【Rockman.EXE@】
その約束は10年前に
◆大学生ヒノケンと小学生アツキ
EXE6の台詞で「一流とは言わないが大学を出ている」と言っているので、ヒノケンに大学生時代があったのは間違いないと思うのですが
書籍「ロックマンエグゼのすべて」の記述では「現在はまじめに改心して大学で教職免許を取得」となっているので、教免取得自体は改心後のEXE5の間に取ったと現在は解釈しています
しかしこの話は、書籍が出る前に書いた話で…
アツキとの捏造過去接点作りの為に、10年前の時点で教免取る気があった設定。何より、メラメラ祭りと聞いて参加しようとしない訳がない(笑)
この後、結局教免は取らずEXE1〜4を経て改心して、研究の開始と同時に教免を取ろうとしていた事を思い出して5の間に取ったとか妄想してみる



それは「必修単位」であった。
つまりは、そういう理由である。

民間伝承。
フォークロア。
民俗学に祭事は付き物。

単位習得の為に。
レポートを纏める為に。

そういう体裁で。


この男は、メラメラ祭りに参加する気満々であった。


【ten years ago…】


「何が"地元の人間しか参加出来ない"だ、バーロー!!」

田園広がる、素朴な純ニホン的田舎風景。
のどかなその情景に相応しくない、ヒノケンの怒号が響く。
普通に考えれば近所迷惑な話だが。
今日はこの土地において最大の祭事…メラメラ祭りの本祭日。
村民は皆、総出で祭りの会場へと出払っている状態だ。
辺りに、ヒノケン以外の人影は見当たらない。

「ニホン…いや、世界で一番熱いハートを持ってるのは俺だっつうの!!」

力説するヒノケンの声は、あっという間に蒼天へと掻き消え。
叫んでいる本人も、徐々に虚しくなってきたらしい。

「……はぁ……ま、土着の祭りなんてのは…ンなモンだよな…」

一応、頭の片隅に覚悟はあった様子。
あっても、わざわざ東北の地まで爆走して来た訳だが。

「あ〜あ、つっまんねぇなあ…」

歩む砂利道の抜けた先には、一本の大木。
平屋と水田の広がる…平面で構成された景色が広がる中で、この高さは異彩。
怒りに任せて、特に当て所無く歩いていたヒノケンだったけれど。
視界に捉えたその木を、無意識に目指していたのかもしれない。

「さっさと帰って、コイツを纏めるか…」

どかっと、辿り着いたその木の根元に座り込んで。
箇条書きで走り書いたレポート用紙を木漏れ日に透かす。

と。

「…ん?…鳥…か?」

見上げた枝の合間に、何某かの影。

ガサ…ガサガサ…ッ

「…鳥よりはデカイか…猿か何か…って!?」

ガサ…ッ…ベキバキッ!ザザッ!!


「「どわああああぁぁああああ―――!!??」」


ドサ―――ッッ!!!


「あいたーッ!!…あいっツツツツツ…あー、びっくりスたべー!…ン?」
「い、いってぇ〜っ…何してんだクソガキ!"ン?"じゃねぇよ!!」

ヒノケンが影の正体は何かと目を凝らすと同時に、その必要もなく「それ」は降って来た。
丁度真下に居た事もあってか、反射的にヒノケンはそれを受け止めた形になる。
落ちてきたのは、小学校の低学年と思われる少年だった。

「いやー…オラ、この木サ登るンが好きなンだべ。今まで、落っこちたことサねがったンだけどなぁ」

あっけらかんと言うその様子に、反省の色は見られない。
下にヒノケンが居なければ明らかに大惨事だった筈だが…結果オーライならそれでいい、という性格が伺える。

「まンず助かったべ、オッサン」
「誰がオッサンだ、誰が!俺はまだンな歳じゃねぇ!!」
「オラからスたら同じ様なモンだべ」
「ぐぬ…こ、この小僧…」

流石にこれ以上の口論は大人気ない。
どうにか堪えるが、ぴきりとヒノケンの額には青筋が浮かんでいる。

(ぐぐ…教免取ったら、こんなガキの相手もする事になる訳だしな…我慢だ我慢…)
「…ちゅうか…オッサン、余所者だべ?こげななーンもねぇとこサ、何の用だべ?」
「…メラメラ祭りがあるだろ、この村にはよ」
「わざわざ見サ来たンか?」
「……出に…来たんだけどよ……」
「ぶわっはっはっ!マジかね、オッサン!あの祭りは地元のモンだけスか出れねぇべ!!」
「うるせぇな!今さっき知ったっつうの!!」

まだ自分の上に乗っかったままの少年に大爆笑されて、もう一つ青筋が浮かぶ。
そのついでに、疑問も浮かんだ。

「…つうか、オメエは祭りに行かねぇのか?」

少年がこの村の人間なのは明白で。
なのに、最大の祭事であるメラメラ祭りの本祭日に…こんな場所に居る。
ヒノケンが抱いたのは至極当然の疑問であり、質問。

「見ても、ツィっとも面白くねぇべ」
「何でだ?」
「ンだって…ここらで一番熱いハートを持ってるンは、オラだかンな!」


真直ぐにそう言う少年の瞳の奥に。

自分と…
自分と本質的に似た様な。

そんな焔の輝きを、感じた。


「…へっ、言うじゃねぇか…ンじゃ、祭りに出れる様な歳になったら俺と勝負しろよ」
「勝負?」
「どっちが本物の熱い心を持っているか、決めようじゃねぇか」
「へへン、面白いべな!オッサンなンかには負けねーべ!」

軽く。
ヒノケンにとっては、からかい半分の約束。
その少年がどう受け止めたのかは、分からない。

「さてと、俺はもう帰るぜ」

ヒノケンは少年を抱え上げて身体の上から退かし、立ち上がって衣服に付いた土を払う。

「あ、ちょっと待つべオッサン!」
「ぁあ?」
「オラの鞄…取ってほスいべ」

そう言って指差された上方は、少年が居たと思われる枝先。
一部、折れてしまったその枝に…
確かに、鞄が引っ掛かっている。

「…何で俺が木登りなんぞを…」

ぶつぶつ文句を言いつつ、ヒノケンは器用に樹木を登っていく。
辿り着いた枝先は、確かに少年くらいの人間なら耐えられそうな太さだったが。
流石にヒノケン程の大人が乗って耐えられそうな様子ではなかった。

「オイ、直接取るのは危ねぇからよ!落っことすぞ!」
「分かったべー!」

枝を揺さぶると、反動で鞄が跳ね上がり…中空へと浮かぶ。
目線が合った、その一瞬。
鞄に取り付けられていた、学校名と名前のタグが視界に入る。


「…"ほむら"…?」


そんな風に見えた。
気がした。

「オッサーン!ありがとだべー!」
「…あ?…!」

放心したその隙間に、少年の声が響く。
慌てて見下ろすと、少年は落下した鞄を既に拾い上げていて。

「そンじゃ、オラはこれで帰るべ!じゃーな、オッサン!…また会うべー!!」

言いながら。
少年は目一杯、木の上のヒノケンに向かって手を振り続ける。
軽く、振り返して。
それを確認すると、少年はヒノケンが来た砂利道へと駆け出して行った。
平坦な情景。
それ故、遠く離れても尚…少年の姿を視界は捉え続ける。

「…"また"は、無ぇと思うんだがな…」

ぽつり、と。
徐々に小さくなる後姿を見送りながら、呟く。

「約束」は…気まぐれで。

そう思っているのが本心の筈なのに。

何故か、「それは違う」と心が囁く。

呟いたのは、打ち消す為だったのかもしれない。


この時の二人に、"次"の予感は無かったのだから。



―――10年前の、約束。



【ten years from now.】


「オラがバーナーマンのオペレーター、火村アツキだべ!ヨ・ロ・ス・ク!」
「あん?随分チャラチャラした坊やのお出ましだな。それで炎のナビを操るのかよ?どうにも気に食わねぇぜ…」


二人は、約束を忘れてしまったけれど。
運命は、約束を忘れていなかった。

■END■

2006.01.20 了
2020.02.03 加筆修正
clap!

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