【Rockman.EXE@】
猫の大切なたからもの
「ちょっといいか、小僧」
「どスたべな?オッサン」

とあるヒノケンが休みの日の昼下がり。
何時もならアツキにとっては、ヒノケンに構って貰える時間が増える楽しみな日なのだが。
今日は何やら休日の内に済ませておきたい作業が有るらしく、昼食を終えるとすぐさま取り掛かり始めてしまい…アツキは独り、リビングで過ごしていた。
少しガッカリはしている、けれど。
言いはしないがヒノケンの出す空気からは、面倒を早くに終わらせてしまってアツキとの時間を気掛かり無く過ごそうという意図も感じ取れた為に。
アツキは作業の邪魔をせず、大人しく待っていて。
そうしたところにリビングに近付くヒノケンの足音、作業が終わったのかとピョコンと真っ白い猫耳が跳ね立つが、表情だけは何とか普段通りを繕う。
だが、ドアを開けたヒノケンの様子から察するに…どうやら作業はまだ終わってはおらず。
何かアツキに聞きたい事がある模様。

「その戸棚の鍵って、お前が持ってるか?」
「…!…な、何のコトだかな…オラ知らねぇだ」

ヒノケンが指した"その戸棚"とは。
リビングに置かれている家具の中でも大きく、中はというと率直に言って雑多な状態で。
取り敢えず使いそうな物を入れておいて、そこまで普段は使わないが何か必要な時が来たらこの戸棚を探せば見付かるのではなかろうか、といった具合。
そしてヒノケンが言っているのは、一番下の鍵が掛けられる引き出しの事で間違いない。
アツキがそれを理解すると、何故か。
しらばっくれようとしているが尻尾が明らかに挙動不審、これは鍵の在りかを知っている。
音で表現するなら「ぎくーーーっ!」といった風。

「…いや、別に怒ってるんじゃねぇよ」
「なっ、何がだべ!知らねっちゅうてるでねぇか!」
「つっても、どう見ても知ってるか持っているようにしか見えねぇぞ。嘘つくの下手だな」
「う…」

確かにとても分かりやすい。
遂には言葉に詰まってしまったアツキは、まだ何か言い返せないか模索したが浮かばず。
観念したらしいが…動きだしはしない。

「…その引き出しン中に今必要なヤツを放り込んだ筈なんだよ、サッサと開けて済まさねぇと、お前に構ってやれる時間が減っちまうだけだぞ。イイのか?」
「う…ぐぐ…わ、分かっただ…」

そこを天秤に掛けられては、どうしようもなく。
漸くアツキは立ち上がると戸棚の前に向かって。
やはり持っていた引き出しの鍵をポケットから取り出し、鍵穴にゆっくりと差し込む。

「早く開けな小僧」
「なっ、なスてオラに近寄るだ!」
「あん?開けたら、とっとと目当てのブツを探すからじゃねぇか。…それとも…さっきから思ってたんだが、何か見られたら不味いのでも隠してんのか?」
「(ぎくんっ!)ななな、何も!隠スてねぇべ!」
「なら問題無ぇだろ、開けろって」

この、アツキの様子でヒノケンは理解した。
始めは、断り無く勝手に引き出しの鍵を持っていた事に対して咎められるのではないかと思い、隠そうとしているのだと考えていたが…そうではなく。
引き出しの中に何かを隠し入れており。
ヒノケンに見られたくない、という事なのだろう。
思い出してみれば、最後にヒノケンが引き出しの鍵を掛けた時には…収納の余裕があった。
アツキはそこに目を付け、何かを。

……ガチャ……ス、スッ…

「…ぁあ?小僧…お前、ソレは」

鍵を回し開けたアツキ。
引き出しを引いて現れたのはーーー前に、ヒノケンがアツキに買ってきたお菓子の缶たち。
よくよく覗き込むと、決して丁寧な収納具合とは言えないが、これまでアツキに買ってきたお菓子の缶の殆どが集結しているように見えて。
つまりアツキは、買ってもらったお菓子の思い出を…大切に集め、仕舞い込んでいたのだ。

「アツ…」
「ン、ンだって!折角オッサンがオラに買ってくれたンに…中身のお菓子だけとか何だス…かっ、缶くれぇなら取っとくべかなって…なンね!笑いたければ笑えばイイでねぇの!」

ヒノケンには内緒で缶をずっと集めていた事がバレたのが、相当に恥ずかしい事らしく。
半ば開き直り気味に捲し立てるアツキ。
宝物にしてしまうくらい、嬉しかったなんて。
そんなの、自分の今までには無かった事だから。

「…バーカ、笑ったりしねぇよ」
「…顔、ちょっと笑ってるだオッサン」
「そりゃお前が、カワイイ事をしやがるからだ」
「け、結局オラがやっとる事を笑っとるでねぇか!」
「少なくとも馬鹿にはしてねぇぜ、ん?」
「ひゃ…っ…」

不意に、さっきから照れで挙動不審にぴこぴこ動いていた白い猫耳へ口付けが落とされる。
驚いて尻尾もぴょんと跳ね。
そろりとヒノケンの表情をアツキが窺えば。
からかう様なイジワルな笑みなら良かったのに。
微かに眸を細めた、そんな優しい笑みは、ズルい。

「…まだ作業は残っちゃいるが、少し休憩すっかな」
「えっ…う、か、勝手にスたらイイでねぇの…」

どうしたら良いのか、どぎまぎと気持ちの置き所無くヒノケンを見詰めたまま固まってしまっているアツキに、ほんの少し何時もの口角を上げた笑みを零し。
ヒノケンは"休憩"の用意をし始めた。
カップは2つ、特にアツキには聞かなかったけれども、一緒に休憩タイムを過ごしたい筈。
そして"休憩"をするならーーー

「今日で、この缶も空くんじゃねぇの」
「あっ…そっ…そう、だなや」

お茶菓子は何日か前に買ってきたビスケット。
とても目を惹く綺麗なデザインが施された缶に入れられていて、残っている枚数は僅か。
ヒノケンは缶の中からビスケットを総て取り出すと、猫と自分の分を半分こに配り分けて。
空いた缶を、静かにアツキへ差し出した。

「…引き出ス…使ってて、構わねンか?」
「ああ、構わねぇ」
「…そっか。…へへ…」

受け取った缶をギュッと大事そうに抱え。
アツキはヒノケンに、はにかんだ笑顔を見せる。
猫の大切なたからものが、またひとつ。

■END■

かわいいビスケット缶を集めているアツキにゃん
#なんとなく可愛い #shindanmaker
https://shindanmaker.com/937109

◆なんとなくどころではない、可愛い(真剣)
アツキにゃんとお菓子はセットみたいな気持ちでいるし、絶対に言わないけれど一目惚れ(ヒノケンの方も)してる設定なので、買ってきてくれたお菓子の缶を宝物にしてたらイイ。
こっそりヒノケンが居ない時に集めた缶を眺めて、貰ったの事を思い出していたりとか◎
とても可愛いと思うんだ…(*´∀`*)

2021.04.15 了
clap!

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