【Rockman.EXEA】
雫を払う手に重なる熱
ポッ、ポ…サアアァァアア…ッ…

「あん?おいおい雨かよ、ツいてねぇな」

天気予報と天気予告では…やはり違う。
そんな事を思いながらヒノケンは手を出し、降り始めた雫が間違いなく雨だと確認する。
今、ヒノケンが居る場所は才葉シティではない。
少し遠いシティで、自身のインターネットにおける炎ナビとそのチカラを操る研究をアピールする事が出来そうな発表の場が開かれると知り、二泊三日の日程を組んで迎えた当日。
無事に目的の発表とアピールを終え。
それなりに手応えを感じて会場を後にしたのだが、まだ夕食を摂る時間には早かった為。
久し振りに遠出をして訪れた初めてのシティという事から、観光地では無いが目新しい景色を目にしつつ、宿泊しているホテル周辺を散策していたところだった。

「降る確率は低かった筈なのにコレか。…しかし、ウェザーのヤツの予告に気が付きゃ慣れちまってるんだな、急な雨に降られるとか何か新鮮だぜ」
『ヒノケン様、どうやら本格的に降るらしいので…』

今回の遠出、ヒノケンはナビ全員を連れて来ている。
だが、この散策に伴っているのはファイアマンのみ。
擬人化プログラムを実行して主と並び歩いていた、それは―――とても慎ましやかなモノだけれど、デートと言って良いかもしれない。
それを意識してしまい、少しどぎまぎとヒノケンの隣を歩いていたファイアマンだったのだが、雨が降り始めると急ぎ背負っていた荷物から何かを探し出す。

シャコッ…パンッ!

『折り畳みですが、どうぞ』
「傘、持ってきてたのかよ用意が良いな」
『一応…0%ではなかったので』

荷物に忍び入れていた折り畳み傘を広げると、ファイアマンはヒノケンを傘の中へと招き。
直後に雨は強さを帯び、間に合ったと安堵した…
ところで、ハタと。

『(…コレ…ヒノケン様と相合傘じゃねぇか…!)』

ファイアマンとしては「主を護りたい」という本来持ち合わせている意識からの行動、ヒノケンが傘に入るまで「相合傘になる」という結果は全く思い浮かばず。
二人で一つの傘の中。
再び歩き出したヒノケンの歩調に合わせて気付く。

『(い、いや…自然にやっちまったって事は、ヒノケン様の為を思った結果って事だしな)』

ココロの中で自分に言い聞かせるファイアマン。
決して相合傘を意図的にしたかった訳ではないのだ。
折り畳み傘を一本だけしか入れなかったのも、本当に「二人分の用意をする」というところまで気が回らなかったからで。
あくまで、雫からヒノケンを護る為。

「ファイアマン」
『はっ、はい!何ですかヒノケン様』
「そんなコッチに寄せたら、お前が濡れるだろ。そうでなくても折り畳みじゃ小せぇのに」

ヒノケンの体格もかなり良いが、擬人化プログラムを実行したファイアマンの体躯はその上を行き、身長もヒノケンより高く実体化が行われている。
二人で一つの折り畳み傘では、確かに狭く。
それでいてヒノケンの事を想うファイアマンは、差す傘の大半をヒノケン側に寄せていた。

「ちゃんと真ん中にしろって」
『だ、駄目ですっ!』

傘を持つ手もヒノケン側。
ぐっ、と。
ヒノケンはその手を押し戻して均等にさせようとしたのだが、ファイアマンの腕は微動だにせず、差す傘の割合は頑なに変えようとしない。

『ナビの俺は、現実世界の雨で濡れるのは擬人化プログラムの効果で寧ろ平気なんですから。ヒノケン様が濡れて、風邪を引かせてしまう訳には…』
「これっぽっちの雨で風邪引く程、ヤワじゃねぇよ」

とは言うヒノケンだが。
押し戻す力は決して強くなく、食い下がりもしない。
こんな時のファイアマンは頑固だ。
誰よりも、ヒノケンがそれを知っている。
そんなファイアマンの事が。

「傘、持つ手を代えな」
『えっ?』

ヒノケンからの急な命令に一瞬、固まった。
いや言っている事は単純で、ヒノケン側の手で持っている傘を逆の手で持てというだけだ。
ただ、何故それを言い出す必要があるのか。
持つ手を逆にすれば傘はヒノケンから少し離れる。
それで互いの傘の割合を均等にしたい、という考えなのかと思ったが…逆の手で差したとしても、ファイアマンはヒノケンの方に傘を寄せるつもりだ。
解っている、だろうに。

『……これで』

だが、主の命令に背く理由は無く。
ファイアマンは傘を持つ手を代えてヒノケン側の手を空け、しかしやはり変わらず傘はヒノケンに寄せて差し、先程までと割合は変わらない。
これで。
主の希望は叶っているのだろうか?

……ぎゅ…

『ッ…ヒノケン、様』
「何だよ雨でちょっと冷えてるじゃねぇか。俺のナビなんだから、そんなの許さねぇぞ」

空けた手に、自分のモノではない熱が重なる。
何も躊躇わずに繋がれた手。
隣の主を窺えば、さも当然の様に見せる笑顔。

「初めてか?こういうの」
『……はい』
「まあそうか、電脳世界ではお前のアームはバーナーにしちまったからな。ただ、擬人化プログラムを実行するようになってからは知らねぇけどよ」
『本当にヒノケン様とが…初めてです』
「…なら、良かったぜ。お前が俺以外の、他の誰かと手を繋いだり出来るハンドアームがイヤでバーナーにしたってのに、実体化中に誰かと繋いだ事が有るとか言われたら…辛いぜ」
『…えっ…そ、れは…』

さらっと流す風にヒノケンは話すが。
語り終えると同時、ファイアマンの手を強く。
主としての所有以上に、大切な存在だと伝える様に握り繋いで自分の熱をファイアマンに。

『俺にはヒノケン様だけ、ですよ』
「……へっ」

負けぬ様、己の想いも伝える様に固く握り返す。
行き来する熱は冷たい雨の雫を払い退け。
ひとつの炎と成れた気がした。

■END■

相合傘をするとき、いつも相手が傘を自分に寄せてくれる。「濡れるよ」と押し戻そうとしてもかたくなで、まったく頑固なんだから、と呆れつつも嬉しいファイヒノ
#好きカプシチュ #shindanmaker
https://shindanmaker.com/856579

今夜の幸せ語りに、「初めて好きな人と手を繋ぐヒノファイ」は如何でしょう?
#あわよくばもっと幸せになれ #shindanmaker
https://shindanmaker.com/772259

◆EXE発売20周年に寄せて、炎組主従もう1本。
主従で相合傘とか良いじゃないか…(笑顔)
ヒノアツだとヒノケンが傘を持つ流れになるだろうけど、炎組でならファイアの方よね。
そりゃあヒノケンの方に傘を寄せちゃうよね!
からの手を繋ぐ結果も入れてしまいました、炎組のイメージだと情熱的な恋の在り方の方が似合うと思うのですが…こう、初々しいのも寧ろ良いと思っています◎

2021.03.21 了
clap!

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