【Rockman.EXEA】
花弁は恋の欠片
◆ヒノケンとファイアマンの主従、時に従主な恋



「帰ったぜ。ファイアマン、フレイムマン」
『戻ったぜぇ、兄貴!フレイム!』

『お帰りなさい、ヒノケン様』
『ヴォヴォウ!ヴォッ!』

麗らかな日差しが注ぐ春の、とある休日。
休日ではあるのだが次の週末には才葉学園も春休みに入る為、学園が閉じてヒノケンのリンクナビ授業も休講してしまう前に受講したいという予約が入り。
ヒノケンとしても学園内での作業が出来ない間の研究データの保存等、他の休みに比べれば短い期間だが長期休暇前の準備を行っておきたかった事から。
何時も通りスーツに(伊達)眼鏡でヒートマンを伴い、朝から才葉学園へと出掛けていたが。
まだまだ日差しが降り注ぐ時間には戻れた様子。
擬人化プログラムを実行して家の事を済ませ、ヒノケンを待っていたファイアマンとフレイムマンは玄関が開いた音に気付くと、すぐさま出迎えに向かった。

『思ったよりも早かったですね』
「まぁな。研究データの方はプログラムのヤツに任せりゃイイだけだし、授業を受けに来たヤツはヒートマンを扱いきれなくて即授業終了したからよ」
『まったく、デリートし掛けたじゃねぇか』
「授業を受けに来るヤツの腕はピンキリだからな…仕方がねぇ。取り敢えずは無事で良かったぜ、休み返上でヒートマンの復旧なんて事にならなくてな」
『……ヴォオォー…?』

恐らく、詳しい事までは解っていない。
解っていないが、"ヒートマンが危なかった"というのはフレイムマンも感じ取ったらしく。
兄を心配してフレイムマンがヒートマンの傍に。

『ん、何だフレイム?大丈夫なのかって?』
『ヴォン!』
『ハハ、心配しなくても大事になる前にオヤジがプラグアウトしてくれたから、この通りピンピンしてるぜ。…でも、ありがとよフレイム』
『ヴォオゥ…ヴォ!……ヴォ…?』

問題無い事をフレイムマンに伝えるヒートマン。
その理解が及ぶと、ぱぁっと明るい表情を向ける。
だが向けたところで、フレイムマンは―――何かをヒートマンに見付けて不思議そうな顔。

『?…今度はどうした?フレイム』
『……ヴォッ…ヴォウ?』

ヒートマンをじっと見ていたフレイムマンは。
そっと兄の髪に手を伸ばし、"何か"を摘まみ取った。
全員が見れるように掌に置いて見せれば。

『……ああ!何だ、花びらを付けちまってたのか』
『ヴォウゥ?』
『…桜か?ヒート、少し早い気がするが』
『そうだぜ兄貴。帰りに通った、あの辺りの桜ってのは元々…咲くのが早いんだったかな』
「だな。それに今年はウェザーのヤツの調整無しで、例年より暖かいってのもありそうだ」

デンサンシティに居住していた時よりも早い花弁。
そもそも早咲きの桜の近くを通ってきたらしいけれど、既に花弁が散り舞っている模様。

『…というかヒートお前、服にも付けてるぞ』
『えっ、マジかよ』
『フードの中まで入ってるんじゃねぇか』

擬人化プログラムを実行したヒートマンには、オイルライターの蓋からイメージして反映が行われた、フードの付いたデザインの服が換装されており。
ファイアマンが示したフードの入り口付近にはヒートマンが気付かぬ内に多くの花弁が付いていて、この状態だと確かに中にも侵入していそうな。

『ヴォヴォン!ヴォウッ!』
『…花びらを取ってやる、ってのか?フレイム』
『ヴォウッ!』

ヒートマンの解釈に大きく頷くフレイムマン。
換装を解いて、いや擬人化プログラムを終了して電脳世界に戻ってしまえば、付いた桜の花弁をいちいち現実世界で取り払う必要は無いのだけれど。
弟の興味と好意を邪険には出来ない。

『そいじゃ頼むかな、部屋に行こうぜ』
『ヴォン、ヴォッ!』

嬉しそうにしているフレイムマンを連れ、家の奥へと向かい始めたヒートマン…だったが。
向かい始めた途端に振り返ると。
ヒノケンとファイアマンに向かって口を開く。

『兄貴、オヤジの髪にも花びらがスゲェくっ付いちまってるから、取ってやってくれな』
『何だって?』
「…はぁ?!おいヒートマン、俺に付いてんのは気付いてたってのに今まで黙ってたのかよ」
『いやまあソイツは…とにかく頼んだぜ兄貴!』
「うぉいコラ!」

言うだけ言うと、ヒートマンはそそくさとフレイムマンの手を引いて家の奥に引っ込み。
後に残されたファイアマンはヒノケンの髪の状態を知る為に、主の背中に回ってみる。

『…確かに花びら塗れです、ヒノケン様』
「塗れってくらい付いてんのかよ、すれ違った時に見てくるヤツが居ると思ったらソレか」
『(ったく、ヒートのヤツ…も、だが…)』

才葉学園の教師になってからは髪を結んでいるヒノケンだけれど、ボリュームは変わらず。
燃え盛る様な赤髪には薄ピンクの花弁が付いていて。
ファイアマンにはヒートマンへの憤り…以上に。
主に勝手に寄り付く花弁へ、妬ける思い。

『…とにかく、リビングに行きましょうヒノケン様。座って頂いて…それで取り除きます』
「それもそうだな」

促されたヒノケンは玄関から歩みを進め。
その主の背を護る様に、ファイアマンも続く。
家の奥からは取った花弁で遊んでいるのか、とても楽しそうなフレイムマンの声が届いた。

―――…

『……』「……」

リビングのソファに座り、髪に付いた桜の花弁をファイアマンに取ってもらうヒノケン。
邪魔をしない様、特に会話を挟まず静かな室内。
或いは、らしくないかもしれないが。
外の春の柔らかな日差しを見詰め、時に聞こえるヒートマンとフレイムマンの歓声を耳にしながら―――ファイアマンと過ごす時間を噛みしめたいのかもしれない。
ファイアマンの方は、それこそ黙々と主の髪に付いている花弁を丁寧に取り除いている。
こんな時間も悪くはない、"今は"そう思えて。

「……慣れたか?」

不意にヒノケンが口を開いた。
やはり静かにしているのが合わないという事もあるのだろうが、紡がれた言葉の意味は…才葉での穏やかな時間に対して、ファイアマンは順応してくれているのかを思ったのだろう。
髪に通されたファイアマンの指が止まる。

『慣れも何も、俺は…ヒノケン様の傍に居られるなら、何処でだって従い尽くすだけです』
「…"今の俺"でも、そう言ってくれんのかよ」
『当たり前じゃないですか』

短いやり取りは切れて、戻る静寂。
花弁を取り除く指も再び動き始め。
しかし直ぐ、指は止まり。
秘めていた想いを吐露する声で、ファイアマンが。

『…弟が、ヒートや何よりフレイムが出来た時…俺は、必要無くなったと思っていました』
「ぁあ?いきなり何を…言い出しやがる」
『"以前のヒノケン様"が望んでいた、より高い火力。ヒートやフレイムに比べたら俺の基礎部分のスペックは、早くに創って下さっただけに型は古く…二人より、劣るのは明らかで』

す、と。
髪を梳き進めた指先が花弁を捉え。
はらり、主から払い除ける。

『…ですが、ヒノケン様は変わらず俺を起動し、傍に置いてくれていた。もう、起動されなくなっても仕方がないと…思っていたのに』
「……ファイアマン」
『そして"今のヒノケン様"の傍にも居られる。…俺は、ただそれだけで…充分なんです』
「バカヤロウ、お前は俺の…代わりの無ぇ炎だ。ヒートマンやフレイムマンも確かに俺の炎だが…お前はお前なんだよ、不必要だとか思う筈がねぇだろ!」

始めは抑えた声でいたヒノケンだけれど。
語る内に感情が昂り、語気を荒げた。
だって、本当の想い―――だから。

『…すみません』

今度は花弁を取り除く指を止めない。

『ですが…嬉しいです、その言葉を聞けて』
「へっ、つまらねぇ心配なんかすんじゃねぇよ。…お前は、ずっと…俺の炎で居るんだよ」
『約束します…ヒノケン様』

張りつめ掛けた室内の空気に和らぎが戻り。
主従には、何処か満ちた表情が浮かぶ。
互いの想いは同じだった、ずっと傍にと。
その想いを表すなら。

『(ヒノケン様、俺は―――貴方の事を)』

梳いて手にした赤髪の、ひと束。
流し落とさず、そうっと掬い上げ。


主には決して気付かれぬ様、密やかな口付けを。


「……ん?」

…サラ…ッ…

『少し、引っ張ってしまいましたか。…髪を』
「ああいや、別に痛いとか無ぇけどよ」

髪への口付けは、思慕。
おもいしたう、何時だって貴方の事が。
尊敬の念として、弟達と同じ家族の念として。
そして。

『(…もっと、濃く焦がれるモンじゃねぇのか)』

電脳世界ではカタチを持たずに揺らめいていたココロの炎が、ファイアマンにはあった。
その想いの炎は一際に輝いていたが、カタチ無く。
「自覚」が、出来ず。
けれど現実世界への実体化が可能になった事で炎もカタチを得て、理解した自身の想い。


恋をしている、貴方に。


『…取り除き終わりました、ヒノケン様』
「おう。ご苦労さん、ありがとなファイアマン」

振り返りファイアマンに笑顔を見せるヒノケン。
思慕は何時しか、恋慕と成り。
その笑顔の傍に居られる幸せを、胸に深く刻んだ。


―――想像の中の恋とは盛る炎。
赤々として、ひたすらに焦がれて。
しかしファイアマンの恋心が成したカタチは、掌の中に在る最後の桜の花弁が如く柔らかな色を灯し、儚い程にちいさな欠片だったけれども。
添い遂げる強い決意を秘めた、恋のカタチだった。

■END■

春のヒノファイ:相手が髪や服に桜の花びらをつけたまま帰ってくる
#同棲してる2人の日常 #shindanmaker
https://shindanmaker.com/719224

◆2001年3月21日のEXE1発売から20周年!
昨年の突然のエグゼ再燃から、EXE6の15周年を祝ったりヒノアツの始まりであるEXE4の17周年を祝ったりを経て、EXE1の発売20周年を迎える事が出来ました。
リアルタイム当時にサイトを立ち上げた後、干支ひと回り以上の空白があって再燃した自分ではありますが…エグゼの炎属性達が…やっぱり大好きなのです…!
そしてその原点は炎組、ヒノケンとファイアマン。
当時からオペナビのカプとして好きだったんですけど、どうしても自分の脳ミソはヒノアツ前提にしてしまってファイアが完全に報われない思考でしたが。
今ならヒノアツ抜きで、主従だけれど偶に従×主(ヒノケンの精神的優位は絶対)な炎組の恋模様を書ける気がしたので…この機会に始めてみました。
診断メーカー様の結果も今の時期らしいのが出てくれて、あの髪には沢山付きそうだ(笑)
花びらを取りながら…というトコロから今回のお話を膨らませて、こんな形になりました。
まだ、恋のはじまりで火野家の延長みたいな感じでしたが…それでも、今までよりは恋をしている気持ちを表面に出せたかなと思います。

2021.03.21 了
clap!

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