【Rockman.EXE@】
映画みたいなキスをして
◆キスの日のヒノケンとアツキにゃん



ーーー〜♪〜〜♪♪

「…あれオッサン…レポート作成、終わったンか?」

気持ちの良い日差しが降り注ぐ、とある休日。
まだ夏の暑さとまではいかぬ程好い陽気具合に、アツキは庭へ出て日向ぼっこをしていた。
折角の休みなのだからヒノケンに構って欲しいけれど、大切な研究レポート作成があると聞かされた為、早く終わるようにと邪魔をしない為でもあり。
昼下がり、のんびりと庭で寛いで。
アツキが来るようになって、ヒノケンは草木の手入れを以前より行うようになったものの…特に栽培するという事は無く、自生している植物達だけの庭。
何か育て易い花でも植えたらどうかと言ってみようか、そんな事を考えながら過ごすアツキは、少し喉が乾いて何か飲み物を飲んでこようと思い立ち。
庭に出たリビングの窓へ戻る…と、テレビを点けてソファに座るヒノケンの姿があった。

「いや、まだ終わってねぇよ」
「…まあ…そうだべな」

何故ならソファとセットのテーブルの上には、ヒノケンがレポート等を作成する時に使うノートパソコンが置かれており、ヒノケンはその画面を見詰めている。
終わって寛ぎに来たという風ではない。
構ってもらえると思ったアツキの真っ白な尻尾が、それを理解して残念そうにしているが。
ヒノケンには悟られまいと、普段通りを装うアツキ。

「ンでもオッサン、自分の部屋で作業ばやってたでねぇの。なスてリビングさ来とるだ?」
「もうあと少しなんだが、何だか集中出来なくなってきてな。無音でやってるよか適当な音が欲しくなったんで、テレビを点けながらってこった」
「ふーン…」
「字幕映画なら、何言ってるか気にならねぇしな」

ヒノケンの言葉にアツキがテレビを見ると。
アメロッパ制作の映画だろうか、確かに画面には字幕が出ていて話す言語はニホン語ではなく、加えて映像の質からして結構な古い映画である事が窺え。
恐らくアツキが生まれる前の映画であろう。
主演らしい俳優を見ても、作品名は浮かばない。

「…オラ、リビングさ居ても平気だか?」
「ああ、構わねぇよ」
「ンなら、ちっと飲み物飲ンでくるだ。そンで…まあ、この映画でも観ながら待っとくだ」
「そうしてくれ、もうちょいだからよ」

邪魔になるなら再び庭へ出ようと思ったが。
居ても平気だと言うヒノケンに、アツキは水分を摂ってから同じリビングで待つ事にした。
静かにドアを開けてキッチンへ向かうと、アツキ用のグラスにミネラルウォーターを軽く注ぎ、こっこっとリズム良く飲み干して一息。
後で纏めて洗えば良いと、グラスは軽く洗い置く。
そっとリビングへ戻り、テレビの正面に備えられたソファに座るヒノケンの隣、邪魔をしないよう何時もより少しだけ間を空けて座って…テレビに目を向ける。

…〜〜♪♪〜♪

「(って、な、なんちゅうタイミングだなや…)」

何やらムーディーな曲が流れているとは思った。
思ったが特に気にせず、しっかりソファに着席したところで…画面では、濃厚なキスシーンの真っ最中である事にアツキは気が付いた。
見ているこちらが照れを感じてしまうくらいの情愛に満ちたシーンであり、アツキとしては目のやり場に困って場を離れたくもなるが。
落ち着きがなかったり立ったり座ったりしていたら、何事かとヒノケンに伝わってしまう。
それはどうにも、気まずい。

「……」

カタカタ、カタカタ…カタ…

「(オッサンは気付いてねンだス…こ、このままジッとスとったらキスシーンば終わンべ…)」

ーーー〜♪〜〜♪♪

「(…なっ、長っ…まだ終わらねンか!)」

実際は、そこまで時間が経っている訳ではなく。
僅かな経過なのだが、アツキには非常に長く感じ。
愛し合う男女を描くキスシーンを、固まりながら見届け続けるという時間を過ごす羽目に。

「(だ、だけンとオッサンはまだ作業スてて…)」

…ちらっ。

「………ほぉ」
「(な ス て こ の オ ッ サ ン は 、 テ レ ビ を ガ ン 見 ば ス と る ン か あ ぁ ぁ あ あ?!?!)」

そういえばキーボードの音が失せていた。
悟られぬように目だけをヒノケンに向けたアツキが見たモノは、しっかりガッツリとテレビに映る濃厚なキスシーンを観ている姿であり。
アツキはココロの中で思わず絶叫。
この分では、アツキが固まり凝視している事も隣に座るヒノケンは気が付いているだろう。

「……小僧」
「は!?なっ、なンねオッサン!」

どうしたものかと別の意味でも固まる事になってしまったアツキに、ヒノケンが口を開く。
びくんと猫耳を跳ねさせながら平静を保とうとするが、明らかに状況に困惑した声色で。
そんなアツキに、ヒノケンはゆるりと顔を向け。

「してみてぇのか?こういうキス」
「いっ…な、ナニをぬかスとるだ!アホでねぇの!」
「ンだってガン見してるじゃねぇの」
「そ、れは…めっ、目のやり場には困っとったけンど!下手に反らすンも変だからだべ!」
「ふーん」

降って湧いた言葉に、更に慌てるアツキ。
だが渡りに舟と言えなくもない。
反論する事でテレビから目を離す事が出来、そのまま顔を勢い良くヒノケンに向けると。
愉快そうに笑みを湛えた顔と、視線がかち合う。

「俺は、お前とこんなキスをしてぇけどな」
「な?!…にを、その…オラと、って…」

笑みからサラリと放たれた発言に。
アツキの勢いは何処へやら、ヒノケンに向けた顔をしおしおと下げ、段々と声も小さく。
ホワイトデーに初めて口唇へのキスを遂げて以降、ヒノケンからアツキへ頬や猫耳へのスキンシップなキスは何となく以前よりも増えたと思う。
口唇にキスが無い訳ではない。
けれど、何処か…まだまだ子供に贈る様な、子猫扱いの可愛らしいキスばかりだったから。
映画みたいな、情熱的なキスをしたい、とは。

「…お…オッサン…が、そげに言うなら…ス、スっかたねぇからさせても…イイ…けン、ど…」

今なら"ヒノケンのせい"に出来る。
どきどきしているなんて、バレていても。
真っ白い猫耳まで、真っ赤になりそうでも。
全部全部、ヒノケンのせい。

「……へっへっ。…顔、こっち向けなアツキ」
「えっ…あ、う…オッサ、ン」

映画が今どうなっているのか、キスシーンは終わっているのか、画面から目を離したから分からない…が、良い雰囲気の曲は流れ続けていて。
ムードにも後押しされ、アツキが顔を上げれば。
顎へと伸びるヒノケンの指。
何時も熱を持っている、その指に導かれて口唇が。

……ちゅ…っ…ちゅ…はみ…

「(あ……こげ、に…じっくりキス、とか…)」

ちゅ、く………にゅるっ…!

「ふにゃッ?!…ぷぁっ…な、なにスるだオッサン!!」
「ちょっとばかし、舌を入れただけじゃねえか」
「あ、アホかオッサン!普通に出来ねンか!」

静かに目蓋を閉じて重ねた口唇。
軽く食むようにアツキの口唇を味わうヒノケンに、アツキの緊張も次第にほぐれてゆき。
少し強張っていた口唇の力が抜けたところで。
急にアツキの咥内にヒノケンの舌が捩じ込まれ、驚いたアツキは殆ど逃げ出す形で重ねていた口唇を離してヒノケンに抗議の意を示した。

「いやぁ、あんだけのキスシーンなら舌入れるくらいしねぇと釣り合わねえかと思ってよ。お子様な猫ちゃんには刺激が強かったか?」

だがヒノケンの態度はというと、想定内らしく。
あのまま受け入れるならば、それも良し。
こうして、うぶな態度を見れるなら…それも良し。
悪戯が成功したみたいな表情で抗議するアツキを流し、だが多少はからかい混じりにした事を悪いと思っているのか、よしよしと猫耳ごとアツキの頭を撫でる。

「…っとに…」
「怒るなよ、アツキ」
「…怒ってはねぇだ。だけンと…なスてオラときたら…こげなオッサンに一目惚れなンか…」
「あん?…一目惚れ…?」
「…あっ…ち、ちがっ!オラ何も言ってねぇだ!」

ぽろりと、口から零れ出た。
ナイショにしておこうと決めていた。
炎の様な貴方に一目惚れして、貴方の傍に居たくて。
だけど、素直じゃないから言ってやらないと想っていた事が、アツキの口から自然と出て。
自分が何を言ったのか、自然過ぎてアツキは反応が遅れ、慌てて無かった事にしようとするが…その反応こそ余計に本心だとヒノケンに解らせてしまう。

「…へぇ」
「……信じらンねくても…イイけンど…」

どう足掻いてもヒノケンにはバレただろう。
観念した様子でいるアツキに、ヒノケンの指先が少しきゅっと結んだアツキの口唇に触れ。
柔らかに猫へと語りかける。

「信じるぜ、俺もお前に一目惚れしたからな」
「……はぁっ?こっ、こげな事ばオラに合わせて慰めようとか…そげなの要らねっから!」
「合わせるとかじゃねぇよ」
「ッ…!……ホント、なン…か…?」

ヒノケンからの答えは無かった。
ただ、アツキが視線を合わせたら。
そこには僅かに目を細め、先程までの悪戯な笑みではなく、どうしようもなく優しい顔。
嗚呼、本当、なんだ。

「一目惚れ同士だった、なんてよ」
「ちっとだけ、映画みたい…かもスンねぇな」

柔らかに重なりあい、深く確かめあうキス。
静かなのに、とても情熱的なーーー
テレビが流す映画のシーンは、とっくにキスシーンを終えて雑多な日常のシーンを映す。
今、キネマの主演は飼い主と猫。

■END■

今日のヒノアツにゃんは『見ていた映画でキスシーンが出てきて、見終わったあとに少し気まずくなる攻めと受け』で妄想してみましょう!
#shindanmaker#ほんわかCP
https://shindanmaker.com/1010115

◆5月23日はキスの日という事で。
キスの日でなくても、ヒノアツを書けばキスはしょっちゅう入れているのですが…由来というのが日本で初めてキスシーンのある映画が公開されたから、なので。
診断メーカー様を巡っていてこの結果が出た事もあり、こんな感じのお話になりました。
気まずそうなのアツキだけですが(笑)
ヒノケンは気にしなそう…寧ろ乗っかるよね!
アツキにゃんなヒノアツは、お互い一目惚れしているけど言わない…を、貫く方が元のヒノアツの感じを残していて良いかなぁと思っていましたが。
打ち明けても良いかなって、打ち明けても普段のアツキにゃんは素直じゃないだろうから。
だけど少し、安心感が増してる筈(*´ω`*)

2021.05.23 了
clap!

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