部じゃねぇが、割れずに球状で留まれるのが出来るし。そうでなくてもざっくりした体感的に、簡単には割れてねぇなってのが分かる」
「へー、違うモンだべな」
「もうちょいグリセリンを足しても良さそうか」

更にひと吹きしてみるヒノケン。
アツキの服に流れ着いたシャボン玉の中には、確かに布の上で弾けぬモノも出来ていた。

「…シャボン玉液作るのに工夫があるンは分かっただ、他に何か実験になるンかオッサン」
「水中にシャボン玉を作るとか、ドライアイスの上で割れずに浮かせるとか、あとはストローっつうか…吹くモノを工夫してみたりだとか、そんな感じだな」
「ふうン…水中に出来たりスるンか…」
「…用意なら難しくねぇ、見てみたいか?」
「えっ、オラ別にそンの…きょ、興味とか…」
「まーまー、いいから待ちな小僧。確かドライアイスもあったと思うが…どうだったかな」
「ちょっ…オッサン!…行ッツまった」

シャボン玉実験の準備の為に家の中へ戻ったヒノケンの背中を見る、庭に残されたアツキ。
別にいいのに、なんて態度だけれども。
アツキも分かってはいた、自分の尻尾は正直だから。
興味津々に揺れていたのだろう。

「(水ン中で、どンな感じになるンかな…ン?)」

そわそわしているが、大人しく待つアツキの目に。
庭とリビングを繋ぐ窓の下に何かが置かれている事に気付いて、正体を確かめに向かうと。

「…オッサン、置いてったンか」

どうやらソレは、先程までヒノケンが持っていたシャボン玉液入りの紙コップとストロー。
水の用意やドライアイスも有れば持ってくると言っていた、なのでこのシャボン玉液セットを持ったままでは邪魔になるから、といったところか。
見てくれは本当に何でもない紙コップと透明な液。
なのにストローで吹けば、先程の夢色を見れる。
起きたまま夢の中、もう一度…見てみたくて。

……ふー…っ…ふわ、ふわわっ…ふわり

「…オラ上手いンでねぇか?」

自分贔屓な評価では多少あるが、確かにストローの先から出来たシャボン玉の数はなかなかのモノで、ヒノケンが作った数より多いかもしれない。
自然と得意顔になるアツキ、とても気を良くして立て続けにシャボン玉を吹き生み出せば。
見慣れた筈の庭が夢色の球体で満ちてゆく。
まんまるで、ふわふわで。
本当に夢の中?それともやっぱり現の中?

「お、結構な数のシャボン玉じゃねえの」
「!…っと…急に話ス掛けるでねぇだオッサン、シャボン玉液ば吸いそうになッツまったでねぇか。…まあいいべ、それよりどだ?オラ、上手だべ?」
「俺が作ったシャボン玉液が優秀だからな」
「む…なンね、オラとオッサン同じ液で吹いとるンだから、多く作った方が無条件で上手いっちゅう事サなるでねぇか。負け惜しみだべな」
「そういう事にしてやるよ、本気でやってねぇし」
「む〜…口の減らねオッサンだなやホント…」

どっちもどっちの負けず嫌い。
得意顔のアツキに対し、余裕綽々なヒノケンの態度。
アツキは膨れっ面に変わる。

「ズぇったい、オラの方が上手だべ!ホレ!」

ついついムキになり、もう一度シャボン玉。
これまでで一番、多くの球体が空に浮かび舞う。

「間接キス」
「ぶっふ!?…きゅ、急に何ぬかスだオッサン!」
「ストローは一本しか差していなかった筈だから、コレ間接キスだなって思っただけだぜ。何かそんなに動揺するような事を言ったか?」
「べっ、べ、別に!間接キスとか今更平気だべ!どッ、動揺とか…全っ然!スてねぇだ!」

全く気付いていなかったのは明白。
ヒノケンに間接キスだと気付かされて、動揺などしていないと言ってみるものの、どう見ても表情には照れが滲んでいるし…真っ白な猫耳まで真っ赤になりそうな。
尻尾も照れくさそうに揺れている。

「へっへっ…カワイイな、お前」
「…ッ…なに…スっ…」

……ちゅ…

ヒノケンが静かにアツキに近付いたかと思うと。
アツキの前髪を上げ、そっとおでこへ口付け。
口唇の感触は、どうしてどうして優しく柔らかで。
夢、みたいな心地。


ーーー夢だったら…どうしよう?
これまでの事も全部、起きて見る夢だったら。
何時かシャボン玉みたいに、弾け消えたら。


「…こんくらいも、平気なんだろ?」
「〜〜〜…あ、あったり前…でねぇか…」
「へっ…そんじゃ水の中にシャボン玉を作ってみるか。ドライアイスも見付かったし、どっちの実験もちゃんと成功するのか、俺も練習してぇから…」

ぎゅっ…

「……」
「…アツキ?」

アツキに背を向けて、持ってきた実験道具をセッティングしようとしたヒノケンだったが。
不意に引き留められる様な…服の端を引っ張られた感覚に、歩き出し掛けた足を止める。
引き留めたとすればアツキしか居ない。
何事かと小さく名を呼ぶと、返事はすぐには戻らず。
ヒノケンは、アツキの気持ちが固まるのを待つ。

「…シャボン玉サ…いっぱいで」
「おう」
「オラ、起きとる筈だけンと…夢みてな透明で虹色のまんまるが…ふわふわ、浮いとって…」
「…それで?」
「……オッサンが、夢だったら…嫌だなや、って…」
「……バーカ。お前は本当…ああ、ったく」

服を引っ張られている事も構わずヒノケンは振り返ると、アツキをしっかりと抱き寄せる。
そんな事を言われたら、ヒノケンだって不安で。
アツキが夢だなんて、考えたくもない。
抱き寄せた体温が互いに行き来する、此処に居る。
夢じゃないから。

確かめるように猫と重ねた口唇。
夢みたいだけど、決して夢じゃない。


「だいじょうぶ。かならず、そばにいるから」

「おれも、おまえも」

■END■

ヒノアツにゃんの場合:シャボン玉をひとつのストローで一緒に遊んだ後、そっとおでこに口づけをしました。
#shindanmaker #ほのぼのなふたり
https://shindanmaker.com/715149

◆ほのぼの度が高い結果のヒノアツにゃん良き◎
6ヒノケンは教免を取得して生徒にも授業をしているのが公式設定になっていますが、扱いとしては臨時教師なので、ずっと才葉に居る訳ではないのかな。
研究生も兼任でリンクナビ授業も担当しているから、数年は居そうだけど…とか考えたり。
クラス丸々きっちり受け持っているのか、それとも一部授業の担当なのかとかもナー、一部ならウイルスバスティングの授業と理科辺りな気がする…
という訳で、シャボン玉遊びに至るシチュとかどうしたらいいのかと思いましたが、ヒノケンの先生設定が公式なお陰で何とかなりました(笑)
何度でも言うけど6ヒノケンの設定は公式が神◎

2021.07.20 了
clap!

- ナノ -