【Rockman.EXE@】
火野さん家の庭の猫
◆ヒノケンとアツキにゃん最初のお話
犬耳の次は猫耳尻尾なアツキ始めました(*´∀`*)
大戦の方で書いていた「ぷち化」は無し、通常のアツキに猫耳尻尾という見た目設定です◎



その家は才葉シティに建つ普通の一軒家。
主人はシティ内に在る才葉学園の先生で研究者。
広くはないけれど、とても日当たりの良い庭に―――最近、猫がやって来るようになった。

「おっ、また来たのかよ小僧」
「…オラの庭に、何時オラが居たって勝手でねぇか」
「お前の庭じゃねぇだろ、俺の家の庭だ」
「オラの縄張りの中に有る庭だから、オラの庭って言っても猫からスたら当然なンだべサ」

今日の天気は、ぽかぽか陽気。
庭で日向ぼっこでもしたくなる休日。
家の主である火野ケンイチ…ヒノケンが。
ふと、陽光が差し込む窓の外に気配を感じて目を向ければ、一匹の猫が庭の日向に居て。
その存在が最近よく庭に来るようになった猫であると分かると、窓を開け放ち声を掛ける。
どうやら、お互い認識はしている模様。

「猫に言わせりゃ、そうなるんだろうけどよ」

庭に出る為に置いたサンダルを履くヒノケン。
この猫が来るようになってから、置かれたモノ。
庭自体も以前はそこまで手入れといった手入れを行ってはいなかったが、猫が来るようになってからは多少の掃除や雑草の除去等を行うようになり。
心地好い日向ぼっこ空間が維持されていて。
そんな庭がこの猫には居心地良いし、ヒノケンが強く追い出そうという素振りも見せないので、安心もあってか来る頻度が高くなっている気がする。
聞き出した猫の名前は、「アツキ」。

「それにしてもお前、野良にしちゃキレイだよな」

ヒノケンが近付いてもアツキは逃げない、日向の中の猫が持つ猫耳と尻尾の色は真っ白。
ふわふわとした綿の様な、或いは雪の様にも。
白色は確かにヒノケンの言う通り、とても綺麗。

「……野良になったンは、わりと最近だかンな」
「…ああ。飼い猫…だった、のか」

アツキの名前を聞き出せてから、ヒノケンは少しずつ素性や好みも聞き出していたのだが。
今日、知った事は…まだ早い傷だっただろうか。
僅かにだがアツキは表情を暗くさせてしまう。

「生意気で、素直でねくて…めぐせぇンだと」
「はぁ。前のヤツはつまり、テメエの思い通りにしかならねぇ猫が良かったって訳だ。ンなヤツの元に居続けてもお前の良いトコロが潰れちまうだけだ」
「…だけンと、オッサンだってそンな猫がイインだべ?生意気で素直でねぇとか面倒だべ」
「従順なのも悪くはねぇが、素直じゃねぇのを手懐けさせていくのも俺は燃えるけどな」

ぴくんと、アツキの猫耳が反応する。
本音で言っているのか、それとも慰めなのか。
どちらなのか知れないけれど、それは。
ちょっとだけ、期待なんかしても。
―――いや、そんな期待なんて。

「つう事でお前を手懐けてみせるぜ、少し待ってろ」
「は、はあっ?ちょっ、オッサ…」
「すぐ戻る」

ヒノケンとは目を合わせずに話をしていたアツキなのだが、急に降ってわいた宣言に驚いて顔を向けると、アツキに構うのが楽しそうな。
そんな表情を目にして戸惑い。
どう受け止めれば良いのか固まっているアツキを置いて、一度ヒノケンは家の中へ戻った。

「(…オラの事、からかっとるンか…)」

そうだ、そうに違いない。
期待なんかをして、また―――捨てられたら。
やっと独りで良いと、自由なのだと思えるようになった矢先に出会ってしまったココロは。
もう、耐える事なんて出来ないから。

「お待ちどうさんっと、まず手を綺麗にしな」

バサッ…!

「わっぷ!…な、何をスるンだべオッサン!」

アツキ目掛けて広げ飛んできた濡れタオル。
反射的にキャッチしたアツキは、しかし取り敢えずヒノケンの言う通り手を綺麗にする。
ついでに顔もゴシゴシ。すっきり。

「手懐けるには胃袋を掴んでやるのが常套手段だろ」
「い…胃袋っちゅうと…?」
「甘いモンが好きって前に言ってたよな、俺はそんなに得意じゃねぇから何が良いのかよく分からねぇんで適当に選んだヤツだけどよ。好きなの食べな」
「えっ…」

戻ってきたヒノケンは箱を持っていた。
その箱をアツキの目の前で開けてみせると、ただの紙箱が一瞬で宝石箱に変わった様に思えてしまうくらい、ケーキやマカロン等が詰め込まれていて。
沢山の「甘いモノ」にアツキの目は輝くが。
本当に自分が食べても良いのか、そもそも何で自分にこんなモノを用意してくれるのか疑念も同時に思い、ヒノケンとスイーツを交互に見て悩む。

「別に変なモンは入れたりしてねぇよ」
「……ホントなンだか」
「疑うのも仕方がねぇけどな。…俺も1個食べてみせれば、ちったあ安心が出来るか?」

…ヒョイ、もぐ…

あくまでもアツキの為である事を意識してか、小さなマカロンを選んで摘まみ食べる。
そのヒノケンの様子からは確かに普通にマカロンを食べているだけで、何かしらの混入は行っていないと見えるけれど、当然それだけが何も入っていない可能性は否定が出来ない。
とはいえ、目の前で大好物を食べられては。

「そんな尻尾を振りながら、じーっと見てるくらいなら食べろって。さっきも言ったが俺はこういうのは得意じゃねぇから、残ると俺が困るっての」
「う……そ、そンなら…」

アツキは全くの無意識で自分の尻尾を振ってしまっていたらしいし、疑念の筈だった眼差しはスイーツへの羨望に途中から変わっていたらしい。
ズバリと言われ、ズイと箱を差し出されると。
それでもまだ念の為か、ヒノケンが選んだ小さなマカロンの色違いを選び、手を伸ばす。

…モグ…モグっ…

「…うンめ」
「そうかい、なら良かったぜ」

選んだのはフランボワーズのマカロン。
咥内に広がった甘酸っぱいジャムの味は、何だか今のアツキの気持ちとリンクしていて。
ヒノケンに…何をどう伝えたら良いのか分からないけれど、ちゃんと美味しいモノを選んでくれた事は解ったから、短いけれどそれだけは示した。

「ケーキも食えよ、それこそ残ると困る」
「う、うン」

アツキが警戒をかなり解いた事を感じ。
ヒノケンは定番の苺ショートケーキを箱から取り出すと、フォークと一緒に直接手渡す。
受け取り方は少し、おずおずとしていたが。
アツキの耳や尻尾みたいな色した真っ白いクリームの誘惑には…どうにも敵いそうにない。
一層に尻尾を揺らしてケーキにフォークを。

ぱくっ、もぐもぐ

「…オラ好みの甘さで、ケーキもうンめぇだ」
「へっへっ、段々素直に食べるようになってきたな」
「そっ、そげな事はねぇべ!」

否定するが、最早ケーキを食べる手と口は止まらず。
みるみる内にアツキの胃にケーキは納められ、ちょこんと乗っていた真っ赤な苺は最後。
甘くなった咥内の口直し。

「…オッサン」
「ん?何だ小僧」
「ケーキもう1個と…あとマカロンとか小さいのを何個かは入るけンとも、流石にコレ全部はオラも食べきれねぇだ。買い過ぎだべオッサン」
「全部、明日までは最低でも日保ちするみてぇだから、明日も来て食べてけばイイだろ」
「は…はあっ?明日も、って…」

さも当然のように「明日も」と言われ。
まるで、約束。

「…オラ…は。…コレ、食べに来るだけだかンな」
「そうそう、最初はそんなんでイイんだよ。続けて来るようにするのが第一歩だからな」

日向の様に笑い掛けられて。
だから、眩しくってアツキはヒノケンを見れなくて。
黙ってチョコレートケーキを取り、もくもくと。
尻尾が、ずっと。
嬉しそうに揺れているなんて―――ただ、ただケーキが美味しいからに違いない筈だから。


―――…


「……まだ来てねぇのか、小僧」

あれから、休日が来る度。
ヒノケンは必ずアツキが庭にやって来ると疑わず、色々なスイーツを用意して待っていた。
そうしていれば、日向の中に猫は現れて。
美味しそうにケーキを食べるアツキを見ながら、また少しずつアツキの事を聞き出して。
そんな休日が楽しみで。
なのに、今日はなかなかアツキが現れない。
折角、この前聞き出せた「食べてみたい」と言っていたスイーツを、美味しいと評判の離れたお店まで行って買ってきたのに。やって来ない。

「……」

ヒノケン自身でも驚く程、不安がココロを覆う。
日向の時間は、そろそろ終わろうとしている。
ざわざわと胸騒ぎ。

「…コーヒーでも飲むか」

偶々、今日は猫の気紛れに乱されただけなのだ。
ココロに言い聞かせ、ヒノケンは外を見ていた窓から離れてコーヒーを取りに向かおうと。

……ガンッ!…ド…ッ…

「!…なんっ…おい!小僧、アツキッ!!」

リビングから出るドアノブに手を掛けると同時、窓に何かがぶつかり落ちる様な音が響く。
何事かとヒノケンが振り返れば、そこには。
窓に寄り掛かり崩れるアツキの姿。
全身は見えないが、恐らく怪我をしているのだろう。
理解が及ぶとヒノケンは急ぎ駆け戻り、窓を開けてアツキの意識は有るのか声を掛ける。

「…ギャーギャー騒ぐでねぇだオッサン。ちっとばっかス縄張りで喧嘩スただけでねぇか」
「…バカヤロウ。ったく…怪我は酷くねぇな」
「血とかは…そンな出てねぇだ。取っ組み合って、えっらい汚れッツまってはいるけンと」
「なら風呂を沸かしてやるから入れ、服も洗濯してやるからよ。…そら、家ん中に入りな」
「……いい、ンか?」
「いいに決まってんだろ」

ヒノケンが差し出してくれた手を取っても良いのか、アツキは躊躇いを見せたけれども。
大した怪我はしていない事を知って、浮かんだヒノケンの顔は…本当に安心していたから。
応えて良いのだと、信じる事が出来たから。
そっと、手を重ねて。
アツキは初めて、窓を越えて家の中へ入った。

……

「で、何処のどいつと喧嘩したんだ?」

お風呂で徹底的に身体の汚れを洗い落とし、ちょっとサイズが大きいヒノケンの服を借りて湯上がりほかほかのアツキにヒノケンが問い掛ける。
縄張り争いだとは言っていたが。

「…オラが此処らに来る前に縄張りにスとったヤツだったべ、取り返スに来たンだなや」
「成る程な、確か結構な図体の猫じゃなかったか?」
「…オッサン…あの猫、知っとるンか」
「まあ以前はよく見掛けていたからな。…にしてもアレと喧嘩して縄張り奪って、それで今回も返り討ちにしたみてぇだが…続くようだと、何時か大怪我してもおかしくねぇぞ小僧」

アツキの前に、この辺りを縄張りにしていた猫は。
ヒノケンの覚えの限り、かなり気性の荒い猫で。
飼い猫から野良になりたてで、その猫を追い出して縄張りを獲得したアツキの腕っぷしと肝っ玉具合は、ヒノケンとしても称賛してやりたい。
だが、以前の猫は気性の荒さに加えて粘着質な面もあり、今回だけで終わるとは思えず。
アツキの身体を案じるなら、いっそ。

「…オラは、この縄張りだけは譲れねぇべ」
「そりゃ、何処に行っても猫の縄張り争いは起きるかもしれねぇが、固執して取り返しがつかねぇ怪我をしちまったら元も子も無ぇだろ」
「そンでも…オラ、は」

心配をしてくれているのだと、アツキにも分かる。
だからこそ、ヒノケンは…暗にアツキに此処から離れるべきなのではないかと含ませて。
しかし平然として言っている様だが、内心は。
…平気な筈がない。
何処か辛そうなヒノケンの表情を窺い見たアツキは、静かに…抱いた想いを吐露させる。

「周囲の他の縄張りは失っても構わね。だけンとも…此処の庭だけは絶対に獲られたくねぇだ、この庭だけはオラの縄張りで…縄張りン中のオッサンも…オラのモノなンだ…から…」

ぶかぶかのシャツの裾を、ギュッと掴み。
ヒノケンの顔は見れずに語る想い。
消え入りそうな声で、漸く届けた想い。
素直な言い方は、どうしても出来ないけれど。

此処に居たい。
ヒノケンと、居たい。

「…じゃあ…俺の猫になれよ。いずれ言うつもりだったが、まだ…また飼い猫になるのは踏ん切りが付かねぇかと思って言えなかったんだがな。他の猫なんか此処には入れねぇぜ」
「……本音は、まだ、おっかねぇだ。ンでも、オッサンを獲られる方が…もっと、イヤだ」
「へっへっ…そうか、アツキ…」
「オラ、此処サ居て…良いンか?」
「当たり前だろ、俺はお前を俺の猫にしてぇんだ」
「…分かっただ、オラ…此処ン猫になるだ」

俯いてポツポツと吐露するアツキの頭を撫で。
スリスリと真っ白な猫耳を可愛がると心地良さそうに受け入れ、尻尾がゆるりと揺れる。
想いが叶った、安らぎの表れ。

「…早速だけどよ、アツキ」
「何だべ?」
「飼い主が居るって証を、お前に着けさせてくれ」
「…ああ、首輪…だか?あンまり好かねっけど…」
「だろうな。だから、何となく俺の猫だってのが分かりゃ…別に首輪である必要は無ぇ」

コレで、良いんじゃねぇか?


―――…


「帰ったぜ、小僧」
「……お、おかえり…随分、早かっただな」
「そうだな、明るい内にってのは久々だぜ」

今日も庭の日向には猫。
だけど少し前とは違う事がある。
今日は休日ではなくて平日だけれど、アツキはヒノケンの家の庭で帰るのを待っていて。
その首には…誰かさんの髪の色みたいに真っ赤なリボンが、ふんわり優しく巻かれている。
アツキが外そうと思えば何時だって外せるリボン。
それでも、巻かれているリボン。
首に赤が在る事に、ヒノケンは眸を細め笑む。

「つっても、もう暮れ始めているけどよ」

ヒノケンの言葉通り、日向は次第に夕の色。
さよならが近くなる…キライだった、色。

「…なぁ、オッサン」
「どうした?」
「か、勘違い…させたかもスれねぇから言うけンと」

夕のオレンジ色が濃くなり、アツキの猫耳を染め。
そんなアツキが何かを伝えたそうにしている様子に、顔を向けたヒノケンにもオレンジ色。

「オッサンを獲られるのがイヤっちゅうンは、オヤツばオラにくれるス…ご飯や寝床も、オッサンなら用意スてくれそうだったからだけだべ。そ、そンだけだかンな、猫なンてのは」

嗚呼、まったく。
この猫は、とってもとっても素直じゃない。
そんな誤魔化しを今更。

「…構わねぇよ、それで」
「ふ、ふンっ…物好きなオッサンだなや」
「へっへっ…さ、そろそろ中に入りな。…アツキ」
「……ン」

前とは違う事が、もうひとつ。
日が沈んでも「さよなら」が無くなった。
一人と一匹、今は毎日ひとつ屋根の下。



―――オッサン、に。

一目惚れスて、どんな形でも傍に居たくって。

一番、なりたかったカタチになって。

「あンがとな」、を。

言えるようになるンは、まだまだ先。

■END■

◆ヒノアツえっちの原点である「犬耳の恋人」でケモ耳尻尾なアツキを愛でるお話を書いていましたが、再燃してから完結のお話を書いたので。
以降、ケモ耳尻尾ネタの下地が無くなっていましたが…アツキにゃんをはじめてみました。
大戦の方でもケモ耳尻尾ネタを書き続けていたので、やっぱり好きなんですよね(*´∀`*)
猫の日という事もあったし、良い機会かなと。
冒頭にも書きましたが、大戦の方では「ぷち化」という…要するに身体だけが幼児化の要素も足していたけれど、アツキにゃんは「ぷち化」は無しで猫耳尻尾が追加しているだけです。
まあ「犬耳の恋人」がえっちの原点だった察しで…アツキにゃんでも、えっちなお話を絶対に書きたくなるからですね。流石に「ぷち化」でえっちは。
いや、戦大で書いてますけど…あれは攻が攻だったんで良いかなと思えたからなので、ちょっとヒノケンにそこまで踏み込ませるのは思い留まった(笑)
単純に、えっちの幅も狭まっちゃうからね!(…)
そんな感じで、ヒノケンとアツキにゃんのお話も少しずつ書いていけたらなと思います。

2021.02.22 了
clap!

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