【Rockman.EXEA】
未来への種火
『ヴォヴォヴォヴォ!』
「フレイムマン!公園を走り回って構わねぇが、派手にすっ転んだりするんじゃねぇぞ!」
『ヴォォォォォッ!』

才葉シティの一角、グリーンタウン。
司法を司り、その名の通り緑豊かで喧騒とは程遠いこのタウンには、中心部から少しだけ歩いた先に非常に大きな規模の公園が存在している。
他と違わず緑で形成された自然溢れる公園で。
休日ともなれば様々な年齢層の人々が散歩や植物観賞を楽しむ姿が見え、子供には豊富な種類のアスレチックが人気で時には歓声がこだまして。
そんな公園に、子供達の歓声に負けぬであろう楽しげな声を上げて走る擬人化プログラムを実行中のフレイムマンと、それを追い掛けるヒノケンの姿が現れた。
今日は平日。
しかしヒノケンの授業が早く終わり、リンクナビ授業の予約も無かった為、恐らく休日に比べて人出がそう多くないであろうを見越してこの公園へ。
その目的というのは。

『まったくフレイムのヤツ…ヒノケン様の授業の下見で来てるんだぞ、ピクニックに来てる訳じゃねぇんだから、遊び気分で居るなよな』
『イイじゃねぇの兄貴。オヤジや俺達と出掛けられて嬉しいんだろ。大目に見てやれって』
『オメエはフレイムに甘過ぎだヒート』
『ハハハ、可愛い弟だからヨォ。ついな』

ヒノケンとフレイムマンから少し遅れ。
やはり擬人化プログラムを実行中のファイアマンとヒートマンが、公園内へと姿を現した。
主と弟の背中を見ながら、フレイムマンの様子に呆れ混じりのファイアマンが口にした「授業の下見」、というのが公園にやって来た一番の目的で。
近くヒノケンが受け持つクラスでは郊外実習として自然観察の授業が行われる予定があり、実習を行う場所として選んだのが、この公園。
だが過去の実習場所を学園のパソコンで見て選んだだけで、実際に行った事は無かった為。
どんな様子なのか、下見の必要があったのだ。
そういった理由なので、単に下見だけならば学園で使っているヒートマンだけを伴えば良い話なのだが、よく晴れている気持ちの良い天気だから。
ヒノケンは自宅のファイアマンとフレイムマンにも連絡を入れ、学園から一度帰り次第。
「揃って出掛けるぜ」と、伝えたのだ。

『つうか、兄貴』
『何だ』
『兄貴が持ってるの、それ何だ?』
『デカイ公園に行くなら弁当でもあった方が良いだろ、急だから余りモンが中心だけどよ』
『(…兄貴が一番、ピクニック気分じゃねぇの?)』

ヒートマンが示したファイアマンの持ち物は。
その荷物具合を察するに、ヒノケンの分を想って作った他にも多分、ヒートマンとフレイムマンの分まで想定して作ったであろう量の弁当らしい。
何だかんだと言っているファイアマンも。
ヒノケンと出掛けられるのは喜びで、弟達の事もーーー何だかんだで、気に掛けている。

『ヴォォォォオオー!』
「っしゃあ!捕まえてやんぜフレイムマン!」
『ヴォッ…!?ヴォヴォッ!』

『…まあ、オヤジもホントに下見する気があるんだか、アレじゃよく分からねぇからな。天気が良いし、広々とした公園で弁当を食べに来たってので別にイイか』

ヒノケンがフレイムマンを追い掛ける延長で、どうやら自然と鬼ごっこ展開になった模様。
走るスピードを上げたヒノケンに気付き、フレイムマンも駆ける速度を増して逃げ出す。

『フレイムの相手はオヤジがやってくれるみてぇだし、取り敢えずベンチで待とうぜ兄貴』
『ちょっと待てヒート』
『んあ?どうした?』
『野ざらしのベンチなんざ汚れているから、このレジャーシートを敷いてから座っておけ』
『(…ウチにレジャーシートとか何時からあったんだ…?今日みてぇに外へ出掛ける日が来るのを想定して、わざわざ買っておいたのか兄貴…??)』
『……何か言いてぇ事でもあんのか?』
『ああ、いや別に…んじゃ敷くわ』

弁当だけだと思っていた荷物から見慣れないレジャーシートが取り出され、どうやら新品。
ファイアマンの用意の良さに新たな疑問が沸いたヒートマンだが、聞くのはそっと秘め。
レジャーシートを受け取り、バッと広げると。
ベンチに敷いてファイアマンも一緒に腰掛けた。
緑に囲まれる中、狙い通り人の出は少なく。

『ヴォヴウッ!ヴォォォォ!』

捕まるまいと逃げるフレイムマンの声だけが際立ち、ゆっくりとした時間に感じられる。

『……何で翻訳、出来ないんだろうな』

ぽつりと、ヒートマンが零した意味。
フレイムマンは再起動まで漕ぎ着けているものの、まだ完全に復旧している訳ではなく。
それでも端から見れば元々の並外れた耐久力のお陰で、普通一般のナビより元気に見える。
だが一点。
どう手を加えて直そうとしても、言語系のプログラム部分が以前のようには機能せず、フレイムマンが翻訳を起動しても聞く側が翻訳を起動しても人語にはならず。
こうして擬人化プログラム中でも変わらない。
緑に響く獣の声に、ふと、浮かんだ。

『…元々、人語を喋れねぇように創ったんだ。ありのままでイイとか言ったの、お前だろ』
『そうなんだけどよ。それは今もそう思っちゃいるが、ただ…何でなんだろうな、ってよ』
『原因になっているのかどうか、直接関係があるか分からねぇが…アイツは立て続けに普通じゃねぇデリートの仕方をしている。その時の残骸データも使っているのも…あるかもな』

一度目はフォルテの力で消し飛ばされ。
二度目はパルストランスミッションを行ったヒノケンとフルシンクロした上で、デリート。
加えて言えば一度目のデリートの後に復旧のメイン作業を行ったのは…聞く限りワイリー。
二度目のデリートの後。
パルストランスミッション、そしてフルシンクロ中にデリートの衝撃で気絶したヒノケンだが、他の団員と違い意識を取り戻せた時間がーーーあった。
その時、何故その行動を取ろうとしたのかヒノケン自身に聞いても分からないと答えるだろう。朦朧としながら電脳塵と化し掛けたフレイムマンの残骸データを可能な限り回収して。
暫くそのデータは、ただ保管されていたが。
WWWとの決別を遂げ、研究という道を拓いた時。
「そう創った」責任を取るようにフレイムマンの復旧を始めーーー回収していた残骸データを用いて、出来るだけ元のフレイムマンを取り戻そうとした。
そのデータはフォルテの力による影響やワイリーの復旧による影響を受けたままのモノが大半を占め、影響を取り除きながらの作業は困難だったが。
漸くフレイムマンは再稼働を果たせた。だが…言語系だけは、今も上手く機能していない。

『何にせよロウソク…特に無敵の容量がデカくて、言語も知性も削って稼働可能なギリギリで成立させてんだ。これ以上の修正の為のインストールは無理だし、暫くはあのままだろ』
『…だな。まあ…もっとヤバい影響が出ないってんならイイんだ。フレイムが何を言いたいのかくらい、俺には解るからよ。…兄弟だから』
『おい、ヒート』
『ん?』
『お前だけじゃねぇ。ヒノケン様も…俺も解る』
『……悪ぃ、そうだったぜ。家族だもんな』

柔らかな日差しが木々の合間から注ぐ。
こんな穏やかな時間が、今は当たり前だけれど。

『…ヒート』
『何だよ兄貴』
『お前は、もし"以前のヒノケン様"が悪事を働く際に伴われていたら…加担が出来たか?』
『……また急だなオイ』

そうだった。
過去を振り返れば、こんな日常は有り得なくて。
穏やかな時間なんてモノは、他者からただ奪い燃やすだけのつまらない時間だった筈で。
それが今や、主も従うナビ達にも大切な時間。
ただ、ファイアマンは以前から違和感を抱いていた。

『"以前の"ヒノケン様が創り上げたナビに違いないのに、どことなくお前の思考具合は俺やフレイムと違う気がするからよ』
『そんな違わねぇだろ。…俺は、多分。ゴスペルがプロトのガーディアンをぶっ壊せる存在を作れたら、プロト入手の為のどっかのテトラコードを奪うってので創ったんだろうけど』
『…ゴスペルは結局そんな存在を創れなかったから、お前の出番はお預けになっちまったし。いざプロト復活を目指すとなったら、ヒノケン様の任務はコードの強奪ではなくて…』
『学校だの動物園だのから強奪すんなら俺で良かったんだろうが、科学省を手薄にしろってハナシだったからな。…より強力なフレイムを創るって事になった』

結果として。
ヒートマンには悪事の経歴が付かず。
今に至る。

『……まあ、でもよ。もし"その時"があったなら…オヤジに従ってたさ、"今"と同じくな。兄貴やフレイムと何か違うってのが有ったって、俺もオヤジのナビだ』
『…そうかよ。ヒノケン様に従うなら、それでいい。…だが、ちゃんと"ヒノケン様"と呼べ』
『うーん、何かソレ呼ぶの俺らしく無ぇんだよな…そこいらキッチリとプログラムされてねぇし、確かにココに関しちゃ兄貴やフレイムとは違うな』

「おい!アスレチックで遊ぶのはイイけどよ、ンなてっぺんまで登って上に乗ったりすんなフレイムマン!落ちたら流石に危ねぇぞ!」
『ヴォッ!……ヴォォ……』
「…いや、怒ってんじゃねぇよ心配してんだ」

ヒノケンに追い掛けられるフレイムマンが逃げた先。
何も考えず木製の大きなアスレチックに、するすると登るのまではヒノケンも静観したが。
傍に立てられた、身体を乗り出すなという注意書きの看板説明を遥かに越えてアスレチックのてっぺんまで登りつめ、ちょこんと乗るに至って注意を飛ばす。
「怒られた」と思ったのだろう。
フレイムマンはヒノケンの声にビクッと反応するやアスレチックのてっぺんから降りると、「ヒノケンさま、ごめんなさい」と言っている様に弱々しい唸り。
そんなフレイムマンの様子に、確かにヒノケンも初めは叱りつける気持ちでいたが、素直に反省している事から声色から強さを抑えて諭す口調に変えた。

「…そら、顔上げろフレイムマン!」
『ヴォ、ヴォッ…』
「続きだ続き!最近、研究の方で籠ってて身体が鈍ってんだ!俺の運動に付き合えよな!」
『…ヴォ…ヴォォォォォ!』

しゅんと頭を下げて萎縮したフレイムマンの頬に、ヒノケンは両手を添えて顔を上げさせ。
びっくりしているフレイムマンの目には、にっと普段通りの笑みを浮かべるヒノケンの顔。
もう怒っていないと理解したのだろう。
細かい事はよく分からないが、「つづき」をすれば良いのだと判断したフレイムマンは、ヒノケンを誘うようにして他のアスレチックへと駆け出す。

『…兄貴は、知ってるのか?』
『何がだよ、お前も随分と急だぞ』
『オヤジが何で世界の終わりを見たかったのか、そこに至るまでの経緯とかナントカを』
『……いや、俺も…それは知らねぇ』
『社会を驚かせる事がしてぇとか言ってたけどよ、だからって終わらせちまったら…オヤジのココロを燃えさせるモノが、見た先にもあったとは思えねぇ。矛盾してる気がすんだ』

世界を包む終わりの炎は、ヒノケンのココロをひとときは満たすかもしれない。だけれど。
ワイリーの求めた世界になった時。
そこにもココロを燃え上がらせるモノがあると、ヒノケンは本当に思っていたのだろうか。
渇望、或いは失望。
追い求める炎が見付からない世界に、ある時から…求める想いが歪んだのかもしれない。
真実はヒノケンだけにしか、まだ分からない。

『…兄貴でも知らねぇんじゃ、お手上げだな』
『そうなるな。…いつか…話して下さるかも、な』
『しょうがねぇ、そん時を待つか!』

真相は分からなかったけれど、聞きたかった事を聞けて晴れた表情を浮かべるヒートマン。
けれど次第に、真剣さが含まれて。
ある「仮定」が思考プログラム内に完成する。

『……もしかしたら、の話だけどよ。俺が…どこか兄貴やフレイムと違う部分が有るのは』
『……何だ?』
『俺を創った意味ってのは、オヤジにとってこの世界が終わっていいモンじゃなくなった時…そこから前に進む為の後押しをさせたかったから、かもな』
『…家族、とか言い出したのはお前だな。俺には…足を洗うと決めたものの、悪事に手を染めてしまったのに教師を志していいのか悩むヒノケン様に、そう言えるプログラムは無ぇ』

当たり前の「今の」ヒノケン。
元より切り替えは早く、決断も良くも悪くも性格的にスッパリと決める性質ではあるが。
それでもWWWと決別した後は、普通の、表の世界に溶け込み続けられるのかと悩んだ。
一度、染めてしまった手は戻らない。
教職を目指していたココロを思い出した。
研究という道を拓きたいと思った。
だが、それを本当に赦され生きて良いのか。
ファイアマンは掛ける言葉が導き出せなかった、けれどーーーヒートマンは導き出せた。


「家族」の自分達と、これからを歩もうと。
自分達は、傍に居るから。


『…かりそめだったけど、俺を創った時のオヤジは"一般人"だった。"普通"ってのの中に居た。その中に居て、ふと思ったんじゃねぇかな。…もしかしたら戻れるんじゃねぇかって』
『…想像だ』
『そうだぜ、だけど俺達ナビはオペレーターが"その思考"を組み込まなきゃ言い出す事なんか無ぇ。だから俺の中に、その"種火"をオヤジは入れたんじゃねぇかってよ。想像の話さ』
『ヒート』
『んん?何だ兄貴』

ファイアマンの目は主を追っている。
ヒートマンの方には向かず、ただ静かに。
フレイムマンに構う姿を見詰め。

『…"今の"ヒノケン様になって、良かったな』
『……ハハ、何だ兄貴。じゃあ俺と兄貴に…きっとフレイムも、違うトコロなんか無ぇよ』
『どういう意味だ?』
『"今の"オヤジを見て兄貴は素直にそう思えてる、俺と同じで…兄貴にもフレイムにも、"今の未来"に繋がった時の為の"種火"を…灯させていたってこった』
『…そうかもしれねぇ…か』

『ヴォォォォヴッ!』
「いい運動になったぜ、ありがとよフレイムマン」
『ヴォッ、ヴォウッ!』

アスレチックを一通り堪能したヒノケンとフレイムマンが、ファイアマンとヒートマンが座っているベンチに近付く。フレイムマンはまだまだ元気な様子だが。
一旦、休憩。
ガシガシと少々手荒だが可愛がる様ヒノケンに頭を撫でられたフレイムマンは、嬉しそう。

『つかオヤジ、授業の下見はいいのか?』
「下見ぃ?…ああそうか、そういやそれで来たのか」
『…忘れるってマジかよ』
「まあいいだろ、過去にも実習場所として何回も使われてるみてぇだから間違い無いだろ」
『テキトー過ぎるが…それもそうだな』

呆れた顔をするヒートマンだが、そんなトコロが自分達の主だとーーー解っているから。
細かい事は気にしないのは主譲り。

「しっかし流石に動いて腹が減ったな」
『即席ですが弁当を持って来ていますヒノケン様』
「何かと思ったら、その荷物は弁当かよファイアマン。連絡してから間に合わせたのか?」
『はい』
「それじゃ食べるとすっか!」
『では用意しますが…濡れタオルも持ってきていますから、手だとかを綺麗にして下さい』
「お、おう」
『どこまで用意してんだ兄貴…』
『お前もだフレイム、って泥だらけじゃねぇかよ!拭け!手だけじゃなくて、全身をだ!』
『ヴォォォォッ?!ヴォ〜ッ!』

ジリジリと、小さく、か細かったみっつの種火。
未来の為に灯された火は、求めた「今」に辿り着き。
公園に響く、その声は。
紛れもなくーーー「家族」だった。

■END■

◆エグゼに再燃してシリーズ1〜6を一通りクリアし直し終えての、火野家なお話でした。
再燃最後に遊んだのが3BLACKで、リアルタイム当時は途中で怠く感じてしまい…結局プロトを倒さないままソフトを紛失、自力でラストを見届けておらず。
全体的な記憶も一番、朧気なのが3で。
しかしフレイムの事をちゃんと考える上でも、ヒートの事を考える上でも3は自分の眼で見届けるべきだったんだなぁというのが率直なクリア感想でした。
色々モニョっていた部分が解消されたし、都合の良い取り方とはいえ自分自身の解釈もハッキリ出来たので、そこを今回のお話に入れてみたというトコロです。
あと3クリアの直後に書いているので、フレイムちゃん可愛い増しで書いたと思います(笑)
ヒノアツも良いけど火野家妄想もホント楽しいな!

2021.07.10 了
clap!

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