【Rockman.EXEA】
主従の秘密と告白と従者の当たり前
・ヒノケンとファイアマン│炎組主従の恋
お題ガチャさんの結果3本で繋がっています



☆真夜中おにぎりは主と従者のヒミツの味

カタカタ…カタカタカタ…タン、タンッ…
……12%…39%…57%…86%……100%…completed!!

『…全データの保存確認、総ての作業完了しました』
「うぉーし、間に合ったか。後は提出するだけだな」

安堵から表情を緩ませて大きく伸びをするヒノケン。
時刻はとっくに日を跨いだ深夜であり、今日も才葉学園での授業はあるのだから普段ならば研究に多少の根を詰めても、ここまでの夜更しはしない。
しかしながら、自身の研究内容を発表して大きなチャンスを掴めそうな場が催される事を、ヒノケンは発表内容の提出期限近くになって知ったのだ。
とはいえ纏めるには日数が相当ギリギリ。
余裕をもって別の機会にすべきかと迷ったが、折角の好機を逃してしまうのもまた惜しく。
迷うならば、まずとにかく作業を開始して間に合えば良し。間に合わなくても次の機会にはどのみち済ませなければならない事なのだからと決め。
ここ数日は連日の深夜作業を続け、今まさに期限を前に何とか完了する事が出来た模様。

『お疲れ様です、ヒノケン様』
「ああ、お前もご苦労さんファイアマン」
『俺はそんな…夜だけの作業担当でしたから。それよりもヒノケン様の方が昼間の授業から夜の研究作業続きで大変だったんじゃないかと…体調は大丈夫ですか?』

研究用パソコンにプラグインをして作業していたファイアマンに目をやり、労をねぎらう。
だがファイアマンは、自分よりもヒノケンの心配。
そのようにココロを育てさせたのは…自分なのだな。
などと口には出さずヒノケンは想い、自分を真っ直ぐに見詰めているファイアマンへ僅かに瞳を細めた眼差しを返し、諭した口調で紡ぐ。

「この程度でへばったりしねぇよ……ただ」
『…? どうかしましたか? やはり睡眠不足とか…』

大丈夫だという旨を伝えるだけのつもりだった。
けれどもヒノケンは、生まれた余裕から何かを思い付いたらしく、少しだけ"先"を匂わせ。
当然ながら食い付いたファイアマンは、主の体調がどこか芳しくないのかと心配を増すが。

……Pi…PiPi……
"擬人化プログラム キドウ…FIREMAN.EXE"

『…えっ。ひ、ヒノケン様…っ?』

…カカッ……パシュンッ!

『!! …ヒノケン様、いったい…』
「まだPETに擬人化プログラムを実行して平気なくらいの充電が残ってたか、良かったぜ」

ファイアマン専用のPETを手に口角を上げ笑みながら、ヒノケンは擬人化プログラムを実行して、ファイアマンをパソコン内から室内へと導く。
主の何時も通りの表情を、ファイアマンは突如として電脳世界からではなくて現実世界で見る事となり、一体全体どうしたのか主に視線を送ると。

「研究データが完成して安心したら急に腹が減っちまった、このままだと寝るにも支障が出るからよ、軽く何か作ってくれねぇか?」
『え…あっ、は、はい! そういう事なら今すぐ』

送られたファイアマンの視線に、ヒノケンは当たり前の言い方で現実世界へ招いた理由を。
実際、夕食から時間は経っているし本音だろう。
と同時にヒノケンが見せる様子からは、安心や安堵から少しばかりファイアマンに構いたくなったという気持ちも混じっているに違いない。
勿論ファイアマンは、そこまで気付いておらず。
とても素直に夜食の準備をするべく部屋を出ようとしたが、ヒノケンの声が追い掛ける。

「ああ、待ちなファイアマン」
『は!? えっ、な、何ですかヒノケン様?』
「アレだ、おにぎりでイイんだけどよ」
『え、ええと…具は…』
「ソレは任す。…じゃなくてだ、俺の分だけじゃなく…お前の分もちゃんと作ってこいよ」
『…お、俺の分…も、ですか?』
「俺だけバクバク夜食を食っても味気ねぇだろ」

そう言って"理解しろ"とでも合図を送る様。
片目を閉じ笑むヒノケン。

『……分かりました、用意して来ます』
「おう、頼んだぜ」

さて、ファイアマンは解ってくれたのか。
あの分では、まだ従者として理解しただけか。

「……そんなトコロが…」

何処か楽しげな声色だった気がしたヒノケンの言葉。
ファイアマンが閉めたドアの音で、掻き消えた。

─…

…はぐ…もっ、モグ…

「っかぁ、美味ぇ。染みるぜ」
『それなら良かった…ですが』

余っていたご飯からファイアマンは夜食のおにぎりを作り、冷蔵庫のお茶も忘れず手にしてヒノケンが待つ研究専用の部屋へ戻って差し出すと。
綺麗な三角おにぎりをヒノケンはすぐさま一口。
具の鮭が中から覗き、思わず表情も綻ぶ。
けれどファイアマンの表情は何処か浮かない様子。

『…あの、ヒノケン様』
「ん? 何だ? ファイアマン」

本当に空腹だった事が窺える勢いで、おにぎりの三角がどんどん小さくなる中、咀嚼のタイミングを見計らい様子を見守っていたファイアマンが静かに口を開く。
「作って来い」と言われた通り、ファイアマンの手には自分の分の…ヒノケンに作ったモノよりも少し控えめサイズなおにぎりが乗った皿を持っているが。
まだ、手を付けてはいない。

「つうか、食ったらどうだ?」
『ええ、今から…しかしその……おにぎり、で。本当に良かったのかと…ヒノケン様の為なら、これより美味しいモノを幾らでも用意したのですが』

おにぎりで、と言ったのはヒノケンなのだから。
その命令を守り従ったけれども。
ファイアマンとしては、何かもっと手の込んだ夜食を作って労りたい想いもあるのだろう。
気が利かなかったのではないかと、滲む申し訳無さ。

「へっ…何言ってんだ。夜食ってのはこういう方が美味いだろ。コレがイイんだ、コレが」
『…は、はぁ…』
「お前も食ってみりゃ分かる、その為のお前の分だ」

話しながらもヒノケンは既に一個、完食していて。
あまりにも美味しそうに食べてもらえているものだから、ファイアマンも漸くおにぎりを手にして主人に続き、夜食の味を噛みしめると。
それは確かに、何だか昼間のおにぎりとは違う。
研究データを完成させた達成感だとか、深夜の食事という背徳感だとか、それに何より。

『(…ヒノケン様と、二人だけの味…なんだな)』

弟達には内緒、秘密のおにぎりの味。
手の込んだ夜食で共有するよりも、何の変哲もないおにぎりだから余計に秘密が際立つような気がして。ファイアマンは、少しだけヒノケンの気持ちを理解出来たような気がする。

『…ちょっとは分かった気がします。ヒノケン様』
「だろ? …って、何か水とか有るか?」
『冷蔵庫のお茶で良ければ』
「お、サンキュ」

食べる勢いが少々、過ぎたか。水分を欲するヒノケンの求めにもファイアマンは当然の如く応じ、お茶を受け取ったヒノケンはすぐさま喉を潤す。
こっこっと喉を鳴らし飲む姿には。
おにぎりを流し込むのではなく、最も美味しい形で身体に取り入れている。そう見えて。
…お茶も、ファイアマンが沸かし作っておいたモノ。
自分が作ったささやかな食事で主人が満たされてくれている、なんて。ファイアマン自身のココロの炎も静かに揺らめき、喜びに溢れ輝く。

それこそ、秘密だけれども。

「…ご馳走さん、一気に食べちまった」
『…足りましたか? まだ解凍すれば…』
「いや大丈夫だ、あんま食べ過ぎてもな。…お、ファイアマンも食べ終わったみてぇだな」
『は、はい。…食器、片付けてきますので皿を…』
「頼むわ、俺はシャワーだけ浴びて…あん?」

『?』

流石にそろそろ寝なければ今日の授業に支障が出る時刻、おにぎりを食べ終えたヒノケンは空の皿をファイアマンに渡しながら、先に部屋を出てシャワーを浴びに行こうとしたが。
すれ違い際にファイアマンの顔を見て立ち止まり。
どうしたのか、成り行きを見守っていると───

「アレだぜ、弁当付けてるってヤツだ」
『……は…? ヒノケンさ…』

……ぺろ……ちゅ…

ファイアマンが聞くよりも先に理由は語られ。
平たく言えば、白いご飯つぶが口の端に付いていて。
だから自分より背の高いファイアマンにヒノケンは僅かに踵を上げ、それが当たり前であるかの様に舌でご飯つぶを舐め取り、ついでに夜食の礼代わりのキスを贈る。
その一連、ファイアマンが理解した時には。

『……』
「…ま、シャワーから戻るまでには再起動するか」

悪戯が成功した時の様な笑みをファイアマンの視覚プログラムに焼き付け、ヒノケンは静かに研究用の部屋を後にして風呂場へと向かい。
残されたファイアマンが驚きと喜びのキャパオーバーでフリーズし、一定時間を経て再起動が自動で行われ、全体のデータチェックが開始すると。
主人との内緒の一夜を、誰に見せる事も無い大切な秘密として記憶データにプロテクトを掛け、炎揺らめくココロの最も深い場所へと保存し始めていた。

■END■

・主従カプっておいしいよね。
https://odaibako.net/gacha/8812

28.仕事が忙しくて夜まで続いた日にだけ出してくれるファイアが握ったおにぎりが好きなケンイチ。「これより美味しいものなどいくらでも用意出来ますのに」「これがいいんだよ、これが」



・伝える想いは直球勝負(ただし記憶無し)

『───…ッ…なんっ、だ…頭、いってぇ…』

今が何時で、どんな状況に置かれているのか。
再起動した思考プログラムの動きが鈍い。
目を開いたファイアマンの視覚プログラムに入って来たのは、普段から見慣れているファイアパターンの壁紙。これはヒノケンのパソコンの電脳のモノ。
見知らぬ電脳世界では無い事に一先ず安心したが。
と同時に割れる様な頭痛にファイアマンは襲われて、噴出し続ける頭部の炎の勢いも弱い。
何故こんな事になっているのか…目を覚ます前の事を思い出そうとするも、思い出せず。
記憶データを探っていると。

……パシュンッ!

『…おっ、目が覚めたか。兄貴』
『…ヒート?』
『頭痛とか気分が悪いとか有るだろ』
『…頭痛が半端ねぇ。つうか、何で分かるんだ?』

パソコンはインターネットに繋げられており、ワープホールからヒートマンが帰ってきた。
目覚めていたファイアマンに気付くとフロートの出力を上げ、傍に寄って具合を窺い始め。
これはどうやら、頭痛の原因を知っている雰囲気。

『そりゃあ、あんだけ酔っ払ってたら二日酔いにもなるだろ。…って、そのカンジじゃ、そもそも電脳アルコールで酔った事も覚えてねぇか』
『…酒…そうか、昨晩は確か…ヒノケン様の研究発表が上手くいったから…ささやかだが祝杯だと、俺達にも電脳アルコールを…それを呑んで……それで…?』
『まあ、取り敢えずコレ飲めよ兄貴』

頭痛の原因は、電脳甘酒程度のアルコールでも酔ってしまう為に飲酒は控えていたファイアマンだが、ヒノケンからの祝いのお酒という事で呑んだから。らしい。
今夜は無礼講だと言っていた嬉しそうな主の顔の事も、次第に呼び覚まされてきたけれど。
肝心の呑んでいる間の記憶はやはり出て来ず、頭痛も相まって頭を押さえながら思い出そうとしているファイアマンに、ヒートマンは何かを差し出した。

『…水?』
『シーサイドエリアの癒やしの水だぜ、悪いモンを払うとか言われてるから悪酔いにも効くだろ多分。まったく、我ながら水汲みも慣れたもんだ』
『…わざわざ汲んできたのか。…ありがとよ』
『おっ、素直な兄貴だ。汲んだ甲斐があったな』

笑うヒートマンから水を受け取ると、データとして身体の中へ水を取り込むファイアマン。
本来ならば自身とは相反する性質で苦手にしている水だが…癒やすという効果は本物で、あれだけ酷かった頭痛が軽減されていくのが分かり。頭痛以外の具合の悪さも退いてゆく。

『…本当に効くんだなこの水、かなり回復した』
『そりゃ良かった』
『…なんだが…やっぱり酔っていた間の事は思い出せねぇな。…おいヒート、お前さっき俺の事を"あれだけ酔っ払っていたら"って言ったよな』
『言ったぜ、折角のオヤジのめでたい事だからって…まず普段は呑まねぇ量を呑んでたな』
『そんなにか、全然覚えてねぇ。…なぁ、ヒノケン様に向かって何か失礼な事を言ったり無礼な態度をとっていたとか…そんな事があったか?』
『えっ。…あー…ああ、いや。それは…』

先程からファイアマンが電脳アルコールを呑んでいた時の記憶を欲する理由は、現実世界と電脳世界の違いはあれども酒宴の場にヒノケンも同席していた訳で。
失態をしでかしたのではないか、という事。
酔った際の自分の発言や行動はヒノケンやヒートマンから聞いた限り、お世辞にも大人しいとは言えないらしく、その自覚も無いだけにどうだったか知りたい。
故にヒートマンに自分の様子を聞いたのだが。
聞かれたヒートマンは、やけに言葉を濁す。

『…やっぱり、ヒノケン様に何かやらかしたのか俺』
『いやいやいや、ホラ、無礼講だってオヤジ言ってたろ。だから何かあったとしてもオヤジは気にしてねぇよ。それでイイんじゃねぇの』
『イイ訳ねぇだろ、ヒノケン様が許したとしても俺の気が済まねぇ。…どうなんだヒート』
『……そこまで言うなら分かったぜ』

無礼講だと言っていたのは思い出せている。
だがそれでも、ファイアマンにとっては酔ってヒノケンに無礼な態度や物言いをしていたのであれば謝らなければならないと、その時の状況を知っている筈のヒートマンに詰め寄り。
濁し続けていたヒートマンだったが、兄の"こういう性質"は分かっている為、ここまで言われては観念したのかファイアマンに事実を伝える事を決めた。

『まず最初に言っとくが…兄貴は酔っ払っちゃいたけど、オヤジと話す時は泥酔してもちゃんと受け答えをしていたし、タメ口も暴言も吐いていねぇ』
『…そうなのか? だったら、お前そんな…』

ヒートマンの言葉に意外そうな顔のファイアマン。
どんな酷い口のきき方をしてしまったのか、身構えて聞いていたのが少し拍子抜けしてしまい、それならあんな何かあった様な素振りの必要は無いだろう。
そう言い掛けたところで、ヒートマンが続きを話す。

『…ただ、酔いのピークみたいなのが来た時にな』
『えっ、なっ、ピーク? 何したんだ俺』

『急に泣きながら土下座したかと思ったら、オヤジに向かって「ココロの底から大好きです───!!!! これからも傍に居させて下さい!!!!!」…って叫んで、土下座のまま寝始めてたぜ』

『……』『……』

『…………マジでか』
『オウ、マジで』

とんだ真相を聞かされ、恐る恐る確認するも。
ヒートマンからはサクッと返され嘘の様子も無い。
何をヒノケンに伝えてしまったのか。
しでかした意味を思考プログラムは何度でも「告白」だと結論を出し、フリーズしているんじゃないかとヒートマンが心配しだす程の硬直に陥っていたが。
やがて、事実を受け止めたファイアマンは───

─…

「…ん? ファイアマンはどうした、ヒートマン」

ヒートマンがパソコンに戻ってから暫しの時間が経った頃、どうやらファイアマンの様子を見に来たらしいヒノケンがホームページを覗くと。
ファイアマンを休ませていた場所に姿が無く、ヒートマンだけが見えた為に所在を問う。

『ああ、オヤジ。…兄貴なら…そこに居るぜ』
「…? 居るのはフレイムマンじゃねぇか」
『ヴォッ! ヴォォォォ…』

問われたヒートマンが示した先はホームページの隅。
だがヒノケンの言う通り、居るのはフレイムマンだけでファイアマンの姿は見当たらない。
しかしフレイムマンも隅で何をしているのか。
ヒノケンに気付いたフレイムマンは何時もの唸り声を上げたが、何処か「何とかしてほしい」とでも懇願しているような声色にも聞こえる。

『フレイムの足元を、よく見てくれよ』
『ヴォン! ヴォオオッ!』
「足元だぁ? ……って、穴? "ユカシタ"か?」

ヒノケンとヒートマンのやり取りを聞き、理解したらしいフレイムマンが「ここ、ここ」と軽く跳ね飛び存在を示した事でヒノケンは穴にすぐ気付いた。
それはサポートチップ・ユカシタによる効果。
ウイルスバスティングやネットバトルでの本来の使用用途は、攻撃時以外はパネル下に潜った状態になり敵の攻撃を避けるという使い方のチップだが。
この場合は。

「…穴があったら入りたい、ってヤツか。酔って何をしたのか教えたんだな? ヒートマン」
『どうしても教えろって言うからヨォ』

両手を広げて掌を上に肩をすくめ、「やれやれ」とでも言いたげなポーズを取るヒートマン。
戯けと自己擁護が混じる様にヒノケンの方が半ば呆れるが、ファイアマンの性格や気質まで考えたら遅かれ早かれ真相を教える事にはなっていただろう。

『で、兄貴の事…どうすりゃイイ?』
『ヴォォォ…ヴォ…』

心配そうに時々、穴を覗き込むフレイムマン。
中はヒノケンからは見えないが恐らく、記憶が無いままに愛の告白をしてしまったとか、それも泣きながら土下座してって何やってんだとか、しかも弟達も見てる前でかよ!だとか。
そういった事に頭を抱えるファイアマンが居るのだろう、恥ずかしさからか偶に頭部の炎が噴出するのが見え、そこに居る事を示している。

「どうすりゃってな。ユカシタだって何時までも続く訳じゃねぇんだし、チップを使い切る頃には落ち着いてるんじゃねぇの。そのうち出てくるだろ」
『…ま、そうだろうけどな』
『…ヴォォン…』

ヒノケンの言葉にフレイムマンは少し不満げだが。
主の意向には逆らえず、また穴を覗くしかない。
実際のところ、ヒノケンの言う通りなのだろうけど。
それにしても───

『"告白"されたってのに、何ともねぇのか?』

ヒートマンもヒノケンの意向に対して概ね理解をしているし、従う事に異論は無いものの。
唐突なダイナミック告白を受けたというのに、普段通り過ぎるヒノケンに疑問が浮かぶ。

「…何ともねぇ、なんて事は無ぇよ」
『ホントか? にしちゃあフツーの態度じゃねぇの』
「そりゃ、何時かは言ってくると思っていたからな」
『は…どういう意味だそりゃ』

当たり前にサラリと話すそれは。
それが当たり前だから、らしい。
ポカンとした顔をしているヒートマンに向けてヒノケンは笑み、もうひとつ言葉を続ける。

「何時の日か次は素面で言ってくれるだろうよ、特別にすんのはその時でイイだろってな」
『……よく分かんねぇけど、おアツいこった』

何も疑わず堂々と言い放たれては、そう返す他なく。
ヒートマンは主人と兄を交互に見てから、今度は完全に呆れの意味で再び肩をすくめて。
もう一度、電脳世界から見たヒノケンの表情。
これでもかという程、幸せに満ちていた。

■END■

・こじらせヘタレ攻めガチャ
(削除されてしまったみたいです…)

ケンイチはファイアと飲む酒が好きだがファイアが深酔いすると泣きながら土下座して「心の底から好きだーーー!!!!これからもそばにいてください!!!!!!」と大声で告白してくるのはさすがに周りの目が恥ずかしいので困っている

◆ファイアがお酒に弱いのはEXE4.5のひな祭りが元、電脳甘酒で見事に酔っ払っている(笑)



☆それは創られた瞬間からの当たり前

「何か欲しいモノがねぇかって? 俺にか?」
『…はい…俺に出来る範囲で、ですが…ヒノケン様』

ファイアマンのユカシタ引き篭もり事件から数日が経った、とある休日の火野家の午後。
学園での授業は当然ながら休みであるし、研究の方も一区切りがついたという事で、久し振りにリビングでゆっくり寛げる時間を満喫していたヒノケンに。
擬人化プログラムを実行したファイアマンが、休みを邪魔するようで申し訳なく思う気持ちを出しながらも、どうか聞いてもらいたいといった様子で現れ。
ヒノケンが話を聞いてみれば───
「何か自分に出来る欲しいモノはないか」、等と言う。

「また急だな、何だってんだ?」
『あ…いや…ヒノケン様の研究が一歩、前進したのだから…やっぱり、何か俺からお祝いをしたい…と。言い出すのが遅くなってしまいましたが』

成功を祝いたい気持ちも確かに有るに違いない。
しかしヒノケンがソファに座りながら傍に立つファイアマンの様子を観察するに、祝うというのは表向きの理由といったモノのように思われる。
察するに、酒の席でのやらかしに対して…ファイアマンの中で、決着がついていないのだ。
加えて、とうとうユカシタを使い果たした事から観念して穴から出て来たファイアマンだったが、ヒノケンには普段通りの接し方をして貰えた為。
変なギクシャクも起こらず今日まで過ごす事が出来。
お詫びと共に感謝もあって辿り着いたのが、突然の「何か欲しいモノ」という事なのだろう。

「そう言われてもな…」

気にしなくていい、では気が済まない筈。
まず気にしていなければ言い出す事も無いから。
少し思案するヒノケンだったが。
ふと、何かを思い付いたのか僅かに上がる口角。

「じゃあ、お前」
『えっ…』

傍に控え続けるファイアマンに向け、ヒノケンはちょっとばかしキメ顔まで作り伝えた。
困惑するファイアマンの様子が見たい悪戯心。
そこから、もうお前は自分だけの存在なのだから欲しいモノなら手に入っているのだと。
そうキメきってしまえば、丸く収まる筈だ。
ファイアマンは、何を言われたのかキョトンとした表情で立ち尽くしている。そうそう、こんな姿を見る事が出来るのは主であり、それ以上の───

『……ヒノケン様』
「ん? どうした?」
『申し訳ありませんが…"それ"は、俺が初めて起動した時から既にヒノケン様へ差し上げているので。…出来れば、他でお願いしたいです』
「……は…」

返された言葉に、今度はヒノケンの方が固まって。
恥ずかしさなど微塵も無く、疑いの余地も無く、一切の迷い無き"当たり前"を宿して自分の事を見詰めるファイアマンの瞳に、ヒノケンのココロの炎が揺らめき。
なんて事だ、どうしようもなく胸が高鳴る。

「……へっへっ…そうか。…そうだよな」

鼓動の早さを気取られぬ様、平静を装うが。
表情には…お決まりの口角を上げる笑みの中に滲み出る、ときめきと喜びの感情が浮かぶ。
幸いファイアマンは分かっていない、か。

「…そら、俺が今欲しいのはコレだ」

言いながらヒノケンはファイアマンに手を差し出す。
向けられているのは、手の甲側。
つまり主の望みは───

『……失礼します』

ぎこちなくヒノケンの傍に跪くファイアマン。
差し出されている手を、うやうやしく取り。
忠誠、尊敬、敬愛。そして。


貴方を愛する想いの総てを込めたキスを、その手へ。


……ちゅ…っ…
…きゅ…む…

『…これで間違いなかったでしょうか、ヒノケン様』

手の甲から口唇を離したファイアマンだけれど、ヒノケンの手は取り続けたまま主の望みは叶えられたのか確認すると同時に、預けられた手を軽く握るそれ。
従者として正しきを行えたのか、湛える不安。

「へっ…上出来だ、ファイアマン」

言い様は主人としてのモノだけれど。
向けるのは、最愛にして最高の恋人を見る眼差し。
握られた手をヒノケンからも柔らに握り返せば。
ファイアマンは今ひと時だけ従者を離れて、恋する想いのままに強くその手を握り締めた。

■END■

・主従カプっておいしいよね。
https://odaibako.net/gacha/8812

23.何か欲しいものはないか、と聞かれたのでキメ顔で「お前」と言うも「既に差しあげておりますので他でお願いします」と返されキュンとしちゃうケンイチ。一枚上手でしたね。

2022.10.10 了
clap!

- ナノ -