【Rockman.EXEA】
星の川が流れる夜の二人
『明日は七夕!本来の夜のお天気は雨模様だけれど、織姫と彦星の為に晴れにするのら!シティの皆もお家の電気を消して、夜空を見上げてほしいのら〜!』

「…とか、ウェザーのヤツが天気予告をしていたな」
「あンだけあった雨雲が綺麗サッパリ無くなっとるでねか、そうホイホイ天気ば変える訳で無(ね)っから忘れがちだけンど、ウェザーはホントにちゃんと天気ば変えられるンだなや」

そんな会話を交わしているヒノケンとアツキが居る場所は、ヒノケンの家の二階ベランダ。
七月七日の夜、七夕の夜。
しかし朝から夕方に掛けては傘が必要な雨空で。
およそ天の川など望むべくも無い天気だったのだが。
前日の天気予告で才葉シティのお天気マスコットにして天候管理システムであるウェザーくんは、夜だけは雨雲を消し去り快晴にすると予告した。
天候変更の予告時間。
高度一万メートルの遥か上空に位置するスカイタウンから、眩い程の巨大な光球が放たれたかと思うと───空が瞬いた、次の瞬間には雲が失せ。
今夜の主役である星々の川が才葉の空に現れる。

「…ちゅうか、何か街が暗くねっか?オッサン」
「星が見え易いようにだろ。最低限の灯りに落とすから、可能なら天気変更前に帰宅してくれとか、天気予告の後にそんな事も言ってた筈だぜ」
「ふーン、そこまでは聞いてねがっただ」

ヒノケンの説明に疑問が晴れたアツキは、ベランダの手すりに手を掛けながら改めてセントラルタウンの様子を眺めてみると。
確かに街灯等も極力、光量が減らされており。
光害を減らし天の川を才葉の空にも流そうというシティ全体の七夕への取り組みは、成果をもたらし数多くの星々が夜空を彩り、普段よりも濃い夜闇の中で人々は空を見上げていて。
だがそれでも、アツキに言わせれば。

「ンでもオラの地元の方が、よっく見えるべ」

…という事になるらしい。

「お前のド田舎と一緒にするんじゃねぇよ」
「ふふン、正直な感想ってヤツでねか。…まあ、見えるよう頑張っとるンは分かるけンど」

少し手すりから身体を乗り出し星を見上げるアツキ。
生意気で負けず嫌いなアツキに呆れながらも、そうでなくてはアツキではない事も解ってしまっているヒノケンは、夜の中で自嘲めいた笑みを零し。
同じく星々の川を見上げて。

「…小僧は、願い事とか書いたのか?リニア駅の中にデカイ笹と短冊が用意されてただろ」

ふと、そんな事がヒノケンの口から出た。
才葉学園でも小等部では主に低学年向けの情操教育や工作として七夕飾りは行われ、ヒノケンが授業を担当するクラスでも生徒達が七夕に触れており。
そしてグリーンタウンから持ち込まれたであろう立派な笹がリニア駅の構内に設置され、ここ数日は意識せずとも「七夕」の事が目に付いていたから。
アツキにも聞いてみたくなった、のかもしれない。

「何ねオッサン、星を見ンべだの願い事だの。意外とロマンチストだったりするンか?」
「……うるせぇな。そういうお前だって見に来てんだから、ヒトの事は言えねぇだろうが」

揶揄い混じりにアツキは笑い返す。
夜に紛れてしまっていても、笑っている筈だ。
アツキの言葉に言い返してやりたいヒノケンだが、自分自身でも多少は感じていたのか、そこまで強くは返せずバツの悪さのようなモノを含む。
何時ものようにアツキが勝手に遊びに来たから、ついでの七夕…という事では無い。明確に今夜の天体ショーに対して誘ったのは、ヒノケンの方。

「オッサンが独りで星ば見上げとるとか、可哀想だからオラは付き合ってやっとるンだべ」
「へーへー、そうかよ」
「……そンで、願い事だっただなや」

僅かに目を見開き、ヒノケンは驚く。
揶揄ってきた態度を考えれば、恐らくアツキは願い事など気に掛けてはいないだろう。だから話を戻してくるなど思いもしなかったから、静かに驚きを感じ。
黙ってアツキが話す続きを待つ。

「数日前、晴れとった時にあンの笹の前を通ったら、短冊どうかって渡されただけンとも」

言いながらアツキはポケットを弄り、取り出したのは…すっかりクシャクシャになってしまっているが、長方形の色紙である事から七夕の短冊に違いない。
そして普段より暗い夜の中で見え難いけれど、文字らしきは視認出来ぬ無地のままの短冊。

「思い付かねかったから、この有様だべ」
「ちっ、何だ。小僧がどんなお目出度い願い事を書いたんだか、見てやりたかったのによ」
「書いたンだったら、オッサンなンかに教えねぇだ」

に、と。
一度ヒノケンの方に振り向き、"してやった"と言わんばかりの笑みを見せると、すぐさま夜空を見上げ直して───今夜の主役である、二つの星を。

「…なぁ、オッサン」
「何だ?小僧」
「願い事なンちゅうのは、自分の手で掴むモンだって。…オラはそう思っとるンも有るべけンと…もう、叶っとるから思い付かねかったンかもスれねぇだな」
「それは───」

アツキが見ている二つの瞬きをヒノケンも見る。
一年に一度だけ許される逢瀬だなんて、そんなの。

「…ガラじゃねぇな、確かにお互いよ」
「ンだべ?…遠距離だとかジョーダンでねぇだ。…ま、何の事だかよく分かンねけンどな」
「ああ、全くだ分からねぇ」

理解しながらも、うそぶく二人。
ただ、炎と焔の想いは重なり合っていただけ。
そう、ただ、互いを焦がして触れられる程、傍に。

「……小僧」
「何だべな、大人スく星ば見るだオッサ…」

互いが互いの事を手に入れたいと願った、それだけ。
その火に触れたいと願った、だから。
炎と焔は、何時もより深い夜の中で口唇を重ねて。
星の川が煌くだけの世界に包まれながら、少しは恋人らしいキスだった───気がした。

■END■

◆自分の今年の願い事は、ちょっぴり早くロックマンエグゼ・アドバンスドコレクションの決定という形で叶ったんだなと思っています(*´ω`*)
今回は発表記念も兼ねて!発売までまだまだエグゼの炎属性を愛でるし、発売後も書き尽くしたと思えるまで推していきますぞー!

2022.07.07 了
clap!

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