【Rockman.EXEA】
深い夜の美味しい食事
◆お題ガチャさんの結果2本から
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───くきゅるるる〜…くぅ〜…
「…へっ、嬢ちゃんのお腹から可愛い音がするぜ」
「た、体力ば使ったからスッかたねぇべ!」
静まり返っていた寝室内に響いたアツキのお腹の音。
今のヒノケンとアツキは、仲良く同じベッドで眠りに就こうとしていた…訳ではなく、男女としての熱く激しさに満ちた交わりを終えたばかりで。
裸身のまま身体を投げ出し、トロトロと弱い火で身を焦がす様な余韻に浸り、漸く繰り返していた荒い息が落ち着いて室内に僅かな静寂が生まれた。
そこに、件の音が響いたのである。
音が鳴り止むまで、何故か二人は顔を見合わせ。
止むと同時に、ヒノケンはからかい混じりだが愛しいモノを見る眼差しで笑みながら、ちょんちょんとアツキのお腹を優しくつつくと。
先程までの行為のせいだと、それはそれで言ってからに恥ずかしくなったかアツキは顔を赤らめながら強い目線を送るも。笑んだままの男に全く効果は無い。
「体力使って腹減らすくらい、満足したって訳だな」
「そっ、そげな意味でもねぇだ! オッサン!」
「なんだ、ついさっきまでケンイチケンイチって呼んで縋ってきたのに、もうオッサンか」
「〜〜〜ッ…知らねぇだ! もうッ!」
ぷいっ、とヒノケンから顔を背け。
身体も転がして背中を向けてしまうアツキ。
からかうのは、ここでお終いにした方が良いだろう。
…クシャ…なでなで…
「へっへっ…そう拗ねるなよ嬢ちゃん。からかい過ぎたな悪かったぜ、機嫌を直せって」
「…ふ、ふーンだ…オラ知らねッて、言ってるべ…」
ヒノケンはアツキの背中にそっと寄り添い、先程までアツキを情熱的に抱いていた手で、なだめる様に優しく頭を撫でながら機嫌を直そうとしてきて。
絆されまいとするアツキだけれど、声からは威勢が失せており撫でられて満更でもなく。
背中から感じる事が出来る逞しいヒノケンの身体の熱に、我が身を預けたいとも願い始め。僅かに全身を捩らせた後、そろりと背はヒノケンの胸元へ。
……とす…
「これは機嫌を直したって事でイイのか?」
「…まだ、オッサンを許スた訳でねぇだ。許スて欲スかったら、何か食べ物を寄越スべな」
「へっ…そうきたか、何かあったかな」
アツキの機嫌の為にコンビニくらい行っても良いが。
まずは家で出せそうな物を思案するヒノケン。
冷蔵庫の中身を思い出していると、夕食後に出す筈だったのに忘れていた存在を思い出す。
「…そういや、冷蔵庫にケーキが…」
「ケーキ! オッサンそげな事はサッサと言うだ!」
ヒノケンが"ケーキ"と口にした途端。
飛び起きるという表現がこれ程までに正しい事があろうかという勢いで身体を起こし、ヒノケンに向けた瞳はキラキラと輝いて上機嫌なのが見て取れ。
「単純…」と言い掛けた言葉をヒノケンは飲み込む。
「ふっふーン、待ッとるだオラのケーキ!」
「…いや、おいおい嬢ちゃん」
「なんねオッサン、まさかケーキは嘘でねぇべな」
「そうじゃねぇ、流石にパンツくらい履けよ」
「えッ、あ、う…」
ケーキで完全に機嫌を直したところまでは、ヒノケンもアツキの事を微笑ましく思えたが。
飛び起きたアツキが、性交の直後で裸のままだという事までケーキによって吹っ飛んでしまったのか、そのまま寝室を出ようとしたところでストップを掛ける。
呼び止められたアツキはといえば。
はたと我に返ったらしく、ヒノケンに顔を向けたまま裸で固まってしまっていたけれども。
「バッ、バッカぬかスでねぇ! このまま冷蔵庫サ向かう訳でねくて…その…そう! 風呂! 先に風呂ば済ませてから食べるッちゅう事だべな!」
「…いやいや、絶対に冷蔵庫へ直行する気だったろ」
「ええいッ! 違うッちゅうてるべ! とにかく…オラは風呂サ入ってから食べるかンな!」
そう言うやアツキはベッド傍に戻りパジャマを掴み、そそくさと寝室を出て浴室へ向かう。
後に残されたヒノケンは、ケーキに釣られて裸で飛び出そうとしたアツキと、呼び止められて固まりながらこちらを見るアツキの姿を反芻して口角を上げると。
情事の時とはまた異なる愛しさの感情。何ともガサツだが、それが合っていたりするのだ。
笑みは少し自嘲めいたモノを混じえ。
ヒノケンもまた、アツキを追い浴室へと向かった。
───…
……ガパッ…
「おお〜…オラのケーキがあるだなや」
お風呂に入り情事の後の身体を清め、パジャマに着替えたほかほかアツキが開ける冷蔵庫。
中には確かにケーキの箱が鎮座しており。
消費期限と共に印された店名のシールを確認すると、アツキが好きなお店のケーキである事も分かって、何を選んでくれたのか想像して溢れる笑顔。
「そんな冷蔵庫を開けっ放しで見てたら、折角、風呂に入ったのに身体が冷えちまうだろ」
「わ、分かっとるだ」
「…? 出して食べるんじゃねぇのか?」
冷蔵庫内のケーキの箱を、透視で中身を当てようとでもしているかの様に見ているアツキへ、同じく風呂上がりのヒノケンが声を掛けてやると。
てっきり、ケーキの箱を手にするものと思ったが。
何故かそのまま冷蔵庫のドアを閉じてしまい。
二本のフォークと紙皿を準備していたヒノケンは、ドアを閉じてこちらに振り返ったアツキに、どうしてケーキの箱を取り出さないのか率直に疑問を投げる。
「…ンっと…ケーキも食べるけンど…その」
ぐきゅる〜…ぐきゅるるる〜…
「…ケーキだけで足りンべか…」
「…へっ、随分グレードアップしてるじゃねぇの」
「オッサンが! 風呂で更に体力使わせたからだべな! …だけンと、他にも何かねっかな…」
どうやら浴室にて少々の"続き"があったらしい二人。
すっかり夜の深い時間を迎え、これから食べる夜食は背徳を孕む味になるのは間違いなく。
アツキは自らの空腹具合はケーキだけで抑えられるモノではないと観念したのか、もう少し何か食べたいという意思を恥ずかしそうにしながらヒノケンに伝え。
取り敢えずダイニングテーブルにフォークと紙皿を置くヒノケン、他に何かと言われたら。
「…後は買い置きの袋ラーメンくらいだぜ」
「それ! エエでねぇか、すぐオラの為に作るだ!」
研究発表に向けたレポート作成などが立て込んで小腹が空いた時の為に、幾つか買っておいた袋ラーメンをガサゴソと外袋からひとつ取り出し。
醤油ラーメンの柄を見せたアツキからはケーキに負けぬくらいの喜びようで迎えられ、ヒノケンに対し今すぐのラーメン作りを命じだす。
「オッサンも食べンべ?」
「そうだな、嬢ちゃんに付き合うか。…具になりそうなのは、玉子くらいしかねぇけどよ」
「こういう場合は逆にその方がエエだ、袋の醤油ラーメンに少し火が入ったトロトロの玉子で食べるっちゅうのが…あ〜! 早く作るだオッサン!」
「へぇへぇ、分かった分かった待ってな嬢ちゃん」
というか。
何故、自動的に自分が作る事になっているのか。
ヒノケンがその点について気付いたのは、出来上がった二人分のラーメンを鍋から器にキッチリと分け入れている最中だったという。
─…
…ゴトッ…
「ほらよ、こんなんでイイのか?」
ダイニングテーブル上に置かれた二つの器。
出来たてのラーメンが湯気を上げているけれど。
作る前に話していた通り具らしい具といいえばプニプニの温泉玉子くらいのもので、ほぼ素の袋ラーメンといった盛り付けには彩りという要素は無い。
けれどアツキには、この素っ気ない醤油ラーメンの方がより背徳的で夜食らしくて良いのだろう。早々に割り箸を割って、置かれたラーメンに御満悦。
「そーそー、こげな方がエエだなや」
「ま、楽で俺も良いけどな」
「ンで、早速いただくだ」
ふーっ…ふーっ…
…ちゅる、ちゅるるるっ……モグ…
「…こ、こンれは…」
「何だよ」
「やるでねかオッサン、オラ好みの茹で加減だべ!」
「は…」
一口、ラーメンを啜ったアツキの口から出た賛辞。
パァアと今日一番の明るさを持った表情で見詰められたヒノケンは、まさかそこまで気に入るような出来だったとは思わず、半ばポカンとした顔でいたが。
喜々として食べ進めるアツキに。
ヒノケンもラーメンを口に運ぶものの、作った本人にしてみれば普段通りの袋ラーメン。
ただ、何だろうか───何故だか普段には無い味。
プツ…とろ…っ…
「ふふーン、こっからは玉子を絡めてッと…」
「…楽しそうだな、嬢ちゃん」
「楽スいッちゅうか…幸せ、の方が合ッてるンでねぇか。これからケーキもあるかンな!」
半分ほどラーメンを胃袋に納めてから。
取っておいた温泉玉子に箸を入れて黄身を流し、麺にしっかり絡めて啜れば新たな至福。
甘いケーキも待っている、この時間はきっと幸せ。
そう、アツキは屈託なく本心で言っていて。
嗚呼───そうか、そうなんだな。
「…これで幸せとか、嬢ちゃんはお手軽だぜ」
口を開けば、こんな事を言ってしまう。
アツキほど素直にいかないのは、大人の悪さ。
「む…お手軽な幸せなンかでねぇだ」
「そりゃ、どうしてだ?」
「ン、ンだってその…オッサンが一緒だからなのが前提だからだべ! 言わせるでねぇだ! ほ、ホレ! ラーメン食べ終わッからケーキの準備!」
「……へっ……仰せのままに、お嬢さん」
からかいと呆れが入り混じる様な言い方だけれども。
アツキが気にする様子は無く、ふんわりした笑顔でラーメンを美味しそうに食べている。
冷蔵庫へ向かうヒノケンの顔に浮かぶ表情は。
アツキと出会い、日々を重ねる前までは───忘れてしまっていた、幸せがそこに在る顔。
ヒノケンの方がきっと、アツキよりも感じている。
自分と同じ火を持つアツキと一緒だから。
ささやかな深い夜の味が、こんなにも幸せなのだと。
■END■
◆ヒノアツ♀での記念でお祝いになりましたが(笑)
ロックマンエグゼ・アドバンスドコレクション発売!
本当に本当にありがとう〜!(*´∀`*)
・歳の差あるふたり
https://odaibako.net/gacha/12950
事後、ケーキを買ってあったことを思い出して、「そういえば冷蔵庫にケーキあるよ」って言ったら裸のまま冷蔵庫に向かっていくアツキ。パンツくらい履きなさい!
えっちの後、「お腹すいた…」って言ったらケンイチが作ってくれる袋ラーメンがだいすきなアツキ。ちょうどいい茹で具合なんだって。
2023.04.14 了