【Rockman.EXEA】
炎と焔の Happy New Year 2024
◆ヒノアツと火野家の三兄弟+バーナーのお正月│お題ガチャさんの結果から書いています



・新たな年に唇を交わすのは赤い炎と青い焔

それはとても、柔らかな不意打ちと呼ぶべきか。
目を瞑るアツキの耳に届く花火の音は、何故かとても遠い場所から聞こえている気がする。
新たな年の幕開けを華々しく告げる深夜の花、ほんの少し前までアツキはヒノケンの家のカーテンを開き、直に新年の祝いの花火を見るつもりでいた。
なのに何故か今のアツキは目を瞑っていて。
花火を見る事も、見に向かう事も出来ない。

「…ふ…ン、ぅ…」

…ちゅく…っ…

どころか、声を出す事さえも。
「今年」が終わりを迎えるまで一分を切り、花火を見ようとソファから立ち上がろうとしたアツキの事を、隣に座っていたヒノケンは何の言葉も掛けず腕を掴み。
そのまま有無を言わさず引き寄せ、口唇を奪った。
急な事にアツキは当然ながら驚いたし抗議をしようという気持ちも芽生えたが、こんな時に特に理解させられる体格差や逞しさによって捕らえられた身体は、身動きひとつ出来ず。
気付けば瞑っていた双眸。
性交時とは異なる酷く優しい口付けを、花火の音を遠くに聞きながらアツキは受け入れ。
やがて鳴り止む花火。
夜の静寂が戻ると共に、重ねられた口唇も離される。

…ちゅ…

「…ヘン…キスで年越スとか、オッサン古いだ。まぁ、オッサンだからスッかたねけンど」
「うるせぇな、新年からオッサン言うんじゃねぇよ」

キスの意図はアツキも解っていた。
年を跨いでの口付け。
ほんの少しだって、そこに憧れなんて無い。筈。
キスを交わしている間、互いの胸が僅かに高鳴りを覚えていたとか、そんな事は無いから。

「あーあ、オッサンのせいで花火サ見れねかったでねぇの。楽スみにスとッたのになぁ」
「新年だからって、この辺りで深夜に上げる花火じゃどうせシケてるだろうが。…それに、お前の言い方も本気で残念そうにはしてねぇだろ」
「そうかもスれねッけど、そンでもオラの楽スみを奪ったンだから謝ったらどうだべな」
「…今年も口が減らねぇ小僧だな、ったく」

およそ、キスを交わす間柄のやり取りには聞こえない会話だが。二人に浮かぶ微かな笑み。
新たな年になったところで、互いは変わらぬ表れ。
互いは互いのまま、日々を積み重ねるのだと。

「…あと、花火の他にもなオッサン」
「あん? まだ何かあるのかよ小僧」
「唇が乾燥スとっただ。そげにカサついとるままオラにキスだとか、ふざけるでねぇべ」
「はあ? …っと…」

……スリ…

予想外な方向からのアツキによるダメ出し。
何を言い出すのかとヒノケンが抱き寄せたままのアツキに目を向けた途端、先手を取る様にしてヒノケンの口唇に触れてきたアツキの指先。続ける筈だった言葉を呑み込んでしまう。
仄かな指先の熱が、するりと口唇をひと撫で。
成る程、確かに───ささやかな圧を受けて感じ取らされた自らの口唇は、冬の空気や暖房によって潤いを失い、乾燥してしまっているだろうか。

「…ま、小僧の言う通りかもしれねぇな」
「ふふン、そだべ?」

今年初のアツキの生意気な得意顔。
初めて出会った時に見せられた表情と変わらないが、ヒノケンが受ける心境は変わった筈。
それを認めるというのは別の話だけれども。
今は新年を迎えたばかり。
少しくらいは小僧を気分良くさせてやるか、という。あくまで自らが優位の上でのスタンスを保ち、ヒノケンは僅かに目を細めてアツキらしいその表情を見る。

「ンだから、リップクリーム塗ってやるだ」
「はぁあ? そんなモン要らねぇよ」

微笑ましさから一転、怪訝に変わるヒノケンの顔。
どうも二人の間には少々の感覚の違いがあったらしく、ヒノケンはアツキが口唇の乾燥という些細な事からでも、何とか上手を取る切っ掛けにしようとしてきたのだと思っていたが。
アツキは、割りと本当に乾燥が気になっている模様。

「つうかリップクリームなんか持ってんのか? チャラいボウヤらしいっちゃらしいがな」
「ッとに、今メンズのリップクリームとか珍スくもねぇだ、持ってて当たり前でねぇか」
「…そうかい。まぁ、やりたきゃ勝手にしな」
「ほンなら、えーっと…この辺サ…あったあった」

折れたヒノケンに、アツキは今一度"にっ"と笑み。
弄るポケットから取り出した一本のリップクリーム。
蓋を外して回し出されたスティックの具合を窺い見るに、まだ真新しく使い始めたばかりだろうか。だとしても、きっと間接キスという事になるのだろう。

「(…へっ。笑っちまうぜ、俺にな)」

間接キスを気にするなんて、そんな初々しい関係では無いだろうに。深い身体の交わりを重ねておきながら、期待する火の揺らめきがヒノケンのココロに。
そんな"うぶさ"がまだ己にあっただなんて、アツキには悟られずに自嘲するしかなくなる。
今、近付くのはアツキの指先ではなく。
一体、何の香りなのか───やけに鼻孔をくすぐる良い匂いのリップクリームが、乾いたヒノケンの口唇に触れ、流れるように横へ引かれてゆく。

「(…ふぅん、案外…悪くねぇ)」

アツキに委ね任せて過ぎる時間。
口唇全体にリップクリームが行き渡る感触。
何だという事は無い所作の筈だが、特別な秘め事を行っているかの様。やけに真剣な眼差しでリップクリームを塗っているアツキを眺めていたヒノケンだけれど。
唐突に終わりは訪れ、口唇から離れるスティック。

……ツイ…ッ…

「…終わりか? 小僧」
「………」
「…おい、小僧?」
「……ふ……」

抱いた名残惜しさを隠して塗り終わりを問い掛けたものの、アツキの様子がおかしい。
自分が仕上げた口唇の出来を見て───今にも。

「…ぶわっはっはっ! オッサンの唇…キラキラのテッカテカになっとって…あっはっは!」
「はぁあああ?! オイ、どういう事になってんだ!」

堪え切れずに爆笑するアツキ。
思わず自らの唇の状態を問いただそうとする言葉が出たが、その反応とアツキの発した二つのオノマトペだけで、正直ヒノケンも大体の理解は出来ていた。
マットな質感の商品が多いメンズリップクリームだとばかり思っていたけれど、実際には。
「なんかよく分からん良い匂いのキラキラしている、恐らく女性向けであろうリップクリームを塗られて、唇テッカテカ状態」になっているのだろうと。

「あー、笑った笑った! 初笑いだなや」
「…ったく、つまらねぇ事をしやがって」
「ふふン、まあそう言うでねぇだ。オラの初笑いになったンだから良(い)がったでねぇか」
「大体、何でこんなモン持ってんだ」
「普通にメンズの買っても面白みがねッかと思ってシャレたの探スとったら、途中から何がエエだか迷走スてコレを買っとっただ。そンで持て余スてたべ」
「そんなのを俺に使うんじゃねぇよ! …やれやれ」

まだ少し笑いが漏れているアツキに呆れるが。
ふっ、と。
つられてヒノケンも自然と笑みを零す。
以前ならば"どうでも良かった筈の事"も、アツキとならばココロの炎は燃え盛り揺らめく。変わった───変わらされた自分への諦めと仕方無さと自嘲、笑みに含めた想いは複雑。
ただ分かるのは、アツキを離す選択は無い事だけ。

「…ところでよ、小僧」
「ン、どスただ? オッサン」
「こんだけ唇がテッカテカに潤ってりゃ、キスしても文句は言わねぇって事なんだよな?」
「…へへン。ま、そういう事にスてやるだオッサン」

そう言って再び目を瞑った青い焔。
意識せず先程よりも柔らかに重なるのは赤い炎。
まったく───キラキラでテッカテカなリップクリームの、よく分からん良い香りのせいで。恋人みたいな、似合わないキスが欲しくなったに違いない。
新年だから特別、なんて事は無い筈だ。

■END■

・歳の差あるふたり
https://odaibako.net/gacha/12950

「唇乾燥してるよ!塗ってあげる!」
って言われてアツキになんかよく分からんいい匂いのキラキラしてるリップクリーム塗られて唇テッカテカになってるケンイチ。



・ヒートマンの初夢

『あ、ヒートマン! あけましておめでとーございます! 今年もよろしくお願いします!』
『オウおめでとさん、元気に正月を過ごしてるか?』
『うん! ヒノケン先生とヒートマンも元気?』
『勿論だぜ、何時も通りな』

現実世界がお正月ならば、電脳世界もお正月。
才葉シティのインターネットにも多くのナビがプラグインを行い、出現ウイルスが弱く催し物が行われるセントラルエリアは特に賑わいの様相を見せており。
ヒートマンも正月気分を満喫すべくヒノケンのオペレートからは離れ、ファイアマン達と連れ立ってインターネットを散策していたところで声を掛けられた。
声の主を見れば、ヒノケンのクラスの生徒のナビ。
言わばヒートマンの生徒という言い方も出来、元気な様子からヒートマンの表情は綻ぶ。

『おいヒート、何やって…おっと…』
『ヴォオオ…ッ…?』
『うぉーい、置いてっちまうぜ!』

更にヒートマンに声を掛けるナビ三体。
立ち止まって会話をしていた為、はぐれ気味になったヒートマンに気付いたファイアマンとフレイムマンとバーナーマンが、先に進んでいたが戻って来たのだ。
そしてファイアマンは状況を察した模様。

『ああ、悪い悪い。ちょっと待っててくれよ』
『…ヒートマンの友達? やっぱり皆アツそうだね!』

ヒノケンが担任するクラスは小等部の低学年。
故にナビもココロの成長具合がまだ幼く、現れた炎属性のナビ達に対して無邪気な感想。

『ハハハ、ダチはバーナーマンだけになるな。こっちは兄貴でこっちは弟、兄弟って事だ』
『えっと…じゃあ、ヒノケン先生ってヒートマン以外にもナビを持っているって事だよね。スゴーイ! そうだったんだあ! そっかー、兄弟かぁ!』
『……ヒート、そろそろ行くぞ』
『ヴォオオオ…ヴォウ…?』

幼さの他に休日の子供のテンションもあるのか。
ヒートマンの説明を聞いて目を輝かせるナビの視線に、ファイアマンは少し居心地の悪さを感じているらしい。もう犯罪とは無縁になったからこそ、こうした純粋さがまだ慣れない。
そういう意味では、元の知性もだが二度のデリートで当時の記憶に関する事は殆ど失われているフレイムマンは、ファイアマンと違い単に不思議そう。

『そいじゃ、兄貴達が待ってるから俺は行くぜ』
『うんっ! ボクも向こうで友達と待ち合わせしてるし。また…あっ、そうだヒートマン!』

ファイアマンの様子に気付いて話を終えようとしたヒートマンに、生徒のナビも応じたが。
別れようとしたところから再び引き留められる。

『どうした?』
『あのね、セントラルエリアのあっちで面白い事をやっていたよ!ナビの初夢だってさ!』
『…ナビの初夢ぇ?』
『どんな夢を見たか、学園で教えてね! それじゃ!』
『見るのが決まりなのかよ…って、行っちまった』

一方的に話すと待ち合わせ場所だと言う方向へ走り出し、あっという間に他の大勢のナビ達に紛れて姿は見えなくなってしまった生徒のナビ。
後に残されたヒートマンは、「ナビの初夢」をやっているという方面に目を向けてみると、確かにある一角において呼び込む様な声から夢がどうのと聞こえてきた。

『…行ってみるのか?』
『え、いやでもなぁ…そんな興味がある訳じゃ…』
『だがヒノケン様の生徒のナビだったんだろ今の。やらなくてガッカリされるのがお前だけなら構わねぇが、ヒノケン様にまで及ぶのは気に入らねぇぞ』
『…そういう話になんのか、分かった行ってみるぜ』

今年も兄の主への忠誠ぶりは変わらぬらしい。
いや、寧ろそうでなければファイアマンらしくない。
そんな兄を尊重して「ナビの初夢」とやらを試してみる事に決め、フロートの出力を上げる。

『おっ、ヒートマンがナビの初夢を試すんだな』
『どんなモンなんだかな、面白けりゃイイが』

バーナーマンに返事をする頃には、少し興味も増し。
ヒートマンは、兄弟達に先駆けて向かい始めた。

─…

『…以上がナビの初夢の説明です。質問などが無ければ、すぐに体験する事が出来ますよ』
『成る程な。質問は無ぇから頼むぜ』
『はーい、それでは準備させていただきまーす!』

「ナビの初夢」を行っているスペースに近付くと、なかなかの盛況。どんな夢を見たのかを言い合うナビ達の姿も見られ、そうなると順番待ちはどうなっているのか気になるところ。
あまりに待つのであれば断念も考えたが、回転は良いらしくヒートマンの順番は思ったよりも早くに巡り、説明に掛かる時間も手短に済んだ。

『…コレをセットして…よっと!大丈夫ですか?』
『ああ、記憶データに出てきたな』
『後で自動削除されるので、安心して下さいね』

ナビは終了処理の他に、人間でいう睡眠のような状態で休むスリープモードも可能ではあるものの、その間に夢を見ている・覚えている機能は無く。
だからこそ「ナビの初夢」がウケているのだろう。
人間が見ている「夢」の───疑似体験。
仕組みは、ほぼスリープモードの状態まで機能を休止させて最低限の記憶と意識データだけを残し、いわば夢うつつの曖昧な状況下になったところで。
今ヒートマンにセットされたシステムが、セットされたナビの記憶データを元にランダムな映像を生成し、意識データ内で再生して「夢」のように見せる事。
やはり本当に「夢」を見るとは異なるけれど、それでも「夢」に近しい体験は出来るのだろう。

『ではシステム起動しまーす! 身体の力を抜いて〜』
『(……ふわぁ…おっ…映像…データが…生成され…て…)』

係員のナビが合図すると同時、ヒートマンにはスリープモードに近い「眠い」感覚が訪れ。
だがギリギリで残る意識、映像データが生成されてゆくのも感じ取り、やがて再生───

『…んぁ? 何だ…此処…いや、家か?』

不思議な感覚、これが「夢」の感覚なのか。
気が付けばヒートマンは主であるヒノケンの今の自宅?らしきリビングに居た。…しかし、何となく置いてある物だとか家具だとかが合っていないような。
正確性を欠いた世界、それに加え。

『あれっ…つうか…そもそも俺は現実世界に出てんのか? …じゃあ、何時の間に擬人化プログラムを実行…じゃねぇな、コレも夢だからか。紛らわしいな!』

PETやパソコンからリビングを見ているのではなく、ヒートマン自身がリビングに居る。更に自分の身体を確認すれば、擬人化プログラムを実行した際の姿。
だがこれも総て「夢」と称されて生成された、記憶の世界。まだ慣れない、初めての感覚。
しかし自宅という一応はありふれた光景、夢では突拍子もない事が起きていたりすると聞いていたヒートマンには、少し刺激の足りない内容に思う。

『まあ、フツーの夢なんてのも有るか』

今のヒートマンにとって、主や兄弟達と日々を過ごすこの場所を非常に大切に思っているからこそ、もしかしたら生成にも色濃く反映されたのかもしれない。
そんな事を思えば顔には軽く笑みが浮かび。
やけに太陽の光が注ぎ届く窓際へ足を向けると、ポカポカとした陽気の中で寝転んでみた。

『夢ん中で寝たら、どうなるんだかな』

気持ち良いとは感じるけれど、眠くなる事はなく。
さて、自分の「初夢」はこれで終わりなのか───

『…ニャ…ニャー…』
『…は? えっ、猫? 猫だよな今の。…うぉっ?! お前、こんな近くに何時から居たってんだ』
『ニャア…ニャァア…』

本来は自宅で飼ってなどいない筈の猫の鳴き声。
一体どこからか、ヒートマンが探そうと顔を横に向けた目の前に、何時の間にか猫が居た。
大人しくヒートマンをジッと見詰めている猫。
何処かで見掛けた猫の記憶なのだろうか、だがしかし当たり前に傍に居る存在な気もする。
よくよく見ると、目の雰囲気だとか獣の───

『…えっ、フレイム? もしかしてフレイムか?』
『ニャッ! ニャアアァァアッ!』

解って貰えた事に嬉しそうな様子の猫。いや、「夢」の中では猫になっているフレイムマン。
確かにその鳴き方はフレイムマンの唸り声に近しく、始めこそ驚いたヒートマンだけれど、すぐに「夢」だからと妙に物分り良く納得もした。

『…フレイムも一緒に日向ぼっこしようぜ!』
『ニャウッ! ……ニャアァア…ニャ、ン…』

コクンと頷いた猫のフレイムマンは、そのままヒートマンの傍で身体を丸めて日向ぼっこを開始したけれど、すぐに目を開けていられずウトウトした様子。
そこからあっという間に、スヤスヤと眠りに就く。

『……ニャ…ウ…フニャ…』
『…ハハ、ゆっくり寝ろよフレイム』

いや待てよ、夢なのだからそれはおかしいのか?いや、弟が猫の時点でどうでも良い事か。
眠るフレイムマンの方に身体を向け、起こさぬように優しくひと撫でだけすると、ヒートマンは再び仰向けになって日向ぼっこの続きをしようと───

『……ニャッ…』
『…んっ? 何だ、今度は誰が猫になってんだ?』

フレイムマンとは反対側に、また何時の間にか猫が。
二度目となるとヒートマンも慣れたもので、きっと自分が知っている誰かが猫なのだろう。
今度の猫は少し素っ気ない態度。

…プイッ…

ヒートマンが自分の存在に気付いたと分かると、猫は背中を向けてしまった。けれども離れようとはせず傍には居て、時折チラリと後ろに顔を向ける素振り。
新たな猫を観察するヒートマンは、ふと気付く。
その猫の尻尾は、ずっとヒートマンの身体に擦り寄せられていて。何とも…素直じゃない。
と、いう事は。

『…もしかして、兄貴か?』

ピクンと僅かな反応。
そこから猫は知らんぷりを決め込むも、触れていた尻尾だけはパタパタと大きく揺らされ。
間違いない、この猫はファイアマンだろう。

『猫になっても兄貴は変わんねぇなぁ』
『…ニャ…』
『(これがオヤジの夢の中だったら、デレデレに甘えてたりすんのか? ちょっと見てぇな)』

うっかり想像して細める目。
猫になった兄弟達と日向ぼっこの夢か。
似合わないような、随分ほのぼのとした夢だけれど、偶には何の喧しさも無い日常も───

…ドタバタドタバタ…

『んぁ? 今度はなん…どわあっ!?』
『フニャーッ!』

ムギュッ! ピョインッ!

のんびり日向ぼっこの終了。
突如として騒々しく乱入するかの如く走って来た三匹目の猫が、ヒートマンを踏み台に。
夢の中な事もあり痛くは無いものの驚いて身体を起こし、先ずはフレイムマンの確認を行うと、幸い目覚める気配は無く眠り続けており一安心。
では乱入して来た猫の方に目をやると。

『フニャァアアア!』
『ニャア! ニャニャアァアア!』
『…あっ、コリャ…バーナーマンだな…』

ファイアマンに向ける威嚇の姿勢。
応じるファイアマンも明らかにライバル視をしており、猫になっても「そういう関係」だという事。となれば三匹目の猫はバーナーマンなのだと推察出来た。
それは良いのだが。

『フシャアアァァアア!』
『ウニャアァァアア!』

ドッタンバッタン! ゴロゴロゴロ!

『っだぁあ! 猫になってまで喧嘩するんじゃねぇよ! フレイムが起きちまうだろうが!』

そう言うヒートマン自身の声も大概な大きさだが、本人はそんな気を遣える状況ではない。
取っ組み合いの喧嘩をしてリビング内を暴れる猫のファイアマンとバーナーマンを止めようと叱りつけるが、二匹の猫がそれで喧嘩を止める筈も無く。

バタバタバタッ! ドッスン! ガッタン!

『ニャーッ! ミニャアァ!』
『ニャウゥウッ! ウニャウゥッ!』
『えぇええいっ…!』

───…「ハツユメ」システム、シュウリョウ…

『いい加減にしやがれぇー! …って、あ、あれ?』
『はーい! お時間です、お疲れ様!』

両腕を振り上げたポーズで我に返ったヒートマン。
係員にテキパキとセットされた「初夢」のシステムが自動削除されている事を確認されながら辺りを見回すと、自分も…傍で見守っていたらしい兄弟と友人もナビの姿で、電脳世界だ。

『何だ…夢か』
『…それ、実際に言う事があるんだな』
『ヴォオォォオオ…』
『一体、どんな夢を見たんだ? 教えろよ!』

ドラマやゲームや小説といった創作の中で見掛ける、「夢オチ」的な人間の台詞がヒートマンの口から出て来た事に、ちょっとした感心のような感想を抱いたらしいファイアマン。
フレイムマンは兄が何をしていたのか理解が及んでいないらしく、少し心配そうな様子で。
バーナーマンは夢の内容に興味津々。
ヒートマンにとっての現実に戻って来た、実感。

『夢の内容か…そうだな、帰ってからでイイか?』
『えー、何だよ勿体ぶるなって!』
『ハハハ、オヤジにも教えてやりてぇ夢だったからよ。折角だから土産話って事で頼むぜ』
『それだったら、アツキにも聞かせてくれよ!』
『ああ、勿論だ』

あんな愉快な夢を見たなんて、主にも教えなければ。
自然とヒートマンは夢を思い返しながら、自分に注目している三体のナビの顔を眺め見る。

『…もしかしなくても、俺達が出て来たんだな』
『おっと、そいつはヒミツだな兄貴。さあて、次は皆で出来る正月らしい事をやろうぜ!』
『…やれやれ。あっちで電脳おみくじをやってるな』
『おっ、イイねぇ。行ってみようぜフレイム!』
『ヴォッ! ヴォオオオッ!』

勘の良いファイアマンの事は、はぐらかし。
しかし兄の提案には賛成の意を示す。
フレイムマンの事を促しながら、ヒートマンがおみくじ売り場に向かい始めると、フレイムマンに続きファイアマンとバーナーマンも、そちらへ歩み出した。

『よーし、大吉を出した奴が優勝な!』
『そういうモンじゃねぇだろ、馬鹿バーナー』
『ンだとぉ! やんのかぁファイアマン!』
『だーから、新年から喧嘩をするんじゃねぇよ!』
『ヴォ、ヴォオオォォオオ…』

まったく───今年も結局、「何時も通り」なのだと。
「初夢」は、そう告げていたに違いない。
自分達の騒々しくてアツい、当たり前の日常。
兄弟や友人と、そしてヒノケンと。

『(…それでイイんだよ、な)』

ヒートマンの表情は晴ればれとして、楽しげだったが。
生徒のナビには初夢の内容を、どう説明したものか。
宿題に困る生徒の気持ちを少しだけ理解が出来ていた。

■END■

・足並み揃わない4人ガチャ
https://odaibako.net/gacha/4797

107 フレイム、ファイア、バーナーが猫の世界。ヒートのそばで日向ぼっこをしながら眠るフレイム。呼ばれてもまったく反応しないが尻尾はヒートの体に触れているファイア。ドタバタ駆け回ってヒートを踏み台にするバーナー。

2024.01.12 了
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