【Rockman.EXEA】
終わりを見たかった男の願いの行方
「…はーッ…はー…ッ…」

荒く、やけに熱の篭った息を繰り返すアツキ。
傍でそれを聞くヒノケンもまた、アツキ程ではないが短く息を吐き出すを繰り返していて。
互いに裸身でのベッド上、何があったのかなど。
性の交わり以外に考えられないし、そうした関係が有るというのも今更な事ではあるが、少しだけ何時ものセックスとは異なっているとすれば。

「…何か、すげぇ夕焼けだな。小僧」

遮光カーテンは閉められていない。
つまり、まだそういう時間ではなかったから。
しかしもう一枚、レースのカーテンは閉められており、その向こうから夕陽が透けている。
どちらも"そう"だった。何故だか今日は。
夜を待てずに会うなり抱き合い、互いの内に秘め持つ火に触れて貪り合い、身体を重ね。
やっと満たされた時、外は漸く陽が沈もうという頃。
ヒノケンの話す通りカーテン越しでも今日の夕焼けは強烈な赤と橙の色を放っており、ボンヤリと見詰める瞳とココロに、恐ろしさすらじわりと感じさせ。
こんな空の事を、ヒノケンは何処かで。

「はー…まだ陽も沈ンでねッちゅうのに…スっかス、確かに今日はやッたら真っ赤だなや」

緩慢に首を窓側へ向け、アツキも赤と橙を。
共感した感想、ただそれだけのように聞こえるが。
ヒノケンには…赤と橙に燃える空の色に対し、アツキには無い想いが呼び覚まされてゆく。

" あの時、もしもプロトが完全な復活を遂げ "
" 世界が───終わっていたのなら "
" 総ては、こんな空に包まれていたのだろうか? "

「あの時」の自分は。
この空を見たかったのだろうか。
少しだけ思い出す。
世界の終わりを見たかった頃の自分自身の事を。

「……小僧」
「ン…なンね、オッサ…ン」

焼ける空から目を逸らすようにして。
ベッドに投げ出されたままでいるアツキの身体をヒノケンは抱き締め、熱の行き来に耽る。
青年と呼ぶには、まだ未熟さの残る肢体。
そんな身体に性を教え、拓き、青い焔を一方的に奪い己のモノにしようとしていた筈なのに。貪欲な若さは、すぐに赤い炎を得ようとする術を覚えてしまった。
今だって、そう。
ヒノケンの意図では"行き来"ではなかったのだから。

「(まったく、思い通りにいかねぇ小僧だ)」

思うは忌々しさではない。
口元にはココロからの笑みが浮かんでしまう。
───終わりの炎に燃える空で、ひと時だけココロを満たそうとした、あの時とは違う。

「このまま、世界が終わっても良いのによ」
「……は…」

ふ、と。ヒノケンの口から出た言葉。
終わりを願う事は止めたのではなかったか。
それにアツキには、そんなヒノケンの過去をまだ知らされていない。だから完全な唐突で。
けれどもその言葉の言い様には何故か戯れ以上の重い含みがある気がして、どうとも答える事が出来ず、ヒノケンの腕の中で声を出せずに過ぎてゆく時間。

「…そんな真面目に考えるんじゃねぇよ、知恵熱が出ちまうだろ小僧。…なんとなく、だ」
「…知恵熱とか、とっくに終わッとるだ! …ッとに…いきなス訳わかンね事をぬかスでねぇッちゅうに。…オッサンとこげなまま終わッとか、オラは御免だべ!」
「だよなぁ。…そうなんだよな、分かるぜ」

分かっているとも、全部、全部。
口を開けば出会った時のままだけれど。
もう終わりを願って行使する者には、なりはしない。
だからもし、過去の己のように終わりを願い実行する者が現れ、その願いを果たした時。

今は青い焔が傍に居るから。
このまま抱き締め合って、終われる最後ならば。
何も何も、後悔は無い。
それが「今の」ヒノケンの───

「…ちッと、眠たくなッてきただなや」
「…ああ、俺も少し眠るか」

気怠い身体は、短い時間の睡眠を欲している様子。
特にアツキの方は、双眸を閉じればストンとすぐに眠れてしまうくらいの眠気なのだろう。
そうでなければ、自分も眠ると言い出したヒノケンは未だアツキの事を腕の中へと収めていて、このまま裸で抱き締め合って眠る事に文句のひとつも言う筈だから。

「……なぁ、オッサン」
「何だよ寝るんじゃねぇのかよ」
「いや、寝るけンど…今夜は、七夕だったべな」
「……そう…か、そうだな今日は…七夕だ」

嗚呼そうだった、七夕なんて日だったのだ。
星への願いなど似合わないけれど。
終わりの願いが叶わなかった男が新たに見付けた願いの先、それは今、抱き合う腕の中。

「…起きたら、ラムネ買いサ行かねっか?」
「いいな、もう…夏だからな」
「ラムネ飲みながら、星ば見るべ…オッサン」
「ああ…そうすっか」

カーテンの向こうの夕焼け、赤と橙は次第に陰り始めて夜へと向かい、寝室内では星の川が煌めきだす時刻までの短い眠りに就く二人の寝息。
アツキと、夏の気配を抱きながら。
世界よりも腕の中の青い焔を望み願う事を選んだ自分自身へ向けて、ヒノケンの寝顔には自嘲めいた微かな笑みが浮かべられていた。

■END■

2023.07.07 了
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