【Rockman.EXE@】
僅かに空ける近くて遠い距離
泥濘に沈み込む様な眠り。
それは情交の後の気怠さが身体を包むが故で。
とっぷりと、何処までも何処までも生暖かな中を沈み行く夢を見ていた―――気が、する。

「……っ…は…」

温い泥の中から急速に浮き上がる感覚は、目覚め。
沈む心地好さの中には、しかし。
詰まる様な呼吸のおぼつかなさも同時に感じ取れて。
目覚めた…ヒノケンは、思わず空気を取り込む。

(……まだ、そんなに時間は経ってねぇか)

情交を終えて微睡み眠り落ちてからの時間。
睡眠を阻害しない程度の微かな常夜灯が照らす室内は、眠る前と変わっていない様に見え。
隣、に、目を向ける。

「……」

そこにはヒノケンに背を向けて眠りに就くアツキ。
先程まで情事を交わしていた、相手。
薄明かりの中、隣にその姿が在る事に安堵を覚え。
静かに、さも当然であるかの様に、背中からアツキを抱き締める―――?…抱き寄せる…?
……抱き…縋れば。
アツキの体温がヒノケンに流れ込む。

「……なンね、オッサン」
「…起きてたのかよ」
「オッサンが起こスたっちゅう考え方は出来ないンか…まあ、何となく目覚めとったけど」
「なら別にイイじゃねぇか、俺のせいじゃねぇ」

ぎゅう、と。
アツキが起きていた事でヒノケンは遠慮を止め、体温を己のモノにするかの如く強く抱く。
自分の体温もアツキに流れ込んでいるのだろうけど。

「……小僧」
「なンだべな」
「…彼女、作ったりしねぇのかよ」

不意にヒノケンの口から零れた問い。
どうしてそんな事を聞くのかって、自分達は。
まだ。

「…オラが彼女ば作ったらイヤでねぇのかオッサン」
「ああイヤだぜ、どんな手を使ってでも別れさせる」
「男の嫉妬はみっともねぇだ」
「なら俺が彼女を作ったら、お前はどう思うんだ?」

耳元に口唇を寄せられ追加されたヒノケンの問い、ぴくりとアツキの身体が反応を示すが。
すぐに答えは返らず、流れた沈黙。
ひゅ、と、掠れた呼吸がアツキから漏れて漸く。

「…答えっから、ちょっと離スだオッサン」
「……」

一時でもアツキの体温を感じられなくなるのが嫌だと、否だと言いたげな空気のヒノケン。
だがそんな我が儘を通すのならば答えない、という空気がアツキからは滲み出ている。
再びの沈黙を僅かに挟み、仕方がなくヒノケンはアツキの身体を離して自由を与えると。
アツキはヒノケンの方に身体を向け。
答えを紡ぐのだと思われた口唇が、何故かヒノケンの口唇に近付き―――重なり、合う。

「……ッ…」

ヒノケンが何事かを思うより先。
アツキは重ねた口唇からヒノケンの咥内に舌を入れ、積極的に舌を絡め取って交わらせ。
かと言って、特別に巧いという事は無い。
拙さを含みながらも懸命なそれは、アツキが時折見せる分かり易く意地を張った行為で。
舌が交じる度に互いの口端から響く微かな水音。
熱を、孕む。

……ちゅ、く…っ……

「…で。どんな答えだってんだ」

どれだけの時間の交わりだったのかは知れない。
アツキが満足を覚えるまでヒノケンはその行為に付き合い、前触れ無しに舌が離れた喪失。
自然と伏していた眼を開けば、先程までの交わりは自分から進んでの行為の筈なのに、少し恥じらう表情を浮かべるアツキの事がヒノケンの瞳に。

「……オラ…は、男だとか女だとか関係無く"こういう事"をスるンはオッサンが初めてだけンと…オッサンは、そうでねぇべ?」
「…まぁな」
「それはスっかたがねぇ、解っとる。…ンだけンと、オラだってオッサンに彼女が出来たらイヤだかンな。まスて…過去に"あった"っちゅうンなら…とっととオラで上書きスてやるだ」
「…お前も大概、相当な嫉妬深さじゃねぇかよ」

こんな事まで相手に晒け出して。
だったら、とっくに言える筈なのに―――「恋人になろう」と、どちらからだって言えない。
オマエなんか認めない、でも離れるのは許さない。

オマエは、「自分の」、なんだ。

素直に「恋人」になれない二人の距離。
密着する、重ね合わせる、互いのナカに侵入する。
それでも僅かに空ける距離。

「…ま、作る気が無ぇならそれで良いけどな」
「オッサンこそ」

だって、本当に考えている事なんて解らない。
「恋人」になる事を拒絶されるのが、怖い。
オマエは俺のモノなんだ、「恋人」なんかじゃ。
そう言っていないと、怖い、から。
執着心と所有欲と独占欲でココロを誤魔化して、「恋人」になれる日は―――まだ、お預け。

「…それにしても。上書きするとか生意気な事を言うなら、このくらいやってみせな小僧」
「なっ……ふ、うっ…」

アツキの手首を取り、そのまま覆い被さるヒノケン。
口唇を拐い、舌を捩じ込み奪う。
奪われても…いるのだけれど。
負けじとヒノケンの舌に絡み寄せるアツキの舌。
きっと、愛しい。
再び部屋にはくぐもった水音、その心地好さは…静かに泥の中へ沈み落ちて往くような。

(……アツ、キ…俺と)
(……ケンイ…チ、オラと)

言える訳がない、口唇を交わらせているのだから。
今は自分の熱を相手に忘れさせない為に必死で刻み込み、刻み付けられて、重ねている。
何時か、この距離を無くす日まで。
熱の冷めぬ泥の中で溺れさせて。

■END■

◆通常ヒノアツの距離感は今年もこの路線で。
恋人にした方が面倒が無いとは思うんですけどね…でもやっぱり、そう素直にはいかず炎への執着と独占欲の先にお互いが居て、実質的に依存しているみたいなのが良いというか。
生涯の相手には既になっているようなモノだけど。
何処かちょっと依存による危うさが混じっているのが、今の考え方の通常ヒノアツかな。
まあでも基本的に甘口の話が好きだし書きたいので、そんな事はさておき普通にちゅーもえっちもして、しょうがないから傍に居てやるみたいなお話ばっか書くと思うんですが(笑)
もうちょっとイチャコラさせたくなった時は、放課後の恋人やアツキちゃんのお話を考えて書いていると思います。自己供給可能なナイス布陣(…)

2021.01.30 了
clap!

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