【Rockman.EXEA】
炎と焔の Happy New Year 2023
◆各種ヒノアツと火野家のお正月・SS詰め合わせ
アツキ女体化・アツキ小人化・白猫アツキ・火野家(炎組の恋)の順で4本が入っています◎



♀新年の彼女は可愛いウサギさん│アツキ女体化

「今年もヨ・ロ・ス・クな、オッサン!」
「お、年越したか。…よろしくな、嬢ちゃん」

一年の終わりの日を迎えてヒノケンの家で年末年始を過ごそうと、お泊まり用の荷物を何時もよりも多めに持って訪れていたアツキ。
年越し蕎麦を一緒に食べて、年末らしい特番を見て。
まったりとリビングで過ごしていた二人だったけれども、テレビを主に見ていたアツキが急にリモコンを手にして画面をオフにしてしまい。
音が無くなった事に何事かと、お正月特別号の雑誌に目を通していたヒノケンが顔を上げてアツキの方に目をやれば、笑顔で新年を迎えた挨拶。
テレビの雑音無しで挨拶をしたかったのだろう。
意図を汲み取ったヒノケンも、短いがアツキに返す。

「今年は兎年になるンだなや」
「そうだな」
「めんけぇ年賀状とか年賀メールとか来るとエエけンどなー。あ、オッサンにもオラから直々に手描きの年賀状を渡スてやっから、ありがたく受け取るだ!」

そう言うと、アツキは自分用の雑誌の間に仕込んでいた年賀状を取り出し、得意そうにヒノケンの前に差し出してみせる。
そこに描かれていたのは、確かに手描きの。

「…新種の耳が長いクリーチャーか?」
「どっこがクリーチャーだべ! ウサギでねか!」

とはいうが、残念ながらヒノケンに賛同する方が多いのではないかという気がする、アツキ曰くウサギらしき生物のイラスト。
何故か若干リアル志向なのがクリーチャー感を増しているけれど、一目見ればアツキのイラストであると即座に解るとも言える…のではないか。

「…ま、ありがたく貰うけどよ、嬢ちゃん」
「…む…さ、最初っから素直に受け取るだ!」

むくれ掛けたアツキだったけれども、ヒノケンがすぐに受け取る姿勢を見せた事で機嫌を上向かせると、出してきた手に年賀状を渡す。
見れば見るほど謎の耳長クリーチャーであるが。
一生懸命、ヒノケンの為に描いたのだろうなという跡もイラストからは窺えて、これはコレで唯一無二であり、新年初の大切な思い出になりそうだ。

「…ちゅうか、もーっとめンこいウサギに会いたいだか? 特別オッサンに見せてやるべ」
「ほー、そりゃ会ってみたいモンだな」
「へへ…そンなら、ちっと待ってるだ!」

ウインクなんかしてリビングを出ていくアツキ。
これはつまり、アツキがウサギの格好をして来るに違いない。何時もよりも多かった泊まり用の荷物というのも、その衣装が含まれていたという事。
ハロウィンや先日のクリスマスなど、コスプレに抵抗は無い様子のアツキであるし、ウサギという格好から想像される衣装といえば。

「(…バニーガール…か?)」

ヒノケンに背伸びをしてみせたい意識もあるアツキは、セクシー路線のコスプレも着る。
そう考えればバニーガールが最も可能性が高く。
気付けばヒノケンは、薄っすら口角を上げてウサギちゃんなアツキの登場を待っていると。

…パタパタパタ……ガチャ!

「待たせただなオッサン! どた? めンこいべ?」

パンパカパーン!と、ファンファーレが聞こえそうなノリでドアを開けて戻ったアツキは。
頭のウサ耳カチューシャは真っ白モコモコ、身体もユルい着ぐるみ的な真っ白モコモコに包まれている、確かにウサギさんの格好をしていた。

「…ああ、それは何だその。……カワイイな」

勝手にバニーガールを想像していたのはヒノケンな訳で、可愛いウサギさんに偽りは無い。
というか自分は何を期待したり残念がっているのかと、ヒノケンはアツキに内情を悟られぬよう普段通りに振る舞おうとしているが、どう聞いても声のトーンが沈んでしまっていて。
察したアツキは悪戯な笑みを浮かべ、ヒノケンが座っているソファの隣にモフン!と着席。

「なーンか…がっかりスとるでねぇか。えっちなオッサンは、オラがバニーガールの格好をスてくるンだべって想像スとっただか?」
「…ンな事はねぇよ」
「ふふーン、強がりぬかスとるだなオッサン」

完全に"してやったり"状態のアツキ。
ワザとヒノケンの腕を取って抱き付いてみせて。
モコモコのおすそ分け。

「…つうか…こんなモン、よく用意したな」
「レンタルで有っただ」
「なる程な…」

一本取られたが、モコモコ真っ白なアツキが機嫌良く自分の腕を取り、抱き付いてきている事そのものはヒノケンとしても悪い気はせず。
まあ良いかと切り替え掛けたところで───
ウサギさんからの、そっと耳打ち。

「…ンでも、モコモコの下は…どうだべな…?」
「! ……こンの嬢ちゃんはよ……へっ…」

さて、"どうなって"いるのやら。
もうひと翻弄される事となったヒノケン。
今年もアツキを前にしてシケている暇は無さそうだと考えながら、悪戯好きな彼女が本当はどんなウサギさんなのかを確かめるべく。
静かにモコモコでフワフワな身体を抱き寄せた。

■END■



・ちいさき生き物と迎える新しい年│アツキ小人化

「……なぁ、オッサン」
「どうした? チビ小僧」
「オラまだ眠くねっけど…にスても、何時もより遅いこげな時間まで起きててエエだか?」

ソファに座るヒノケンに近付き首を傾げるアツキ。
今日は何だか普段とは違う事が起こっていて。
夜に寝られなくなるからと、通常ならば時間の決められたお昼寝の筈がヒノケンは起こしに来ず、アツキはいっぱいお昼寝をした為に全く眠くない。
そしてそのまま、何時もの就寝時間になっても起きていて特に何も言われず、夜更かしが出来る事に始めアツキは喜び遊んでいたのだけれど。
どうやら次第に何も言われぬ事が心配になったらしく、アツキの方から本当に起きていて良いのかとヒノケンに尋ねてきた模様。

「へっ、放っておかれてるって心配になったか?」
「そ、そげな訳で…ねぇだ」
「…まぁ理由はあるぜ、そろそろ頃合いだしな」

にっ、と笑ってみせたところから察するに。
恐らくヒノケンは、こうしてアツキが折れてくるのを待っていたし見越していたのだろう。
読んでいた雑誌をテーブルへ置き、そっとちいさきアツキの身体を手のひらで掬い上げ。
疑問は晴れずハテナを浮かべるアツキだが、ヒノケンの手のひらに身体を任せたままでいると、胸ポケットにストンと入れられヒノケンは立ち上がる。

「…オッサン、何処サ行くだ?」
「二階だな、寝室辺りが方向的にイイだろ」

何が?と、聞きたかったが何となく言えず。
ただ、ヒノケンは何かを自分に見せてくれるのだろうと感じたアツキは、それが何なのか目にする時まで楽しみにしたくて言えなかったのかもしれない。
リビングを出て二階へ向かうヒノケンの足取り。
寝室のドアを開けて閉め切っていたカーテンへ近付き手を掛け、ベッド側のナイトテーブルに置いてあるデジタル時計に目を向け───勢い良く開くと同時。

…ヒュルルル…ドン、ドドンッ…! パ、パパッ…!

「えっ…こ、こげな時間に花火だか…?」
「明けましておめっとさん、新年になったぜ」
「新スぃ年…そっか、そンで花火で祝っとるンか」

ヒノケンがアツキに見せたかったモノは、新年になると同時に打ち上げを行うと告知されていた花火で、近所からは歓声のようなものも上がっていて。
普段ならば近所迷惑だが、今日は特別だろう。

「へー…なぁなぁオッサン、ベランダに出ンべ!」
「寒くねぇのかよ。…ってのはお前には無駄か、だが一応は帽子とマフラーだけ付けろよ」

自称・座敷童子のアツキは東北からやって来たらしく、寒さにやたらと強いのはヒノケンもこの冬を共に過ごしていて理解しているが。
それでも外に出るならと、アツキのお出掛け用品を一度取りに向かい、本来は人形用の物からアツキの身体に合って購入した毛糸の帽子とマフラーを付けさせ。
再び胸ポケットに入れ、ヒノケンも前は閉めずに一枚羽織り、寝室からベランダへと出た。

ドン、ドンッ…パパラッ…パッ、パパパッ…!

「まあ、夏のに比べたら時間もあって大人しいな」
「そだなー。だけンと…オラ花火好きだから嬉スぃべ、まさか見れっと思わねかっただ!」

嬉々とするアツキの様子。
喜ぶとは思ったがヒノケンの想像以上で。
じいっと花咲く夜空を見上げる姿にヒノケンは口元を綻ばせると、自らも花火を見上げ。
───そうして時間を忘れ、魅入っていると。

「………」
「(……? やけにチビ小僧が大人しくなったな)」

これはもしや。
花火を見上げていた目線を胸ポケットに落とす。

「……ンや…スー…スー…ぷう、ぷう…」
「…案の定かよ」

眠くない、などとアツキは言っていたけれども。
打ち上がる花火の音やヒノケンの心音が心地好かったのだろう、毛糸の帽子とマフラーに加えて伝わる体温の温かさも手伝って。
アツキはスヤスヤ夢の中。
きっと、花火の続きを見ているに違いない。
起こさぬ様ヒノケンはベランダから寝室内に戻り、胸ポケットから優しくアツキを取り出し帽子とマフラーを外してアツキ用のベッドの中へ。
寝ながらに何時もの寝床だと分かったのか、くぅくぅと寝息がより安心したように変わり。
ヒノケンは僅かに目を細め笑んで囁く。

「おやすみな。…それと、今年も宜しくなチビ小僧」

■END■



・虎の一分間と兎の一分間│白猫アツキ
└ 【Tiny white tiger】からの大晦日

「はぁあ〜、オラの年が終わッツまうだ…」
「年の始めにも言ったが、お前は虎じゃねぇだろ」

大晦日のヒノケンの家のリビング。
この年末も飼い主と猫で、ゆったり一年の終わりを迎えようとしていたが、新年が近付くにつれて寅年なら自分の年だと言い張っていたアツキは残念そう。
ヒノケンが買ってくれた一人用のホットカーペットに、アツキが自分で持ち込んだ毛布に包まりぬくぬくしながら、時計が進むのを見守っている。

「子猫ちゃんには、寂しいと死ぬなんて言われてる来年の兎年の方がお似合いじゃねぇの」
「む…ソレは嘘っちゅうか、変な広まり方をスただけで実際は違うとかって、テレビの兎年特集かなンかで見ただ。ンだからそもそも間違ってるべ!」
「ふーん、まあ何であれ虎にゃ程遠いぜ」
「ぬぐぐ…こげな言い合いばスて、年越し早々に喧嘩スたのオッサン忘れたンか! …今度は年ば跨ぎながら喧嘩スっとか…オラは御免だかンな!」

真っ白な猫耳まで毛布にすっぽり包まりながらの反論で、それこそ虎の威厳など見当たらない姿をしているのだが、アツキの一番の気持ちは…ヒノケンと喧嘩をしたくないという事。
些細な言い合いはお互いの性格上、日常茶飯事。
だけれども今は違う。
新しい年になってすぐにギスギスしてしまった記憶が、アツキには引っ掛かっているから。
今は、余計な喧嘩の火種を起こさないでほしいと。

「…そういや、そんな事もあったな」

ソファに座っていたヒノケンが立ち上がり、ホットカーペットの縄張り上に陣取るアツキの傍に寄ると、毛布包みの猫の隣に当たり前のように座り。
ぴょこんと毛布の裾から出す尻尾が動揺。
ヒノケンの意図が読めず、アツキは一先ず大人しくじっとして様子を窺っていると、静かにだが力強く肩に腕を回され抱き寄せられて。

「にゃっ?! な、なンねオッサン!」
「虎だ虎じゃねぇの言い合いして、ちょっとキスして揶揄っちまったら、大事な新年の初キスをそんな軽く適当に済ませんなって喧嘩したんだよな」
「……そ、そだけンど…改めて言うでねぇだ! な…なンちゅうか…エライ恥ずかスぃべな…」

抱き寄せられた事にドキドキしながら。
あの時の自分の事も思い出して赤くなる顔。
毛布で隠してしまいたいけれど、抱き寄せるヒノケンの腕が毛布ごとである為に阻まれ。
またこの飼い主は、何を考えているのか。

「だから、ちゃんと言やぁイイんだろ?」
「は…どっ、どういう…」
「寅年のキス納めと、兎年のキス初めをしようぜ。年が変わるまで、あと数分かそこらだ」
「……オッサン」

モゾモゾとアツキが毛布から頭を出そうとしているのに気付いたヒノケンは、毛布ごと抱き寄せていては出し難いだろうと回した腕を一度離してやり。
動き易くなったアツキは包まっていた毛布を外すと、ツンツン頭にヒノケンお気に入りの雪の様な純白をしている猫耳が一緒に出てきて───それに。
照れと素直になりきれないが混じるアツキらしい顔。
ふ、と。ヒノケンの口元に笑みが浮かぶ。
顔を出したという事は、猫のお許しが出たのだから。

「ま、来年もそこそこ喧嘩しながら仲良くしようぜ」
「…ンだな。ヨロスク…な」

重なる寸前の猫の口元も、きっと笑っていた。
寅年最後の一分間から、兎年最初の一分間。
白い愛猫と口付けを交わす特別な二分間。

■END■



☆火野さん家の初詣│ナビ擬人/実体化

『お〜、コリャ思ったよりも混雑してんなぁ』
『ヴォォォォォ…』
『どうやら俺達みたいに、擬人化プログラムで実体化しているナビもそこそこの数が居るみてぇだな。…どうしますか? ヒノケン様、寒い中で待つのも…』
「まぁ並んでりゃすぐだろ、行こうぜ」

新年を迎えたヒノケンと三兄弟の炎ナビ達。
才葉学園やリンクナビの教師としても、電脳世界における炎の研究者としても離れたヒノケンの一月一日は、自分のナビ達と共にゆっくりと過ごし。
ナビを交代でプラグインさせて正月気分に彩られたインターネット内を見て回ったり、擬人化プログラムを実行して現実世界に招待し、ファイアマンにお雑煮を作ってもらったり。
そんな"普通のお正月"を満喫して迎えた夜。
ふと、ヒノケンは思い立ち初詣に行くと言い出した。
改心を経てWWWから足を洗い、新たな人生を送り始めた今。普通の事というのが…ヒノケンには、やってみたい事なのかもしれない。そんな提案。
ファイアマンもヒートマンもフレイムマンも、主人の言い出す事に反対するつもりは無い。
寧ろ現実世界での初詣というのは初めてになるし、揃って夜に出掛ける機会というのも久しく無かった為、全員賛成の元で出掛けたのだが。
想像以上の人出だった模様。

『…そこそこどころか、ナビ連れが殆どですね』
「インターネット発達後はナビに電脳世界の初詣へ行かせる事で人間も初詣を済ませたりしたがな、擬人化プログラムが出来て今度はナビと現実世界の初詣に行き始めたってこった」
『という事は…現実世界で初詣とインターネットで初詣が、今は半々くらいとかですか?』
「そんなモンじゃねぇか」
『なる程なぁ。…って、おいフレイム!』
『ヴォ! …ヴォォォ…』
『フラフラ俺達から離れると迷子になっちまうぞ』

参拝の列に並びながら話をしていたヒノケンとファイアマンとヒートマン、そういえばフレイムマンはとヒートマンが隣に目をやると。
普段に無い光景が珍しいのか、キョロキョロ辺りを見るだけに留まらず列から離れそうになっていたところで、慌ててヒートマンは制止させ。
フレイムマンをキチンと列に並ばせ直す。

『ヴォ…ッ…ヴ…』
『まぁ、並んでるだけじゃ面白くねぇだろうけどよ。…ホラ、手を繋いで並ぶぜフレイム』
『ヴォヴォ! ヴォォォッ…♪』

まず初詣への理解具合が怪しいフレイムマン。
並ぶ事に対する意味が曖昧で、それよりも色々見て回りたいのか…兄には従うけれども、少し不満そうな唸りを聞いたヒートマンは。
なだめ、諭す様にフレイムマンの手を取り繋いであげると、フレイムマンの機嫌が上向く。

……じっ……

『(…何だ? 何か視線…うぉっ?!)』
『……』
『(な、何で兄貴はガン見してきてんだ…?)』

手を繋いだ事でフレイムマンがはぐれる心配は無くなったし素直に並び待つようになり、やれ良かったとヒートマンが安心したのも束の間。
謎の強い視線を感じ、そろりと視線の主を確かめれば何故かファイアマンがガン見状態。
その視線には"自分も"という意識が窺えるが。
ただ、それはヒートマンやフレイムマンとではなく。

…チラッ、チラ……

『(…ああ、オヤジと手を繋ぎたいのか…)』

ガン見からのソワソワしながらヒノケンの方へチラ見をし始める、大変分かり易い挙動。
どうにか手を繋ぐ理由を考えているのだろうが、比較的幼い容姿で擬人化と実体化が実行されているフレイムマンならまだしも、大の大人の男性同士。
流石にこれだけ人目の有る中では…そもそも手を繋ぎたいなど言えず、もどかしげな様子。

『(…やれやれ、兄貴は今年も相変わらずだな)』

兄の想いは汲み取ったが、助け舟は出せそうにない。
ヒートマンは極力、視線には気付かなかったフリをしてフレイムマンの手をキュッと握り。
参拝の順番が早く来る事を願った。

─…

『ふーっ、やっと行列から解放されたぜ』
『ヴォヴゥ…ヴォ…? ヴォッ!』
『どうしたんだ? フレイム…ん、あそこで人が集まってんな、何かやってたりすんのか?』

のろのろとだが参拝の行列は進み。
ヒノケンがPETから全員分のお賽銭ゼニーを入れて参拝を済ませ、漸く混雑から離れて。
少し落ち着きたいところだが、フレイムマンが参拝とは別の人の集まりを見付け、アレは何なのか教えて欲しそうにヒートマンの服を引いて指差す。

「…甘酒のお振る舞いがどうのだとか、確か入り口に案内があったな。貰っていこうぜ」
『あまざ…あの、ヒノケン様…俺は…』

ヒートマンとフレイムマンのやり取りに気付いたヒノケンが、ヒートマンの代わりに入り口で見掛けた案内を思い出し自分のナビ達に伝える。
人の集まりから離れる人々やナビは紙コップを手にしているし、恐らく甘酒で合っている。
しかし甘酒と聞いたファイアマンは。
ひな祭りにしでかした、電脳甘酒で酔っ払いと化したらしい件を思い出し、貰っていこうと言うヒノケンに申し訳なさげに遠慮を伝えようと。

「お前が電脳甘酒で酔ったのは知ってるが、そこそこの量を飲んだからだろ? コップになみなみ振る舞われる訳じゃねぇだろうし、一杯なら大丈夫だろ」
『…だと、良いですが…』
『ま、いざとなったらPETに戻ればイイだろ兄貴』
『……では、行きましょうか。ヒノケン様』

ヒートマンにも背中を押される形となり、遠慮しようとした事を取り止めたファイアマン。
寧ろ率先して歩き出した、その背中の後ろで。
ヒノケンはヒートマンと自然に目を合わせると、ナイスフォローといった目配せを送り。
フレイムマンは、主人や兄達の事を不思議そうに眺めながらも、素直に付いて行き始めた。

──…

「ところで、お前らはどんな願い事をしたんだ?」

お振る舞いの甘酒を飲み終え、ヒノケンには久しく機会の無かった初詣である為、少しブラブラと中を見て回る時間を過ごしてからの帰り道。
人通りは殆ど無く、先程の人出が嘘の様な家路。
主人と三体のナビ達だけの足音が響く中、ヒノケンが不意に何を願ったのかと聞いてきて。
顔を見合わせた三兄弟。

『…恐らく、同じだと思いますが』
『まぁ、そうだよなぁ』
『ヴォヴォウ!』

言葉は交わさなかったが、"'そう"だと思ったのだろう。だって、自分達は同じ主人のナビ。

『ヒノケン様の研究が成功して…その後も』
『ずっと、オヤジを助けられるように。ってな!』
『ヴォォォオンッ!』

ヒノケンに向かい、そう答えるナビ達。
「従う」ようにプログラムしたのは確かにヒノケンだけれども、WWWを経て才葉での時間を経て、過ごした時間の中で育まれたナビ達自身のココロからの願い。
これからも、主と兄弟と、家族のカタチで。

「……へっ…そうかい」

こんなにも真っ直ぐな淀みない返答に。
素っ気ないが、ほのかな照れくさい表情。
ナビ達のココロの火が、ヒノケンの炎に呼応する。

「…おう、そういやファイアマンは酔ってねぇか?」

嬉しいが気恥ずかしさが上回ったヒノケンは。
ファイアマンに甘酒を飲んだ後の具合はどうかと聞く事で話を変え、歩く速度を少し緩めてファイアマンの隣に並び立って歩く。

『あ…いや、大丈夫…だと思います。ヒノケン様』
「全く酔ってる感じは無ぇのか?」
『…正直に言えば、少しだけ…ただ本当に少───』

……ぎゅっ…

『?!?! ヒ、ヒノケンっ、様っ』
「酔ってちゃ迷子になるかもしれねぇからなぁ」

どうやらヒノケンには"お見通し"だったらしい。
人通りの殆ど無い今なら、手を繋ぎたいという願いを叶えても良いかと。そう思ったから。

『あー、ズリぃなぁ良いなぁ兄貴』
『ヴォン…ヴォォ…』
『バ、バカヤロウ…からかうな…』

とは言うものの、ヒノケンの手を離す様子は無くて。
嬉しいが気恥ずかしい、主人の気持ちを体験中。

『ヴォヴォヴ…』
『ったく、オヤジも兄貴も…ほらフレイム、俺達は俺達で手ぇ繋ごうぜ! それでイイか?』
『ヴォヴッ! ヴォォォッ!』

ヒートマンはからかい半分だったが、フレイムマンには本当に羨ましく思ったのだろう。
寂しげな唸り声を察知したヒートマンは、もう一度フレイムマンの手を取りしっかりと。
にこにこ顔になった三男に、ヒートマンだけではなくヒノケンとファイアマンも安堵のような笑みを見せて、自分達の家への歩みを進めた。


───ヒノケンの願い事は。
何時までも、この三つの火が傍に在ってくれる事。

■END■

2023.01.03 了
clap!

- ナノ -