【Rockman.EXE@】
しろくてあまくて、ふかふかで
家で帰りを待つ猫の為に選ぶ、可愛いお菓子。
そんな事をする日が来るなんて思わなかったけれど。
猫の事を想い選ぶのは、存外に楽しい。
嗚呼、コレなんか───喜んでくれそうだ。

───…

「そろそろ甘いのが食べてぇか?小僧」
「!…く、くれるンなら食べてやってもイイけンど」

休日の猫とのスイーツタイム。
ヒノケンが野良だったアツキを手懐ける為に買い始めたお菓子だが、それはアツキが飼い猫になってからも変わらぬ習慣として続いており。
大好きなオヤツの時間が近付くにつれ、明らかにソワソワしているアツキに声を掛ける。
どう見てもヒノケンの言葉を"待っていた"としか思えないが、アツキの返しは相変わらず。
猫耳がピョンと「来た!」と反応していても。

「取り敢えずコッチに来いよ」
「ちょっと待つべオッサン」

庭に繋がる窓を開け、外に足をぷらぷらさせながら。
時折チラと時計とヒノケンに目線を送っていたアツキは、逸る気持ちを抑えて静かに窓を閉じてロックを掛けてから、ヒノケンが座るソファに駆け寄り。
ちょこんと、隣に。

「マシュマロを買ってやるのは初めてだったか」
「……そう…でねぇかな」

今日のオヤツは何かな?と期待している尻尾。
ヒノケンが"マシュマロ"と口にすると、アツキはあくまで素っ気ない態度を努めているが。
初めて買ってきて貰えた事に身体は喜びを隠せない。
フカフカの甘い誘惑に、思わず尻尾が揺れる。

「ジャムだの何だの入った、詰め合わせにしたぜ」
「…い、良いンでねぇの。色ンなのが食べれるだ」

詰め合わせという言葉にアツキの目が輝いて。
どんな味が入っているのか、気になる様子。
そんなアツキに対してヒノケンは僅かに目を細め笑むと、今日の主役であるマシュマロのアソートを取りに一度ソファから離れ。
リビング内に置かれた棚から取り出し、猫の元。

「こんなのだけどよ」
「え…オッサン、コレ…」

ヒノケンから差し出されたマシュマロのアソート。
それを見たアツキは、"思っていたモノと違う"という空気を含んだ声をヒノケンに向けた。
期待外れだった訳ではない。
寧ろ逆で、想像よりも立派…と言うのか。
装丁が"誰か特別なヒトに贈るモノ"だったからだ。

「どうした?」
「…コレ…オラ知っとるだ、バレンタインのお返スのヤツだべ?オラ、オッサンに何も…」

そういえば、今日は3月14日。
ホワイトデーの謂れはアツキも知っていた模様。
だから、このマシュマロと装丁が持っている意味にも気付いてしまい、先月───猫の自分からチョコレートを贈る事など出来なかったアツキは、申し訳無さから声を小さくする。

「別に先月の返しだとか関係無ぇよ、見ていたらお前を思い出したから選んだだけだ」
「お、思い出スって。なスて」
「最近は白くてフカフカしたのを見ると、どうにもお前の猫耳と尻尾が浮かんじまってな」
「ソレまた…ちゅうか、そもそもそこまでフカフカとか…ス、スとるンか…?オラの…」

ちょっと自分で確かめてみるアツキ。
ヒノケンに言われるまで、感触がどうだとか気にした事が無かった自分自身の猫耳と尻尾。
…フカフカ、かも、しれない?

「へっへっ…ま、とにかく気にすんな。それにホワイトデーの返しとしてだと、マシュマロは相手がキライとかって意味らしいからな。…ンな訳は無ぇから、ただのオヤツって事だ」
「…そ…だか」

沢山のマシュマロが詰め込まれたプレゼントボックスを受け取るアツキは、まだ少しだけ「良いのかな」という雰囲気を出していたが。
リボンに手を掛けて外し、中身を見ると。
ふわふわもっちりとしたマシュマロである事が、個包装された中からでも伝わって来る。
白いマシュマロが主だが、レモンやストロベリーの果汁を含めたモノもチラホラと入っており、目でも楽しめるアクセントになっていた。

「どれから食べンべ…」

迷ったアツキは、箱の中に入っていた内容説明の小さな栞に気付いて取り出し熟考の構え。
ヒノケンが言っていたジャム入りも有れば、プレーンなモノも有る。まずは基本からか。

「ンっと…この包装のがフツーのなンかな?」

栞を見ながらお目当てのマシュマロを取り出し。
丁寧に包装を割いて指先で摘まんだ塊は、むちむち。
楽しさすら覚える弾力を、口へと運ぶ。

もち…っ…むにむち…

「…すンごい、フカフカだなや」
「そうかい、味はどうだよ」
「うンまいだ」
「ソイツは良かった」

味にもとても満足そうにしているアツキに、贈ったヒノケンも安堵を含んだ満ちた表情。
きっと、ヒノケンにしてみれば。
こうして「美味しい」とアツキが食べるだけで充分。
だけれどアツキのココロには…まだ。
何か、ヒノケンに贈れるモノは。

「(……あ、こンれは…)」

悩みながらも、次のマシュマロはどれにしようか。
改めて栞を見直したアツキは気が付いた。
マシュマロ達の中から探し当てて取り出したフカフカは、見た目は最初と同じプレーンなモノに見えるけれども、包装の柄が異なるという事は何処かが違う。

ピリッ…

「…オッサン」
「ん、何だ?小僧」
「このマシュマロ…中、チョコレートなンだべ。…ンだから、一ヶ月も遅れッツまったけンと…チョコレート…コレで。…オッサンに貰ってほスぃだ」

包装を割きながら、そう告げると。
アツキはマシュマロを口唇に挟んでヒノケンに。
それは。「貰ってほしい」というのは。
マシュマロと、チョコレートと、アツキの。

「…良いのかよ?俺は。…嬉しいけどよ」

その言葉は、その行為を大切にしたい、アツキの意思を尊重すると思っていた事が窺えて。
もしかすると拒否の台詞を投げられてしまうかもしれないと、ココロの片隅で怯えを伴っていたアツキは、とても安らいだ表情を一瞬だけ浮かべて眸を閉じる。
貴方だから貰ってほしい、の。

「……アツキ」

可愛い飼い猫の首に優しく腕を回し、口唇でマシュマロチョコレートを受け取り咥内へ。
後には無防備な猫の口唇、猫耳や尻尾と同じくらい、甘くてフカフカしているに違いない。
ヒノケンは、そうっと。
初めての口付けをアツキの柔らかな口唇へ贈った。


あまい、あまい。
蕩けた口唇は、マシュマロ・キス。
お返しに、猫には後でキャンディーを贈ろう。
あなたがスキだから。

■END■

◆ヒノアツ再燃して再開後の初更新日が3月14日ですので、再燃1周年記念のお話です◎
ヒノアツにゃんでホワイトデーで、初ちゅー話。
にょた話では初ちゅーを関係の切っ掛けとして書いたりしていますが、先生×生徒と…そもそもの通常ヒノアツでは初ちゅーをキチンと書いておらず(苦笑)
しかし今更な…と思っていましたが。
アツキにゃんで初ちゅーシチュを書ける機会が新たに出来たので、短いお話ではありますが書きたい事を狙って書けたかなと思います(*´ω`*)

2021.03.14 了
clap!

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