【Rockman.EXEA】
炎と焔の幸せバレンタイン 2023
◆白猫アツキと手のひらサイズの小人化アツキ
2種類のヒノアツでHappy Valentine



♪白猫さんの甘い甘いチョコレート│白猫アツキ

…ピーンポーン♪

「すみませーん、宅配便でーす!」
「…やっぱりウチかよ、何か頼んでたか?」

二月半ばのとある日の午後。
今日はヒノケンの帰りが早く、まだ夕方前の時間。
リビングのソファに腰掛け、窓の外にはアツキの姿。
春は遠いがこの時期にしては気温が高く天気が良い日な事もあり、庭先へ出て久し振りに直の太陽の日差しを浴びているアツキの様子を眺めていたところに。
運送トラックが自宅前で停車した音が聞こえてきた。
しかしヒノケンは最近、何かを注文した記憶は無く隣か向かいだと思ったのだが、インターホンが鳴ったのはやはりヒノケンの家。
注文して忘れている物があったのか、それとも誰かが何かを送ってきたという荷物なのか。
取り敢えず、玄関へと向かう。

…カチャカチャ…ガチャ…

「あっ、すみません火野さんのお宅ですよね」
「おう」
「"火野アツキ"さん、で合っていますか?」
「あ? …ああ、ウチで合ってる大丈夫だ」

一瞬、何を言われたのかヒノケンは固まったが。
チラと見た荷物の宛名には、確かに自分の家の住所と"火野アツキ"の名前が書かれている。
近所に同じ姓は居ないし、ならば合っている筈だ。

「…サインでいいか?」
「こちらに…はい、ありがとうございまーす!」

受け取りのサインを済ませると、ヒノケンに荷物を渡して宅配便の担当者はトラックへ戻ってゆき、荷物を届ける次の家へと発車して走行音は遠ざかり。
後に残されたヒノケンの手には届いた荷物。
玄関のロックを掛け直してリビングに戻りながら、差出人名の方を確認すると───ヒノケンでも分かる、有名なスイーツショップからだという事が判明。
あの猫が通販をしたのか?というのがまず思い浮かぶが、猫のアツキには支払い関連で行き詰まるだろうし、代金引き換え設定での受け渡しでもなく。
一体、どういう事なのか窓を開けてアツキを呼ぶ。

「おい、小僧ちょっと来い」
「なンねオッサン」
「お前宛てに来たこの荷物、何だ? つうか、そもそもお前宛てで合ってんのか? コイツ」
「…えぁあああ! オッサンが受け取っただか!」

自分宛てに来た荷物、と聞いたアツキのこの反応。
どうやら心当たりが有るのは間違いない模様。

「ななななスてオッサンが受け取っただ!」
「何でも何も、宅配便が来たのもお前は気付いてなかったじゃねぇか。…それに、猫が出ても結局は飼い主を呼んでくれって言われて受け取れねぇよ」
「う、うにゃ…そ、そうなンか…」

ヒノケンの話を聞いて、シュンとする真っ白な猫耳。
尻尾も元気を無くしてしまっているし、どうしてこんなにもガッカリしてしまったのか。

「…取り敢えず、そろそろ中に入れ小僧」
「…ン…そうスるだ…」

天気は快晴のままだが少し冷たい風が吹き始め。
アツキは素直に家の中へ戻り、ちょこんと。
ヒノケンと並んでソファに座った。

「…で? コイツは何なんだ?」
「…チョコレート…が、当たったンだと思うべ…」
「当たった? …なるほどな」

突然の発送の理由も金銭が絡まない理由も、アツキの"当たった"という一言で、ヒノケンにはこの荷物がどういった経緯で届いたのかを察する。
二月というこの時期。
製菓業界ではバレンタインの販促といった意味も込めて、チョコレートのプレゼント企画を行う場合もあり、アツキはそれに応募をして発送をもって当選したという事だったらしい。
思えばヒノケンは甘い物好きのアツキの為に、何度かこのお店からスイーツを購入しており、時たま商品紹介などのダイレクトメールが郵便で届く。
ヒノケンが流し見て後で処分しようと置いていたその中に、恐らく今回のプレゼント企画の案内も入っていて。それを見付けて、こっそりと。

「そういう話なら納得したけどよ。黙っている事はねぇだろ、独り占めしたかったのか?」
「……オ…オラので…ねぇだ…」
「は?」

俯いてヒノケンの方を見れないでいるアツキ。
てっきり、記念日などで食べさせて貰えるお店のスイーツを、プレゼントで当てて自分だけで楽しもうとか、そういうつもりだとヒノケンは思っていたのだけれど。
この猫の様子は…どう見ても違う。
という事は、このチョコレートは───

「…オッサン…に、バレンタインのチョコ…ンでもオラ、猫だから買うンは出来ねッから…コレ当たって、オラが受け取って…渡せたらエエだなっ…て…」

段々と小声になり白い猫耳もぺたん。
びっくり、させたかった。のに。

「…そんな事を考えてたのかよ。…へっ」
「にゃ、にゃうッ…」

愛猫の肩に腕を回して抱き寄せるヒノケン。
そろりとアツキが上目に見てみれば、可愛い事をしてくれると言いたげな柔らかい眼差し。
ドキドキさせる筈が。
アツキの方が、ドキドキしてしまう様な。

「お前が、俺にバレンタインに何かしようって考えてくれたってだけで、充分に驚いたぜ」
「…ホントだか?」
「ああ、それに…宛名も、な。"火野アツキ"ねぇ、ちゃんと俺の猫って自覚があるんだな」
「みょっ、名字が必要だったからスッかたねぇべ!」

そこはアツキもかなり恥ずかしいのだろう、ヒノケンの胸板をぽすぽす殴ってみせるも。
ヒノケンからすれば、じゃれついている様なモノ。
双眸を細め笑み、落ち着いたところで。
机に置いていたチョコレートの箱を手に取って。

「…開けてみて良いか?」
「…オッサンのなンだから、好きにスるだ…」

ちょっとまだ拗ね混じりの猫の許可。
ヒノケンは荷物を開けてラッピングされた箱を取り出すと、可能な限り丁寧に各種包装を剥がして現れたのは、アツキの猫耳尻尾みたいに綺麗な真っ白のホワイトチョコレート。
これは、アツキを食べてしまう気になりそう。

「へっへっ…お前らしいチョコレートじゃねえの」
「…き…気に入ってくれただか…?」
「当たり前だろ。…ありがとよ」

チョコレートと間違えたフリをして猫耳へ贈るキス。
そっと口唇で食んでも甘い筈なんてないのに。
くすぐったそうに漏れ鳴いたアツキの声、ヒノケンの耳に蕩けるような甘さで焼き付いた。

■END■



・ちっ恋アツキの大きなチョコレート│アツキ小人化

「オッサン、オッサン! ちょっとエエだか?」
「何だよチビ小僧」

リビングで寛いでいたヒノケンの元に、テーブルをよじ登ってぽてぽてと近付くアツキ。
どうやらヒノケンに用事があるらしいのだが。
その様子からは何かを見て欲しいとか、ビックリさせたいといった感情が滲み出ている。

「今からオラが許可するまで、目ぇ閉じるだ」
「なんでだよ」
「それは開いた時のお楽しみだべな、ホラホラ早く閉じるだ! ンでねと話が進まねぇだ」
「…分かった分かった、こうかよ」

ちんまい両腕をぱたぱた振って急かすアツキに、ヒノケンは折れて指示通りに目を瞑ると。
キチンと閉じているか確認しているであろう間の後。
一度、またぽてぽてと離れてゆく足音。
そこから「ンしょ…ンしょ…」という、何かを頑張って運んでいるらしき声と引き摺る物音。
気になって薄目を開けたくなるけれど、我慢してアツキからの許可が出るのを静かに待つ。

「ふー…やれやれだなや」
「おい、まだか?」
「へへン、ちゃんと守っただなやオッサン。そンでは許スてやっから、目を開けてみるだ」

アツキの許可を受けて目を開くヒノケン。
光が戻って見たテーブル上には、何時ものアツキと。
その隣には今しがた運んで来たであろう、不格好ながらもリボンが施されている透明な袋。
透明ゆえに見えている、その中身は。

「…もしかして、チョコレートか?」
「ンだ、今日はバレンタインっちゅうンだべ?」

ヒノケンには、そのチョコレートに見覚えがあった。
というか、何ならば透明な袋の正体も。
何故ならばチョコレートは、ここ最近アツキからオヤツにリクエストされて与えていた物。
そして透明な袋に見えるモノは、少し前に欲しいとせがまれて与えたラップに違いない。
ラップが欲しいとアツキに言われた時は、遊びで包まって窒息などしたら危ないだろうと、ヒノケンは与えるのを渋ったのだけれど。
危険な事はしないと強く約束してきたので与えたラップによって、ラッピングされている。
恐らく、テレビから「ラッピング」と聞いてラップを使うのだと導き出したのだろうし、バレンタインという行事もやってみたかったのか。

「オッサンには一応、世話になっとるからオラからチョコレートだべ。よく分かんねっけど…バレンタインっちゅうのは、それでエエだか?」

元々、ヒノケンが与えたチョコレートな訳で。
それを返してくるような形ではないかと思いもするが、甘いオヤツが大好きなアツキが全部食べてしまわずにヒノケンの為に残し、ちまちま今日の為に集めておいてくれたのだから。
一生懸命、バレンタインに向けた気持ちは汲みたい。

「…つうか、世話になってる相手だからかよ」
「ふぇ? …他にチョコを渡す場合があるンだか?」

こういったイベント事のアツキの情報源はテレビ。
なのだが半端に仕入れてくる事が多く、今回は肝心の「本命」に関して理解していない模様。

「本来バレンタインってのは、好きな相手に好きだっつう告白するようなイベントだぞ?」
「…え、ど、は? ス…スキ…?」

ヒノケンの説明もざっくりしたもの。
とはいえアツキには簡潔な方が手っ取り早く。
説明を聞いて、すぐ理解が出来て───ぷしゅしゅ…と音がしそうなくらい、真っ赤な顔。

「ん? そうかそうか、その反応は"本命"だけど素直に渡せねぇから、義理のフリって事か」
「う、うー? そ、そげな…つもりで…いや、オッサンの事は…そンなキライでねっけど…」

ちいさきアツキの思考回路には荷が重く、ぐるぐる。
からかってやるのは、この位にしておこう。

「…なんてな、とにかく俺にくれるんだろ?」
「えっ、あ、そっ、そだ! ほれオッサン!」

照れた気持ちを誤魔化すように勢いをつけ。ずい、とチョコレートの袋を押し出すアツキ。
チョコレートの意味は分からなくなったけれど。
それでも、やっぱりヒノケンに贈りたいと思った気持ちはホンモノなんだと示している。

「へっ…ありがとよ、チビ小僧」
「…へへ…良(い)がっただ」

優しく、ツンツン頭を撫でるヒノケンの手。
ちいさき生き物であるアツキに負担が掛からないよう柔らかに撫でられて、アツキの顔にはヒノケンにちゃんと渡せて、受け取ってもらえて安心した笑顔。

「こげなの、"さぷらいず"っちゅうンだべ?」
「まあ、そうっちゃそうだな」
「ふふン、ビックリ成功だなや!」

確かに、アツキが自分の為にオヤツのチョコレートを我慢して集めてくれて、バレンタインとして渡してくるとは思わずヒノケンには驚きもあった。
サプライズプレゼントが成功した事に対し、得意満面といったアツキの顔は可愛らしいが。
してやられた、小憎らしい思いも湧いてしまう。
しかし───不意に上げられるヒノケンの口角。

…ギシ…

「ン? どこサ行くだ? オッサン」
「ちょっと取ってくるモノがあってな、すぐに戻るから気にしねぇでそのまま待ってろよ」
「そだか、分かっただ」

腰掛けていたソファから立ち上がり、リビングから出ていったヒノケンにアツキは、チョコレートに合う飲み物でも取りに行ったのかなと考え。
深く気にせずに待っていると。
ドアが開き、戻って来たヒノケンの手には。

「…オッサン、なンね? そのバケツ」

大きめのお皿と、アツキの言う通りバケツ。
とはいえ通常の作業用などに使われる大きさの物ではなく、子供用の玩具サイズといったバケツではあるが、アツキからすれば充分に大きなサイズ。

「俺もな、小僧にサプライズでバレンタインらしい事をしてやるかと準備していたんだよ」
「ンや? このバケツがどうかスて…」

カチャ…ぐっ、ぐっ…ズッ…
…ぼんよよよよよ! … ぼよんっ!

「ふにゃ?!」

ハテナを浮かべるアツキの前にお皿を置き。
ヒノケンはそのお皿の上にバケツをひっくり返し、軽く周囲を押して中身を出してみせる。
綺麗にバケツから剥がれて出てきたのはプリン。
ぼよよよと揺れ出たバケツプリンの迫力に、ビックリしたアツキは尻もちをついてしまい。
ポカンと、プリンはプリンでも…とても甘そうなチョコレートのバケツプリンを見上げた。

「…ほわ〜…デッカイ…」
「へっ…そんな間抜けな声が出ちまうくらい驚いたんなら、俺の方がサプライズ成功だな」
「…む、むむ…べ、別にビックリとかスてねぇだ!」

はっ、と気付いて慌てて立ち上がり。
驚いてなんかいないとアツキは主張するものの、ちっちゃな心臓はびっくりドキドキの筈。
それに、こんな大きなプリンにも嬉しいドキドキ。

「じゃあ、プリンなんて要らなかったか?」
「なっ、オラそげな事は言ってねぇべ! …オ…オッサンが、オラに作ってくれたバレンタインのチョコレートプリンなンだから…貰ってやっても…エエだ…」

ヒノケンからの"スキ"を受け入れるみたいで、もじもじ照れ混じりのアツキだけれども。
でっかいチョコレートプリンの誘惑には抗えない。

「へっへっ…なら一緒に食べるか」
「…そだな! プリンパーティーにスるべ!」

二人で仲良くチョコレートプリンでバレンタイン。
アツキから贈ってもらったチョコレートは、後でヒノケンが大切に大切にゆっくり食べて。
自分が買った、何の変哲もない市販チョコなのに。
何故だかとても、優しい気持ちになる甘さだった。

■END■

・ちっこいあいつ
https://odaibako.net/gacha/7226

34. アツキを驚かせてやろうとバケツプリンを作る。バケツを見て「んや?」と?マークを浮かべるアツキの前で皿へとあける。ぼよよよと揺れるバケツプリンの迫力に尻もちをついたかと思えば「ほわ……」と間抜けな声を出していた。

2023.02.16 了
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